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亡霊が見る夢 第5話(議会)

 雨が降っていた日だった。

 トーマスはレインコートを脱いで王城の議会の参考人控室に入った。

 そこには魔女の姿もあった。

 魔女
「おはようございます、トーマスさん」

 トーマス
「おはようございます。大変なことになってしまいましたね。私は今回、不死者が増え続けることで国を維持することが不可能になることを証言するつもりです。そして、あなたに悪意がなく、ただ人の求めているものを与えたに過ぎないことも」

 魔女
「いいえ、私にも罪はあるでしょう。私はそのことを告白いたします」

 トーマス
「法と言うのは厳格で、ある法律が生まれた時、それ以前の犯行は罪に問われないのが法律というものです。よって、あなたに罪はない」

 魔女
「法の下ではそうでしょう。しかし、私の心に芽生えた罪悪感は、拭い去ることができません。法が私を罰することがなくとも、私が作った罪から私は逃れることができません」

 魔女の表情には、心清らかな者が抱えるであろう良心の呵責が見て取れた。

 魔女は自分が良いことをしたと考えていたはずが、それが悪い方向に転がってしまったのだ。

 故に、その心は罪の意識に苛まれているだろう。

 確かに法で魔女を罰することはできないが、法と徳は相いれない部分が多い。

 トーマス
「でしたら、王立相談所の者として、教会へ懺悔へ行くことをお勧めします。嘆きも、立派な人生の一部です。嘆きを知らない者は、喜びも知らないものです」

 魔女
「では、今日の議会が終わったら、お酒を呑みに行きませんか? 今日ばかりは酔いたい気分です」

 トーマス
「いいですね、パブへ行きましょうか」

 魔女
「ですが、あなたには恋人がいるではありませんか。その方に嫉妬はされませんか?」

 トーマス
「女性と遊ぶ予定が出来たら、あらかじめ手紙で教えるように言われています。ですので、今から教会の恋人に向けて手紙を書けば問題ありません。それから、当然お酒を飲んでも飲みすぎないで、自分はそのまま家に帰ります」

 魔女
「そうですか。では、お手紙を書かれては?」

 トーマス
「そうします」

 そう言ってトーマスは席を立ち、控室の近衛騎兵に少し用事があると伝えると、王城の隅に設置されている速達用の手紙を一通書くのだった。

 が、オリヴィアも文字をどの程度読めるのかトーマスも知らないため、なるべく優しい言葉で書いたつもりだ。

 それを郵便屋に頼むと、トーマスは控室に戻った。

 魔女は戻って来たトーマスを笑顔で迎えると、その後は言葉を秘めた。

 トーマスはその心中を察すると、ただ沈黙を守るのだった。

 今は一人にしてあげた方が良いだろうと考えたトーマスは、席を立って、控室の外に立つのだった。

 隣に近衛騎兵が警備しているが、話はしてこない。

 兵士というやつは武芸の腕は確かなものの、武芸は磨けば磨くほど口が達者ではなくなっていくという。

 が、今日の近衛騎兵は違うようだった。

 近衛騎兵
「悲しんでおられましたね。婦人が一人」

 トーマス
「婦人が悲しむ姿を見るのは耐えられないか?」

 近衛騎兵
「まさか、私は敵の兵士が苦しむ姿を見る事すら耐えられません。が、貴族の知り合いが言うには今回の議会は、命の尊厳をどう扱うべきなのかの議論だそうです。自分は無学ですが、命が尊いなど当たり前のことだと感じています。が、蘇らせた死者がそれに当てはまるのか、私には分かりません」

 トーマス
「少なくとも、剣を振りかざすことで解決できる問題だとは思うかい?」

 近衛騎兵
「まさか。私が身に付けている剣などお飾りのようなモノ。使い方を誤るなと近衛騎兵長から何度も言われています。今回の件は、兵士の力では解決できないでしょう。国が危機だというのに、無力な自分を嘆いています」

 トーマス
「その嘆きは、正しい者が感じる嘆きでしょうね。人から言われることではないかもしれませんが。同情してあげたいけど、それが正しいことなのか、俺にもわからない。今、同情されたいかな?」

 近衛騎兵
「そこまで繊細な心を持っているつもりはありません。とは言え、今回の証言をよろしくお願いします」

 トーマス
「ええ、承りました」

 トーマスは無名の近衛騎兵との会話を終わらせると、待合室に戻っていった。

 そこには感情を抑えている魔女が待っていたのだが、詳しい話は議会で行われる。

 今はそっとしておくのが無難だろう。

 そうして、議会が開かれる時間がやってきたのだった。


 国王
「まずは、臨時に議会を招集した非礼を詫びよう。しかしながら、今回は我が国の危機であり、先祖より賜ったこの国の行く末を左右しかねない問題であり、緊急を要する事態であることは明らかである。よってここに臨時の議会を開きたい。異議を唱える者は名乗り出る権利を持つものとする」

 国王は臨時の議会を招集した際の決まり文句を言い、そして議員たちは誰も反対しなかった。

 国王
「よろしい。異議を唱える者はいない。では、今回の異常事態を詳しく調べてくれた証人を議会に招待したい。証人を召喚したい」

 トーマスは近衛騎兵に形式上護衛され、証言台に就いた。

 普段はこう言った議会は貴族と労働者に分かれて議論が行われるが、今回はそういうわけではなく、臨時に設置された証言台が議会の中央にあり、全員がトーマスの口述を待っていた。

 国王
「ではトーマス君、君が観察した状況の説明を求む」

 トーマス
「今回は議会にお招きいただきありがとうございます。トーマスと申します。早速ですが、近年わが国では亡くなった人を蘇らせることができる技術が開発されました。蒸気機関やガス灯など、新しい技術は私たちに豊かな暮らしを与えてくれます。しかしながら、蒸気機関はそのあまりの力強さからたびたび事故を起こします。ガス灯も所詮は炎ですから、触れればやけどをします。今回の死者を蘇らせる秘術は、残念なことに我が国へ損害を与える結果となりました。蘇らせた人間は言葉を話せず、簡単な仕事に従事することすらままなりません。しかし、不死者たちは生きていくために食料を消費します。死した者が蘇るという前代未聞の技術ではありますが、この技術は誰がどう見ても危険なものです。また、命と言うのは、限りがあるから輝きを持つのです。親しい人が亡くなってしまった嘆きは簡単には消すことができません。しかしながら、それを蘇らせることは命に対する冒涜です。殺戮と並んで愚かな行為であると私は考えます。よって、死者を蘇らせることを禁止し、現在の不死者たちは葬り去ることが必要になってくると私は証言します」

 トーマスは議会の隅に並べられた椅子に戻った。

 隣には魔女が近衛騎兵に守られながら待っていた。

 普段はフランクな態度で接していた国王だったが、議会の場ではとても威厳があり、圧倒された。

 どうやら、王としての責務を果たそうと、心の中の剣は磨き続けているのだろう。

 国王
「では、今のトーマス君の証言を議論したい。貴族階級から意見のある者は名乗り出るように」

 すると複数名の貴族が名乗りを上げたが、最初に証言を始めたのは次の貴族だった。

 貴族A
「私は教会に多額の寄付をしている者です。今回の件について、懸念される点がいくつかあり証言させていただきます。まず、私が教会に多額の寄付をしているのは貧しい人を救うためです。この世界にはどうしても格差があり、そして運悪く生まれながらにして体の不自由な人もいますので、教会への寄付を削減されてしまわないかどうか、懸念しております。また、不死者は言葉を話すことができず、労働することができない。これは生まれつきそう言った境遇で産み落とされてしまった人たちと同等ではないかと考えております。それゆえ、生産に寄与しない人間には生きる価値がない、という意味で不死者を葬るわけではなく、不死者は一度死んでしまったので、それを蘇らせることのみ禁止する、法の線引きをしていただきたいです。私はこの問いに対する答えにトーマスさんを指名したいと思います」

 国王
「貴重な証言感謝する。では、貴族の問いにトーマスは答えるように」

 トーマスは再び証言台に立った。

 トーマス
「貴重な証言と普段から教会に寄附頂いていることに感謝いたします。私の恋人が教会に務めているもので。さて、不死者は話すことができず仕事をすることができないという点が不死者たちを葬る根拠であると示されているのではないかと示唆していただきましたが、全くの誤解です。私は一度死んでしまった人間の蘇生を禁止したいだけで、現在生きている働くことができない人たちに関しては、手厚い保護を、労働者であろうと貴族であろうと受ける権利があり、これは守られるべきだと考えております。当然、働くことのできない人が増えてしまえば国の財政は傾きますが、私の知っている限りでは本当に労働することができない人は全体の2パーセント程度であると認識しています。それに、財産を使ってさらに財産を稼ぐ貴族も考えようによっては働いていないのと同義ではありませんか。働かざる者食うべからず、ではなく、限りある生涯を全うした人を蘇らせることを禁止する。ただ、その一点を争点としたい」

 国王
「トーマス君、貴重な証言をありがおとう。先ほどの貴族は以上の弁論に異議を唱えるのであれば、再び証言台に上がるように」

 貴族Aは沈黙を守りトーマスの証言に納得したようだった。

 国王
「では、労働者側から反論はあるだろうか?」

 労働者の一人が挙手をした。

 国王
「よろしい、では証言台に立つように」

 労働者A
「この場にお呼びいただき光栄です。まず疑問として、不死者は本当に働くことができないのかどうかを確認したい。労働者の立場としては、少々使い勝手が悪くても、仕事の種類は山ほどある。それらのいずれかを任せることができれば大助かりです。不死者は本当に働くことができないのかどうか、それを証言頂きたい」

 国王
「貴重な質問をありがとう。これに答える者はいるかな?」

 ここでトーマスの隣に座っていた魔女が手を挙げた。

 国王
「では死者を蘇らせる技術を開発した魔女に証言を頂こう。魔女よ、証言台へ」

 魔女が証言台に向かった。

 魔女
「大変申し訳ございませんが、不死者が人の代わりをすることは不可能です。不死者は飼っている猫や犬のような存在で、愛玩動物の域は出ません。馬や牛のような馬力もなければ、猿のような賢さもありません。残念ながら、不死者が労働をするということは不可能であると言わざるを得ません」

 国王
「証言ありがとう。以上の弁論に質疑をしたい者は名乗り出よ」

 場は沈黙した。

 魔女はトーマスの隣に戻ると、国王は結果の見えていた議会を終了すべく、採決を取る声を上げよとしたが、その時だった。

 オリヴィア
「待ってください」

 議会に突然オリヴィアが乱入してきたのだ。

 いったいどうやって警備を破って議会の場に入ってきたのか分からないが、ともかくオリヴィアは議会の場に現れた。

 トーマスはそれに驚き、冷静な議会の面々も今回ばかりは動揺を隠せないようだった。

 オリヴィアは証言台に立った。

 オリヴィア
「不死者は、家族が別れを惜しんだ死者たちです。この世界に死んでいい命など一つもありません。この場の皆さんは、親しい恋人が死んでしまったら、嘆き悲しまないのですか? ほんの少しでも嘆き悲しまないというのでしたら、どうぞ私を追い返してください」

 オリヴィアは、現在、この国の議会に呼ばれてもいないのに乱入し、法廷を乱している。

 故に、法廷侮辱罪の罪が確定したのだ。

 それでもなお、何かを訴えようとこの場に現れたのだ。

 しかしながら、反対意見が一切ない議会と言うのは危険であることを国王も存じ上げるところだ。

 国王は、唯一の反対意見としてオリヴィアを法廷へ招き入れることを決めたのだった。

 国王
「そこなシスターよ、名をなんという?」

 オリヴィア
「オリヴィアと申します」

 国王
「このままでは満場一致で不死者を葬り去ることになってしまう。君自身がこの場にいる議員たちを説得し、不死者を生かすことの正義を説明できるなら、君を法廷に迎え入れよう」

 オリヴィア
「かしこまりました」

 国王
「近衛兵よ、彼女のために席を用意してほしい」

 近衛兵は何も言わず、簡素な椅子をトーマスの隣に置いたのだった。

 オリヴィアはその椅子に座った。

 国王
「さて、議会が混乱したことをこの場を預かる者として詫びよう。しかしながら、私も慈悲というものの存在や効能を理解しているつもりだ。故に、オリヴィアには不死者に対しいて慈悲を抱くべきかどうか、私たちに説明してもらう。反論を述べることを反対することは議会の精神に反するのは誰もが知るところだろう。よって、これよりオリヴィアの弁論に傾聴しようと思う。ではオリヴィア、正式に証言台に立ってもらえるかな?」

 オリヴィアはトーマスを横目に、証言台へ向かうのだった。

 その時のオリヴィアの表情を、トーマスは生涯忘れないだろう。

 まるで、悪霊を見るかのような表情だった。

 トーマスは不死者たちをこの国の食べ物を食い尽くす悪霊に見えるのだが、それを守護するオリヴィアからしてみたら、トーマスこそ悪の親玉なのだ。

 この法廷が終わった時、自分たちの関係が元に戻るのか、トーマスは気がかりだった。

 オリヴィアは証言台に立ち、弁論を始めた。

 オリヴィア
「不死者たちは、かけがえのない命です。人は家族に望まれて生まれてきます。この場にいる誰もがそうです。そして、人の死を悲しむ人はいても、一部の人は除き喜ぶ人はいません。不死者たちを亡き者にすることにより、この国を大きな嘆きが覆うでしょう。そうです、不死者たちを亡き者にするということは、虐殺をするのと何も変わりがありません。戦場で敵の兵士を殺してしまった兵士が長い間教会へ通うように、不死者たちを殺してしまえば、殺した人は精神に大きな病を抱えます。それでもなお不死者たちを殺しますか?」

 国王
「貴重な意見感謝する。この反論に弁論を行えるものはいるか?」

 これにトーマスが名乗りを上げた。

 国王
「ではトーマス君、証言台へ」

 トーマスはオリヴィアを横目に証言台へ向かった。

 その時のオリヴィアの顔は、とても聖女とは思えなかった。

 聖女も見る者が敵であれば、ここまで歪んだ表情になるのだな、とトーマスは思ったが、あくまでもトーマスの目にはそう映っているだけだ。

 人間の五感はいい加減なもの。

 どこかの哲学者が言っていた。

 愛しの相手がこうして目の前に立ちふさがってしまうこと、相手には悪意が一切ないこと。

 しかし国の安泰には代えられないこと。

 様々な感情が入り乱れる中、トーマスは証言台に立った。

 トーマス
「では、反論に対して弁論をさせていただきます。先日、不死者を養い続ければ、新しく生まれてくる子供の世話をすることができない、と私の職場に、相談に来た婦人がいました。不死者を養い続ければ、やがて私たちの国は不死者で溢れかえり、新しい命も生まれてこないでしょう。畑からとれる小麦も有限です。それを限りのない生命を持った不死者たちに食べさせていれば、いずれ小麦は尽き、飢えが私たちを襲うでしょう。不死者たちと別れを惜しむ気持ちは分かりますが、それと同じく、わが子を迎えることができない夫婦も増えてゆくのです。亡くなった者の悲しみを防ぐことが大切なのか、それとも新しく生まれてくる生命を歓迎するのか、私たちは選ばなければなりません。以上です」

 国王
「弁論感謝する。それでは、これより投票を行うことにいする。不死者を葬り、人を不死者にする技術を封印するか、それとも不死者を生かし、これからも不死者が誕生することに賛成する、この2択にしたい。それぞれ投票箱に投票願いたい」

 トーマスは自分の席につく。

 当然トーマスには投票権は与えられていないが、気になるのはオリヴィアの浮かべている表情だ。

 悲しみに満ち溢れていた。

 その悲しみは、慈悲深い人間だけが抱ける、あたたかく優しいものだったが、優しさだけで全てが解決するほど、この世界は優しくはないのだ。

 そして、トーマスもどちらかと言えば慈悲深い人間だ。

 オリヴィアの心中を察することは容易にできる。

 できるからこそ、オリヴィアを苦しめているのは自分なのだと理解できた。

 だから、投票が行われている間、ただただ辛いだけの沈黙が二人の間で保たれたのだった。

 オリヴィアは微動だにせず、うつむいていた。

 トーマスは投票の様子を眺めていたが、トーマスの弁論は完璧だった。

 未来は無限にやってくる。

 だから、不死者たちで溢れた国を維持していくのは不可能なのだ。

 悪魔との取引に、パン一枚のために魂を売り渡してしまう哀れな少年の姿が描かれていた書物を読んだことがあるが、トーマスは今それと似たよなことをしているな、とも考えたものだ。

 議員たちが投票を終えると、秘書が集計を始めた。

 不死者を生かすべきとの票がわずかにあるばかりで、大多数の票は不死者たちを増やさず、抹殺することに賛同するものだった。

 トーマスは議会に頭をたれ、オリヴィアと二人で会議室の外に出る許可を取った。

 王城の景色が綺麗な城壁の上までやってくると、トーマスはオリヴィアにこう告げた。

 トーマス
「近々、悲しい毎日がやってきそうだよ」

 オリヴィア
「ええ、そうでしょうね」

 オリヴィアはその言葉に淡々と答えたのだった。

 トーマス
「最近、新技術が誕生したからパレードをしていたところを見たんだ。道化師が歌って踊って、とても楽しそうだった」

 オリヴィア
「そうですか」

 トーマス
「道化師は、どうやって悲しむのかな?」

 オリヴィア
「トーマス、本当に優しい人とは、誰かの悲しみに寄り添える人だと、私は思っています。だから、今は私の悲しみに寄り添っていただけますか?」

 てっきりトーマスはオリヴィアに恨まれていたと思っていたので、オリヴィアがこう言ったのは意外だったのだ。

 だから、どうしていいのか分からず、黙ってしまった。

 が、しばらくして、オリヴィアを抱き寄せ、オリヴィアはトーマスの胸の中で密やかに赤い色が混じった涙を流すのだった。


 それから数日後、郊外の丘に近衛騎兵が無数に穴を掘っていた。

 これから不死者の処分を行うのだ。

 年に数人を処刑している死刑執行人の話によると、人が人を殺す際のストレスはすさまじく、この事業は多くの悲しみを伴うだろうとあらかじめ予言していた。

 だから、穴を掘っている近衛騎兵たちはどこまでも無口だった。

 それから、税金で雇ったスラム街の無教養な者たちにも穴を掘らせた。

 金に釣られたスラムの住人たちは、近くに集められた不死者を見て、これから何が行われるのか理解したようで、金を多く支払うと宣言しても、一人一つの穴しか掘ることができなかった。

 そして、不死者の処分をしたいという者は一人も現れなかった。

 断頭台には、まずは死刑執行人が立ったが、3人の首を切ったところで断念した。

 続いて罪を犯した罪人にその役が任せられたが、罪人は許しを請うばかりで、不死者を殺めることを拒み、聖職者に許しを請うのだった。

 無数にいる近衛騎兵にその役割がゆだねられるころには、効率は良くなったが、一人、また一人と手に持った斧を手放した。

 最後には国王自らが斧を手に取られたが、10人の首を切ったところで涙をお流しになられた。

 不死者たちを処分し続けたのは、今回の真相を突き止めた本人、トーマスだけになった。

 魔女はただその光景をじっと眺めており、自らが犯した過ちを胸に刻み、涙を流すのだった。

 不死者たちを処分するのに1週間ほどかかり、この期間、道化師たちは自らの仕事を放棄し、家族だった不死者と別れを告げた者たちを慰めたという。

 悲しみの一週間が国を覆い、最後の埋葬が終了すると、トーマスは惨劇を見ていた魔女に歩み寄り、全てが終わったことを告げた。

 魔女
「これからどうなさいますか?」

 トーマス
「酒を呑みに行く。そうじゃなきゃやってられない」

 魔女
「その前に、コートを洗ってはいかがでしょう? とても、汚れていますので」

 トーマス
「いや、いい。これはもう使い物にならない。ここに捨てていくよ」

 トーマスはコートを脱ぐと、不死者たちの墓標が立ち並ぶ丘に捨てた。

 トーマス
「これは父から譲ってもらったものだ。あと100年は着ることができる古着だったけど、新しい職人に次のコートは任せるつもりです。国王から今回の仕事の報酬と、腕のいい職人を紹介してもらったので」

 魔女
「まあ、国王直々に? 光栄なことですわね」

 トーマス
「それじゃあ、酒を呑みに行くか」

 トーマスは哀しみの丘を下り、徒歩で街の中を歩くのだった。

 が、その足はパブに向くわけでもなく、サルーンに向くわけでもなく、王城から馬を借りると、教会に向けて移動し始めるのだった。

 通りは嘆きに溢れていたが、子供たちの笑顔が何故か微笑ましく感じた。

 そして、誰もが子供の前では嘆かず、道化師たちは子供たちのために芸を披露するのだった。


 不死者がいなくなった教会はとても静かだった。

 ただ広いだけの聖堂は人の出入りはなく、ただ一人、オリヴィアが祈りをささげているだけだった。

 トーマスは薄着のまま、聖なる場を穢し、静かな足取りでオリヴィアに近づくのだった。

 オリヴィア
「トーマスですか?」

 近づいてくるトーマスに気づいたようで、オリヴィアは姿勢を崩さず問うた。

 トーマス
「ああ、実は酒を呑みに行きたかったんだが、その前にやることがあってね」

 オリヴィア
「私へ謝罪ですか?」

 トーマス
「違う。まあ、それもあるんだけど、不死者の件はもう片付いた。だけど、未来は無限にやってくる。新技術が無限に開発されて、国が無限に発展していくように、オリヴィアの助けを必要としている人がいなくならないように。王立相談所の門を開ける人が減らないように。終わったことじゃなくて、未来のことを話し合いたい」

 オリヴィア
「そうですか、そうですね。未来は無限にやってきます。そして、あなたも、私も、誰もかれも、皆、等しく、いずれは天国へ旅立ちます」

 トーマス
「だから、そうだな、これは相談なんだが、今夜は床を共にしないか?」

 オリヴィアはその言葉に、静かにうなずいたのだった。

 トーマスはオリヴィアの手を取ると、聖堂の中央を歩み、教会の外へ導くのだった。

 その動作がまるで、式を上げた直後の姿にも見えるかもしれないが、1週間後、オリヴィアのお願いで、トーマスは素敵な式を挙げるためのレッスンを徹底的に受けたという。


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