見出し画像

大滝詠一さんについて。原田夏樹evening cinema

僕が記憶している中で初めて聴いた大滝詠一さんの楽曲は、車で流れる「泳げカナヅチ君」だった。下手したら小学校に上がる前のことだったので、当時は歌ってるアーティストが誰なのかも知らないし、ただただ「変な曲 」とだけ思ったのを覚えている。曲名のせいもあって、当時はやってた「だんご三兄弟」(これはシングル買ってもらっていたと思う)とかと同じ括りで考えていたように思う。特にAメロの歌唱がなんとも独特で、幼心に強烈だった。

それからしばらくして、洋楽を習慣的に聴くようになってから、僕は再び大滝詠一さんに出会うことになる。ビートルズの「Back in the U.S.S.R.」から、ビーチボーイズにのめり込み、山下達郎さんのカバーを聞くようになり…といった具合に、邦楽もかじり始めた頃だった。「あ、カナヅチ君ってビーチボーイズだったんだ」と分かるのに、時間はかからなかった。後に、あのAメロの変な歌い方はエルヴィスの「King Creole」を意識してるんだということもわかってくる。


小学校の掃除の時間に、90年代のヒット曲集が流れていて(なぜだろう、どこの学校もおんなじような風習だったのだろうか。歌唱はなく、インスト音源でリードシンセがメロをなぞってる、スーパーで流れてそうなアレである)、そこで米米CLUBの「君がいるだけで」を知る。聴きたくなって、後日CD屋に行ってお小遣いで買ったのが、『輝け! 月曜ドラマ王 90's』というコンピだった(未だに何でこれを選んだのか分からない)。この1曲目に所収されているのが「幸せな結末」だった。まさか、「カナヅチ君」を歌っている人物と同一であるとは思いもよらない。これが大滝詠一さんとの2度目の出会い。結果、この曲を一番聴いていたと思う。これもまた後ほど、いくつか元ネタがあるということがわかってくるのだが…。


実は、こういう経緯があったので、僕が初めて聴いた大滝詠一作品は『A LONG VACATION』ではなかった。ここ数年で「君は天然色」をCMやタイアップで耳にすることが増えたが、当時はそんなこともあまりなかったかなと思う。しっかり意識的に聴くようになったのは、高校生になってから。自分の中で、何となくだけど体系的に音楽を聴くようになっていた頃だった。僕は一丁前に曲のクレジットを調べたり、元ネタを探したりするようになっていた。ここで初めて、大滝詠一という人の音楽が膨大な量の知識に裏付けられたものだったということを知る。

ここで詳しく語ることは叶わないけれど、大滝さんの知識量は半端じゃなくて(しかもその範囲は音楽に限らない)、達郎さんとやってた「新春放談」なんて、興味本位で聴いてみてもほとんど訳のわからないことを延々と喋ってる。彼の作品に数多の元ネタがあるということも、当時の僕にはすごく魅力的なことだった。

僕が音楽活動で一番影響を受けている人と言ってもいいかもしれない。どこで言っていたか忘れたけれど(多分ラジオ)、「パロディーも突き抜ければオリジナルになる」というようなことを話していたのが大変印象的だ。以前僕がインタビューしていただいた時に話したことなんだけど、創作活動における基本というものは「借りもの」なのであって、「なにをどう借りるかを選ぶ」センスが、そのひとのオリジナリティである。そういう考え方や姿勢は、大滝詠一さんから学んだのだ(逆に言ってしまえば、「完全なオリジナルです」って言った憚らない人とかは、ちょっと傲慢だなとも思う)。大滝詠一さんの方法論については、いつか軽くまとめられたらと思う。

この3/21でロンバケ40周年。40年経っても全く色あせることなく、これが変わらず日本ポップスのひとつの頂点であるというのは、ただただ感銘を受けるほかない。ここ数年ではあまりしなくなっていた聴き方だが、ライナーノーツと睨めっこしながらスピーカーで聴いて、ニヤニヤしようと思う(BOXセットも予約したので)。サブスクも解禁されるようなので、是非聴いてみて欲しいです、「泳げカナヅチ君」(笑)。


『最新情報』 
本日3/15(月)発売の雑誌「Pen」の特集「大滝詠一に恋をして。」にて、光栄なことに、大滝詠一さんの音世界を受け継ぎ、今に繋ぐ現代音楽クリエイターの一人としてインタビューが掲載されますのでぜひチェックしてみてください
アマゾンでの購入はこちら 


原田夏樹 evening cinema
https://linktr.ee/evening_cinema

出演、取材、楽曲提供、コラム等のご相談はHPよりお願いいたします。
https://www.evening-cinema.com/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?