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フィル・ロード&クリス・ミラーにハズレなし!想像力と創造力は何ものにも縛られない / 「スパイダーマン:スパイダーバース」

はてなブログからの移行記事です。

2019年アカデミー賞で、見事長編アニメーション映画賞を受賞した本作。素晴らしい!大好き!!SNSでのすこぶる高い評判も納得。

何がそんなに良いのか?それは、観ればわかります。

そんな「スパイダーマン:スパイダーバース」の感想を。

製作:フィル・ロード、クリス・ミラー 他
監督:ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン
声のキャスト:シャメイク・ムーア、ジェイク・ジョンソン、ヘイリー・スタインフェルド、ニコラス・ケイジ、クリス・パイン、マハーシャラ・アリ、ゾーイ・クラヴィッツ
あらすじ:ある目的で時空を歪ませようと画策するキングピンの野望をとめるため、スパイダーマン=ピーター・パーカーがその命を落としてしまった世界。ピーターからキングピンの野望を止める“グーパー”を譲り受けたマイルスは、実は同じくクモに噛まれて特殊能力を受けた新・スパイダーマン。しかしある日、他にも存在する“スパイダーマン”たちと出会うー。

既に実写映画として何度もリブートされているスパイダーマンシリーズ。

サム・ライミ監督×トビー・マグワイア主演の初期3本は、「スパイダーマン2」という、当時アメコミ映画への偏見を大きく打ち破る傑作を輩出。

しかしこのシリーズは、最終章となる「スパイダーマン3」で大きく失速するというまさかの展開で終わりを迎えます。

ただ、トビーのあまりのはまりっぷりが「悩めるイジメられっこがヒーローに」というスパイダーマンのイメージを確立したのは間違いありません。

そのあとに登場したのは、マーク・ウェブ監督×アンドリュー・ガーフィールド主演による「アメイジング・スパイダーマン」2作品。

ピーター・パーカー像は大きく変わることなく、ヒロインがMJからグウェン・ステイシーに変更され、グウェンの喪失という前シーズンでは描かれなかった部分を描写。

しかし興行収入が振るわなかったことや、MCUとの連携に備えた色々な事情もあり、こちらは2作品で終了してしまいました。

個人的には好きでしたが、やはり初期シリーズのイメージを借りすぎていたのがもったいなかったなと思っています。

 その後に登場したのが、ジョン・ワッツ監督×トム・ホランド主演で現在進行形のスパイダーマン。今までSONY作品として独立していた本シリーズを、MCUとの連携ありきで設計して展開出来たのが成功要因でしょう。

ピーターも今までのうじうじしたキャラから、陽性でコミカルな魅力あふれるトム・ホランドを据える事で少し別のイメージへと変わってきています。 

 そんな多くのリブートを重ねてきた「スパイダーマン」を今また映像化する意味とは何なのか?

いい加減ベン叔父さんとの別れとかいらないなあと思っていた所に颯爽と現れたこの作品は、そんな「何度もリブートしたヒーロー像」を新たに扱うからこそ強く響く二つのメッセージで、観るものに勇気を与えてくれる素晴らしい作品でした。

①私たちの想像力・創造力は何にも縛らず自由だ

本作の製作&脚本に名を連ねているフィル・ロード&クリス・ミラーのタッグが大好きなんです。彼らの作品を観たことが無い方は、とりあえず騙されたと思って「LEGO ムービー」を観てみてほしい。

 その他にも代表作として「レゴ・バットマン」や「21ジャンプストリート」シリーズなんかを手掛けているタッグですが、(本当は「ハン・ソロ」も監督予定でしたが、ディズニーと方向性で折り合わず退陣)、この「LEGO ムービー」は本作で抱く印象とかなり近いメッセージに溢れています。

彼らは「想像力・創造力」の持つパワーを信じているクリエイター

それは、アニメーションの技術云々だけではなく、物語の主人公たちが置かれる設定や、さらに言えばその作品が存在する意味あいの部分にさえ感じることが出来ます。

例えば「LEGO ムービー」。主人公のエメットはマニュアル仕事しかできない建設作業員(のレゴ)。しかし彼の能力はこの世界に必要であり、「自由に発想して作っていく想像性」も「マニュアルに沿って作り上げる創造性」も肯定してくれる物語がそこにはあります。

大人になると忘れてしまいがちなその力を改めて気づかせてくれるエメットの物語、そしてそれを、LEGOという想像力・創造力を刺激する玩具の世界観の中で展開しようというクリエイター陣の想像力・想像力、その幾重にもメタ的に想像力・創造力が重ねられた作品だからこその強固なメッセージ性に、とにかく心打たれること間違いなし。


※続編「LEGO ムービー2」も最高です

 

話を戻して。

「スパイダーバース」の想像力・創造力とは、一つには「2Dとか3DとかCGとか関係なく、見せたい世界を作り上げることができる」というクリエイターの意志と情熱が溢れるダイナミックで革新的な映像表現。

ふたりが「コミックの中を歩いているような」と評するその画は、コミックのコマ割りあり、吹き出しあり、擬音語・擬態語あり、コマ抜き(滑らかさではなく、カクつきがテンポ感を出すという不思議体験)あり……etc.、想像力に溢れた表現が自由自在に混在しながら、しかし「スパイダーバース」という世界観をしっかりと創造しています。

その中で、6人のスパイダーマンの存在が最も象徴的。

作画が全然違うペニー・パーカーやスパイダー・ハム、ただ1人モノクロのスパイダーマン・ノワールなどが画的には一番分かりやすいですが、「黒人少年のスパイダーマン」である主人公マイルスにはもっともメッセージ性が込められています。

「LEGO バットマン」でも、スパボン=スーパーボンドによって自由に作り変えられるLEGOを固めて一つの形に留めてしまうことからの解放にメッセージを仮託して描いていましたが、マイルスの存在は「スパイダーマンは白人男性でなければいけない」という、潜在的にもってしまっていた固定概念に気づかせ、そしてそこから観るものを解放する力に溢れる存在ではないでしょうか。

原作コミックとキャラクターに宿る想像力・創造力を、アニメでもコミックでも実写でもない革新的な映像で表現する想像力・創造力。「スパイダーマン」という世間的なイメージが固定化された存在だからこそそれが引き立つ構造もまた面白く、とにかくフィル・ロード&クリス・ミラーはやっぱり間違いありません!

※決して過去作品のスパイダーマン像を否定していないのがまた良いです。「スパイダーマン3」でトビーが披露したダンスが再現されていたりw、オマージュもいろいろ。

②誰だってヒーローになれる

MCUもDCEUも大好きだけど、だんだん忘れてしまうんですよね。彼らはあまりに超人すぎて、雲の上の話のように感じてしまう。
それはそれで憧れの存在として奮い立たせてくれるので良いですし、彼らはそれぞれ自身の弱みと向き合う存在としても描かれています。

だけど、この作品は一番大事な事を思い出させてくれる。ラストにスタン・リーのこんな言葉がありました。

That person who helps others simply because it should or must be done, and because it is the right thing to do, is indeed without a doubt, a real superhero

字幕をわすれましたが、「そうすべきだから、それが正しいことだからとして他人を助ける人間こそが、真のヒーローだ」といった意味。

これこそ、最も大切な本作のメッセージ。マスクを被れば、誰だってスパイダーマンになれる。それを体現してくれる、この6人のスパイダーマン達に感謝。

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