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ヨーロッパ的なるもの:小話10 フードマーケットから感じる力

【フードマーケットから感じる力】
 ヨーロッパのフードマーケットからはヨーロッパの活力を感じると言うと大げさでしょうか? ヨーロッパでも、普段の食材は手近のスーパーマーケットで調達することがほとんどです。しかしヨーロッパにはスーパーマーケットに加えて、大都市であっても中小の都市であっても、フード・マーケットやファーマーズ・マーケットがほぼ必ずと言って良いほど存在します。
 
 それらはいつも大賑わいで、その町に根付いており存在感は非常に大きい。ヨーロッパ各地では、中世から常設の食料品店に加えて、オープンエアでのマーケットが開かれてきました。スーパーマーケットがどれほど浸透しても、その地位が揺らぐことはありません。ロンドンのバラ・マーケットなど、今の場所に少なくとも12世紀からはあるとしているほどです。
 
 その形態は様々です。ベルギーのブルージュなどのように週1や、週の複数の決まった曜日にマーケット広場に屋台形式で開催されるもの。ロンドンのバラ・マーケットのように、常設だが屋根があるだけでオープンなもの。そして、フィレンツェ、リヨン、ツールーズ、コペンハーゲンなどヨーロッパのあらゆる地で、近代や現代の大きな建屋の中に入っているものなど。
 
 天気の良い日にエクサンプロヴァンスの屋外の果物、野菜マーケットに行けば、大きな屋台に並ぶ光り輝く地中海の果物たちに目がくらくらするでしょう。フィレンツェの屋内マーケットでは、さまざまな食材に目移りするのは必定。ロンドン最大のバラ・マーケットには所狭しとさまざまな食材が並びます。
 
 これらのマーケットには食べ物屋も出店しています。大きな建物に入っているフード・マーケットでは、2階がフードコートになっていることも多いようです。こういう所の食べ物屋はおすすめです。なにしろ食材はすぐそこにあるのですから新鮮で、安く、美味しいと3拍子揃っています。ランチはこれで十分です。
 
 常設ではない屋外のマーケットであっても、絶品の食べ物に遭遇することがあります。ブルージュのマーケットでは、トレーラーで引いてきたコンテナの内壁一面がグリルになっていて、そこで串刺しにされた各種の鳥がぐるぐる回っていました。その焼きたてほやほやを、そのまま並べるのですから、美味しくないわけがない。人々は良い匂いに幻惑されたまま、次々に注文してしまいます。
 
 さらにマーケット広場ではなく、住宅街の公園や空きスペースに農家が週末だけ産物を持ってきて開く、小ぶりのサンデーマーケットも良くあります。そこに新鮮な果物、野菜、花、肉などが並び、スーパーマーケットの食材に飽き足りない近所の人々でにぎわいます。運が良ければ、こんなところでも超絶な味わいのハンバーガーに出会ったりします。
 
 フード・マーケットは、スーパーマーケットと何が違うのでしょう。それは、人と人のふれあいでしょう。売り手と言葉を交わすことも多い。買ったものは必ず手渡し。その時、目と目も必ずふれあっている。スーパーマーケットで自分で勝手にカゴに入れるのとは大いに違います。フード・マーケットは人と人のつながりが感じられるところ、人の活力が満ちているところです。
 社会は人のつながり。人がつながって文化が生れ、引き継がれる。食もまた文化です。人のつながりと食べ物という文化の源であるフード・マーケットを、21世紀になっても頑固に守り続けているところにヨーロッパの底力(腹力?)を感じたりします。

著書紹介:ヨーロッパ ちょっと楽しい迷信とことわざ


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