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徹底考察! シャニマスのアイドルは牛角で何を焼く?

焼肉。

多様化する外食産業の中でも特に根強い人気を誇るメニューであり、全国展開をしているチェーン企業も数多く存在する。肉を焼いてその場で食べるというシンプルな構造でありながら、切り出す肉の部位や牛のブランド等により無限にその奥行きは広がっていっている。肉を味付けするタレや付け合わせのキムチなどには店によって個性が分かれ、私たちの多くは誰しもが行きつけの焼肉店というものを持つまでになった。もはや焼肉はただの食事にあらず、我々の生活の基盤の一つと言っても遜色ないほどの代物に進化を遂げているのだ。

一方で、シャニマス。

学マスという後輩ブランドを加えて、今や六つのブランドとなったアイドルマスターレーベルの中でも、その特異さが話題を呼ぶ、人気コンテンツである。ただアイドルをプロデュースするという体験に終始するのではなく、一人の人間の人生に寄り添うような繊細で丁寧なシナリオの描き方をしており、6年の歴史を経てなお、新しい発見が尽きない。ユニット内での交流のみならず、他ユニットのアイドルはもちろんのこと、名前を持たないようないわゆるモブのような存在であっても、その対話には意味を持たせるという力の入ったシナリオは我々にダイレクトに熱を感じさせてくれる。もはやシャニマスのアイドルはただの“キャラクター”ではない、我々と同じ地平の上に立つ明確な人格を有していると言ってもいいだろう。

……おや?

驚いたねぇ坊や、焼肉とシャニマス……
奇しくも同じ構えだ

さあ、焼肉とシャニマス向かい合っての臨戦体制。
互いが構えあっているからには拳を交えないなんて選択肢はない! 二つの世界がぶつかり合った先に生まれるものは一体何なのか!?

刮目せよ、それが天地開闢の時だ

~レギュレーション~

・今回は焼肉チェーン店舗数全国No.1である牛角を戦いの舞台とする。
・ユニット単位で牛角に来店した際に注文するメニューを考える。来店時のシチュエーションは特に定めない。
・彼女たちは牛角の食べ放題「牛角コース3,580円(税込3,938円)」の範囲内で注文をすることとする。
→牛角コースにおけるお通しは塩キャベツとんタン塩。全ユニットの注文はこちらを前提としたうえで進んでいくものとする。

※予防線※

・アイドルの設定漏れ、コミュの内容漏れなどの不備がある可能性があります。あらかじめご容赦ください。

☆イルミネーションスターズ

283プロダクションの看板役として、長くシャニマスを引っ張り続けて来てくれた彼女たち。共に食卓を囲んだ回数も数知れず、ただの食事の風景のはずなのに、つい頬が綻んでしまうようないじらしく、温かい会話を私たちに何度もお裾分けしてくれました。
そんな彼女たちが焼肉という舞台ではどんなリンクアピールを見せてくれるのかに注目が集まります。

イルミネの焼肉は、全員で悦びを分かち合うことに重きを置いている。同じ種類の肉を同時に食べ、同じようにタレやレモン汁を使い、デザートのタイミングまで統一。マルチプレイのレイドバトルに挑むが如く、皿を片付けるのは並走の果てというスタンスを徹底している。
したがって、注文の段階からパネルを持つ人間は共有を前提として取りまとめることとなる。

ごはん小×3
たまごスープ
チョレギサラダ

まずは戦いへの備えを盤石に。オーソドックスではあるが、これが最適解でもある。タレと肉の脂を優しく受け止めるごはんとたまごスープは欠かせない。栄養バランスが偏るのを少しでも抑制するためのサラダも添えて。灯織が率先して取り分けたスープの器は、彼女の分だけ卵が細雲のように散っている。

ロース(タレ)×2
ロース(塩ダレ)×2

はじめは脂の少ない部位から焼くのがセオリー。網交換の申し出をするのに逡巡を必要とする彼女らからすれば、その手間も省けることなら省きたい要素。網を汚さないようにロースから焼いていく。

熟成厚切りカルビ×2
とろカルビ×3
たまねぎ(焼き野菜)
エリンギ(焼き野菜)

胃が肉を受け入れる体制が整ってきたところで、本番に突入する。威勢よく注文するのは、焼肉界の不動のエース・カルビだ。特にクセも強くなく、人も選ばない王道部位は彼女たちのコミュニケーションを阻害しない。勿論肉で空腹を満たすことこそが第一条件ではあるのだが、それ以上に彼女らは言葉を交わすことこそが大事なのである。
通常の肉よりも厚みのある切り方をしているのはその点において都合がいい。赤身がその色を失って、脂を吐き出すまでの時間。そこに通わせるコミュニケーションの濃さは他の何も勝らない。ちなみに、厚切りカルビはハサミで切って食べることを奨励しているほどのほぼ肉塊である。
焼き野菜も欠かさない。真乃とめぐるは特に意識をしていないだろうが、灯織は絶対に野菜を注文するぞという意気込みをもってこの場に挑んでいる。同じユニットの仲間として、気の回せるところは回したい。いじらしく、可愛らしい彼女なりの背伸びの一つだ。

ここまで主に灯織(と真乃)によって、セオリー通りに場が形成されてきたわけだが、ここに一石を投じ、盤面をかき乱してくれるのがめぐるの存在だ。活発さと思慮深さを併せ持つ彼女からすれば、突飛な行動を起こして振り乱すようなことは勿論しないわけだが、レクリエーション的な享楽であるならば話は別だ。食べ放題という、それだけでエンタメとして成立している舞台において彼女は高揚を隠しきれない。

「……なんだか、いつの間にかお肉がテーブルを埋め尽くしてない?」
「ほわっ……ほ、ホントだね……」
「あはは……なんだかテンション上がっちゃって……ついつい頼みすぎちゃったや……」

牛バラカルビ(タレ)×1
やみつきハラミ(塩バター)×1
ねぎ塩豚カルビ×1
ピートロ(味噌ダレ)×1
焼きナゲット×1

雑談に興じながら、まったりとしたペースで肉を焼いているそのすぐ横でだんだんと机の上に皿が並び始める。配膳と肉の分担に灯織が執心の内にパネルはいつの間にかめぐるの手の中にあり、どんどんと他の部位の肉の注文を重ねていた。運動神経バツグン、活発な彼女の身体は少しでも肉の脂を摂取してしまえば箍が外れたかのようにたんぱく質を追い求める。食べ放題というどれだけ食べても値段の変わらないシステムもまた、彼女の中の枷を取り払う要因となったようだ。

「ど、どうしよう……注文した以上は残すわけにはいかないし……」
「注文しちゃった手前は、わたし頑張るよ! まだまだ胃袋も空いてるし、全力で行くよー!」
「め、めぐる……無理はしないで」

知らぬ間に積みあがっていた注文により灯織のプランは既に崩壊寸前。限りある胃袋で目の前の皿を全て片付ける必要があるのに、肉ばかりでは胃ももたれてしまう。アイドルとして、他の同世代よりも消費カロリーの多い日々を重ねているであろう彼女でさえも、この赤々とした肉の平原の前では思わず生唾を呑み込むこととなる。

張本人のめぐるさえも少し気圧されてしまうほどの肉の量……
万事休すかと思いかけた、その時

「灯織ちゃん、ちょっとパネルを借りてもいいかな」
「ま、真乃……? 食べたいものは他にもあるかもしれないけど、今は先にこっちのお肉を片付けないと……」
「う、ううん……! ごめんね、そうじゃなくて……このお肉をたべるために、注文したいものがあるんだ……っ!」
「……あー! それってもしかして……!」

サンチュ(10枚)

それはこの混迷の状況を切り開く、ただ一つの方法。
肉の重みを優しく抱き留めて、その抱きしめる瞬間にも思わず笑顔を綻んでしまうような、食の豊かさと時間を共有する楽しさとを教えてくれる存在。
さっぱりとした風味が舌をリセットし、胃に溜まった脂を軽くしてくれる。
肉をサンチュで巻けば、まだまだ私たち……輝けるから!

カクテキをみんなに届けよう……!
サンチュネーションスターズ!!

(最終食べきれなかった分はプロデューサーが責任を取って食べました)

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☆アンティーカ

シャニマスと肉といえば、【夏、どがんね~?】のカードを真っ先に思い浮かべる方も多いだろう。そう、アンティーカと肉は切っても切れぬ仲。スチームパンクが噴き出す蒸気の音と、焼けた肉が火種に汁を滴らせる音はよく似ている。私たちが彼女たちのパフォーマンスを見て血を滾らせるのと同様に、彼女たちもまた肉を前にして食欲を湧き上がらせることは請け合いだ。

焼肉というのは調理、給仕、食事のすべての過程が卓上に存在している特異な料理(もちろん肉の下準備や切り分けはお店でやってくれているのだが(有難いことやね))。そうなると自然と役割分担が発生するが、アンティーカはこれが明確に分かれる。月岡恋鐘、白瀬咲耶が意地でも肉を焼く側に回り、田中摩美々と幽谷霧子は彼女らにもてなされる側に就くことは言うまでもない。肉を焼いて腹を満たすこと以上に、二人の笑顔、蕩け切った頬を見ることが何よりの愉悦なのだから。
恋鐘はまだしも咲耶は本当に身も心も賭してその役割に準じてしまうので、自分自身が食べることを忘れてしまう。三峰結華はそんな世話焼きたちの世話を焼く平定役になるわけだ。

注文のパネルを最初に持つのは恋鐘。メンバー全員の共通認識として、料理の事ならばプロに任せるのが一番というのがある。基本の骨組みは恋鐘が仕上げて、随時欲しいものがあれば各自で注文を入れていくという形だ。

ごはん(並)×3
ごはん(小)×2

肉食べるんやったら白米なしじゃ始まらんとよ!
血沸き肉躍る(物理)決戦の場においては白米装備は最低限のマナー。人数分の注文はマストで入ることだろう。

キムチの2種盛り合わせ
生ハムサラダ

アンティーカは5人と大所帯。それに隠れた食いしん坊の摩美々もメンバー内にいるということで、付け合わせのサイドメニューを注文しても十分捌ききれる。肉が焼けて自分の皿に盛られるまでの暇潰しの手慰みに摘まめるだけのキムチは必要不可欠だろう。多分霧子は大根キムチが好き。しゃき……♪ しゃき……♪

ワカメスープ

恋鐘の注文から漏れていたスープは結華が補った。戦場においては肉の脂を流し落とすだけのスープが必要となることを大学生の経験則として知っている。食べ放題メニューで後先考えずに注文しまくってしまう、自分がやらずともそんな馬鹿をやる大学生を必ず一度は見てきているはずだ。

梅とんタン塩×1
熟成王様カルビ×3
とろカルビ×5
やみつきハラミ(味噌にんにく)×2
やみつきハラミ(塩バター)×2
たまねぎ(焼き野菜)
キャベツ(焼き野菜)

恋鐘が選んでくれた肉の味わい尽くしの贅。中腰気味になって恋鐘と咲耶が焼いていくのが基本だ。焼肉においてトングは基本的に二つ。この二人が舵をとるのは自然な流れだろう。

割にアンティーカは脂身のある部位も食べる口だ。ダイレクトに旨味に直結する部分であるし、身体に脂肪がつきやすいという背徳感もまた一興。それこそ「罪ば~い」の合言葉が脳裏によぎる。

肉が焼けたら霧子、摩美々、結華の皿にどんどんと載せていく。霧子はお行儀よく待っているし、摩美々はちょくちょく自分でも取る。先述の通り、結華は合間を縫って恋鐘と咲耶の皿にもお返しの肉を持って行くわけだが、中々咲耶は着座をしないので肉の減りが遅い。「さくやん、いけずだな~。三峰からの気持ちは受け取ってくれないの?」と茶化しながら促すことで苦笑しながらやっと肉を口にする。

そしてそれとは別に単純に速度が遅くて霧子の皿も肉の減りが遅い。もっちゃもっちゃと咀嚼している間に恋鐘が「もっと食べんね!」とどんどんと肉を供給していく。

牛ホルモン(味噌ダレ)×2

果てには摩美々の気まぐれで注文されたホルモンまでやってくる始末。嚙み切れない弾力を前に足踏みしている間にどんどんと供給スピードが上回っていく。霧子のマナはもはや溢れる一歩手前、パンク状態までもはや猶予なし!

お肉が溜まる一方じゃきりりんも不安だよね、
三峰動きます。

焼きパイン

ここで結華が滑り込みの注文を通す。肉を多く喰らうとなった際、日常そう沢山にたんぱく質を摂取する人間でない場合は消化酵素が体内に足りていない場合がある。パイナップルが含む酵素『ブロメライン』はタンパク質の分解を助ける効果があるため、酢豚の具材の議論の場に立っているというわけだ。霧子のようにお口のちっちゃい、ちょぼちょぼ食べる奥ゆかしい少女にはもちろん消化酵素など足りていない。有力な助っ人をもって肉を制す。溢れそうになっていたマナ問題もこれで解決。まさに『純白ブロメライン』というわけだ。

ロース(タレ)×2
ロース(塩ダレ)×2
やわらかイカ焼き
ぼんちり(味噌ダレ)×2

霧子も追いついてきたことで焼肉も終盤戦に突入。残りの胃袋を満たすためのお供を各自注文。

全体的に食べている量が他の面々より少なめな恋鐘と咲耶が併せてダイレクトな赤身のうまさのロースを注文。

既に満足気味な摩美々と霧子はツマミのゾーンに手を出す。比較的とっつきやすく、焼けるまでの時間もそうかからないイカ焼きを選択。

二陣営の注文を受けて、結華はぼんちりを選択。鶏肉の希少部位として、脂身は多めではあるが牛に比べるとその口当たりは軽やか。中間をとった選択としては絶妙であろう。

恋鐘:バニラアイス
咲耶:バニラアイス
霧子:杏仁豆腐 いちごソース
摩美々:ヨーグルトアイス
結華:ヨーグルトアイス

焼肉の最後は甘いデザートで。意気揚々と恋鐘が「うちがメニュー読み上げるけん、みんなは手上げて教えんね! バニラアイスの人~~~~~?」と一つ一つ読み上げて注文を取ってくれるが、焼肉の後のデザートはなんだかんだで種類が偏りがち。濃い味付けの後のさっぱり感をとるのでは、シンプルなアイスか杏仁豆腐が最適解なのだ。

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☆アルストロメリア

食の申し子アルストロメリア。そのイメージが定着したのはいつからだろうか。千雪の食に対して少しばかり我儘でいじらしい部分が我々の本能を擽り続けてくれたのは勿論、誰しもが使えるキラーフレーズを手にしてからは無敵の勢い。ありとあらゆる分野の食べ物を、彼女たちなら楽しく、可愛らしく、和気あいあいと食べてくれるという絶対的な信頼がある。

彼女たちの焼肉はとにかく“丁寧”である。それは肉を焼くときの所作だとか、口に運ぶときに手を添えるだとか、そういうマナー的なことも勿論前提とはしている。前提とした上で、気構えの話である。彼女たちが焼く肉には、その地平の先に明確に誰かがいる。彼女らは皆トングと箸を用いて、他の誰かのための肉を焼いている。

天国の住人が使う箸はとてつもなく長いという逸話がある。互いに食事を与え合うがために、自分で使うには長すぎる箸を利用すると言う論理だ。アルストロメリアはそれを自で行く。肉が美味しそうに焼けた時は他の誰かの元へ、これはテリテリの脂と沢山の想いを載せたとびきりの極上カルビラブレターなのである。

ごはん
とろカルビ×3

大崎甜花が愛してやまないのがKPG*。焼肉の場において白米がいかに重要であるかを熱弁してからは、時々甘奈と千雪も試すようになった。少しだけお行儀が悪いかもしれないけど……ご飯をとびきり美味しく食べるのが1番のマナーよね(無い桑山千雪)。

*カルビパッティングご飯の略。肉汁が溢れんばかりに火が通ったカルビをタレに潜らせたのち、何度かご飯の上でパッティングさせることで白米の味をより高次元へと運ぶための営み

そう言うわけで開幕トップスピードでカルビに突入する。タレのカルビという分かりやすい旨味に飛びつくのだ。咲きほこれ、満開の肉の脂。

KPGにより万全の立ち上がりを整えて、焼肉が本格的に始まる。

梅とんタン塩×2
ロース(タレ)×2
豚カルビのハチミツ黒胡椒焼き×2
コーンバター
のりのりna奴
生ハムサラダ

カルビを一度経由したからには、軽めの肉を味わいたいところ。脂よりは赤みがベースの肉を主軸に組み立てていく。

そんな中でも少し変わり種の注文をしたがるのは甘奈や甜花というよりかは千雪だ。せっかくの食べ放題、ちょっとぐらいは踏み込んだ真似をしてみてもいいじゃない。こと焼き肉屋において彼女は誰よりも無邪気で、誰よりも好奇心旺盛だ。

割とヘビーなものをずいずいと注文していく千雪を見ていると、節制の言葉のその輪郭がぼんやりとしていってしまう。頬に手を当てて蕩ける彼女の表情はどんな食レポよりも饒舌である。

「もう、千雪さん! そんなに美味しそうに食べちゃったら、甘奈たちも我慢できなくなっちゃうよ……!」
「千雪さん、甜花もそれ……食べてみたい……!」

こうなったからにはもう止まらない。すっかり二人も肉汁溢れる耽美な魔法の虜なのである。

大判とろカルビ×2
ねぎ塩豚カルビ×2
豚ハラミ(タレ)×3

「今日くらいは」それは秘めた欲望を解放してくれる魔法の呪文。あすけんの未来先生がひっくり返って泡を吹いちゃっても知ったことではありません。一度走り出した女の子を引き留めることなど、誰にもできることじゃないんですから。

三人はもう罪悪感すら食欲を加速させる起爆剤に代えて、遠慮もなしに肉を満足そうに頬張る。蕩け切った頬っぺたにOKサインをあてがって、言い放つのは勿論お決まりの”あのフレーズ”である。

まさかの追いカルビによって息を吹き返すKPG。肉が焼ける度に、ご飯の上に一跳させてきたことによって、その頂上は火山口のような様相となり肉汁とタレが溜まっていく。段々と重力によってしみ込んでいき、凝縮された旨味でひたひたになった白米。それを掬い上げてハラミで米をひと巻してしまうってんだからもうどうしようもない……! さらばヘルシーに生きた日々よ、ミヒ トゥアレ ディディエインディエム。

焼きあがった肉を口にするたびに美味しいと言い、今度は食べてみてと自分以外の誰かの肉を焼き。その間にいつの間にかほかの二人からの御裾分けが飛んでくる。そんな旨味と幸せのラリーが何周と続くうちに、胃袋も少しずつ重たくなっていく。
そろそろこの少しばかりこってりとしていたティーパーティも幕引きを迎えようとしているようだ。

「そろそろデザートのタイミングだよね……どうしよう、甜花ちゃん、千雪さん」
「どうするって言ったら……何にするか、ってことかしら」
「うん……アイスにするか、杏仁豆腐にするか、パインもあるんだって!」
「ふふ、おかしい。ここに来て甘奈ちゃんは魔法が解けちゃったみたい」
「なーちゃん! 今日は甜花たちも、いるよ……!」
「……!」

ヨーグルトアイス
杏仁豆腐いちごソース
カットパイナップル

そう、彼女たちは一人ではない。選択肢は一人につき一つ、なんてのは退屈に呑まれた大人たちのルール。まだまだ魔法を自由自在に使いこなせる女の子の彼女たちからすれば、そんなものは通用しない。食べたいと思う気持ちが少しでもあるのなら、注文してしまえばいいのだ。すっかり食べ放題の空気に載せられた彼女らは誰よりも豪胆ですらあった。

三人で仲良くデザートを分け合い、流石にちょっと食べすぎちゃったねと笑いあう。そこに感じるカロリー過多の罪悪感も、三人で分け合えば夢と消える。魔法の時間は彼女たちが望む限りいつまでも続くのだから。

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☆放課後クライマックスガールズ

ことタンパク質となれば放クラの右に出るものなし。育ち盛り、食べ盛りの果穂をはじめとして、圧倒的な運動量ですぐに血肉の糧とする夏葉と樹里、見た目のイメージとは裏腹に意外となんでもよく食べる凛世。そして食の帝王、園田智代子。彼女たちが似合わない飲食店などこの世界のどこを探してもないのではないだろうか?

※これは大前提なのだが牛角の注文システムに夏葉が目をつけることを忘れてはいけない。牛角では専用のiPadに別紙の注文リスト記載の番号を入力することで注文をしていくシステムなのだが、このややこしく手間がかかるやり方が彼女の関心を惹くことだろう。同じ品を注文する際に番号記憶クイズの様相を呈することは言うまでもない。

彼女たちは同じ方向に突き進んではいるが、向いている方向は必ずしも同じではない。彼女たちの囲む卓での合言葉は”個性爆発”だ。焼肉の既存の枠組みにとらわれない自由な発想のもとに注文が飛び出していくだろう。
とはいえ、基本の注文をしておくことは大前提だ。米、肉、サラダ、キムチ、スープ。他の四人が爛々と輝く瞳をメニューに目移りさせる中、樹里がキチンと仕切って全員に行き渡るようにベースラインを整えていく。一汁三菜は日本人の心。土井善晴先生もそう言っていた。

果穂:たっぷりお野菜のミニビビンバ
智代子:カルビ専用ごはん
樹里:ごはん
凛世:ネギたまごはん
夏葉:カルビ専用ごはん

熟成王様カルビ×3
とろカルビ×3
生ハムサラダ
牛角キムチ
たまごスープ

さて、ここまでは全員で示し合わせて整えたスタートラインだ。一通りの『焼肉』が机の上に並んだことを確認すると、メニュー表を持った最年長が目を爛々と輝かせ始める。

「みんな……見てちょうだい! このお店、お肉にハチミツをかけているわ! なんて大胆なのかしら!」
「焼肉……そのルーツは韓国に合ったものと記憶していたのだけれど、まさかバジルの味わいまで楽しむことが出来るなんて。私にはない発想だわ……脱帽というほかないわね」
「ふふっ、このお店はお肉を焼くだけじゃないのね! なんだかテーマパークに来たみたいね、テンションが上がってきてしまうじゃない!」

メニュー表の一角を占める”創作焼き肉”コーナー。ここに興味を示さない彼女ではあるまい。夏葉の高揚に果穂と凛世も連れたって、完全に場の空気はそっちになびく雰囲気。自由に食べたい智代子としても、夏葉が我を忘れて楽しんでいる状況は都合がよろしい。智代子までもがどんどん便乗して載せていく側についてしまうので、樹里もそこで腹を決めるのだ。

果穂:ジュ〜シ〜!ソーセージ×2
   焼きナゲット×2

ソーセージを嫌う人間などいない。いる筈がない。焼きあがったソーセージのパンパンに張った皮が弾ける瞬間のパリッとした食感、豚肉の味が口いっぱいに広がる喜び。これに勝るものなどないのだから。

智代子:蜜おさつバター
    たまごクッパ

食事の最中に甘味を楽しめてしまうのも食べ放題ならでは。アルミ越しに伝わる熱が溶けてバターと混じり合い、サツマイモの自然の旨味をぐっと引き上げる。肉と併せて胃に溜まること請け合いだが、そんなことは今このひと時だけは忘却の彼方へ。どこの世界に勝負の最中に明日の勘定する奴がいるんだよ。

樹里:絶品!厚切り炙りベーコン×2
   ピートロ(味噌ダレ)×3

比較的樹里は安定した択を採る。他の肉とは違った味を志向していながら、その扱いは比較的容易。誰の目に見ても、悪くないチョイスの優等生。樹里がいてくれるからみんなは自由に未来を描いていける、樹里と一緒に先に歩んでいけるんだ。いつもありがとう。

凛世:厚切り鴨ロース(タレ)×2

ロースと同じ枠に鎮座している異質な存在を山陰の山育ちの鋭い眼光は見逃さなかった。凛世には並みならぬ探求心とチャレンジャー精神があることはあまりにも有名。他の肉と明確に風味も味わいも異なるそれに飛びつかずにはいられなかった。探求の果てに彼女がたどり着く答えとは……?

夏葉:豚カルビのはちみつ黒胡椒焼き×2

夏葉からすればここは完全たる未知の世界。創作焼肉の言葉を免罪符にしたそれを前にすると、賭けにも挑みたくなるというものだ。甘さと辛さの奇跡的な結びつき、これまでに有栖川家の味蕾に触れたことのない新しい味が今……着弾する。

「失礼します。ラストオーダーの時間となりました。最後の注文となりますが、何か注文なさいますか?」

楽しかった時間ほど気が付いたら終わってしまう。放課後のチャイムが鳴るように、店員さんが終末を告げにテーブルへ。お腹も十分満たされたことだし、放クラの五人もデザートの選択に移る。

「あら、もうそんな時間になっていたのね。すっかり食べることに夢中になっていたみたい」
「はい……網を囲み、肉を焼き、語らううちに……刻々と時間は過ぎ……」
「あー……それじゃ最後はデザート注文するか? 果穂、どれが食べたい?」
「うーん……どうしようかな、アイスもいいな……でも、杏仁豆腐も食べたいし……」
「それじゃあわたしがどっちも注文するから、果穂はそれをつまんで食べてくれたらいいよ! 一緒に食べよう!」
「ちょこ先輩……! ありがとうございます、そうします!」

果穂&智代子:バニラアイス・杏仁豆腐 いちごソース
樹里:ヨーグルトアイス
凛世:抹茶アイス
夏葉:杏仁豆腐 プレーン

自然な流れで智代子は二つデザートを注文する権利を獲得。もちろん果穂と分け合うというのはあるのだが、夏葉の目を盗んで自分の食べたいものを二つ通すという抜け道の側面も併せ持っている。
そんな夏葉はというと、待望の「焼肉の〆に杏仁豆腐」ができてご満悦。この流れで会計後に製造元不明のミントガムも貰えるのかなと内心ワクワクしているが、残念ながら牛角では貰えない。帰りしなに凛世が袂に持っていたドロップ缶からハッカ飴を貰うことで妥協するのであった。

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☆ストレイライト

ついに決定!
☆黛冬優子が焼き肉屋で言いそうな言葉ランキング2024☆

1位 あんたまだその肉生焼けじゃないの?
2位 肉ばっか取ってないでたまには野菜も食べなさい
3位 その肉さっき入れたばっかだからひっくり返すのやめてよね

28.3位 だから白い服は着てくんなって言ったのよ

ストレイライトで焼肉! 芹沢あさひという283プロきってのハングリーモンスターを要するこのユニットではいかに彼女に首輪をつけて飼いならすことが出来るのかということが求められます。食欲のままに注文を試みるのをなんとか制して、かつ栄養バランスの崩壊を最低限に収める文字通りおかんの立ち回りが求められるわけですが……冬優子と愛依のおかん力やいかに!?

「もうお腹ペコペコっすよ~! お肉! 早く食べたいっす~!」
「はいはい……分かったから静かにしてなさい」

好き勝手食わせるような真似はしないぞ、とは決めていたものの。いざ来店してみるとこの中学生、腹が減っただのなんだのやたらうるさくごねてくる。人がサラダを注文する話をすると、「野菜より肉が食べたいっす」とか聞いてもいないのに口を挟みこんでくるのだ。

枝豆
韓国のり
シャキシャキもやしナムル

とりあえずあさひがうるせぇ~~~~ので黙らせるためにすぐに食べられるサイドメニューを囮代わりにする。豆を押し出したり、韓国のりを食ったりしてる間に冬優子と愛依が結託。あさひによって注文がゆがめられることがないように一通りのメニューを注文しておいた。

あさひ:たっぷりお野菜のミニビビンバ
冬優子・愛依:ごはん(並)
とんタン塩×2
熟成王様カルビ×3
ロース(タレ)×2
豚ハラミ(塩ダレ)×2
とろカルビ×3
ねぎ塩豚カルビ×2
たまねぎ(焼き野菜)
キャベツ(焼き野菜)
エリンギ(焼き野菜)

焼肉の基本はタンから始めて、だんだんと脂の乗った部位に推移していくのがセオリー。実家が焼き肉屋の友人も「ギャルはタン塩が好き」と言っていったので、この三人ならば追加注文するのは間違いない。タンのさっぱりとした風味をじっくりと味わって、そこから赤身や脂の肉の旨味に移行していくのがセオリー。

……なのだが、そんなことはあさひからすれば知ったこっちゃない。しっかりとした弾力、口いっぱいに広がる肉汁! 食べ応えこそが大正義な考えをしている彼女はタンを檸檬で食べるなんてまどろっこしい時間は耐えられないのである。テーブルに肉がやってきたら手当たり次第に網に肉を放り込もうとするのをなんとか愛依が抑え込もうとする。目に見える冬優子の不機嫌は防いでおきたいのは自然な考えだ。

だが、そんなことで収まるようだったら誰も苦労していない。どれだけ丁寧に策を講じようとも、万全に万全を重ねようとも、我々の想定を超えてくるからこそ我々は彼女に惧れを抱くのである。

____芹沢あさひの中には、怪物が棲む。

「……何やってんのよ、あんた! 人がちょっと目を離したすきに」
「やだなぁ冬優子ちゃん、何言ってるっすか? 今日は食べ放題なんっすよ? メニューにあるものだったら何食べてもいっす。ここにあるやつは、好きなだけ!」
「食べ放題って言っても限度ってものがあるでしょ……こんなの、こんなのって……」
「ふ、冬優子ちゃん……落ち着いて」
「人がどれだけ、どれだけの想いをして……ここまで……」

ガリバタとろカルビ
ブラックガーリック豚ハラミ
にんにく塩ハラミ
にんにくホイル焼き
ジュ〜シ〜!ソーセージ

「ここまで我慢してきたと思ってんのよ……!」

繊細に積み上げて来た冬優子の努力を嘲笑うかのようにどっと押し寄せるアイドルではとても許されないようなメニューの数々。脂質を含む高カロリーであることは勿論の事、翌日の仕事にまで悪影響を及ぼしそうな匂いを発生させ得る凶悪ラインナップ。明日の事なんてまるで考えない、今日が今日のままあるだけの等身大の若さを誇るあさひだから為せる業である。

「なんだ、冬優子ちゃんも食べたかったんじゃないっすか。わたし一人じゃ食べきれないから冬優子ちゃんも、それに愛依ちゃんもどうぞっす!」

そんな悍ましいまでの無邪気さを前に震える冬優子の右手と、握り込まれたトング。一枚一枚ゆっくりと焼くことで胃袋を誤魔化していた自分の努力がもはや虚しく感じる。あさひの言動があまり良くない方向に冬優子を揺さぶっていることを悟り、おろおろとする愛依が視界の隅に映る。
……自分勝手なのはどちらなのかしらね。

「……あ~~~~~! もう、知らないから! 食後は全員で胃がはちきれるまで牛乳を飲む! 分かったわね!」
「あはは、そっちの方がキツそ~! あさひちゃん、一旦注文はストップ! 今来てるやつを片してからにしよーね!」
「はいっす!」

あさひに乗せられたようで癪ではあるが、喧嘩を売られて黙っていられるほど冬優子は腰抜けでもない。それに、あさひが並べたガーリックの香りほとばしるパンチあるメニューはいずれも冬優子の好む塩辛さを携えたものばかり。どちらに靡いた方が幸せなのかは、彼女自身分かり切っていたことでもある。

「いい、ニンニクは焦げ目がつくまでしっかり焼くのよ。その方が身も蕩けて美味しくなるんだから」

自分の欲望に素直になった冬優子は強い。網の上にはロハスとは縁遠い、コレステロール直結ばかりが並んでいるが、そんな舞台の上でも彼女は輝くのだ。一時は推し負けていたあさひの勢いを跳ねのけて、すっかり主導権は冬優子のもの。ベストな焼き具合のものをあさひと愛依のもとに取り分ける焼肉奉行、否、ガーリック奉行と化している。

ここまで世話を焼いてくれるとあさひも大人しくなる。彼女は彼女で、放任されるよりずっと目をかけてくれる相手の方が好きなのだ。「ちゃんと焼けてる? 生焼けだったらべーしなさいよね」と聞けば、「冬優子ちゃんがわたしのために焼いてくれたものが、美味しくないわけがないっすよ」なんて考えなしに口にする。少しドキリとする発言ではあるが、弱みを見せぬように「はいはい、あっそ」と努めてポーカーフェイス。それをニヤニヤしながら見つめているのが愛依なのである。

牛ホルモン(塩ダレ)×2
牛レバー(味噌ダレ)×1

冬優子の思考はもう完全に振り切れた。自分の見せ方、イメージに気を使う必要があるような相手もこの場にはいない。自分が大好きなしょっぽさと歯ごたえの極点、ホルモンの領域に突入する。癖の強いホルモンはかなり人を選ぶので、あさひと愛依が手を付けないことは理解の上。これは完全にふゆによるふゆのための、ふゆだけの注文なのよ。

いい、ふゆたちはこのホルモンと同じなの。ホルモンは焼かれてこそ価値があるのよ。焼かれて焼かれて、真っ黒になるまで焦げて、脂を落として味を磨くの。
だからふゆたちはもっと焼かれなきゃいけない。焼かれてないホルモンなんてだれも見向きもしない。ホルモンは焼かれて焦げて真っ黒になったそれで初めて意味があるの。ふゆたちはそんな当たり前のことも忘れちゃってたってわけ

やげん軟骨(黒胡椒塩だれ)×1
やわらかイカ焼き

軟骨とイカ焼きは冬優子だけでなく二人も楽しめるメニュー。こりこりとした食感の小気味よさは二人にも評判がよい。ここまで来てビールの一つも飲まないのは嘘だろ、とも思ってしまうがそれは我々が健康診断で要観察・再検査にひっかかるような薄汚れた大人だから。若い頃は、焼肉も水だけで十分楽しめたというのに。

あさひ:シューアイス
冬優子:杏仁豆富 いちごソース
愛依:抹茶アイス

食べ放題を締めくくるデザートの注文は、塩辛さに麻痺した舌をリセットするための王道的甘さに偏る。もともとのヘルシー志向であれば、アイスなどという選択肢は眼中にもなかったろうが……もうお構いなし。これこそが食べ放題の魔力、そして芹沢あさひの完全掌握スキルといったところか。

「はぁ~、食べたわね~。完全にアイドル失格の食べっぷりだったわ」
「あはは、美味しかったっすね!」
「うちもちょい食べすぎちゃったわ~……こりゃ明日に響くかもしんないね」
「後でコンビニ行くわよ。牛乳なりキャベジンなり……備えあれば患いなしってやつよ」
「あはは、冬優子ちゃんなんだかおじさんっぽ~!」
「はぁ……!? 愛依、あんたねぇ……!」

店を後にしたら三人は揃ってコンビニに直行。口元を抑えたり、息を自分で嗅いでみたり、やたらと気にしているアイドルらしからぬ冬優子と愛依の様子が何だかおかしくて、あさひは笑う。ただ美味しいものが見れるだけでなく、こんなにもいろんな表情の二人を観察出来るなんて他の食事にはない魅力だなと噛みしめるばかり。

「また三人で焼肉行きたいっすね! 冬優子ちゃん、愛依ちゃん!」

無邪気にそう呼びかけるあさひに、牛乳パックで乾杯することで応える二人なのであった。

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☆ノクチル

来た……ッ! 来た……ッ! ついに来た……ッ!
芸能界という大海を乗りこなす航海の最中にあの海賊団が牛角に来店だッッッ!
食えるも食えぬも食い尽くすッッッ! ルール無用、手加減不要ッッッッッ!
こいつたちに常識は通用するのかーーーーァッッッ!?!?

幼馴染四人組ユニット、ノクチルが堂々来店だーーーーーーッ!

こいつら、席に着くだけで緊張感がすごいぜ……既に何かをやらかしそうな雰囲気が漂っている。牛角は食べ放題の焼肉店、値段設定という枷すらも存在しないこの世界では彼女たちを抑えるものは何もない。口に肉を入れる前から小糸の胃がキリキリと痛む。

「それじゃ何から行く~? まずは定番どころからかな~?」
「初めはタンでしょ」
「お、いいね。タン、めっちゃ好き」
「タンって……ベロの部分だよね! 食べ放題でも注文できるんだ……!」
「それじゃ入れるわ。雛菜、何番?」
「んー、えっとね~……」

END 01 出禁になるつもりじゃなかったし

……と、ここで注文の際にタンの話をするとバッドエンド直行ルートになってしまいます。だからiPadは円香か小糸に握らせておく必要があったんですね。もし透がiPadを手に取ってしまったら即リセット、雛菜が握った時は別チャートになります。

今回は無事に円香にiPadを持ってもらうことに成功したので、メインチャートで攻略を進めていきます。言うても円香はノクチルの中では比較的常識人寄り。まずは定番の注文は外さずに入れてくれるはずだ。

メニュー表を見ながら丁寧に一つ一つの番号を拾い上げていき___

「……お。ねね、樋口」
「何? 今入れてる最中なんだけど」
「○○番、入れて」
「……何? それは」
「あー……野菜的なヤツ。みんなで食べよ」
「みんな? じゃあ……四人分?」
「え。あー……まあ、いけるか。みんなお腹空いてるし」
「嫌な予感しかしない……」

END02 ヌードルプールフールガールズ

……と、円香の注文中に透を自由にさせていると横やりで余計な注文を入れてくるので注意しましょう。透が悪ノリで注文をしようとしているのを察すると、乱数にもよりますが円香は便乗してしまう時があります。分かり切っている破滅に向かってアクセルを緩やかに踏み込んでいく感覚があった時はリセット推奨です。円香が注文を始めた時も雛菜を率先的に透のフォローに動かすようにしましょう。放課後補習イベントの後だと先生への愚痴で関心を惹くことが出来る可能性がグッと高まります。

さて、今回は透の妨害もかいくぐってうまく注文できたようです。

ごはん(並)×4
ワカメスープ
ナムルの3種盛り合わせ
キムチの2種盛り合わせ
枝豆
熟成王様カルビ×2
ロース(タレ)×2
豚ハラミ(タレ)×2

やはり食事において炭水化物は必要不可欠。肉を受け止める存在としてのごはんの起用は間違いない。間違ってもここで初手ラーメンなんて行く余裕はないのだから。

タマゴかワカメかといわれたらノクチルはワカメ。みんなそうじゃない? 空調設備の行き渡った店内で小糸は体を冷やすだろうという憂慮もあって円香はスープの注文は欠かさないだろう。

サイドメニューが多めなのは肉が届くまでの待ち時間に透と雛菜がうるさいから。二人の口を塞いで空腹を誤魔化すための手段としては打ってつけなのである。ちなみに透はキュウリのキムチが一番好き。やっぱさ、新鮮な感じがするじゃん。瑞々しくて。

基本注文の肉は少なめにしておく。下手に意地張って片付けると、透が成功体験を覚えてしまう。後々多めの注文が癖になると後々厄介だから足りない程度に済ませておく。

「なんだか透先輩おじさんっぽい~」
「え? あー、これいけるんだよね。枝豆。多分合うよ、ビールとか」
「お、大人だね……透ちゃん……」
「……」
「……浅倉?」
「や、なんか邪魔で。食べた後の……抜け殻?」
「莢? 邪魔ならそっちの空き皿使いなよ。次の肉来た時に下げてもらえば……」
「……あ、いいこと考えた」
「透先輩~?」
焼けばいいんだ。したら残骸も残んないし、SDGs」

END03 灰塵

……というわけで、目を離しちゃ焼いちゃいけないものを透が焼き始めてしまうので常に警戒は必要です。注文した後の待ち時間も注意を惹くことが出来るように、おしぼりでケツだけ星人とか作りましょう。多分そういうくっだらないの好きだから、あいつ。

そうこうしているうちに肉が卓に到着。当然のように透と雛菜が全部を一度に焼こうとし始めるのでそれを制しつつ、食事を推し進めていきましょう。大事なのはペースをちゃんと保持し続けること。この四人で食事に行こうものなら透と雛菜は遠慮が一切なく、焼けたそばから自分の皿に盛っていくので円香と小糸は防衛線に徹することとなります。声高々に今この肉は自分が育てていると主張することが肝要です。主導権、どっちにあると思ってるの……!!

牛ホルモン(味噌ダレ)

肉がある程度掃けて来たら次の注文へ。ノクチルはほぼ全員が肉派閥ですが、透だけはホルモンも少し行けちゃいます。他の面々がおざなりな反応を見せる中、単独でホルモンを追加。網の一角に勝手にベースキャンプを作り出して、自給自足のホルモン生活を開始します。

コーンバター

勝手に独自の方向に突っ走るのは雛菜も同じ。肉を散々食べ荒らして、その味付けに少し味を感じ始めた頃、他の誰かに確認するでもなく、バターの甘さ単独で享受しにかかります。自然と肉が押しのけられて自分たちの方に寄せられ始めた時、円香は静かに舌打ちする。

とろカルビ×2
牛ハラミ(タレ)×2
ロース(塩ダレ)×2

……ので、円香と小糸はここからが焼肉の本番。先ほどはペースを失して思うように食べることができなかった肉をここで注文。自分たちのペースで肉を網に乗せて食べていく。そうそう、こういうのでいいんだよ。円香は割と焼けた肉を小糸に回しがちではあるが、小糸が少し焼き具合は甘めなものが好きなのに対して、円香はしっかりと焼けていた方が好みなので少し齟齬が生じていることも口添えておこう。

「……小糸、そこのやつ。もういいんじゃない?」
「あ……ほ、ほんとだね……さっきも貰っちゃったけど、円香ちゃんは?」
「大丈夫。今はこいつ育ててるとこだから、小糸食べていいよ」
「え、えへへ……ありがとう、円香ちゃん!」
「お、焼けてるじゃん。もーらい」
「は?」

END04 いきすぎの自由

……ということも起きてしまいかねないので、なおも警戒は必要。我々は誰と卓を囲んでいる? 相手は浅倉透だぞ、万全に万全を重ねて、それでやっとスタートラインに立てるのだ。

時に箸を自分たちの方に向けられればその都度注意を反らし、なんとかそれなりの量の肉を食べることができた円香と小糸。ここまで来ればあとはもう少し。二陣営はそのスタンスを丁度入れ変えるような立場になる。少し横道にそれたメニューに満足した後は王道へ回帰。定番で地盤を踏み固めた後は別の空に向かって手を伸ばす。

透:牛ハラミ(タレ)
雛菜:とろカルビ
円香:ブラックガーリックチキン
小糸:ハッシュドポテト
透:やみつき豚ホルモン(塩ダレ)

と思えば、透は急ハンドルを回してくるからまるで読めやしない。食べ放題も終盤になってタイムリミットが迫ってきているこの状況下で時間のかかる部位を注文することも厭わないのだ。

「ちょっと……それ、間に合うの? もうちょっとでラストオーダー、デザートの時間だけど」
「え? あー……まあ、大丈夫。大体焼けてるしさ、ほら。これも」
「と、透ちゃん……それ、まだだいぶ赤いよ……?」
「ヘーキヘーキ。ちょっとぐらい赤くても」
「でも透先輩、それって豚肉じゃないの~? 危なくない~?」
「あー……」ヒョイパクッ ヒョイパクッ

「___やばいかもね、腹とか」

END 05 豚肉はいつも面妖な色がする

ここまで走っておいて、衛生上の問題で無に帰すのも惜しいのであくまで透は急かさないようにしておきましょう。論理を飛び越えて彼女は最適解(に見える大間違い)を選択できてしまう側の人間です。渋々網の最中央を透に明け渡すことでなんとか帳尻を合わせ、ノクチルの焼肉会も無事に終焉を迎えます。
店員さんにラストオーダーのデザートをそれぞれ頼み、自らの胃袋を労いながら感想戦へと移ります。

円香:バニラアイス
雛菜:シューアイス
小糸:杏仁豆腐 プレーン

END06 天丼


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☆シーズ

この二人が卓を囲んで、語らいながら食事をする。そんな光景を違和感なく受け入れられるこの日常の有難さたるや。シャニマスを追うものは誰しもがこの関係性の変化、その軌跡を噛みしめずにはいられません。今や美琴はにちかの手料理も口にするほどの関係性。日々新しい喜びを年下のパートナーに教えてもらう彼女は、焼肉という舞台でどんな世界に出会うのか。

焼肉といえばやっぱりハラミから入るのが定番ですよねー! ガツンとした肉を最初に食べないとテンション上がらないって言うかー、いっそ冷麺ぐらいガッツリでもいいって感じしません?!

……なんてことを美琴の前では言えるわけもない。そんな欲望丸出し、内臓脂肪増加待ったなしの無謀な注文、緋田美琴の相方としては不適切極まりない。ハイカロリーなメニューばかりが並ぶ焼き肉屋で、にちかは正解のメニューだけを選ぶことが出来るだろうか。地雷原の荒野を抜き足差し足で踏破するような慎重な立ち回りが求められる。

「えーっと……まず最初はお肉……」
「どうだろう……あまりこういうお店は来ないから少し心配かな」
「で、ですよね……! そりゃはじめは野菜からいくのがお決まりですよね! わ、私もそれがいいと思ってたんですよー!」

初手肉は目に見えた地雷。食物繊維を先に摂取して腹を慣らしてからじゃないとこんなアブラギッシュな食事許されようもない。……ので、野菜を注文しようとするのだが

(サラダなんて言って……全部ドレッシングでベットベトじゃん……!)

ダイエットにおいても見えない壁となっているのがこのドレッシングだという。野菜さえとっていれば大丈夫、というわけではなくドレッシングの量によってはむしろ差し引きマイナスにすらなっていることもあるんだとか。焼き肉屋で出てくるサラダなど、ドレッシングを全体にまぶしたようなものしかない。これでは地雷を踏みぬかずとも、派手に転倒するのと大差ないのである。

たまねぎ(焼き野菜)
キャベツ(焼き野菜)
エリンギ(焼き野菜)
枝豆

致しかたなしの妥協案。油から逃れるためにはこれしかない。まだ肉を焼いていない網の上なら、野菜が脂を不必要に纏うこともないだろう。ジューという音を一切立てることもなく、静かに熱を発する網の上に横たわる野菜を無言で見つめ合う二人。肉の脂もないので、火力もそうそう上がらないままいたずらに時間が経つ。ホールスタッフもつい首をかしげてしまうような異様な光景、その緊張感に耐えかねてにちかは次の注文に手を伸ばす。それが自分の首をさらに締めることになるとは知らないで。

「お肉……注文しておきます? 美琴さん、どの部位がいいとかって……」
「ごめんね、あまりこういうお店は慣れていないから。部位と名前が一致しなくて。にちかちゃんのおすすめはある?」
「あ、あははー……そうですよね、名前と部位とかごっちゃになっちゃいがちですよねー」

自分に差し向けられた回答を求めるマイク、それは喉元にあてがわれる小刀によく似ている。分かり切っていた窮地に、頭を掻きむしりたくなるような手詰まりを感じる。呼吸を忘れてしまいそうな閉塞感の中で、残った酸素を使って必死に思考を巡らせる。

美琴さんはどう考えても脂身NGでしょ……?
だったらカルビとかまず無いし、ホルモンなんかも無し!
かといって、肉じゃなさすぎるものだったらそもそもなんで店に来てんだって話だし……
せめて赤身……ヘルシーとは言わずとも、まだマシなやつで……!

とんタン塩×2
ロース(塩ダレ)×2

食べ放題といってもそのプールはそう極端に広いわけではない。拡張された選択肢の多くは脂身をより堪能するためのものだし、タレが基本の構造をしている。むしろにちかは通常の焼肉以上の窮屈さすら感じるかもしれない。シーズの二人としての食事に求められているもの、それはこのメニュー表で見出すのは至難の業なのだ。

それほど脂を吐くこともない部位ばかりを網に並べて(それも野菜の合間にぽつりぽつりとピリオドでも打つかのように)、相変わらず静かなままの鉄の網は煙も吐かない。ここから先の進め方も分からないままで、ばつの悪さばかりが積みあがる。

(……どうしよ、次もロースのお替りかな。同じ注文ばっかで引き出しないやつとか思われちゃうのかな……でも、選択肢とか他にないし)
「……ちかちゃん」
(それこそいっそ、焼肉きんぐとかの方がもっと選択肢いっぱいあったんじゃ)
「にちかちゃん」
「は、はい!? 美琴さん……? ど、どうしました……?!」
「そのパネル、私にもらっていいかな? 少し私も注文がしたくて」
「え、は、はい……こんなのでよければ、いくらでも……」

美琴向けの注文の手ごたえのなさに、焼肉にしては味気のしないメニューが輪をかけてにちかを消沈させる中、美琴がやけに通る声で思考の波を割って入った。にちかからパネルを丁寧に受け取ると、メニュー表を見比べながらたどたどしく数字を入力。ありがとうの一言共にパネルを戻してから暫くすると、店員が皿を持ってテーブルへ。

牛ハラミ(タレ)×2

「み、美琴さん……? こ、これハラミですよ……? な、何かと間違えてません……? 脂身、まあまああるやつですよ……?」
「ううん、間違えてないよ。脂身があるって分かったうえで、注文をしたから」
「え……?」
「にちかちゃん、食べたかったんじゃない? もっとお肉らしいお肉。お店に入る前にパネルを眺めていたようだったから」
「気づいてた、んですか」
「お疲れ様。この前のライブ、すごくよかったよ。明日からもまた、頑張ろう」
「……!」

きっとにちかはこれでも自分を責めてしまうのだろう。注文が上手くいっていないことに対する無力感や落胆を美琴に悟らせてしまった、自分の拙いポーカーフェイスを恨むのだろう。たとえ美琴にそんな意図はなく、純粋な行為と労りから出た注文であったとしても、にちかは無い物を読み取り、現実と定義してしまうのだから。

でも、それと同じくらいに嬉しいのだ。美琴が自分の求めていることを考えてくれた瞬間があったことが、別の次元にいたはずの美琴がきまぐれでも自分のいる次元に踏み込んでくれたことが。

「美琴さん……美味しい、美味しいですよ……このお肉! 脂が口いっぱいに広がって……ああ、肉食べてるなーって感じがします!」
「そうだね。久しぶりの味だな、この感じ」

美琴の輪郭がぼやけていく。
凛とした佇まいの姿が煙の中に揺れて、その影がうねっていく。
ずっと遠くの背中を見上げていた頃にははっきりと見えていた姿が、近くに来るとこんなにも見えない。

「美琴さん美琴さん、実は焼肉屋さんってサイドメニューの麺類とかも案外イケるんですよ! 私なんかむしろ麺を食べに来てるんじゃないかって時もあるぐらいで……」
「そうなの? でも、流石に一人前は今からは入らないかな」
「じゃあ半々で! 私と分け合って食べませんか?! それくらいがいいなーってちょうど思ってたところなので!」

ステージに立つとき、二人。ステージを降りても、二人。
同じ道を歩んでいくと決めたのだから、背負っていくものも失っていくものも同じ。
喜びも悲しみも怒りも苦しみも、その全てを分かち合っていくのだと覚悟を決めた少女はこんなにも屈託のない笑顔を浮かべるものらしい。

まず二人が分かち合うのは、明日からのカロリー制限という課題であるようだ。

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☆コメティック

7色の輝き、その均衡を突き崩さんとばかりに電撃結成された黒色ユニット。彼女たちの関係性は今はまだ絆の名を冠するにはあまりに脆弱で、たとえ同じ卓を囲んだとしてもそこに安定はあまり望めない気もします。独特な緊張感が漂う中で、三人の焼肉が今、幕を開ける_____

斑鳩ルカは焼肉が嫌いである。そもそも誰かとの食事には消極的であるというのに、肉を自分で焼くという手間と時間がかかる行為では逃げ場すらもない。心を許すどころか対話すら煩わしい相手との焼肉なんて以ての外。更には食べるメニューも、お世辞にも体にいいとは言えない油分マシマシのメニューの数々。アイドルとしてのプロ意識を馬鹿にされているようで、癇に障る。誰が好き好んで行くかよ、と毒を吐きながらの来店だ。

ずっと不機嫌なルカを宥めながら、羽那とはるきも着座。もう二人も慣れたもので、そう刺激しなければ爆発もしないことを知っている。二人が先に注文をある程度入れてから、ルカにパネルを渡すことと決めた。

「ルカちゃん、基本の注文はこっちで入れちゃっても大丈夫かなぁ?」
「……好きにしろ」
「オッケーだって! はるきちゃん、こっちの創作焼き肉とかも行っちゃおうよ──」

あんまり勝手なものを入れたらルカが怒るのは承知なので、はるきは最低限確認を取りながら整えていく。焼肉としての定番はいれつつ、羽那の無邪気なチョイスも無視はできない。板挟みな状態ではあるのだが、はるきは特にそれを苦とも思わず取りまとめる。そうした器量の良さも彼女の魅力な一つの訳だ。

ごはん(小)
カルビ専用ご飯(小)
チョレギサラダ
ナムルの3種盛り合わせ
とんタン塩×1
とろカルビ×2
ロース(タレ)×2
やげん軟骨(塩ダレ)×1
ピートロ(タレ)×2
たまねぎ(焼き野菜)
キャベツ(焼き野菜)

ルカはあまり炭水化物を積極的に摂ることはしない。勝手にご飯も三人分を頼もうものなら不機嫌になるのではるきと羽那の分だけ。

不機嫌を極め、溝に入っているときのルカはまともな食べ方をしないので、取り分けて与えることのできる野菜はマスト。サラダの注文はしておいた。栄養バランスという体裁は最低限整えておかないと、ユニットの中で尾を引く問題にもなりかねない。自分のために分けられたものを食べずに無駄にするようなことはルカはしない。本来彼女は母に何度も愛を分け与えられてきた、陽の光の下にいる存在なのだから。

焼肉としてはオーソドックスなものをある程度抑えつつ、ルカと羽那それぞれのための枠も用意した。ルカは歯ごたえのあるしょっぱいものが好き。鳥の軟骨はその点うってつけ。牛や豚に比べると罪悪感なく食べられるし、コラーゲンは求められる栄養素でもある。噛んでいる間は会話に混ざらない免罪符ともなるのも加点対象だ。

羽那は対照的にジューシーで柔らかい脂の入った肉質を好む。割とお子様舌寄りでもあるため、塩よりもタレを好む傾向にある。表面に脂の浮いた肉をご飯と一緒にわっしわっしと書き込んで満足気な表情。はなちゃん食堂、今日も開店です。

「……余計なことしやがって」

焼肉が本格的に始まりだす頃、はるきは何も言わずしれっと注文パネルをルカ側に寄せておいている。自分たちに声をかける労力、ここまで貫いてきた態度を守り続けること。遠慮未満の理由がきっと邪魔になるであろうことを悟っていたのである。そのことを知ってか知らずか、ルカは舌打ちしてからパネルをつつきだす。

たまごクッパ
とんタン塩×1
鶏ももカルビ(塩ダレ)×1

コメティックは基本、焼けた肉は各自自由に取る形だ。羽那とはるきはいいが、ルカに関しては出過ぎた真似をすれば反感をもらうのは目に見えている。最低限のものだけ取り分ける以外は自主性に任せる流れ。

そういうわけでご飯類もルカだけ別枠で注文する。雑炊によく似たクッパは白米よりかは幾分かヘルシー。「いいなー」といわんばかりの羽那の眼差しを真っ向から無視して咽喉に流し込む。

追加で頼む肉も比較的軽めのものだ。食事なんてものは明日体を動かすための理由づくりの手段でしかない。かつて何年もそばにいた相手がそういう人だったので、その光に充てられた彼女はまだ当時の習慣が染みついている。羽那とはるきはそんな彼女にも食べてもらいたいと「ジューシー」だとか「肉汁が溢れる」だとか、感想をどうにか飾り立てようとするのだがなしのつぶてに終わる。

絶品!厚切り炙りベーコン
チーズフォンデュdeチキンバジル
牛バラカルビ(タレ)×2

ルカの注文にまさか自分たちが手を出せるはずもなく、羽那とはるきは別ルートの開拓に勤しむ。「ルカちゃんも気になったら食べてくれてもいいからねぇ」とは言っておくが、その手が伸びてはこないことははるきが一番よく知っている。
そう、今はまだ……当分、こちらがずっと呼びかけ続けるしかないのだ。いつか彼女の方からその扉を開けて、歩んできてくれると信じて。

羽那とはるきが和気藹々と語らいながら肉を食べる、その対岸でルカが黙々と自分の分だけ焼いて食べる。そんなちぐはぐな時間が過ぎていく中で、羽那の手がふと止まる。

「……あはっ」
「……? 羽那ちゃん、どうしたの?」
「あのね、すごいことを思いついちゃったかも──! ほら、今ここにあたしがさっき注文したばかりのチーズフォンデュがあるでしょ?」
「う、うん……?」
「それに、こっちには牛バラカルビ……最初に注文したナムルもまだ余ってる……さて、これらを組み合わせるとどうなるでしょう?」
「あ……もしかして、チーズタッカルビ?!」
「あはっ、正解──!」

行き届いた配慮がはるきの武器なら、羽那は既存の枠にとらわれない無邪気さだ。食べ放題での注文となれば、卓上に本来は同時に存在しないはずのものが存在することだってある。羽那はそれらを全て同じ一つのキャンバスの上で描くための材料にすることが出来るのだ。彼女たちの黒はありとあらゆる色を包括したうえで成り立つ黒。全てはミックスアンドビルドから生まれていく。

「これ、案外ありかも──!」
「羽那ちゃん、流石のひらめきだったねぇ」

即席で出来上がった新メニュー、無視を決め込んでいたはずのルカもその視線を何度か吸い寄せられ始める。でも、自分から手を伸ばすことは決してない。一度閉ざした扉は固く、厚く、そして重たい。

「……はい、これルカちゃんの分!」
「……は?」

だからこそ、ノックする音はよく響くのだ。

「要らねェ……てめェらで勝手に食ってろ」
「ううん、これはルカちゃんの分だから!」
「……知るかよ」

取り分けられた肉とナムルとチーズの融合体はひどく不格好で、その言葉の通りにルカは手を付けようともしない。皿の上で熱を失っていき、チーズは再度固まりだして、肉とナムルを一つのかたちに無理やり押し込んでいく。その光景がまだ目障りで、ため息をつく。

「それじゃ、あたしもう一回──! 次は違う部位のお肉でもやっちゃお──!」
「ふふ、チーズ足りなくなっちゃうんじゃない? もう一個、チーズフォンデュ追加する?」

「……」

だけど、二人はそれ以上に押し付けようとはしなかった。ルカの分であると断言してからはそれっきり。すぐには受け入れられずとも、届かなかったわけではない。届いている限りは──

「……チーズ、固まっちまっててあんま美味しくねェ」
「……ルカちゃん!」

気まぐれで受け入れてくれる時だってあるだろう。
それこそ、ルカは……人一倍、愛を与えられて育ってきたのだから。そこにある好意のすべてを唾棄するような真似は、とても彼女には耐えられないのである。

「待ってて、丁度チーズが足りなくなったところだったから! 次はもっと出来立てを食べてもらえるようにするね!」
「別にいい……私は……こっち食べるから」
「あはっ、それじゃルカちゃんのそのお肉もチーズとナムルで食べてみたら?」
「タンとチーズは……合わねェだろ」

無言を決め込んでいたはずのルカはいつの間にか会話の輪の中に。ラリーらしいラリーではない。ぽつりぽつりとした一方的な信号にも近しい。それでも、向こうから帰ってくるものがあることが嬉しくて、羽那とはるきはその一つ一つを慎重に拾い上げるのだ。

__________________________________


以上、ラストオーダーの時間となりました。

解釈という極上の肉を網の上に載せ、じっくりこんがりと熱を通していった今回の考察……お楽しみいただけたでしょうか。食事をするという一つのアクションでも、表情豊かなアイドルたちが混ざればそこには必ずドラマが生まれることでしょう。ジューシーな肉を前にして本能を刺激されれば、これまでに見えてこなかった面も垣間見えてきます。香ばしい煙の向こうに見えた、あり得るかもしれないifの未来……これもまた一つのパラレルなのかもしれませんね。

薄靄はその先にあるかもしれない明日を映す

そう、未来は一つだけではありません。そのアイドルがこの先に出会うもの──それは人かもしれないし、衝撃的な出来事かもしれない──が大きく運命を左右するかもしれない。異なるifを手繰り寄せるのはアイドル自身かもしれないし、そのすぐ隣を歩く他の誰かかもしれない。名も持たぬ誰かがポロリと零した一言未満の声が、180度ひっくり返してしまうなんてことがあるかもしれないのです。

つまりは、そういうことです。

テメェもプロデューサーなんだったら、テメェのアイドルが焼き肉屋で何食べるかぐらいもう頭に思い浮かんできてるんじゃねえの?ってことだよ!!!!!!!!

きっとあなたにしか見つけ出せない、絶妙な焼き加減がそこにはあるはずです。よければ是非、私にも味わわせてくださいね。


さて、そろそろ私は〆にコンビニで檸檬堂でも買って帰ることにします。

次回、「シャニマスのアイドルはジョリーパスタで何を注文する?」でお会いしましょう。

それではごちそうさまでした。




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