いまこそ知りたい!「商標権」の基本を弁護士の先生にまなぶ勉強会 #安心創作勉強会
noteを含めインターネットで発信するときに必要な知識、考え方をまなぶオンライン勉強会シリーズ「安心創作勉強会」。今回のテーマは、ニュースやSNSで話題になることが多い「商標権」です。
教えてくれるのは、クリエイター専門の法律事務所しろしinc.代表弁護士の山田邦明さん。
商標権の基本的な考え方や自分の作品を商標登録する方法、他人の商標権を侵害しないために注意すべき点などについてご説明いただきました。
教えてくれるひと
山田邦明さん
法律事務所しろしinc.代表弁護士
商標権とは
山田 まず最初にクリエイターのみなさんにお伝えしたいのは、法律の解釈には白黒はっきりつけられない、つけづらいグレーな部分がたくさんあるということです。
商標権について争われる際も、その要因が法律上のものなのか、むしろ倫理や感情的なもつれが原因となっているのか、またはそのどちらもなのか。さまざまなケースが存在します。
こうしたことを踏まえたうえで、クリエイターのみなさんが最低限知っておいた方がよいと思われる商標権の基本的なルールや考え方についてお話ししようと思います。
商標について、条文には以下のように記載されています。
つまり商標には、以下の3つの要素が含まれています。
①(商標権者の)信用を維持する
②①により産業が発展する
③商標を見る人の利益も保護する
商標の種類
山田 商標となりうるものを標章といいます。標章とは、わかりやすく言うとロゴやロゴ+文字などです。中でも商標は「事業として、商品やサービスについて使用するもの」と定義されているのがポイントです。
<商標の代表的なもの>
①文字
②ロゴ
③文字+ロゴ
<実例>
商標の区分
山田 商標はそれぞれ、どんな事業でつかわれているかによって1類から45類までに分類されます。
商標は、標章と事業区分の組み合わせで決定されています。ここが一般的に見落とされがちな点なので、わかりやすいように私の法律事務所「しろしinc.」のロゴで説明しましょう。
上に記載の「しろしinc.」のロゴ(標章)は、45類「弁護士業」で商標登録されています。ですので、ほかの業者がこのロゴと酷似したロゴを「しろしinc.」と同じ弁護士業や法律系のサービスに対してつかうことはできません。
しかし、同様のロゴを第43類飲食業の「しろしレストラン」で使用することは、基本的な考え方としてはOKということになります。
ただし、類似した商品やサービスの場合はより細かな要件があります。かなり複雑なので、ここではくわしく述べません。
ざっくりとした考え方だけ、下記に記します。
登録された商標は、適用された分類に当てはまる指定商品・役務(サービスなど)については独占的に使用できます。他の企業やひとが同じ商標をつかっていた場合に、「その商標をつかっちゃ駄目だよ」と指摘できるということです。
さらに、指定商品・役務と類似している商品や役務に関しても、同ロゴがつかわれた際には「類似しているのでつかわないでください」と言うことができるんです。
どこまでを類似とするかの判断はすごく難しいのですが、みなさんはこの考え方だけ覚えていれば十分だと思います。
自分がもっている商標がだれかのものと似ている、もしくはだれかの商標が自分の作品と酷似していると気づいたら、問題になりそうかどうかを専門家に相談してみましょう。
商標登録をするメリット
山田 商標登録をすると可能になるのが、自社や自社商品、サービスのブランド化です。
商標の認知が広がって定着すれば、ロゴや文字を見ただけで多くのひとがその会社の名前やサービスのイメージをはっきりと思い浮かべられるようになります。
たとえばnote社のことをある程度知っているひとがnote社のロゴを見ると、「創作の街」などといったnote社に関する抽象的な概念が一瞬で頭をよぎる、といったようなことが起こるわけです。
自社のブランドを守りたいと思うなら、商標権は取っておいた方がいいでしょう。
商標をとっておけば、先に言ったように、他者に自分の商標(類似を含む)をつかわないよう警告することができます。また、他者に自分の標章を先に登録されてしまう事態を避けることも可能になります。
たとえばもし僕がしろしのロゴを商標登録しておらず、だれかが先に同分類で登録してしまった場合、僕はしろしのロゴをその後つかえなくなってしまうんです。
もちろん裁判などで争うことはできますが、勝てるかどうかはわかりません。自分の会社や商品を将来どんなふうにしていきたいかが明確になったら、そのタイミングで商標登録するのがいいと思います。
商標の取得方法
山田 商標登録の手続きは、弁理士さんに頼むのが何よりおすすめです。弁理士さんは「知的財産に関する専門家」。商標権に関して、蓄積されたノウハウをもっています。
弁理士さんは、どの区分を取っておかないと侵害の主張が通りづらいとか、特許庁が商標について実際にどのような運用をしているかなどについてもくわしいんです。
クリエイターのみなさんはぜひこうした専門家を味方につけて、ちょっとでも不安があるときにはすぐに相談するようにしてほしいですね。
商標登録を出願するのに資格は必要ないので、時間と手間はかかりますが自分で出願することもできます。その際は、特許庁の「商標登録出願書類の書き方ガイド」を参照していただくとよいでしょう。
商標登録できない理由
山田 以下の場合は、出願しても基本的に商標登録ができませんので注意してください。
①自分で事業をする気がない
②事業が公序良俗に反する
③すでにその標章をつかっている著名人がいる
また、自分がつかっている標章をだれかが先に商標登録してしまった場合、以下の手続きをすることで相手の登録を無効にできる可能性もあります。
ただ、手続きはとても大変ですし、必ず取り消せるものではありませんので、大事な標章に関してはやはり早めに商標登録出願をすることをおすすめします。
商標はだれでも検索可能
山田 日本で登録されている商標約167万件(2020年現在)に関しては、「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」でだれでも検索できるようになっています。
自分がつくった標章がすでに他者によって商標登録されていないか、類似のものが登録されていないか不安になったひとは、ここで検索してみるとよいでしょう。
万が一、商標権を侵害してしまったら
山田 最後に、自分が無意識のうちにだれかの商標権を侵害してしまった場合の対応についてお話しします。
基本的に「悪意をもって商標権を侵害し、大儲けをしていた」などのケースでない限り、裁判になったり刑事罰を課されたりはしないと思います。
ただし、もしも「当社の商標権を侵害していますよ」という連絡がきたら、できるだけ早急に誠実な対応をするようにしましょう。
クリエイターが法律を過度に気にしすぎて創作の幅を狭めてしまうのは残念なことです。法令遵守の姿勢はしっかりと守りつつ、自ら知識をつけたり専門家を味方につけたりして、安心して創作を続けていっていただけたら僕はとてもうれしく思います。
(敬称略)
登壇者紹介
山田邦明さん
法律事務所しろしinc.代表弁護士
京都大学法科大学院を卒業後、スタートアップ向け法律事務所で弁護士として活動。知的財産や資金調達に関する契約業務などに従事。その後、株式会社アカツキにジョイン。管理部門の立ち上げ、IPO業務の主担当として、上場に貢献した。自身がクリエイティブに救われたことから、クリエイターのパートナー事業をおこなう「しろしinc.」、クリエイター専門の「しろし法律事務所」を設立。特に好きな創作は、マンガ。2022年5月に著書『クリエイター1年目のビジネススキル図鑑』を上梓。
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