サロメ、オスカーワイルド、平野啓一郎訳、光文社古典新訳文庫

・ヨハネの首をヘロデ王に求めた王女サロメの戯曲。聖書からの引用や、キリスト教的象徴(例えば白孔雀がキリストの象徴である、など)が多用されていて面白い。聖書ではサロメは母ヘロディアに唆されてヨハネの首を求めるが、この戯曲では狂っているかのように美青年ヨハネの口づけを求める。

・訳者によると、この作品のサロメは純真である。処女であり、まともに口づけをしたことすらない。故に、ストレートにヨカナーン(ヨハネ)の体を求めるが、これは母ヘロディアが作品においてバビロンと同一視されており、サロメは「バビロンの娘」であるからバビロン的なものを生まれながらにして背負わされている。つまり、これは原罪のメタファーである。

・サロメは視線のドラマであり、ヘロデの近習は若いシリア人を見ており、若いシリア人はサロメを、ヘロデもまたサロメを、サロメはヨカナーンを、ヨカナーンは神を見る。しかし、神は人間を見ているか?斬首されたあとのヨカナーンの目は開いていない。

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