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アジサイの傘
RYOTO
あかむらさき、あおむらさき、みどり……。
そんなアジサイの色が滲んで流れる視界、16歳の少女ミチルは小雨降る中を傘も差さずに走っていた。
舗装されていない田舎の道はぬかるんで、ちょうどミチルの心のようだった。
雨の予報が出ていたのにミチルが傘を持っていないのには訳がある。
「あれ?降ってきちゃったか。オレ晴れ男だから大丈夫だと思ったのに」
ミチルが憧れる先輩、ヒナタが学校の玄関でつぶやいたのが耳に入ったのだ。
ヒナタは長身で恰好いいがこの田舎の学校ではそもそも全体の人数が少ない。さらに噂になるのが恥ずかしくて色恋沙汰はなかなか進展しない環境。ゆえに彼女はナシ。
そんな彼が突然の雨に困っている。きっかけは十分。
ミチルの心は今ここで憧れの人に、何もしないことを選べなかった!
「あっあっ、あの!この傘使ってください!」
目線を合わせられないまま押し付けるようにヒナタに差し出したのは、なんの飾り気もない安物の透明なビニール傘。話したこともない男子に渡すのはあまりにお粗末で本来ならとても勇気が必要だ。
でもどもりながらも、声は出た。
そして渡されるままにヒナタが傘を受け取ったのを見るや、ミチルは脱兎のごとく駆け出した。
「え?あっちょっと!?」
ヒナタは突然のことに固まってしまう。
そんなわけでミチルの視界がアジサイ色になったのだった。
花々と裏腹に、心はぬかるみに掴まれる。
感情のままに行動すれば、次に来るのは後悔だ。
突然あんなことして、変な子だって思われなかっただろうか?
誰かに見られてて噂になって、明日の学校でからかわれないだろうか?
それから……それから……
「待てよ!待てってば!」
声と共にミチルの頭上でだけ雨が止んだ。
「ありがとう。そいでちょっと落ち着こう?」
「あ、はい……」
ヒナタは受け取った傘を、ミチルを守るように開いていた。
「気持ちは嬉しいけど、女の子が雨でびしょ濡れなんてよくないよ。そんなに無理しなくてもオレなら大丈夫。この程度の雨なら気にしないから」
言われてミチルはやっぱり余計な事だったんだ……と内心しょげたがその気持ちは顔に出ていたようで、ヒナタは善意を無碍にして相手をがっかりさせるのも嫌だったから言葉を続けた。
「えーと、雨は気にしないけど、方向同じならせっかくだから一緒に帰る?立ちっぱなしもなんだし」
「!、はい!私、こっちです」
「オレもこっち」
相手の機嫌が治ったのを見てヒナタは優しく微笑み、二人で傘に入って歩き出す。
そしてミチルが考えたこともなかった言葉を告げた。
「いい傘だよね」
え?ただの安物のビニール傘ですが……
そうミチルが口に出す前にヒナタは真意を告げる。
「この道アジサイが満開だからさ、傘がアジサイ色になったみたいだ。楽しいな!」
無邪気なヒナタの言葉はミチルの鼓動を早くして、少しの勇気になる!
「紫陽花が綺麗ですね」
咄嗟に浮かんだ言葉、しかし大事な言葉をミチルはそっと告げた。
込められた気持ちを感じてヒナタが横を向くと、自分を見上げるミチルと視線が合った。
かわいいな。
そんな風に思った時、ヒナタの胸も音を鳴らした。
「夏目漱石だっけ、いいね」
ミチルは真っ赤にうつむいたが気持ちが通じたことがとても嬉しかった。
こうしてアジサイの傘の下、ふたりの恋が始まったのだった。
(おしまい)
こちらの作品はDIGITAL ART CENTER神奈川所属のRYOTAさんの作品です!
DAC神奈川に通所することで、さまざまなジャンルで自身の目標や夢を叶えるお手伝いをさせていただければと思います!
今後はDACメンバーの制作した作詞や小説、漫画を掲載する予定です!
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