超入門コトラーのマーケティングマネジメント、安部徹也

・マーケティングとは、顧客との関係性を強めてものが売れる仕組みを作ること。究極的には、「買ってください」と言わなくても、顧客から「売ってください」と言われる状態にすること。

ニーズとは生活者が求めているもので、明言されていたりされていなかったりする。ニーズを具体化したものがウォンツで、例えばマクドナルドのハンバーガーがそれにあたる。ウォンツの中には購買力により買えたり買えなかったりするものがあるので、資金力を背景にした需要をディマンズと言う。

・市場を年齢や職業などで細分化することをセグメンテーションと言い、自社が成功しそうなセグメントを特定していくことをターゲティングと言う。ターゲティングが定まればその人たちのニーズを把握して商品開発し、他者との差をつけるためにポジショニングを行う。

・顧客に満足してもらうためには、QSP (Quality, Service, Price)を考える必要がある。

・商品販売のために、3つのマーケティングチャネルを意識する。コミュニケーションチャネルは、企業から顧客にメッセージを送り(また受け取る)チャネル。新聞やテレビやネットなど。流通チャネルは商品を届ける。サービスチャネルは、金融はロジスティックスなどの協力会社。アマゾンは早い運送会社を使って早く届くを実現し、クレジットの決済システムを使って簡単な支払いを実現している。

・マーケティングチャネル以外に、生産のチャネルもある。サプライチェーンは、商品の原料調達から製品を完成するまでの一連の工程を指し、サプライチェーンのプロセスを一つ経るごとに付加価値が高まる。

・マーケティングを実行する際、マーケティング環境を知る必要がある。タスク環境は自社や協力会社に関わる環境、ブロード環境は外部環境。

・マーケティングの実践は、決まったプロセスを経ていく。それにより成功確率が高まる。機械の分析(R)→STP→Marketing Mix (4P)→実行(I)→結果の振り返り(Control)

・マーケティング戦略は現場寄りの機能であり、全社戦略や事業戦略と整合性が取れていないと効果を発揮しない。例えば、高品質化することで他社との差別化を図る事業戦略なのに、「高いと売れない」ということで、低価格化するマーケティング戦略を打つと、ブランド毀損にすらつながりかねない。マーケティング戦略は、ミッション(社会に何ができるのかという理念)やビジョン(ミッションを具体目標に落とし込んだもの)を意識すべきである。

・伝えるべき価値を定め、価値を創造(商品を作る)し、価値を伝える(コミュニケーション)、この一連の流れを意識することが重要

・自社の得意な領域に経営資源を投下して、他はそれぞれその領域が得意な会社にアウトソースすることで、生産性を飛躍的に伸ばすことができる。コアリソース(中核を担う経営資源。例えば駅前の一等地)、コアコンペテンス(核となる技術)、ケイパビリティ(組織的な能力。スピードや品質など)が鍵となる概念。

戦略マーケティング計画では、誰にどのような価値を提供するか方向性を決める。戦術マーケティング計画では具体的にどのような製品にしてどのような価格にするか、販売チャネルをどうするかなど戦い方を決める。

・全社ミッション→事業部ミッションが決まったら、環境分析をする。環境分析は外部と内部に分けられる。SWOT分析のフレームワークを使うと、抜け漏れなく分析できる。機会は、世の中に不足しているもの、既存のサービスのアップグレード、世の中に今まで全く存在しなかったもの、というあたりにある。脅威は、深刻度と発生確率で四象限に分けた脅威マトリクスを使うとわかりやすい。強みと弱みはチェックリストを使うとわかりやすい。磨くべきは、機会を捉えられる強みを、他社の追随を許さないレベルまで上げること。弱みの補強をするよりも、そちらに資金を充てるほうが良い。

・環境分析の後は現実的で数字で表された目標設定し、目標達成のための戦略を描く。戦略には、マイケルポーターの3つの基本戦略がある。コストリーダーシップ(大きな市場で低コストで戦う)、差別化(大きな市場で品質で勝負する)、集中(小さな市場にフォーカスして、そこでの優位性を築く)。

・戦略を計画に落とし込む際は、マッキンゼーの7Sというフレームワークが便利。ハードの3S(Strategy, Structure, System)と、ソフトの4S (Shared Values, Style, Staff, Skill)から構成される。目標に対しては結果が伴うが、結果の分析をする際も7Sのフレームワークは有効。

・事業レベルの戦略が完成したら、最後は製品レベルのマーケティング計画を立てる。一年スパンが一般的。Executive Summary, 状況分析(市場規模や競合情報など)、マーケティング戦略(ターゲット顧客とニーズから、どのような価値を提供するのかストーリーを示す)、財務予測(売り上げ予測やコスト予測を示す)、コントロール(予測とズレた場合、どのように軌道修正するかを示す)

マーケティングリサーチによる情報戦略で、優位に立つ。環境を理解しないまま市場に入るのは、目が見えないまま市場に入るのと同じこと。まずはマクロ環境のトレンド把握をする。例えば、今は消費者は環境にやさしい製品を好む、など。そして、社内に眠る過去の顧客データを活用する。それでもわからないものは、調査する。そうして、マーケティング課題が浮き彫りになれば、マーケティングリサーチを行う。例えば、環境に優しいペットボトルを使った場合、どのくらいの価格なら顧客は購入してくれるか?など。それによって需要予測を立て、需要過多や供給過多を防ぎ、マーケティング通りの結果を実現する。

・トレンドには3つあり、ファッドは短く、たまごっち大量生産に乗り出したバンダイはファッドを読み違えて250万台、60億の赤字を出した。トレンドは持続性があり、ある程度予測可能。例えば、日本は高齢化に向かってる、など。ベネッセは高齢者向けの有料老人ホームの経営に乗り出し、成功している。メガトレンドは社会、経済、政治、技術の大きな変化により10年以上のスパンで引き起こされる変化。例えば、1980年にIBMが作ったパソコンのヒットなど。うまく捕まえると、巨大な利益を生み出せる。

・トレンドを理解するためには、デモグラフィック環境(人口や年齢)、経済環境(GDPや円安円高)、社会的環境(ライフスタイルなどの変化)、自然環境(環境破壊に対する意識の変化など)、技術環境政治的法的環境、への理解が鍵となる。

マーケティング情報システムを作ることで、必要な情報がすぐ取り出せるようにする。社内記録(POSデータやデータベース、クレーム記録など)、マーケティングインテリジェンス活動(書籍や新聞の情報、ミステリーショッパーによる売り場調査など)、マーケティングリサーチ(特定の機会や課題に対する調査、製品選好調査や広告調査や地域別売り上げ予測など)、を取り込んでおくと良い。

・マーケティングリサーチをする際は、低コストでまかなえる二次データであたりをつけ、どうしてもわからない、明らかにしたい部分にコストをかけて一次データを使う。

・市場の需要を喚起する時に、4つの市場を意識する。潜在市場は、自社製品に関心があり買う力も持っている人の集合体。有効市場は、法的政治的にも製品サービスを使うことができる人の集合体(例えば、免許を持っている)。標的市場は、有効市場の中で注力するグループ(例えば20代女性)。浸透市場は、既に自社製品を買っているグループ(例えば、既にトヨタの自動車を持っている)。このように市場を分類すると、より細やかな戦略が描ける。

・顧客の知覚価値(いくらの価値があると顧客が思うか)をあげることが満足度向上のためには重要。また、Total Quality Management(TQM)も意識する。

・個々の顧客の生涯価値の総和をカスタマーエクイティと言う。企業の最大の目的はカスタマーエクイティを高めること。そのためには、バリュー(価値)、ブランド、リレーションシップ(顧客との関係性)に注力する。カスタマーとのリレーションは、CRM (Customer Relation Management)施策により高める。顧客の離反率と要因を特定し、改善コストが離反による損失利益を上回るなら、対策を講じる。

・STPによりまず「どこで戦うか」を決めたら、最後positioningを決める。その際にブランディングに注目する。顧客目線の、類似点連想相違点連想を考える。相違点連想がブランディングにおいて、他者との差を明確化する鍵になる。差別化戦略は、製品による差別化、スタッフによる差別化、チャネルによる差別化、イメージによる差別化がある。

・企業カテゴリによってとるべき戦略は変わる。リーダーは、総市場を拡大させつつシェアの防衛と拡大が戦略になる。下位の企業は差別化された製品を投入してくるので、リーダーはすぐそれに対抗できる製品を開発して低価格で販売できるようにする。チャレンジャーは二番手の企業で、一位を目指すがリーダーよりは経営資源に劣るので、同じことをしても勝てない。なので、差別化された商品や真似されにくいビジネスモデルを開発する。攻撃対象はリーダーのこともあるが、同規模の企業や劣る企業の場合もある。フォロワーは三番手の企業で、今のポジションを維持しようとする。リーダーやチャレンジャーが多額の資金を投じて作ったものを真似しようとするのが基本戦略。つまり、product innovationではなく、product immitationを行う。ニッチャーはリーダーやチャレンジャーにとって魅力を感じない小規模な市場でのリーダーになることを目指す。

・顧客が求めているのは製品ではなくベネフィット。つまり、「顧客が求めているのはドリルではなく穴」である(セオドア・レビット)。それがプロダクト戦略。そして、顧客の望むベネフィットを提供できたら、買いたいと思わせる絶妙な価格設定が必要となる。それがプライス戦略

・差別化は、製品(形態、特徴、品質、耐久性や修理可能性)、デザインサービス(注文の容易さ、配達、アフターサービス)に差をつけることで行う。

・複数の製品を組み合わせて売り上げを伸ばす手法を、プロダクトミックス戦略と言う。プロダクトミックスのとは、ラインの数(ハンバーガー、サイド、ドリンク)。プロダクトミックスの長さとは、製品数の合計(ハンバーガーが13、サイドが14、ドリンクが24なら、合わせて51)。プロダクトミックスの深さとは、それぞれの製品のバリエーション(コーラがレギュラーとゼロがあり、かつLMSがあるなら6)。プロダクトミックスの整合性とは、製品同士の関連性の高さ(ハンバーガー、サイド、ドリンクならば高い整合性)。

・プライシングをする場合、目的別で取るべき方法が変わる。生き残りの場合、短期的には安くするなどの戦略があり得るが、中長期で変えていく必要がある。最大経常利益を選ぶ場合は、予測を元に経常利益が最大となる価格設定をする。最大市場シェアを狙うなら、市場に浸透するため、市場浸透価格戦略を取り、思い切った安い価格で販売する。最大上澄み吸収を狙うなら、技術力やブランド力が高いのであれば、短期で投資額を回収できる可能性がある。品質のリーダーシップを目指す場合は、高い品質を維持するとともに、最高品質に相応しく高い金額設定をする。

価格の弾力性とは、価格変動による顧客の反応の大きさのこと。米などの必需品は弾力性が低く、ブランドものなどの嗜好品は弾力性が高い。弾力性が高いなら、売れない時にあえて高価格帯にしてみることで売れ出すこともある。

・コストは売り上げに応じて変動する変動費と、人件費やオフィス賃料などの固定費に必ず分類できる。コストの分析をすることで、戦略的な値下げも可能になる。費用はまた、直接費(工場のラインの人件費など生産に直接かかった費用)と間接費(本部の人件費など)にも分けられる。コストを決めるには、まずは手頃な値段を決めて、充分な利益を得られるかをあとで確認するという手法もあり、ターゲットコスティングと呼ばれる。

・コストを見積もることができれば、それが価格の下限となる。その上で、価格を設定するには、マークアップ方式(原価に対して何%の利益がほしいか)、ターゲットリターン価格設定(ROIの目標があり、それを実現するにはどうしないといけないか)、知覚価値価格設定(Price Sensitivity Measurement分析によって、適切な価格を求めていく)、バリュー価格設定(思い切った値下げをする。そのためには普通のことをしていては不可能なので、俺のフレンチのように立ち食いスタイルにして回転率を上げる、のような工夫が必要になる)、現行レート価格設定(消費者が商品を選択する基準が価格になっているような場合、競合の価格設定を参考にすることになる)、オークション型価格設定(ヤフオクなど)。

・顧客の欲求を満たす商品を適切な価格で生み出せたとして、欲しい時に顧客の目の前になければ買ってもらえない。流通チャネルを最適化するプレイス戦略も重要である。じゃがりこはスーパーでは割引で100円で売ってるが、観光地では定価の840円で売ってる。プレイス戦略によって欲しい時に目の前に、を実現できればこのような戦略も取れる。プレイス戦略を考える上では、Time, Place, Occasionを考えると良い。

・商品を売る際、流通チャネルの力を頼る必要がある。既存の流通チャネルを使うことで、自社で流通を構築するコストもリスクも大幅に抑えられるからである。流通は、生産者と消費者の間にどれくらい中間業者がいるかで長さが変わる。流通をかまさない場合、0段階チャネルと言う(自社ECや訪問販売など)。生産者→小売は1段階チャネル、生産者→卸売→小売は2段階チャネル。卸売が2階層になってると3段階チャネル、などと言う。

プロモーション戦略では、マクロとミクロに分けて考える。マクロモデルでは、企業が消費者に対してメッセージをエンコードし、消費者がそれをデコードすることでコミュニケーションが成立する。その際、選択的注意(目を向けるメッセージはほんの一部である)、選択的歪曲(意図していた意味とは違う意味を読み取る)、選択的記憶(覚えているのはメッセージの一部だけ)ということが起きる。ミクロモデルでは、企業のメッセージに接した消費者の反応に注目する。それは、認知→情動→行動という順番で起こる。

・マーケティングコミュニケーションは、①ターゲットを定める(これが決まらないと何を伝えてどうしてもらいたいのかが決まらない)、②コミュニケーションの目的を定める(誰に、何をどうしてほしいのか)、③コミュニケーション戦略を定める(何を、いかに、誰が発信するか。メッセージ戦略、クリエイティブ戦略、メッセージの発信源。コミュニケーションがうまくいかない場合、メッセージか、クリエイティブの表現のどちらかに問題がある可能性がある。クリエイティブは情報型と、情緒に訴える変容型がある。)、④コミュニケーションチャネルを選択する(営業担当や口コミなどの人的チャネル、メディアやパブリシティなどの非人的チャネル)、⑤予算の決定(支出可能額を計算して求める、売り上げに対する割合で求める、競合と同程度の予算を使って負けないようにする、といった方法がある。売り上げが落ちている時にこそプロモーションにコストを割くべきという考えに立つと、売り上げに対する割合で求める方法は、売り上げが伸びてる時に一番コストを使うことになるので、注意が必要)、⑥マーケティングコミュニケーションミックスを決める(予算の範囲内で、広告、販売促進、パブリックリレーション、イベント、セールスフォース、ダイレクトマーケティング、の効果的な組み合わせを決める)、⑦効果測定をする(認知に至ったか、商品を買ったか、買ってみてどうだったか、など質問を重ねて、コミュニケーション戦略に問題がなかったか、買えなかったならチャネル戦略に問題がなかったか、満足度が低いなら商品に問題がなかったか、などを振り返る)、⑧統合型マーケティングコミュニケーションに発展させる(Integrated Marketing Communication。あらゆるチャネルで統一したコミュニケーションを行う)

・マーケティングとは再現性のある科学であると同時に、常に変化する現実に対応していく実践的な手法でもある。実験を繰り返し、常に理論を補完していくマインドを持ち、理論と実践のバランスを取ることが、マーケッターの心得である。

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