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高校の「情報」:生徒の実態を把握するのはなかなか難しい

 情報の授業をやって,結果が想定外だった(思ったよりできなかった)という話は以前も何度か書いた。「想定外」ということは,生徒の実態をちゃんと把握できていないということだ。「ここは生徒が苦手としている」ということがわかっていれば,そこを丁寧に指導する。もちろん,今までも昨年の状態を考えながら修正をしているのだが,それでも「想定外」が起こるのはなぜだろう。

 一番多いのは,授業でやったときはできたのに,しばらくしてやってみるとできない,つまり理解していなかった,ということだ。授業でやって,問題を解かせて正解が得られれば「わかったのだろう」と思う。ところが,期末試験で同じような問題を数字を変えてだすとできない,という事態である。

 3学期になって,センター試験の「情報関係基礎」の過去問を解かせている。問題のパターンとしては次のようになっている。
第1問 2進法,16進法,情報のディジタル化,セキュリティや著作権など,「社会と情報」でも十分カバーできる内容だ。
第2問 いろいろなパターンがあるが,何かを行うときの手順の問題。アルゴリズムといってよいが,プログラミングにすぐつながるわけではない。
第3問(第4問との選択)プログラミング。アルゴリズムを示し,その具体例を空欄にして理解させ,プログラミングコードも穴埋めにする。
第4問 表計算 これはやっていない。第3問と選択だが,授業でプログラミングをやっているので第3問を出題。

 ここで,「想定外」となるのが第1問だ。第2問,第3問は,その場での読解力と思考力を試されるのであって,情報の「知識」はそれほど問われない。

 2018年の問題をやってみた。解答用紙に書かせて採点をしてみると,よくできていると思う一方,「できない問題」が目立つのだ。それは,2007年の問題にもあった。

二つの16進数2Fと1Dの差を10進数で表すと[ ] である。

こんな問題が正答率45%なのだ。

2018年の問題では

IPアドレスが 10.0.0.170 であるとき,32ビット表記したIPアドレスに含まれる1のビットの個数は[ ]である

IPアドレスについてはもちろん学習済みだ。これが10進法で表されていることはわかるだろう,という想定。つまり,10進法から2進法への変換。これが正答率45%だ。

 次に,アナログの信号波形(音声)のディジタル化。サンプリング周波数と量子化ビット数については学習済み。また,テストではないので教科書は見てよい,という条件だ。

1秒間の信号波形をディジタル変換したときのデータ量について考える。標本化周期を1万分の1秒,量子化のための段階値を0〜4095の整数にすると量子化ビット数は[ ア ]である。また標本化周期を4万分の1秒,量子化のための段階値を0〜32767の整数にすると,データ量は[ イ ]万ビットとなる。

要は,4095,32767 は何ビットで表せるか,という問題だ。ところが,アの正答率が26%,イの正答率が15%しかない。
では,音声のディジタル化のことがわかっていないのかというとそうでもない。

単位時間当たりの標本の数を増やしたり,量子化の段階の数を増やしたり,あるいは両方増やしたりすることで,より元の信号波形に近い信号波形を復元できるディジタルデータを得られるが,同一のデータ量で表現できる時間は[  ]

ここは選択肢から選ぶのだが,正答率は61%なのである。

 このような状況について,同じく「情報」を持っている同僚と話をしたとき,彼の口から出たのは,「みはじ」だった。

 この地域で,「みはじ」がどのくらい蔓延しているかは調べていないが,ありうることだ。彼らの学習姿勢として,「求め方」は「覚えて」使おうとするが,「なぜそうなるのか」を理解しようとしないのではないか。この演習にしても,プログラミング実習にしても,「相談してよい」としているのだが,相談して理解するのではなく他の人の結果をそのまま「写して」いる者がけっこういる。
 教科書には,2進法への変換について原理をしっかり説明するのではなく,「2で割っていって余りを並べる」という方法しか書いていない,そんなところにも罪がある。もちろん,授業では,「これを覚えてもできるようにはならないよ」とクギを刺した上で,位取り記数法から説明するのだが,上記のような学習姿勢が身についているとしたら,説明したからといってわかるようになるものではない。

 以前も何度も書いているが,教科書に書いてあることがしっかり読み取れない。それも,「教えてもらって覚える」ことばかりで「自分で読んで考える」という姿勢が身に付いていないためではないだろうか。

 情報の実習をしていると,このようなことが顕在化しやすい。一般的な高校での授業ー教師が解説して板書するのをノートし,ときどき教師からの質問に答えるーでは,どのくらい理解しているかはほとんど見えないからだ。

 生徒の実態を把握するのは難しいのだ。