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本をまともに読んだことがないギャルが初めて「走れメロス」を読む日

※本記事はWEBメディア・オモコロ内オモコロブロス!にて掲載された記事『本を読んだことがない32歳が初めて「走れメロス」を読む日』のパロディ記事になります。まだ読んだことがないという方はこちらを先に読むことを強く推奨いたします。


この記事は、今までまともに本を読んだことがないギャルが「走れメロス」を読破する記事です。

<この記事に出てくる人>

<和泉愛依>
アイドル。本を読んだ経験はほとんどゼロ。漫画ならいっぱいある。

<黛冬優子>
ユニットメンバー。愛依が本を読む手伝いをする。

本を読むということで終始、不安そうな愛依

緊張するわ〜。予防接種の待合室みたい

愛依は今まで何か本を読んだことはないの?

う〜ん。お兄とかお姉の持ってた漫画みたいなお話の小説を読んだことがあるんだけど……

ライトノベルね、いいじゃないの
なんて作品を読んだの?

作品の名前を忘れちゃったんだよね……もう読めない〜!って投げ出しちゃったから

読めないって判断した理由を聞いてもいい?

なんか一個の文章がめちゃくちゃ長くて読んでる途中にどこ読んでんのかわかんなくなった

西尾維新ね

愛依に聞いた本が読めない理由

▼シーンやキャラクターの顔や声色など、書いてあることを自分なりに飲み込んで、脳内で想像しないといけない。それを文字を読みながら行うという処理が出来ない。
▼そもそも漢字が読めない。
▼内容が頭で構築できないので、文字をいくら読んでもすり抜けていく。
▼気付かずに同じ行を往復して読んだりしちゃう。台本みたいにセリフの合間合間に間隔をあけるとかしてほしい。
▼そもそも漢字が読めない。
▼長過ぎる。伝説のボリューム。

まあ言ってることは分かるわ。こうして見ると、読書っていろんなスキルが求められるのね

そもそも文章を読むのが苦手なんだよね

あんた国語のテストは……

漢字の書き取りなら任せて!!!!!!

今回、愛依には太宰治の「走れメロス」を読んでもらいます。
以前、あらすじを紹介したところ「なんか文章かっこいい!」「チョー気になる!」と乗り気だったので、このために本を取り寄せました。
そのときは、愛依も「これなら読めるかも」という反応だったのですが……

本じゃん

そりゃそうでしょ。何が不満なのよ

いやだって…。冬優子ちゃんもは「走れメロスは短編だから読みやすい」って言ってなかった?

そうだね。短い物語だからサクッと読めると思うけど

こんなに分厚いのに!?

分厚くはないでしょ

「はじめまして」でこの厚さは無理っしょ?!

走れメロスって中学校で習ってるはずなんだけど

この本は短編集なので「走れメロス」以外にも何作品か短編が収録されています。
こちらの説明不足だったのですが、愛依は「これ一冊、全部が走れメロス」だと思ってしまったようです。

あ、まるまる一冊は読まなくていいんだ?

そっ。今日は「走れメロス」だけ読めればいいから、それ以外は大丈夫

よかった〜!! じゃあ、一旦他の短編は飛ばさせてもらって……


あぁ〜〜めっちゃ飛ばせる!! 気持ちぃい!!!!

こんな調子で本当に最後まで読める?

今まで本を読みきったことがないから、うちも分かんない。読み終わる頃には頭が一回り大きくなってっかも

「こんなにショートカットできた!」と喜ぶ愛依

本に対する苦手意識がかなり強いようですね。
これまで本を読み切ったことがないギャルが「走れメロス」を読むと、一体どうなってしまうのか?
人生初の読了を目標に、愛依の読書が始まります。

▼283プロダクション注
予め申し上げておきますが、この記事はとても長いです。
普通に「走れメロス」を読むより長いです。何卒ご了承ください。

読書開始!!

冬優子ちゃん、悪いんだけど……うち、声に出しながら読んでもいい? そうじゃなきゃ途中で心折れちゃうかも

あんたの読みたいやり方でいいわよ、読書に決まったやり方なんてないんだから

すげー時間かかっちゃうかもだけど、この後の時間とか大丈夫なカンジ?

覚悟の上よ

メロスは激怒した。

うんうん。この一文ぐらいはさすがのうちでも知ってるわ!

相槌うちながら読書するのね。逆に読みにくくない?

あー……ダメ? その方がうちは自分のペースで読めるんだけど

その方が読みやすいならいいわよ。茶々入れてごめんなさいね

必ず、かの邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)の王を除かなければならぬと決意した。

ジャチボーギャク! かっこいい言葉!

あら。難しい単語なのによく読めたわね

アハハ、そりゃね!

ふりがな付いてるから! 読めなくてマジ辛〜!ってならんし、これ考えた人チョー優しいと思う!

今どき、ふりがなに感謝する人もそうそういないでしょうね

全部こうなればいいのにね〜、お芝居の台本とかも毎回読めない漢字プロデューサーに聞いちゃうの悪いし……

メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。
けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。

羊と暮らしてるんいいな〜! うちも老後はそういう感じでのどかに暮らしたいと思ってんだよね!

成人もしてないのに老後の話すんじゃないの

冬優子ちゃんはテレビで農家の人とか見たらそーいうのもありなんかな、ってならん?

そうそう、この前見た番組だとニラ農家の人が朝の2時から起きてシューカクして、根っこの泥をこうジャブジャブって水洗いして……

その話は後でにしなさい。またちゃんと聞いてあげるから。メロスはニラじゃなくて羊で生計を立ててんのよ

そうだったそうだった……ええっと……?

ってか、ここって重要? 覚えといたほうがいい?

小説の読み始めってどれが大事な情報か分からないから詰まるのよね。重要ならどうせ後でまた出てくるし、今はさらっと流しとけばいい

そんな読み方していいの? 怒られない?

誰が怒んのよ、作者? そういうもんだから、作者も気にしてない

そういうもんなんだ

きょう未明メロスは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此(こ)のシラクスの市にやって来た。

わぁ〜! もうヤバいかも! ぜんっぜんわかんない!

落ち着きなさい、一個一個読み解いていきましょう。まずは何が分からなかったか、教えてもらえる?

この『すえあきら』っていうのは……

みめい、ね。日が昇るよりも前の明るくなる前って意味よ。ちょうどあんたが憧れたニラ農家さんが収穫を始めたぐらいの時間のことね

は〜、すっご……メロスもニラ農家さんも偉いわ

じゃあそん次! 「十里はなれた」って……冬優子ちゃん、これ意味わかる?

距離の単位ね。……えーっと、今調べたとこだと、一里が4kmくらいだから、40kmくらい離れた場所ってことよ

あぁ〜! 今と昔だと数の単位とか違ったりするもんね!

ん…?

ちょうど市丸ギンの卍解の3倍じゃん!

何?

お兄の持ってた漫画に出てくる人の斬魄刀が、そんぐらい伸びんの! みょーんって伸びんの!

ああ、えっと……BLEACHの話ね。国語の教科書読んでたつもりが急にジャンプに変わったから分かんなかったわ

で、それがどうしたのよ

いや、神殺槍より3倍も長いってチョーやばくね!?

そうね、市丸ギンのリーチの3倍の距離をメロスは自力で歩いたのよ

……。え〜っと…?

どこまで読んでたか見失ってんじゃないのよ

うちこれも読書で苦手なとこでさ、盛り上がってきたところですぐ読んでたところ見失っちゃう系!これ、みんなどうしてんの?

読んでる時にそうそうヒートアップしないのよ

メロスには父も、母も無い。女房も無い。十六の、内気な妹と二人暮しだ。
この妹は、村の或る律気な一牧人を、近々、花婿(はなむこ)として迎える事になっていた。結婚式も間近かなのである。

うっそ……メロス一人で妹さん支えてんの……? チョー健気じゃん……しかもその妹さんが結婚するとか、メロスも嬉しいやら心配やらで大変なんじゃん?

いい調子じゃない。スラスラとは言わないけど、思ったよりちゃんと読めてるわよ

やっぱり声に出して読むとめちゃくちゃ頭に入ってくるわ〜! 今度から台本読む時もこーする!

小学校の音読って意味あったのね

メロスは、それゆえ、花嫁の衣裳やら祝宴の御馳走やらを買いに、はるばる市にやって来たのだ。

いいじゃん! お金もいっぱい使ったんだろうね〜!

どこ気になってんのよ

うち、他の人がいっぱい買い物してんの見るの好き。いくら使ったか書いてほしくない?

別にいいけど、このペースで読んでたら衣替えが必要になるわよ

先ず、その品々を買い集め、それから都の大路をぶらぶら歩いた。

この大路…? ってなに?

“おおじ”ね。大きな道って考えればいいのよ

あー、サンキュ! 分からない単語とかすぐに教えてもらえんのチョー助かる! 今度から本を読むときは毎回冬優子ちゃんいてほしい!

ふゆのギャランティは安くないわよ

メロスには竹馬の友があった。セリヌンティウスである。

たけうま……? え、なんでたけうま……?
セリヌンティウスとメロスは竹馬で仲良くなったん?

「竹馬の友」っていう慣用句よ。原義としてはあんたのいうとおり、竹馬をするぐらいの幼い年からずっと仲がいい間柄って意味よ

あ〜! そういうことね! うち、カンヨークもあんまり得意じゃないからさ

……? 竹馬をする年って大体どれくらい?

それはふゆもよく分からない

今は此のシラクスの市で、石工をしている。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。

ワクワクしてるじゃん! 「つもりなのだ!」って言ってる!

そんなハム太郎みたいな言い方してるわけじゃないわよ

えー? 絶対楽しんでるって! 鼻歌歌ってるまであるって〜!

久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。

ほら自分でも言ってる! もう「〜♪」状態じゃん!
大丈夫かな? 結婚式の荷物とかいっぱい持ってんのにちゃんと行ける?

あんたはメロスの母親か

歩いているうちにメロスは、まちの様子を怪しく思った。
ひっそりしている。

……ふいんき変わったね。この「ひっそりしている」って短い一文で、うちらもシャンとするカンジがあるわ

文章表現を味わう余裕もあるのね。ちゃんと読書楽しめてるじゃない、感心したわ

これ書いた人、チョーすごくない?

太宰がすごいのはみんな知ってるっての

もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。

うわ……なんかうちまで怖くなってきた……
人気のない街ってすごい不安になんだよね……

のんきなメロスも、だんだん不安になって来た。

やっぱりのんきだったんじゃん!

解釈一致の笑顔を見せるな

路で逢った若い衆をつかまえて、何かあったのか、二年まえに此の市に来たときは、

ここ来るの2年ぶりなんだ。じゃあ友達と会うのもそれくらいなんかな?

まあ分からないけど、そうかもね

そういうときのお酒ってめっちゃ良いんだろうね〜! 結婚式の荷物汚しちゃわないように、ちゃんと退かしときなよ

夜でも皆が歌をうたって、まちは賑やかであった筈(はず)だが、と質問した。
若い衆は、首を振って答えなかった。

教えてくんないんだ……街の様子、やっぱおかしいね

しばらく歩いて老爺(ろうや)に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。
老爺は答えなかった。メロスは両手で老爺のからだをゆすぶって質問を重ねた。

ろーや……ってのはおじいちゃんのことだよね?

そうそう

おじいちゃんを体を揺すぶるって、メロスだいぶ不安になってるじゃん。大丈夫、うちがいるよ

だいぶ心強いわね

老爺は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。

「低声」ってなんて読めばいいの? 低い声って意味なんだろうけど

意味が分かるならそのまま進んでいいんじゃない? 別に読める必要もないし

そんなんでいいの? 怒られない?

本読んでる人はほとんどそう。もっとなんとなくで読んでいいって

そういうもんなん? なんか楽になってきたわ

でも「低声」は知りたいかも。これ読めるようになりたい!

なるほど。じゃあ「ていせい」って読んで進めましょう

言葉としてはどういう意味なん?

「低い声」よ

意外性ないな〜

「王様は、人を殺します。」

うわ〜、なんでそういうことしちゃうんかな〜……
殺される人にも殺す人にも、家族がいるじゃんね

殺す側?

王様の行いだって、そばで見てる人はいるはずじゃん? そんな王様が誰かを手にかけてたりしたら絶対ショックだよ!

そうね……そこを見れてるのはあんたらしくもあり、本を読む上でも大切な推測ができている証拠でもあるわ

「なぜ殺すのだ。」
「悪心を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪心を持っては居りませぬ。」

え〜っと…? ごめん。ここよく分かんないかも

要は「やましいところがない人を、勝手に疑って殺してる」ってことね

王様ってか、マジ魔王じゃん……

「たくさんの人を殺したのか。」
「はい、はじめは王様の妹婿さまを。それから、御自身のお世嗣(よつぎ)を。

この「よつぎ」って何?

自分の子ども

え?

……は?

だからあんたがさっき言った通りなのよ。もう王様には止められる存在もいないの

…………は??????

ちょっと、うちもうダメかもしんないわ

ダメになっちゃった

いやさ……たとえお話の中でも、自分の家族を……その……しちゃうのは……ナシだって……いや、家族じゃなくてもだけどさ……

大丈夫? ここから先……まだあんのよ?

え????

それから、妹さまを。それから、妹さまの御子さまを。
それから、皇后さまを。


皇后さまってのは…?

奥さんね

マジでもうムリ系

それから、賢臣のアレキス様を。」

これは誰?

まあ、そういう名前の家来がいたんでしょうね。要は、家族から側近までみんな殺しちゃってるってことよ

マジで……?

ねえ、冬優子ちゃん。読書してる人って毎回こんな辛い気持ちしてんの?

ある程度創作だからって割り切って読んでるから、今のあんたほど深刻に死を受け止めることはないわね。

……

でも、あんたのその読み方が間違いだとは思わない。あんたの感受性は誰かに合わせて矯正するようなもんじゃないもの

……

どうする? ここで辞めとく? 無理して続ける必要はないわよ

……いや、もうちょっと読んでみる。

うち、この王様の周りの人たちの死を……無駄にしたくないから

すごい少年漫画の主人公感出てきた

「おどろいた。国王は乱心か。」

うちも完全に同感

「いいえ、乱心ではございませぬ。
人を、信ずる事が出来ぬ、というのです。

だからって殺さないであげて……

このごろは、臣下の心をも、お疑いになり、少しく派手な暮しをしている者には、人質ひとりずつ差し出すことを命じて居ります。

臣下って……家来のこと? なんで家来の人質をとるん?

人質がいたら裏切れないでしょ? 自分が何かしたら、人質を殺されてしまうかもしれないから

うぅ……やり手じゃん、王様……うちだったらぜったい抗えないわ

御命令を拒めば十字架にかけられて、殺されます。
きょうは、六人殺されました。」

ろ、六!? 人がいなくなっちゃうって!

聞いて、メロスは激怒した。「呆(あき)れた王だ。生かして置けぬ。」

すごいね、これ言えるの……めっちゃ立派。うちだったら同じこと言える自信がないかも

有名なフレーズだけど、これは自分の身にふりかかった不幸じゃなくても、悪行を許せないってメロスの正義感を感じられる一節よね

そっか……でもメロスもちょっと怒りすぎじゃね? 殺しちゃったら同じ穴のキジムナーじゃん

狢(むじな)ね、誰が沖縄の精霊よ

メロスは、単純な男であった。買い物を、背負ったままで、のそのそ王城にはいって行った。

大丈夫? こんなの逮捕まっしぐらじゃん!?

それくらい素直な性格ってことね

せめて荷物はロッカーに預けた方がよくね〜?

たちまち彼は、巡邏(じゅんら)の警吏に捕縛された。

「巡邏」! すごい言葉出てきた!こんな漢字本当にあんの?

「パトロール中」みたいな意味ね。ふゆも漢字は初めて見たわ

「辶」の底が割れそうになってんじゃん!!

調べられて、メロスの懐中からは短剣が出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。

なんで持ってんの!? 結婚式の買い物に来たはずっしょ!?

でもほら、メロスは十里離れてるところから来たんだから

短剣くらい持たなきゃ危ないんか〜……それ言えばギリ分かってもらえるかも……?

メロスは、王の前に引き出された。

え?

どうかした?

ちょ、ちょい待って! もっかい読むわ!

メロスは、王の前に引き出された。

ぜったい殺されんじゃん!!!

こんなに楽しそうにメロス読む人初めてみたわ

警備室止まりじゃないん!? だからロッカーに預けた方がいいって言ったのに!!

「この短刀で何をするつもりであったか。言え!」

やばい!! これ王様のセリフ!? 王様しゃべってる!?

王様の強火オタク?

誰がしゃべってるか分かんないんよね

まあ小説には名前もアイコンも出ないからね

この短刀で何をするつもりであったか。言え!

こんな感じで言ったんだろうね

言い方はあんたの自由でいいのよ

暴君ディオニスは静かに、けれども威厳を以(も)って問いつめた。

あ。ごめん。もっと静かな感じだったみたい

この短刀で何をするつもりであったか言え!

こうかな

それは好きにしていいんだって

その王の顔は蒼白(そうはく)で、
眉間(みけん)の皺(しわ)は、刻み込まれたように深かった。

ミケン……? ってことは眉と眉の間にシワがあったんね

じゃあこうだね

この短刀で何をするつもりであったか…。言え…

早く読みなさい

「市を暴君の手から救うのだ。」とメロスは悪びれずに答えた。

メロスかっこいいわ〜! どう? 冬優子ちゃんはこの状況でこんなこと言える?

言えないでしょうね。そこの市民でもないし

そっか、メロスはよその村人なんだもんね。なのに王様に文句言えるなんて、ドキョー座ってるわ〜

「おまえがか?」王は、憫笑(びんしょう)した。

わ〜! なんか笑ってるけど、これ何〜?

王様からしたらメロスの発言をどう思う?

うーん……よそ者が自分と関係ない村の人たちを救うなんて信じらんない……とか?

そうそう、その調子よ

あっ、だから笑ってんのか! そんなあり得ないことを宣言するな〜って! なるほど〜! 冬優子ちゃん教えてくれてサンキュね!

ふゆは何も。今のはあんた自分で考えて導き出した答えでしょ

これで立ち止まらずに先に進んでいいんだよね?

理解できるなら読み進めても大丈夫

よしよし。だんだん分かってきた

「仕方の無いやつじゃ。おまえには、わしの孤独がわからぬ。」

あぁ……王様も思うところがあるんか。

「言うな!」とメロスは、いきり立って反駁(はんばく)した。

反論……と同じ意味かな。王様と真正面から議論できるって、メロスはやっぱすごい人だね。

人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。
王は、民の忠誠をさえ疑って居られる。」

う……! これはすごい。読んでて泣きそうになった

え? 何? ふゆなんか見逃してた? そんなに感動するシーンだった?

ちょっともっかい読んでいい?

人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。

本当にそうじゃん……!

ここで感極まることあるんだ。いい感受性してるのね

メロスがこれを何気なく言えるってことが……なんかスゴイな〜と思ったら急にブワッときた……! 本ってヤバ……!

今にも泣きそうじゃないの

こぼれてないから、泣いてないし……!

せっかくだからこぼしときなさい。滅多にないタイプの涙だから

「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。
人の心は、あてにならない。人間は、もともと私慾のかたまりさ。

なるほど……。王がこうなったことにも理由があるってこと……!

王にも感情移入し始めてるのね

「教えてくれた」ってすごくね? 嫌味な感じだけど、なげやりな感じでもあるし……。本当に人が信じられないんじゃん……

これちゃんと王の過去編もあるんよね?

まだ放課後クライマックスガールズの結成の話も出てないのよ、期待しないで

信じては、ならぬ。」

涙でてきちゃった

素直に感服してるわ。走れメロスで泣いてる人初めて見たもの

難しい……。こんなのメロスとは理解りあえないって……

あんた、読書向いてるわ

暴君は落着いて呟(つぶ)やき、ほっと溜息ためいきをついた。

落ち着いてる…。激しく言い争う感じじゃないんだ……

「わしだって、平和を望んでいるのだが。」

望んでるんだって……

泣くんじゃないの。まだメロス走ってもないわよ?

難しいよなぁ王様……うち、どうしてあげたらいい……?!

物語を読み進めてあげなさい、王様も太宰もそれを望んでるわ

「なんの為の平和だ。自分の地位を守る為か。」こんどはメロスが嘲笑した。

メロスがやりかえしてる!

「罪の無い人を殺して、何が平和だ。」

やっぱそうだよね……命あってのナントカ、って言うし

物種、ね

そう、物種! 人生でこれまでいう機会なかったからなんか嬉しい

「だまれ、下賤(げせん)の者。」
王は、さっと顔を挙げて報いた。

顔を挙げて報いた…? なんかよくわかんないけど、こう、顔を動かすぐらいに反応したってことだよね?

まあ、ここでは「やり返した」みたいな意味かしら

王様も痛いところをつかれた系か

「口では、どんな清らかな事でも言える。わしには、人の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。
おまえだって、いまに、磔(はりつけ)になってから、泣いて詫(わ)びたって聞かぬぞ。」

王様はメロスを信じてないんだね。うちはここまで読んでるから、嘘じゃないって分かるのに……耳も貸そうとしない

「ああ、王は悧巧(りこう)だ。自惚(うぬぼ)れているがよい。私は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。
命乞いなど決してしない。ただ、──」と言いかけて、

か、漢字は難しいけど……聞いたことある言葉だから話の意味はわかる……
メロスは王様に磔にされようとしている今も自分の正義のために立ち向かってるんだ……

メロスは足もとに視線を落し瞬時ためらい、

メロス……?

「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。
たった一人の妹に、亭主を持たせてやりたいのです。

……ひぐっ、ぐすっ、うぅ

……メロスの兄としての心情、あんたにはよく分かるものね

自分にとっても、妹にとってもただ一人の家族……最後の別れもなしなんて辛すぎるもんね。さっきまでイセーよく啖呵も吐いてたけど、こればっかしはしゃーないわ……

三日のうちに、私は村で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰って来ます。」

うう、お願い王様! これだけは許してあげて!

「ばかな。」と暴君は、嗄(しわが)れた声で低く笑った。

ダメなんか〜〜〜…………

「とんでもない嘘(うそ)を言うわい。逃がした小鳥が帰って来るというのか。」

嘘なんかじゃないって! メロスは本気だよ!

「そうです。帰って来るのです。」

うわ〜! すごい! さっきと同じこと言ってるはずなのに、メロスの熱を感じるわ!

いい調子よ、完全に話の流れに身を任せられてるじゃない

多分表情とかも……なんだっけ、眉間?に力も寄せて……

「そうです。帰って来るのです」

多分こんな感じ!

さっき出てきた単語の活用までして国語の授業として完璧じゃないの

メロスは必死で言い張った。

そりゃ必死だよね! かわいいかわいい妹さんだもん!!!!

「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。妹が、私の帰りを待っているのだ。
そんなに私を信じられないならば、よろしい、この市にセリヌンティウスという石工がいます。

え? セリヌンティウス? うち、どっかで読み飛ばしちゃった? 急に出てきたけど、この人は前のシリーズのキャラとか?

メロスはシリーズ文庫の一作じゃないの。急に思えるけど、これがセリヌンティウスは初登場で合ってるわ

私の無二の友人だ。

まあ、こういう状況で真っ先に名前が出るくらいの親友!ってことなんだね

あれを、

“あれ”を?

メロス、あんまり友達をあれって言わないほうがいいよ

人質として

え?

ここに置いて行こう。

なんかすごいこと言い出したんだけど!?

そこに新鮮に驚けるの羨ましいわ

私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、

何これ? 本当にメロスの台詞???

ここに帰って来なかったら、あの友人を

……マジで言ってんの?

絞め殺して下さい。

メロス、どしたんマジで

たのむ、

頼まないでいいって

そうして下さい。」

えぇ……?

それくらい信じてくださいって決意の現れなのよ

いや、それは分かるけどさぁ〜……もーちょいなんかない?

それは読者みんなが思ってるから

それを聞いて王は、残虐な気持で、そっと北叟笑(ほくそえ)んだ。
生意気なことを言うわい。どうせ帰って来ないにきまっている

これは王様の方がまともだ。こんな申し出、そうそう信じらんないよね

この嘘つきに騙だまされた振りして、放してやるのも面白い。
そうして身代りの男を、三日目に殺してやるのも気味がいい。

うーん、王様は元々人を信じられなくなったって話だったけど……だんだん自分の心自体が悪い方向に傾いてる感じもすんね

人は、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代りの男を磔刑に処してやるのだ。
世の中の、正直者とかいう奴輩(やつばら)にうんと見せつけてやりたいものさ。

うわ……王様、すごいこと考えんね
メロスが約束を守れなかったっていう事実を本来以上に大きくアピールするんだ

市民から見ても王の行動に説得力が出ちゃうのよね

3日目の視聴率すごいだろうね

全国ネット?

「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。

ヤバ! 願い聞いちゃった〜

三日目には日没までに帰って来い。おくれたら、その身代りを、きっと殺すぞ。

なんか……この「きっと」って怖くね? よくわかんないけど……王様はまだ裏に思ってることがあんじゃん?

ふーん……?

メロスが約束を守れないって王様は思ってるんじゃん? だから処刑自体は王様にとってはトーゼンなのに、わざわざ「きっと」なんていうのがさ……

じゃあ、次の文、読んでみなさい

ちょっとおくれて来るがいい。

うわ……

おまえの罪は、永遠にゆるしてやろうぞ。」

……。

そこ、かなり怖くない?

トリハダたった

そこまでだとは思わなかったけど

「遅れてこい」って……! 「逃げていい」とかじゃないのが……チョー怖い……

その台詞、凄みがあるのよね

遅れたら「あとちょっとで間に合ったのに」とか言い訳できるってこと……?

友達が処刑されちゃってもメロスは「最後までがんばったメロス」でいられる

…………

愛依?

ちょい待って……自分の中で考えてみたい、うちだったらここでどう答えるのか

ここまで真剣に向き合ってもらえて太宰も作家冥利に尽きるわね

うち的にさ、裏切るのはそもそもとして無い。だって、友達からすればうちの家族のために死んじゃうのなんかイヤだろうし

うち自身も誰かを裏切って生きていたくない。誰かを裏切って家族を救えても……それはなんか違う

多分メロスもそれは一緒なんよ。メロスは知らない人のために自分の命も顧みないで城に乗り込めるぐらい勇気と優しさがあるから

だけど……王様にぶつけられてるこの悪意みたいなのってすごくて……多分、怖くなる

……うち、冬優子ちゃんのことを守れるかな

ふゆが磔想定だったんかい

……いや、まあ身近な人で考えて物語のテーマを噛み砕くのは実際大事よ
この先の展開がどうなるにしろ、自分なりの答えを持っとくのはきっと意味があるわ

そっか……メロスはどう答えるんかな

「なに、何をおっしゃる。」

ビビっちゃってる……

うん、分かる
うち、メロスの気持ちチョーわかるよ!!!!
大丈夫、うちがそばで見てるから!!!!

「はは。いのちが大事だったら、おくれて来い。おまえの心は、わかっているぞ。」

王様、それはちょいメロスを甘く見過ぎっしょ
言っとくけど、メロスはマジで帰ってくるかんね。

あんた、セリヌンティウス?

メロスは口惜しく、地団駄(じだんだ)踏んだ。ものも言いたくなくなった。

言葉が通じる相手じゃないもんね。これ以上喋っても、辛いだけだわ

竹馬の友、セリヌンティウスは、深夜、王城に召された。
暴君ディオニスの面前で、佳(よ)き友と佳き友は、二年ぶりで相逢うた。

2年ぶりの再会がこんな形なんか……

メロスは、友に一切の事情を語った。
セリヌンティウスは無言で首肯(うなず)き、

マジ!? セリヌンティウス……物分かり良すぎじゃない?!

何も言わずに身代わりを引き受けるって常軌を逸してると思う

いや……でも、うちもそーなるかも
友達がどうしてもって言うんだったらやっぱ力になりたいし……!

今度あんたがコンビニでプリペイドカード買ってたら声かけるわ

冬優子ちゃんもうちを身代わりにしてもいいよ!?

せんわ

メロスをひしと抱きしめた。友と友の間は、それでよかった。

ここ、マーカー引きたい! チョーかっこいい!

セリヌンティウスは、縄打たれた。

縄打たれた……ってどういう意味? もう処刑始まってる?

そこは「縛られた」みたいな意味ね

ああ、叩かれてるわけではない系ね

メロスは、すぐに出発した。

そーだね! もう時計の砂は落ち始めてっし!

初夏、満天の星である。

かっこよすぎ

なんこれ〜! CM入れるなら絶対ここじゃん〜!

読書中に編成を気にすんな

メロスはその夜、一睡もせず十里の路を急ぎに急いで、

路? 「ろ」ってなに?

それは「みち」って読んでいい

りょーかい! みち、ね

村へ到着したのは、翌(あく)る日の午前、

徹夜で走ったんだ……足の感覚なくなってそ
40kmって言ってたし、多分10時間くらいかかってるよね

知らんけど

陽は既に高く昇って、

この感じは10時っぽい。
初夏って太陽出るの早いし、多分10時だよね

村人たちは野に出て仕事をはじめていた。

完全に10時じゃん!!

何時でもいいわよ

メロスの十六の妹も、きょうは兄の代りに羊群の番をしていた。
よろめいて歩いて来る兄の、疲労困憊(こんぱい)の姿を見つけて驚いた。

妹ちゃんもビックリするよね、ピローコンバインなんだもん

どこの世界に耕運機を枕にするやつがいんのよ

そうして、うるさく兄に質問を浴びせた。

「どしたんお兄! 朝ナイフ持って行ってなかったっけ?」みたいな感じかな

和泉家の様子が窺い知れるわね

「なんでも無い。」
メロスは無理に笑おうと努めた。

ゾロじゃん!!!!!

「市に用事を残して来た。またすぐ市に行かなければならぬ。

あ〜、事情はやっぱり言わないんだ! てか、まあ言えないか……妹ちゃんにはジュンスイに結婚式を喜んでもらいたいもんね!

あす、おまえの結婚式を挙げる。早いほうがよかろう。」
妹は頬をあからめた。

ここで何でもない会話ができてるの何気にすごくね? 妹ちゃん全然気づいてないじゃん

そうね。普通だと「何かあったの?」ってバレるところなのに

それだけメロスも覚悟決めてんだね。結婚式を最高のものにして、セリヌンティウスのために自分の命も賭ける。かっこいい……

「うれしいか。綺麗(きれい)な衣裳も買って来た。
さあ、これから行って、村の人たちに知らせて来い。結婚式は、あすだと。」

優しいね。自分が死ぬって分かってるのに、残りの時間を妹のために全部使おうとしてんだ

メロスは、また、よろよろと歩き出し、家へ帰って神々の祭壇を飾り、祝宴の席を調え、

「調え」……これなに? しらべえ?

「ととのえ」ね

よっしゃ! どんどん読めるじゃん!

ムスカと同じ感動を味わってる

間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。

あ〜すごい! メロス、うちと完全いっしょだわ!

……多分違うと思うけど何が?

うちも一緒で横になる前にやることをすませちゃうタイプなんよね! うちもお仕事から帰ったらすぐに宿題やるもん!

やっぱり全然違った

眼が覚めたのは夜だった。

めっちゃ寝たじゃん〜〜〜!!!

いいでしょ。結婚式は次の日なんだから

先に準備すませとくタイプでよかったね。ここから準備するのマジしんどいかんね!?

そうですか

メロスは起きてすぐ、花婿の家を訪れた。
そうして、少し事情があるから、結婚式を明日にしてくれ、と頼んだ。

あ〜、そもそもの予定は明日じゃなかったんか。新郎さんも困るよね

婿の牧人は驚き、それはいけない、こちらには未だ何の仕度も出来ていない、
葡萄(ぶどう)の季節まで待ってくれ、と答えた。

やっぱ結婚式だしワイン飲みたいもんね……

そういう理由じゃないと思うけど

ジンギスカンとかするんじゃん? 羊もいるんだしさ〜!

メロスの羊を食用として見るな

メロスは、待つことは出来ぬ、どうか明日にしてくれ給え、と更に押してたのんだ。

ジジョー言えりゃ楽だけど……言っちゃったらメロスの望んでる結婚式にはならないもんね

婿の牧人も頑強であった。なかなか承諾してくれない。

この人にとっても大事な結婚式だもんね!

夜明けまで議論をつづけて、やっと、どうにか婿をなだめ、すかして、説き伏せた。

マジ!?

どうしたの?

「夜明けまで議論をつづけて」……?

次の日になってんじゃん!!!

メロスってこんな「24 -TWENTY FOUR-」みたいな楽しみ方する小説だったっけ?

ってことはあと2日!? いや、2日もない…??

ちょっと待って? 1日目に王様に会って、村に着いたのは次の日の10時で……?

そこは読んでいけば分かるから、厳密に把握しなくても大丈夫よ?

でも、臨場感が出ないから! 何か時間経過が分かるものを置いてもいい!?

それで分かりやすくなるなら自由にしていいけど……

これがメロスの持ち時間ね

ティッシュで表現すんな

1日目に王様と喧嘩して、次の日に戻ってきたんだよね……

で、最終日は日没までがタイムリミットだから……

こういうことか

どういうことよ

あと1日と半分しか残ってないってこと! 目で見える形になって分かりやすくなったじゃん?

あんたが分かるならそれで良いけど

残り時間をカシ化?したら臨場感出てきた! ヒリヒリするわ〜……

……え〜っと?

どこまで読んだか見失ってるじゃないのよ

これ困るわ〜! みんなはどうしてんの?

みんなは読書中にティッシュ置かないのよ

結婚式は、真昼に行われた。

やばいやばい! もうこれが半分になってる!

さっそくティッシュ表記を使いこなしてる

新郎新婦の、神々への宣誓が済んだころ、黒雲が空を覆い、

黒雲!?

ぽつりぽつり雨が降り出し、

うわうわうわ……

やがて車軸を流すような大雨となった。

やばいじゃん……

よく見たら、表紙の時点でめっちゃ雨振ってたわ

ほんとだ。雨のイメージないから気付かなかった

こんなのSASUKEでも中止するって〜

祝宴に列席していた村人たちは、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい気持を引きたて、
狭い家の中で、むんむん蒸し暑いのも怺(こら)え、陽気に歌をうたい、手を拍(う)った。

あ〜! これはいい! 雨だけど結婚式は白けてないんだ!

新郎からしたら嫌でしょうね。急に日程変えられて、その日も雨だなんて

でも、村人たちがソッセンして楽しもうとしてる感じがしてすごくいいわ! ここ、もっかい読も!

狭い家の中で、むんむん蒸し暑いのも怺(こら)え、陽気に歌をうたい、手を拍(う)った。

いい人ばっかり!

メロスも、満面に喜色を湛(たた)え、しばらくは、王とのあの約束をさえ忘れていた。

メロスも楽しめててよかった! 妹さんのことを心から祝えるのってチョー素敵じゃん!

祝宴は、夜に入っていよいよ乱れ華やかになり、人々は、外の豪雨を全く気にしなくなった。

お酒入ったらやっぱこうなんのかな〜

さあね、桑山千雪に聞いてみたら?

メロスは、一生このままここにいたい、と思った。

わかる! こういう時、先に寝ると損しそうで部屋に戻りたくないよね〜!

そういう意味じゃないでしょ

外から大雨の音だけ聞こえてるけど、部屋の中はめっちゃ盛り上がってる感じ……。席を抜けたら「あ、こんなに雨降ってたんだ」ってそこで気づく感じ……。それもいい!!!

でもこうよ!? メロス大丈夫!?

二次会は欠席だろうね〜!

メロスの二次会気にするやついないわよ

この佳い人たちと生涯暮して行きたいと願ったが、いまは、自分のからだで、自分のものでは無い。

そうそう! お城ではセリヌンティウスが──

セリヌンティウス!?!?

なに? どうしたの?

忘れてた!! セリヌンティウスは何してんの!?

捕まってるわよ

どんな気持ちで過ごしてんの〜! セリヌンティウス視点の話とかってない!?

そういうのは二次創作の了見よ

ままならぬ事である。

ままなら……? パパじゃね……?

いつメロスが子を設けたのよ
思い通りにならないことよ、この空間にずっといたいけど、約束があるからそうはいかないってことね。

メロスは、わが身に鞭打ち、ついに出発を決意した。あすの日没までには、まだ十分の時が在る。
ちょっと一眠りして、それからすぐに出発しよう、と考えた。

寝ても大丈夫かな…? でも、今は雨降ってるしお酒も残ってるし……

初日は徹夜で走って朝には着いてるくらいだったし、大丈夫じゃない?

そっか!

実際これくらいで帰れるんだ!

そのティッシュ換算、分かりにくくないの?

タイムリミットは日没だけど、初夏だから日が落ちるのも遅い可能性あるもんね!

何なら夜7時くらいかも! それなら一回休んでも全然大丈夫じゃん!

その頃には、雨も小降りになっていよう。

たしかに!!!

少しでも永くこの家に愚図愚図とどまっていたかった。
メロスほどの男にも、やはり未練の情というものは在る。

あ〜、いいな! メロスってうちらからすればちょっと出来すぎてるところもあるけど、こうしてみるとおんなじ人間なんだって思える!

今宵呆然、歓喜に酔っているらしい花嫁に近寄り、
「おめでとう。私は疲れてしまったから、ちょっとご免こうむって眠りたい。

このあと殺されるのに「おめでとう」って言えるの凄すぎん? メロスマジでカッケーわ……

眼が覚めたら、すぐに市に出かける。大切な用事があるのだ。

“大切な用事“……最後までジジョーは言わないつもりなんだね

私がいなくても、もうおまえには優しい亭主があるのだから、決して寂しい事は無い。

うん……うん……

おまえの兄の、一ばんきらいなものは、

うん……

人を疑う事と、それから、嘘をつく事だ。

……ひぅ

……ぅぐ

ここで泣くの???

めっちゃ良いお兄ちゃんじゃん……

その涙は新婦が流すやつでしょ

どうしよ〜、メロスの台詞まだ半分以上あるのに。うち、我慢できる自信がない……

我慢しなくてよろしい。ここで泣ける感受性を誇りなさい

おまえも、それは、知っているね。
亭主との間に、どんな秘密でも作ってはならぬ。

だめだ。この「、」の区切り方だけでもうやばい……。言い聞かせてるみたい……

おまえに言いたいのは、それだけだ。

もっと言いたいことあるはずなのに……

おまえの兄は、たぶん偉い男なのだから、

うん……うん……

おまえもその誇りを持っていろ。」

号泣じゃないのよ


だってもう……こんなのもう……

メロスかわいそう……!!

一度でいいからふゆもこういう風に本読んでみたい

絶対、結婚式楽しかったのに……途中抜けして殺されに行くとか……

ちょっと……もう……

1日もらっていい?

ティッシュを日数で数えるな

「おまえの兄の、一ばんきらいなものは、人を疑う事と、それから、嘘をつく事だ。」

この台詞がちょっとやばすぎ!

そんな視点で読んだことなかったから新鮮な反応ね

妹さんに言ってるようで、自分にも言い聞かせてるんだと思う。そうじゃないとこんな幸せから抜けられる気しないもん……

花嫁は、夢見心地で首肯(うなず)いた。

妹さんは気付いてないね。気持ちよく祝福できてるじゃん

メロスは、それから花婿の肩をたたいて、
「仕度の無いのはお互さまさ。私の家にも、宝といっては、妹と羊だけだ。他には、何も無い。全部あげよう。

新郎にも声かけてる。マメだな〜。メロスってプロデューサーみたいだね

それはちょっとわかる

もう一つ、メロスの弟になったことを誇ってくれ。」

切ない……。メロスの最期を知ったら、この夫婦どうなっちゃうんだろ……

花婿は揉(も)み手して、てれていた。
メロスは笑って村人たちにも会釈(えしゃく)して、宴席から立ち去り、

もう二度と会えないのに……ずっと笑顔じゃん……

羊小屋にもぐり込んで、死んだように深く眠った。

死んだようにとか言わないで……

ティッシュ使いすぎじゃない?

はぁ……小説ってすごいね。めっちゃ泣けるわ……

まだメロス走ってないのに

眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。

薄明……? これはどういう意味?

もうすぐ日の出ってことね

おー、ちゃんと早起きできたんだ! 寝坊しなくてマジよかった〜!

メロスは跳ね起き、南無三、寝過したか、

あるある、こういうとき! 飛び起きたあとに「土曜日じゃん……」ってなるあの瞬間!

いや、まだまだ大丈夫、

本当に大丈夫? もう時間ないよ!

日の出前に出発するんだから十分じゃない?

寝たの夜中の2時だよ?

そうとは限らないでしょ

結婚式を見届けたら多分それくらいになるじゃん? で、夏の日の出前ってなると……いま4時とかじゃない?

その計算だとメロスは2〜3時間しか寝てないことになるわね

お酒も残ってるでしょ……大丈夫かな……

メロスの体調面を気にしながら読むような小説じゃないはずなんだけど

これからすぐに出発すれば、約束の刻限までには十分間に合う。

本人が言ってるなら大丈夫なんかな

きょうは是非とも、あの王に、人の信実の存するところを見せてやろう。

一回寝た後も考えは変わってないんだね
妹さんのそばから離れたくないはずなのに……

そうして笑って磔の台に上ってやる。

これなんて読むの?

「はりつけ」ね

笑顔で処刑されようとしてるとかもうルフィじゃん

メロスは、悠々と身仕度をはじめた。
雨も、いくぶん小降りになっている様子である。

雨が落ち着いてる! メロスチョーかしこい! 作戦どーり!

身仕度は出来た。さて、メロスは、ぶるんと両腕を大きく振って、雨中、矢の如く走り出た。

かっこいい……!

ポテポテと歩いていかないんだ! 走らなくても間に合うのに!

私は、今宵、殺される。殺される為に走るのだ。身代りの友を救う為に走るのだ。

力強い文章なのに切ないなぁ……

王の奸佞(かんねい)邪智を打ち破る為に走るのだ。

わー! 急に知らん言葉が飛び出してきた! カンネージャチ?

う〜ん。なんか、とても悪い心……みたいな意味かしら

オッケー! さっきのジャチボーギャクみたいなもんね、そういう感じだろうと思ってた!

走らなければならぬ。そうして、私は殺される。若い時から名誉を守れ。
さらば、ふるさと。若いメロスは、つらかった。

やっぱりつらかったんだ……!
こういう人間味を出されるとグッとくるな……

メロスは若いって言ってるし、うちより年上って言っても多分30行かないぐらいだよね?

まあそのくらいでしょうね

プロデューサーは名誉のために命を賭けられるんかな……

急に喉元に刃を突き立てるのはやめたげなさい

幾度か、立ちどまりそうになった。
えい、えいと大声挙げて自身を叱りながら走った。

そうだよね、幸せの中から死に向かって走ってんだもん。そりゃヨンジュンだってするって!

逡巡ね
そんな韓流スターみたいな響きの言葉じゃないわよ

はえ〜、冬優子ちゃん詳し〜

あんたが知らなさすぎんのよ

村を出て、野を横切り、森をくぐり抜け、隣村に着いた頃には、雨も止(や)み、日は高く昇って、そろそろ暑くなって来た。

もう隣村なんだ。ケッコー順調じゃない?

メロスは額(ひたい)の汗をこぶしで払い、ここまで来れば大丈夫、もはや故郷への未練は無い。

「間に合うか」じゃなくて「未練が消えた」ことに安心してんだ!

いい読解力してるじゃないの。やっぱり読書向いてるんじゃない?

妹たちは、きっと佳い夫婦になるだろう。
私には、いま、なんの気がかりも無い筈だ。

走ってたのは急いでるからじゃなくて、未練を振り切るためだったんかな……

愛依の読書感想文読んでみたいわ

まっすぐに王城に行き着けば、それでよいのだ。そんなに急ぐ必要も無い。

そーだね!

ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気(のんき)さを取り返し、好きな小歌をいい声で歌い出した。

ここで呑気さを取り戻すのがいいな〜、メロスっぽい!

そう? このあと殺されるのに鼻歌うたってるのは狂気じみてると思わない?

メロスはそうじゃないって。今は「殺される」とかじゃなくて、「未練が断ち切れたこと」に安心してる状態だからさ。

それにプロデューサーも大きな仕事を終わらせた後の車って、だいたいうちらの曲の鼻歌歌ってるよ?

そんで大体帰ってからメール処理でヒーコラ言ってんのよね

アハハ、あるあるかも

ぶらぶら歩いて二里行き三里行き、そろそろ全里程の半ばに到達した頃、

もう中間ポイントじゃん? 調子いい〜!

降って湧(わ)いた災難、

……災難?

メロスの足は、はたと、とまった。

ザ・ノンフィクション???

CM前の煽りじゃないのよ

こんなナレーション聞いたらチャンネル変えられないって〜!

1チャンネルしかないから安心して続きを読みなさい

見よ、前方の川を。きのうの豪雨で山の水源地は氾濫(はんらん)し、

昨日の雨って伏線だったんだ〜! なんかスッゲー嫌な予感すんだけど!?

濁流滔々(とうとう)と下流に集り、

滔々……これはなんか勢いが強いとか、そういう感じ?

えーっと……そう____

あ、待って! タンマ!

……?

そうであって欲しくないから

メロスにそこまで寄り添えるのあんたぐらいのもんよ

猛勢一挙に橋を破壊し、

ウソ……

どうどうと響きをあげる激流が、

あ……

木葉微塵(こっぱみじん)に橋桁(はしげた)を跳ね飛ばしていた。

もーダメ! なにコレ〜〜〜!!!

こんなにハシャいでもらえたら太宰も本望でしょうね

彼は茫然と、立ちすくんだ。

ここまでジュンチョーだったんに…。緊張の糸が切れちゃうかもしんないね

あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、
繋舟(けいしゅう)は残らず浪に浚(さら)われて影なく、渡守りの姿も見えない。

繋舟……渡守り……? ちょっと分かんないかも……

ここは言葉難しいかもね。まあ船も運転手もいないんだな〜って思えばいいわ

川を渡る方法がないってことか……! チョーヤバいじゃんね

流れはいよいよ、ふくれ上り、海のようになっている。メロスは川岸にうずくまり、男泣きに泣きながらゼウスに手を挙げて哀願した。


こういうとき、マジで「あぁ〜〜〜もう!!!!!」ってなるんよね……分かる分かる

「ああ、鎮(しず)めたまえ、荒れ狂う流れを! 時は刻々に過ぎて行きます。

うちも今度からゼウスに頼もーかな

太陽も既に真昼時です。

やっば!!!!!!!!!!

声でっか。ここが図書館じゃなくてよかったわ

もう時間ないじゃん!?!?

あれが沈んでしまわぬうちに、王城に行き着くことが出来なかったら、あの佳い友達が、私のために死ぬのです。」

ゼウスお願いだから聞いてあげて〜〜〜!!

もうこの半分くらいしか残ってないんだって!!

濁流は、メロスの叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。

川が荒れてるのを躍りに喩えてるのスゴいよね。めっちゃ想像しやすいわ! この前のあさひちゃんみたいな感じかな

この前の……? ああ、あの肩甲骨をやってたやつ?

そうそう、引っ張り上げるみたいにしてさ、そんで太ももをこう……

それぐらいこの川も恐ろしい形相に変わってるのよ

浪は浪を呑み、


オオカミでてんじゃん!?

狼じゃなくて浪(なみ)ね

ああ、なみ……へんしか違わないと間違えちゃうよね

そう?

捲き、煽(あお)り立て、そうして時は、刻一刻と消えて行く。

こういうときって時間たつの早いんだよね……

今はメロスも覚悟した。泳ぎ切るより他に無い。

うわ〜、マジで!? 大丈夫!? 溺れちゃわん!?
溺れちゃったら死んじゃうよ!?

どのみち渡り切っても待ってるのは死なんだけどね

メロスが何したって言うわけ!? メロス何も悪くないじゃん!!

これはそういう理不尽に立ち向かう正義の話だからね

ああ、神々も照覧あれ!

照覧……? これは……

まあ「よく見てろ!」みたいなことね

お! じゃあ気を取り直してるってこと?!

濁流にも負けぬ愛と誠の偉大な力を、いまこそ発揮して見せる。

やることが決まったあとのメロスは強いからね!

あんたはどの立場なのよ

メロスは、ざんぶと流れに飛び込み、

ざぶんじゃないよ! ざんぶだよ!!

そうね

なにこれ、かっこいい言葉! うちも今度からざんぶにするわ!

いつ使うのよ

お風呂に入る時

百匹の大蛇のようにのた打ち荒れ狂う浪を相手に、必死の闘争を開始した。

川の状況すごすぎない? ポニョみたいになってんじゃん

満身の力を腕にこめて、押し寄せ渦巻き引きずる流れを、

荒れ狂う波の表現が豊かすぎる! ボキャブラリーヤバすぎっしょ!?

今になって、太宰治の語彙力を褒める人が現れるとはね

これ書いた人、絶対売れるわ〜

知ってる

なんのこれしきと掻(か)きわけ掻きわけ、

2回言ってる!! すご、これだけで波を押し分けてるようなパワーが伝わってくるわ!

めくらめっぽう獅子奮迅の人の子の姿には、神も哀れと思ったか、ついに憐愍(れんびん)を垂れてくれた。

言葉が難しいけど……何となくわかるよ!メロスの必死な姿に神様も情けをかけてくれた的なことだよね?

そうそう

押し流されつつも、見事、

おおっ!?!

対岸の樹木の幹に、すがりつく事が出来たのである。

やった〜〜〜〜〜〜!!!!!!!

読書中に拍手する人、初めてみた

チャレンジ成功、マジすっご!! スパチャするならここだわ〜〜〜!!

メロスに投げ銭すんな

だってこれ、相当流されてるじゃん? 川があって……こう泳いだわけっしょ?

感想戦をするにはまだ早いんじゃない?

何なら1kmくらい流されてるかもよ!?

ありがたい。メロスは馬のように大きな胴震いを一つして、すぐにまた先きを急いだ。

ワイルド〜! メロスもタフだね〜!

一刻といえども、むだには出来ない。
陽は既に西に傾きかけている。

やばい!!! もうこんなんよ!!?

それ本当に分かりやすい?

ぜいぜい荒い呼吸をしながら峠をのぼり、のぼり切って、ほっとした時、

川泳いだから体力も削られてるよな〜

突然、

……なんかヤな予感すんだけど

目の前

読みたくない……!

一隊の

もう……

山賊が

さぁ……

躍り出た。

なんで……

「待て。」

あれ、今ってメロス武器持ってる?

王様に短刀は取り上げられてるし持ってないでしょうね

やばいじゃん!! 流石にメロスでも素手で武器持ってる山賊には勝てないんじゃ……

「何をするのだ。私は陽の沈まぬうちに王城へ行かなければならぬ。放せ。」

メロス、こう言う時は逃げるしかないよ! 今、メロスの体はボロボロだし、山賊もわかってくれるって!

「どっこい放さぬ。持ちもの全部を置いて行け。」

なんで〜〜〜〜〜!?!?

いや、でもそーなんよね。山賊の人たちにも暮らしがあるから。メロスが久しぶりにやってきた標的だったかもしんないもんね、そりゃこっちも必死か

この状況でよく山賊の擁護できるわね、あんた

「私にはいのちの他には何も無い。
その、たった一つの命も、これから王にくれてやるのだ。」

メロスよく言った! うちだったら絶対見逃すよ、これ!!!!!!

「その、いのちが欲しいのだ。」

なんで!?!?!?

え、メロスってほとんどタンクトップだけだと思ってたけどもしかして金のネックレスとかしてる?

一介の羊飼いにそんな装飾品買えないでしょ

「さては、王の命令で、

へ????

ここで私を待ち伏せしていたのだな。」

……これ、マジ?

メロスが言ってるだけで、実際に王の仕業かは分かんないわよ

これもしもマジだったら、さすがにうちもキレっから

山賊たちは、ものも言わず一斉に棍棒(こんぼう)を振り挙げた。

……ちゃんと答えてくんないと、許せない

本を恫喝しないで。傍から見てると本当に怖いから

答えないってことはズボシっしょ
これでメロスが怪我したらマジで最悪だかんね

メロスはひょいと、からだを折り曲げ、飛鳥の如く

メロスは……ひょいと、からだを折り曲げ……?

身近かの一人に襲いかかり、その棍棒を奪い取って、

棍棒を奪い取って?!

「気の毒だが正義のためだ!」と

正義のためだと!!

猛然一撃、たちまち、三人を殴り倒し、

殴り倒し!!!

残る者のひるむ隙(すき)に、

ひるんだ隙に!!!!

さっさと走って峠を下った。

メロス、マジ強いじゃん!!!!

ジェットコースターにでも乗ってる?

アクションもあるの!!?? もうほぼ映画じゃん!!!!

一時はどうなることかと思ったけど! いや〜安心したわ!

あ、ちょっとごめん

愛依は肩をなでおろした。

なんでナレーション口調になんのよ

ワハハ、じゃないわよ

小説読んでたら文体が口調にうつっちゃいそうでソワソワしない?

正直、それはふゆもある

一気に峠を駈け降りたが、流石(さすが)に疲労し、

疲れてるか〜。運動量、トライアスロンどころじゃないもんね

折から午後の灼熱(しゃくねつ)の太陽がまともに、かっと照って来て、

これは3時……?

何時でもいい

メロスは幾度となく眩暈(めまい)を感じ、

前日に酒も飲んでるしね……お水飲んでないカンジっぽいし……

これではならぬ、と気を取り直しては、よろよろ二、三歩あるいて、ついに、がくりと膝を折った。

え!???!??

違う違う。座り込んだってことよ

びっくりした。自分で自分のを……って思っちゃった

立ち上る事が出来ぬのだ。天を仰いで、くやし泣きに泣き出した。

どれもメロスのせいじゃないのに、やってらんないよ……

ああ、あ、濁流を泳ぎ切り、

え……なにこの「ああ、あ」って。こんな表現もアリなん?!

嗚咽してるような息遣いが伝わるのよね

文章ってこんな書き方していいんだ……

山賊を三人も撃ち倒し韋駄天(いだてん)、ここまで突破して来たメロスよ。真の勇者、メロスよ。
今、ここで、疲れ切って動けなくなるとは情無い。

イダテン……なんかよくわかんないけど強そう

元々はヒンドゥー教の神様の名前だったのが、転じて足が速い人の例えになったみたいね

へー! そんじゃあさひちゃんもイダテンだ!

あいつの場合は落ち着きがないだけよ

愛する友は、おまえを信じたばかりに、やがて殺されなければならぬ。
おまえは、稀代(きたい)の不信の人間、まさしく王の思う壺(つぼ)だぞ、と自分を叱ってみるのだが、

自分を追い詰めて、逆に元気を出そうともがいてんだね……そういう時あるある

全身萎(な)えて、もはや芋虫(いもむし)ほどにも前進かなわぬ。

ギブアップしそうになってる……最初と同じ道でも、まるで違った出来事だらけだったもんね

山賊とのバトルで体力使い切ったのかしら

あのエンカウントさえなければ……

RTA走者の苦悩?

路傍の草原に

これはなんて読むの?

路傍(ろぼう)。「道端」と同じ意味かな

知らん日本語いっぱいあんね〜

ごろりと寝ころがった。
身体疲労すれば、精神も共にやられる。

分かってんじゃん!今、落ち込んでるのは体力のせいだって……自分を責めなくていいんだって……

もう、どうでもいいという、勇者に不似合いな不貞腐(ふてくさ)れた根性が、心の隅に巣喰った。

メロス〜〜〜〜〜〜!!!!

私は、これほど努力したのだ。約束を破る心は、みじんも無かった。
神も照覧、私は精一ぱいに努めて来たのだ。

そうだよ。うちだってショーランしてたし、メロスの想いも努力も知ってるから!

これだけ熱心なサポーターがいるなんてなんだかメロスが羨ましくなるわ

動けなくなるまで走って来たのだ。私は不信の徒では無い。
ああ、できる事なら私の胸を截(た)ち割って、真紅の心臓をお目に掛けたい。

落ち込むにしても言い方がかっこいい! さすが太宰だわ〜〜〜〜〜!

あんた今日で太宰とほぼほぼ初めましてでしょ

愛と信実の血液だけで動いているこの心臓を見せてやりたい。

自分でそう言えるのはリッパ! 自分が愛と信実でできてるって思える人生って羨ましいわ!

けれども私は、この大事な時に、精も根も尽きたのだ。

……言っちゃったかぁ

ダメだよ、口に出したらマジになっちゃうから

私は、よくよく不幸な男だ。私は、きっと笑われる。

ほら。どんどんマイナスになってる

私の一家も笑われる。私は友を欺(あざむ)いた。

そんなことないって。ここまでやってんだから誰も笑わないよ

中途で倒れるのは、はじめから何もしないのと同じ事だ。

……。

え……?

……。

なに? どうかした?

「中途で倒れるのは、はじめから何もしないのと同じ事だ。」

……って書いてあんじゃん

それは分かってるんだけど

こんなこと、頑張ってる本人が言うような世界、おかしいよね

……愛依ったら

そうなんよね、努力をどれだけしたって……結局結果が伴わないと意味がない、それは分かってんだけどさ……でも、やっぱ悔しいじゃん

ちょっと……ごめん、1日もらっていい?

メロスの貴重な1日がどんどん消費されていく

もう……泣かないと思ってるんだけど……急にくるから……

せっかくなら目いっぱい泣きなさい。最高の読書体験なんだから

ああ、もう、どうでもいい。これが、私の定った運命なのかも知れない。

どうでもいいとか言わないでよ。うち、こんなになってんよ

セリヌンティウスよ、ゆるしてくれ。

謝んないで……そんなのメロスらしくないよ……

君は、いつでも私を信じた。私も君を、欺かなかった。

やばいやばい

私たちは、本当に佳い友と友であったのだ。

泣きそう泣きそう

いちどだって、暗い疑惑の雲を、お互い胸に宿したことは無かった。
いまだって、君は私を無心に待っているだろう。ああ、待っているだろう。

そうだよ。まだ終わってないよ!

ありがとう、セリヌンティウス。よくも私を信じてくれた。それを思えば、たまらない。
友と友の間の信実は、この世で一ばん誇るべき宝なのだからな。

なんか締めにかかってない? 大丈夫?

セリヌンティウス、私は走ったのだ。君を欺くつもりは、みじんも無かった。
信じてくれ! 私は急ぎに急いでここまで来たのだ。

それはもう、本人の前で言お? セリヌンティウスも会って話したいって!

濁流を突破した。山賊の囲みからも、するりと抜けて一気に峠を駈け降りて来たのだ。

全部終わってからでも振り返れるって! いま回想することじゃないよ!

私だから、出来たのだよ。

こんなッ……言い訳みたいな……言わないで……ッ!!

何日使うのよ

人間すぎるじゃん、メロス!!

本読みながらこんな大声出すことない

そんなとこまで見せなくていいよ……
すごいね、冬優子ちゃん。このお話、人間の全部が書いてあるよ

杉田玄白もびっくりね

ひぃ……

また1日消費しちゃった

ああ、この上、私に望み給うな。放って置いてくれ。

もうメロスが日本郵便のCMやろうよ……

どうでも、いいのだ。

松ちゃんの代わりにメロスが「バカまじめです」って言おう……

???

私は負けたのだ。

うそぉ……

だらしが無い。笑ってくれ。
王は私に、ちょっとおくれて来い、と耳打ちした。

ここで王様を思い出すんだ……

おくれたら、身代りを殺して、私を助けてくれると約束した。

そんなこと思い出さなくていいよ……

私は王の卑劣を憎んだ。けれども、今になってみると、私は王の言うままになっている。

そんなことないよ!! メロスは最後の最後まで自分の正義を貫こうとしてたじゃん!!

私は、おくれて行くだろう。
王は、ひとり合点して私を笑い、そうして事も無く私を放免するだろう。

メロス……こうなっても最後まで走り続けるつもりなんだね

そうなったら、私は、死ぬよりつらい。
私は、永遠に裏切者だ。地上で最も、不名誉の人種だ。

妹ちゃんにも嘘つくのが一番嫌いって言ってたもんね
メロスは嘘をついたつもりがなくても、王様によって嘘に変えられてしまうのがヤなんだ

セリヌンティウスよ、私も死ぬぞ。君と一緒に死なせてくれ。

そういうことじゃないよ〜!!!

君だけは私を信じてくれるにちがい無い。

ダメ! 落ち込んでる時の考え方に走ってるよ! 間違った方にばっかり理屈を作って、自分をセイトー化すんのに必死じゃん!

あんたカウンセラーにでもなったら?

いや、それも私の、ひとりよがりか?

一回寝て気持ち切り替えた方がいいんかな……

でも今寝たら全部おじゃんよ

そーじゃん……うちの1日あげるからメロスに誰か1日をあげて……

その貨幣制度はこの空間でしか成立してないのよ

ああ、もういっそ、悪徳者として生き伸びてやろうか。
村には私の家が在る。羊も居る。妹夫婦は、まさか私を村から追い出すような事はしないだろう。

メロス……

正義だの、信実だの、愛だの、考えてみれば、くだらない。
人を殺して自分が生きる。それが人間世界の定法ではなかったか。

王様の言葉が蝕んでいってる……もう別人みたい
裏切りを正当化しようとしてるもんね

王様の理屈がメロスにも理解できちゃったシーンなのね

ああ、何もかも、ばかばかしい。私は、醜い裏切り者だ。
どうとも、勝手にするがよい。やんぬる哉(かな)。
──四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。

……。

だいぶショックを受けたみたいね

うーん、ちょっとうちも疲れたかも。メロスのネガティブにあてられちゃったんかな

それは大声出して本読んでるからだと思う

ふと耳に、潺々(せんせん)、水の流れる音が聞えた。

あ、メロス起きたっぽいよ! 一回寝たし気持ち切り替わってないかな

潺々ってどんな音なんだろう

すごく浅い川のせせらぎって感じみたいよ

そっと頭をもたげ、息を呑んで耳をすました。
すぐ足もとで、水が流れているらしい。

なんかいい雰囲気っぽい? アシタカが目を覚ましたときみたい……

よろよろ起き上って、見ると、岩の裂目から滾々(こんこん)と、何か小さく囁(ささや)きながら清水が湧き出ているのである。

これは!? 清水って水のことだよね!?

そうそう。自然のキレイな水って意味よ

岩から湧き水が出てる!?

美味しそう

呑気極まりないわね

その泉に吸い込まれるようにメロスは身をかがめた。

いいじゃん! これで体力も回復できるっしょ!

水を両手で掬(すく)って、一くち飲んだ。

飲んだ!! メロス飲んだよ!?

らしいわね

美味しそう!

味は知んないけど

ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。

そうそう! 疲れた後の冷たい水ってちょっとでもすごい美味しいんだよね! 喉を冷たい息が通ってくのが伝わるわ!!

歩ける。行こう。

よっしゃ〜!

肉体の疲労恢復(かいふく)と共に、わずかながら希望が生れた。
義務遂行の希望である。わが身を殺して、名誉を守る希望である。

メロスいけるかもしんない!

そうね。よかったわね

うん!!!

斜陽は赤い光を、樹々の葉に投じ、葉も枝も燃えるばかりに輝いている。

夕方じゃね!???! やばいじゃん!!!

そうね。時間ないわね

うん!!!!

日没までには、まだ間がある。
私を、待っている人があるのだ。少しも疑わず、静かに期待してくれている人があるのだ。私は、信じられている。

そーなんよね、この状況で信じてもらえる人がいるってすごいことなんよ

私の命なぞは、問題ではない。
死んでお詫び、などと気のいい事は言って居られぬ。

寝る前と言ってることがまるで逆……!

私は、信頼に報いなければならぬ。いまはただその一事だ。

うちの知ってる、勇者のメロスに戻ったんだ……!

走れ! メロス。

主題歌流して

メロスにテーマソングはない

じゃあうちが歌うわ

それが言えるあんたは最高ね

私は信頼されている。私は信頼されている。
先刻の、あの悪魔の囁きは、あれは夢だ。悪い夢だ。忘れてしまえ。

あ〜それが言えるのもすごいわ!
自分を信頼してくれてるって、それを信じられるのもメロスの心がキレイだからこそじゃん!

それが読み取れるのもあんたの心が綺麗だからね

五臓が疲れているときは、ふいとあんな悪い夢を見るものだ。
メロス、おまえの恥ではない。

そういう人間っぽさもうちは好き!

やはり、おまえは真の勇者だ。
再び立って走れるようになったではないか。ありがたい!

気持ちいい〜〜〜!! 文章がいちいちカッコよくて、読んでるだけで気持ちがアガるね!!

文体を楽しむ心が芽生えてる。文学読むの向いてるじゃないの

メロスも復活したし! やっぱ元気がいい人見てると楽しいよね!!

じゃあ文学向いてないかも

私は、正義の士として死ぬ事が出来るぞ。

でも、まだ終わったわけじゃないかんね!

ああ、陽が沈む。ずんずん沈む。

ここで間に合ってこそだから……

待ってくれ、ゼウスよ。私は生れた時から正直な男であった。
正直な男のままにして死なせて下さい。

ここからがショーネン場だよ!!

路行く人を押しのけ、跳はねとばし、メロスは黒い風のように走った。

黒い風……すごい表現だわ
純粋なメロスなのに、白とか赤じゃなくて”黒”で例えるんだ

そうね……泥だらけでなりふりかまってないイメージ?

言われてみれば、キレイなだけじゃないガムシャラな勢いは”黒”の方が感じるかも

あんた、本当に本読むの初めて?

野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、

……! めっちゃ近づいてる!
宴ってことは人が住んでる場所ってことだもんね!?

街まではあとちょっとありそうだけどね

でも、これは間に合ったっしょ! よっし!

酒宴の人たちを仰天させ、

いいねいいね! ギャグ漫画みたいで勢い感じるわ!

犬を蹴(け)とばし、

これは言わないほうがいいんじゃない?

小川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。

犬を蹴飛ばす必要はなかったよね

一団の旅人と颯さっとすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。
「いまごろは、あの男も、磔にかかっているよ。」

だ、大丈夫大丈夫! ただの噂だから!!

ああ、その男、その男のために私は、いまこんなに走っているのだ。
その男を死なせてはならない。

めっちゃ緊張してきた。これ間に合うよね?

なんか分かんないけど、見てるこっちも緊張してきた。結末知ってるのに

冬優子ちゃん……できればネタバレは勘弁で!

ネタバレは数年前にくらってるはずなのよ

急げ、メロス。おくれてはならぬ。
愛と誠の力を、いまこそ知らせてやるがよい。

そうだよ! 見せつけちゃお!

風態なんかは、どうでもいい。

フータイ、ってどういう意味?

見た目とか身なりのことね

ああ、それは今さら気にしてらんないって……!!

メロスは、いまは、ほとんど全裸体であった。

まあ、険しい道のりだったもんね
服の一枚やニ枚破けてもしゃーなし

呼吸も出来ず、二度、三度、口から血が噴き出た。

メ、メロス……そんなになってまで……

見える。
はるか向うに小さく、シラクスの市の塔楼が見える。

見えた!! もう街の中に入ったよ!!

まだ安心できなくない? 塔はまだ遠くにあるし

ここまできたら、あとは街中で「あれ? メロス来てるっぽくね?」って噂されると思うし、なあなあでなんとかなるんじゃね?

走れメロスがそんな締りの悪い結末なわけないでしょ

塔楼は、夕陽を受けてきらきら光っている。

皮肉にもキレイ!

「ああ、メロス様。」
うめくような声が、風と共に聞えた。

誰!?

「誰だ。」
メロスは走りながら尋ねた。

メロスも言ってる!! 誰!? 王の家来?!

「フィロストラトスでございます。

マジで誰!?

貴方のお友達セリヌンティウス様の弟子でございます。」

ここで新キャラ来んの!? 盛り上がってきた!!!

走れメロスで、そんなスマブラみたいな盛り上がり方する奴いないって

その若い石工も、メロスの後について走りながら叫んだ。

メロスはもういちいち止まってらんないからね

「もう、駄目でございます。むだでございます。
走るのは、やめて下さい。もう、あの方(かた)をお助けになることは出来ません。」
「いや、まだ陽は沈まぬ。」

メロスは迷ってない! あとちょっとだもん!

「ちょうど今、あの方が死刑になるところです。

うっそ!

ああ、あなたは遅かった。おうらみ申します。
ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」

うぅ〜! こんなんメロスがかわいそうだよ! 血を吐きながら、自分の迷いも葛藤も吹き飛ばして走ってるのになんでこんなこと言われなきゃなんないの!?

まあフィラストラトスにはそんな事情知ったこっちゃないからね、純粋に遅れてきたと思っちゃうわ

弟子からすれば師匠を見捨てられたって思っちゃったかもしんないんだよね……でも、今だけは恨みごとは言わんでほしい〜〜〜!!!

フィラストラトスもこの本読めばいいのに

無茶言うな

「いや、まだ陽は沈まぬ。」

それでも言い訳しないんだ、メロス……

メロスは胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕陽ばかりを見つめていた。
走るより他は無い。

「赤く大きい夕陽」……!!

ってことは……

もうこれしか残ってない

この写真だけ見せたら、愛依がまじめに読書してるとは誰も信じてくれないでしょうね

よしよし……どうなんのよ……

「やめて下さい。走るのは、やめて下さい。
いまはご自分のお命が大事です。

フィラストラトスにもメロスの気持ちは伝わったんかな。いちいち説明しなくても行動で示せたんだ

血を吐いて走ってるしね

あの方は、あなたを信じて居りました。
刑場に引き出されても、平気でいました。

セリヌンティウスもすごいね。ずっと信じていられるのって並の信頼じゃないよね

類は友を呼ぶっていうやつなのかもね

類友か〜

王様が、さんざんあの方をからかっても、メロスは来ます、とだけ答え、
強い信念を持ちつづけている様子でございました。」

うわ〜、セリヌンティウス視点のお話も読みたい〜〜〜! この本書いた人『待て、セリヌンティウス』は書いてないの!?

そんな犬の躾の教本みたいなのは無いわよ

「メロスはどうせ来ないぞ! お前のことは見捨てるに決まってる!」
「いーや、来る! 来るよ〜!」

絵面が絶望的に変わり映えしない話ね

「それだから、走るのだ。
信じられているから走るのだ。

うちも、二人がこのままお別れすんのはヤだ!
約束を守る、そのためだけにホンソーするメロス最高にかっこいいよ!

間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。

へ?

人の命も問題でないのだ。

???

私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。

……すごいことを話してんね。これはうちには分からない世界かも

たしかに抽象的ね。でも、なんとなく言いたいことは分かるんじゃない?

なんとなく……でもこれを分かろうとするのはヤボなんかな

ついて来い! フィロストラトス。」

すごい! メロス一発で名前覚えたんだ!

「ああ、あなたは気が狂ったか。それでは、うんと走るがいい。
ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。走るがいい。」

「走るがいい」?なんでちょっと偉そうなん? メロスはお師匠さんのために全力で走ってるのに?

まあそれはそう

言うにや及ぶ。まだ陽は沈まぬ。
最後の死力を尽して、メロスは走った。

あれだけしゃべったのに全然ペース落ちてない!

メロスの肺活量まで気にして読んでるんだ

メロスの頭は、からっぽだ。何一つ考えていない。
ただ、わけのわからぬ大きな力にひきずられて走った。

いけ……! いけ……!

陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時、
メロスは疾風の如く刑場に突入した。

どっち!? これはいけた!? どっち!!??

間に合った。

間に合った!!!

走れメロスの応援上映?

「待て。その人を殺してはならぬ。
メロスが帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た。」

帰って来た!!!

コンディション万全の乙事主?

と大声で刑場の群衆にむかって叫んだつもりであったが、

「あったが」?

喉(のど)がつぶれて嗄(しわが)れた声が幽(かす)かに出たばかり、
群衆は、ひとりとして彼の到着に気がつかない。

ちょっ……そ、そんなことある……!?
さっきめっちゃフィラストラトスと喋ってたじゃん……!!

あれのせい……!?

フィラストラトスからすれば随分な当て擦り事故が発生している

すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれたセリヌンティウスは、徐々に釣り上げられてゆく。

待って待って! マジで待って!

メロスはそれを目撃して最後の勇、
先刻、濁流を泳いだように群衆を掻きわけ、掻きわけ、

頼む……!!

「私だ、刑吏! 殺されるのは、私だ。メロスだ。
彼を人質にした私は、ここにいる!」

気付いて……!

と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついに磔台に昇り、
釣り上げられてゆく友の両足に、齧(かじ)りついた。

あっ……あっ……あっ……!

群衆は、どよめいた。

気付いた……!

あっぱれ。ゆるせ、と口々にわめいた。

やった……やった……!!

セリヌンティウスの縄は、ほどかれたのである。

よかった〜!!

愛依ってスポーツ観戦みたいに読書するのね

「セリヌンティウス。」
メロスは眼に涙を浮べて言った。

やっと2人が会話できるんだ。メロスがんばったね!

「私を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。
私は、途中で一度、悪い夢を見た。

しょうがないことだと思うけど、メロスはそれでも自分が許せないんだね。やっぱすごい人だわ

君が若(も)し私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」

抱擁…?

ハグのことね

はー……熱い男だね、メロスは

セリヌンティウスは、すべてを察した様子で首肯(うなず)き、刑場一ぱいに鳴り響くほど音高くメロスの右頬を殴った。

これに答えてくれるのもセリヌンティウスの優しさだよね

殴ってから優しく微笑ほほえみ、
「メロス、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。
私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。

ああ……セリヌンティウスにもそういう時間があったんだ……

でもこっちも疑ったのがただの一回って、すごいよ……メロスよりもよっぽど自分の死を感じてたのに

生れて、はじめて君を疑った。
君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」

お互い殴り合ってチャラにするんだ。チョー青春じゃん……!

メロスは腕に唸(うな)りをつけてセリヌンティウスの頬を殴った。

……え?

なんでちょっと力込めたん?

別にいいでしょ、そういう表現ってだけでしょ

でも、腕に唸りだよ?

こうだよ?

ちょっ……ふふ、あんたやめなさいよ

こうだよ???

ふふ……ふっ……別にメロスはそういうつもりじゃないって……ふふっ

「ありがとう、友よ。」
二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。

完璧な友情じゃん〜〜〜〜〜!!

あーあ、また泣きそうになってんじゃないのよ

冬優子ちゃん、ちょっとハグしていい?

はぁ?

うちもメロスとおんなじ気持ちだから〜〜〜〜!

好きにすれば

ありがとう、友よ〜〜〜〜〜〜!!!!!!

……言わないわよ

群衆の中からも、歔欷(きょき)の声が聞えた。

歔欷ってのは……

啜り泣くって感じね、二人の友情に胸打たれた群衆が泣いてんのよ。今のあんたみたいにね

そりゃそうなるよ〜! うちも生で見たかった〜!

「走れメロス」に現地組はいない

暴君ディオニスは、群衆の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、

どうよ!!ディオニス!! 見せつけてやってんじゃん!!

やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、こう言った。

何て言うんだ…? こんなことになったらハンパなことは言えないもんね

「おまえらの望みは叶かなったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。
信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。
どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。
どうか、わしの願いを聞き入れて、
おまえらの仲間の一人にしてほしい。」

ディオニス……! 分かってくれたんだ……!!

これを言えるディオニスもすごいよ……!!

どっと群衆の間に、歓声が起った。
「万歳、王様万歳。」

……最高じゃん

ひとりの少女が、緋(ひ)のマントをメロスに捧げた。
メロスは、まごついた。佳き友は、気をきかせて教えてやった。

ひぅ……っ

「メロス、君は、まっぱだかじゃないか。早く そのマントを着るがいい。
この可愛い娘さんは、メロスの裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」

う……グぅ……

勇者は、ひどく赤面した。

……。

(古伝説と、シルレルの詩から。)

ひぃ……ん……

読了!!

ということで、3時間かけて見事「走れメロス」を読み終えました。
平均の6倍の時間はかかったものの、生まれてはじめて本を読み切ることに成功! ここまで読んだあなたもお疲れさまでした!

今まで本を読みきったことがないから、自分でもどうなるか分かんない。読み終わる頃には頭が一回り大きくなってそう

読む前はこんなことを言っていた愛依ですが、実際は……

号泣

最後に泣くと思わなかった……

「本が読めない」って言ってる層にこんな逸材がいたなんて

こんなに幸せな終わり方になると思ってなかったから……

これは……もう

月9でやった方がいい

そういう話じゃない

どうにも愛依は読了後感極まりすぎていたので、一旦泣き止むのを待ってから改めて感想を聞くことに。

いえ〜い! 本、読めちゃった〜! ブイ!

すごい読書体験だったわね。これって「走れメロス」がすごいの? 愛依がすごいの?

メロスっしょ! 本を読むのが苦手なうちでもこんなに心動かされるんだから

あんたはもう本を読むのも得意よ

やっぱ「声に出して読んでいい」って状況が良かったんかな〜。目だけじゃなくて耳からも入ってくるから、すごくラクだったわ

それがあるから感情移入しやすかったのかしら

それにうちもさ、今ずっとアイドルとして夢を追って走り続けてきてるわけじゃん。その道の途中で何度も失敗して、傷を負うこともあって。

それでも、自分の進んでいる道は……うちがその夢を叶えるって信じてくれている人たちがいる限りは、間違いなく未来に続いている道なんよね

失敗は成功のナントカ、っていうものね

うちも、負けてらんない。メロスに負けてらんない。

『走れ愛依』……コーゴキタイ!!

まともに本を読んだのはこれが初めてとのことでしたが、選んだ題材と自分自身との親和性を強く感じたらしく、最後まで飽きることなく熱中して楽しめたようです。
もはや本に全く触れることない日々を過ごす人も珍しくない現代。習慣がない人にとってはページをめくることすら億劫に感じるかもしれませんが、本に慣れていない彼女がこれだけ楽しめるというのなら、たまには本の世界に身を浸してみたいとも思えてきますね。

空を見上げればペガサス座やアンドロメダ座が輝く秋の空。今年の秋は読書の秋にしてみるのもいいかもしれませんね。

終わりに
後日、愛依から読書感想文が送られてきました。そちらを紹介してこの記事の締めとさせていただきます。

マジで良かった!! 笑いあり、涙ありの大興奮スペクタクルってやつ!? メロスがその時々で感じてることが自分の肌で感じられるみたいなカンジ!?本を読んでるはずなのにまるで映画を見てるみたい感覚だった!
太宰先生の表現力がすごいんだなって思った。うちは言葉も知らんし、表現も知らんのに、それでも伝わってきちゃうのは言葉の使い方が上手いんだろうね。憧れちゃう。ダツボー。
メロスのお話はうちとは全く別のところで起きた物語で、うちとメロスは全くの別人なのに、そこにうちがいたんだよね。メロスだけじゃないや、ディオニスもセリヌンティウスもフィラストラトスも全部うちだった。こんなに感情が揺れ動くんだって、勉強になったし、新しいことに気づかせてくれた。
そんで何よりメロスがチョーかっこいい! 正義や友達もそうなんだけど、もっと大きなもののために自分の体も服も気にせずに走り続けてるのが最高すぎ! 国民憲章?かなんか表彰しないとメロスに申し訳ない! 何も授与されてないならうちが賞をあげる! メロスかっこよすぎで最高で賞!

以上です。

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