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DMが多い組織について考える

こんにちは、@nay3 です。

今日は、DM(Slackなどのチャットツールにおける個人宛のダイレクトメッセージ)を題材に、少し組織論的なことを書いてみたいと思います。

万葉ではDMは適切に使われている

まず、この記事の背景情報を説明していきたいと思います。

万葉ではSlackを利用しています。Slackのチャンネル(チャット空間)をどのように用意しているかというと、まず、社員が参加できるパブリックなチャンネルを話題ごとに用意しています。この「話題」には、全社員で共有しても差し支えないような各種の業務の話や、雑談などが含まれます。

また、ある程度センシティブな話題を扱うチーム(役員、管理部など)は、それぞれのチームメンバーに限定したプライベートなチャンネルも使っています。

実は、万葉には、DMが多すぎるといった悩みは特にありません。チームで仕事をする文化(参考記事:「チームを主体にして仕事をする」)なので、DMでなければならない理由がない限り、基本的に共有できるチャンネルをつかって発信をするような習慣が根付いています。

DMが多い組織がある

しかし、私たちも、ほかの会社と交流する機会があります。そこで気になってしまうのが、「世の中には、DMが多い組織があるようだ」ということです。

例えば、Slackでほかの組織の方とやりとりをしていて、万葉の習慣では断然チャンネルを使うような性質の業務上の相談・連絡がDMでたくさん来て、びっくりするということが起きます。

また、互いの近況交換などを通じて、「DMが多い」ことに課題感を持っている会社があることに気づいたりもします。

DMをもらって当惑することがある

もしも、自分宛にDMが送られて来て、その内容がチームなどのチャンネル向けのほうがふさわしいと感られるような時は、どんな気持ちになるでしょうか。

相手が意図的にDMで送ってきたことを尊重したいという気持ちはあるものの、

”どうしてチャンネルがあるのに、DMを使うのだろう? チャンネルに投げてくれれば、みんなに自動的に共有できて便利なのに”

という当惑や不満を、感じてしまうことがあるのではないでしょうか。

このような、チャンネルが適切に思える話題にもDMを使うという症状は、特定の人が "DM好き" だからなのでしょうか? そういう場合もあるかもしれませんが、私は、どちらかというと組織の性質によるところが大きいのではないかと考えています。つまり、世の中には「DMが多い組織」があって、そういう組織ではあちこちでDMが多く交わされており、それが普通になっている、ということではないかと思うのです。

本記事では、このような「DMが多い組織」について考察をしていきます。

DM禁止は事態を悪化させる

ところで、DMが多いことを課題に感じている組織では、「DMを禁止しよう!」「すべてのチャンネルをパブリックにしよう!」といった方向性のアイディアが出ることがあるようです。

率直に言って、これは無意味どころか、有害だと私は考えています。

なぜなら、DMは必要性があって生じているからです。DMを禁止すれば、仕事が進まなくなるか、別の手段で連絡するかのどちらかになるでしょう。

たとえるならば、風邪を引いた時に薬で咳を止めても、風邪が「治る」わけではありません。DMも同じだと思います。DMが生まれるメカニズムを理解して、根本的なアプローチをとることが必要です。

DMの必要性を分解する

まずは、DMが必要とされる理由を考えてみましょう。私が考えつく理由は、次のようなものです。

  1. 関係ない情報をみんなのチャンネルに流すことで迷惑をかけたくない

  2. 途中の状態の情報をみんなのチャンネルに流すことで周囲から横槍が入り、自分の仕事が進めづらくなることを避けたい

  3. センシティブだったり、秘匿性の高い内容をやりとりするためにコミュニケーション相手を限定したい

  4. チャンネルでの投げかけに反応してくれない人でも、DMで投げると反応してくれるかもしれない

上記の4つの理由は、「本質的にDMが必要なケース」と「気がかりな理由」の2つに分けられると私は思います。

「本質的にDMが必要なケース」に属するのは、次の2つです。

  • センシティブだったり、秘匿性の高い内容をやりとりするためにコミュニケーション相手を限定したい

  • チャンネルでの投げかけに反応してくれない人でも、DMで投げると反応してくれるかもしれない

こういったDMは、心配する必要も、撲滅する必要もないと私は思います。

一方、残りの理由は、組織の性質とも関連する「気がかりな理由」に分類できると考えています。

  • 関係ない情報をみんなのチャンネルに流すことで迷惑をかけたくない

  • 途中の状態の情報をみんなのチャンネルに流すことで周囲から横槍が入り、自分の仕事が進めづらくなることを避けたい

DMを使いたい理由へのありがちな解釈

「気がかりな理由」を目にすると、次のようなことを考えがちだと思います。

  • 本人が遠慮しすぎなのでは?

  • 本人にもっとオープンマインドになってもらいたい!

  • 組織に心理的安全性がないのでは?

  • 本人が防衛的すぎるのでは?

  • みんな無関心すぎる。もっと反応しよう!

いずれも、もっともだと思います。しかし、解決の糸口となるような「本質」は別のところにあるのではないかという気がします。

結論から述べると、「気がかりな理由」に分類した2つの理由は、いずれも、次のような「本質」を示唆していると思っています。

そのチャンネル内の人々は、共同でみんなの仕事の責任を負っているというよりも、個人個人がそれぞれの仕事の責任を負っている。

着目すべきは、人々が「仕事の範囲」をどのように認識しているかだと思うのです。

「仕事の範囲」とDMの関係

例① 共同で仕事の責任を負う3人のチャンネル

たとえば、ある仕事の責任をAさん・Bさん・Cさんが共同で負っているとしましょう。この3人で使っているチャンネルがあるとしましょう。そのチャンネルで、Aさんが自分の仕事の詳細を、Bさん・Cさんに向けて伝える場面を考えてみます。

共同の仕事をする3人のチャンネル

このような場面では、Aさんが自分の仕事の詳細をBさん・Cさんに伝えることは、Bさん・Cさんにとって必要なことです。Aさんが詳細を伝えれば、Bさん・Cさんはよりよい判断をして、3人全体として、よりよい動きができます。そのため、こういう状態ならば、Aさんは「関係ない情報をみんなのチャンネルに流すことで迷惑をかける」という発想にはなりません。「Bさん・Cさんにうまく動いてもらうために、自分の持っている情報をすぐにチャンネルに流そう」という考えになるでしょう。

また、Bさん・Cさんは、Aさんからの情報を受けて、どんな動機で、どんなことを話すでしょうか。Aさん・Bさん・Cさんは共通の利益、すなわちチームの利益になることを話したいという動機を持っています。したがって、Bさん・Cさんは、Aさんの仕事をうまく進めるための話をします。

共同の仕事をする人たちは共通の利益のために協力する

逆にいえば、Aさんの仕事が進めづらくなるような話をする動機はないのです。つまり、「途中の状態の情報をみんなのチャンネルに流すことで周囲から横槍が入り、自分の仕事が進めづらくなる」ことを恐れる必要がないので、安心してチャンネルに情報を流すことができます。

例② 仕事の責任を共有していない3人のチャンネル

別の例として、マネージャーのCさんがAさん・Bさんを統括し、Aさん・Bさんがそれぞれ別の仕事に責任を持っている組織と、その組織のチャンネルについて考えてみます。

仕事の責任を共有していない3人のいる組織のチャンネル

この場合、Aさんは、自分の仕事の詳細を組織のチャンネルに迅速に発信したいでしょうか?

Aさんの仕事の詳細情報は、マネージャーのCさんはともかく、同僚のBさんにとってはそこまで知る必要のない情報です。丁寧に読んですぐに反応を返してくれることは、そこまで期待できません(むしろ、Bさんがそういうタイプであれば「他人の仕事にばかり口を出さずに自分の仕事に集中してほしい」と言われてしまうかもしれません)。これは、まさに「関係ない情報をみんなのチャンネルに流すことで迷惑をかけたくない」と遠慮したくなるような状況です。

視点をBさんに移しましょう。Bさんは、どんなときにAさんの情報に対して反応するでしょうか? Aさんが困っていたら助け船を出す、ということももちろんあるでしょう。それならばAさんとしては助かります。しかし、それだけではありません。Bさんは、Aさんの仕事がBさんの仕事の支障になると感じた時に、阻止したり、路線を変えてもらうために発言するかもしれません。

BさんはBさんの仕事のために発言するかもしれない

これは決して、Bさんが性格的に "邪悪" だからではありません。BさんにはBさんの仕事があり、責任があります。Aさんの仕事を変えてもらうことで、自分の仕事がより良くなるならば、変えて欲しいと要求してみるのは自然な行動です。

ですが、Aさんは困ります。AさんはAさんの仕事を最適化したいのに、Bさんが口を出してくることで、対応を迫られます。時間も減ります。下手をすると、意にそまない路線変更を承諾しなければならないかもしれません。

そのような危険を避けるために、Aさんにとっては、チャンネルに情報を書くよりも、CさんにDMで相談するほうが効率が良いという可能性が生まれます。Bさんに対しては「既定路線」になってから伝えれば、万事丸く収まることでしょう。

DMで相談して、チャットには決定事項を流す

「途中の状態の情報をみんなのチャンネルに流すことで周囲から横槍が入り、自分の仕事が進めづらくなることを避けたい」という理由でDMが選択される状況は、このようにして生まれるのではないでしょうか。

DMが多い組織は個人個人で仕事している

ここまでの内容をまとめましょう。「DMが多い組織では、複数人で仕事を共同で進めて共同で責任を負うという形ではなく、個人個人がそれぞれの仕事の責任を負っている形になっているのではないか?」 と、私は思うのです。

個人個人がそれぞれの仕事の責任を負うスタイルの組織では、おそらく、DMが多くなる状態を変えることは難しいでしょう。次のような行動がむしろ自然であり、効率的だからです。

  • 自分の仕事を進めている途中ではDMを活用して、安全かつ他人の迷惑にならないように仕事を進める

  • 必要な報告や連絡は、確定した段階でチャンネルで行う

しかし、このやり方では、次のような弊害が発生しやすくなります。

  • 必要な人に必要な情報が届かず、手戻りが発生したり、効率が悪くなる

  • 情報共有が遅いため、早期に共有していたら全体としてもっと効果的に動けたはずの成果が出せない

この傾向は、構造的なものなので、避けるのが難しいように思います。マニュアルやルール、定期連絡の仕組みなどで致命的な問題を防ぐとか、情報が集まりやすいマネージャーが身を粉にしてなんとか回すくらいしか対応策はないかもしれません。

共同の責任で仕事をする組織に変えるには?

これまで考えてきた内容をもとにすると、もしもチャンネルに良い感じに情報が共有されて、チームとしてうまく動けることを目指したいのであれば、人々の認識する「仕事の範囲」を変えて、チームで共同で仕事をするようにやり方を変えるしかないのではないかと思います。

では、個人個人で仕事をする風土の組織を、チームで仕事をする風土に変えるには、どうしたらいいのでしょうか?

この点は、個人的に大変興味のある話題です。本記事でそれを考察し始めると長くなってしまうので、さわりだけ書いておきたいと思います。重要なのは、人々が次のように感じられるようにすることです。

仕事は個人に所属しているのではなく、チーム全体のものである。個人は、チームの仕事のひとつをたまたまその時進めている。

組織のすべてのメッセージ・仕事の仕方・制度を、人々がこのような感覚を持つことのできる方向に揃えていけば、組織が変わり、DMが多すぎると感じることも減っていくのではないかと思います。(なお、これを行うには、トップの認識がこの方向に揃わなくては難しいことでしょう。)

チャンネル設計も重要

ちなみに、DMが不必要に多くなっているという症状の背後に、副次的な要因として、チャンネルと「仕事の範囲」がうまく重なっていないという問題もあるかもしれません。チャンネルと「仕事の範囲」が一致していなければ、DMは増えてしまいます。前述の例①のように、Aさん・Bさん・Cさんの3人が共同で仕事をしていたとしても、たとえば以下のような状況であれば、DMが使われることでしょう。

  • Aさん・Bさん・Cさんのほか、仕事を共有していない5人くらいがいるチャンネルしか使えない

3人だけのチャンネルがないケース
  • Cさんだけ、チャンネルの外側にいる

Cさんはチャンネルの外側にいる

こういったケースでは、必要なメンバーが参加するチャンネルが作られれば、基本的に解決に向かうと思います。ただし、以下のようにそれが難しい場合もあります。

  • privateチャンネル作成が禁止・制限されているが、社内には、3人の仕事の方向性と利害が対立しやすい人物がいて、その人物に途中段階の詳細情報を見せたくない

privateチャンネルの禁止には弊害がある
  • チャンネルを新たに開設するコストが高い。情シスへの依頼、上長の許可、関係者全員への説得などが必要だったり、チャンネル開設自体に目をつけられるリスクがある

チャンネル開設コストが高いとDMを使うことになる

チャンネルの効果的な利用を促したいのであれば、チャンネルに関する自由度を高くして、開設や設計変更を簡単に行えるようにするほうが良いと思います。

まとめ

本記事では、SlackなどでのDMが多いという症状が、組織の性質によるものはのではないか?という観点で考察し、仕事をチームで共同で行うスタイルにくらべて、仕事を個人個人で行うスタイルの場合に、DMが多くなりやすいのではないかと考えました。また、もしそうであるならば、仕事を共同で行う形を目指していくことで、情報共有をよりよく行うことにつなげられるかもしれないということを述べました。

情報が良い感じに共有される、ある種「風通しの良い」組織作りを目指したい方にとって、本記事が何かの参考になれば幸いです。


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