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短編小説『フィラメント』第12話(完
ショートホームルーム寸前ということもあり、校門をくぐり抜ける生徒はまばらだ。
由衣にとってそこは長時間拘束される鈍色の檻だったのだが、今は何の変哲もない鉄門に見える。
これからのことを考えると沈む思いだが、今日の彼女は違った。
「あ、小桜さん」
「よう。久しぶり」
由衣が教室に入るなり、いつきと八木が廊下側すぐの席に詰め寄ってきた。
「……おはよう」
先日、あのような別れかたをしてしまったというのに二人は旧来の友のように出迎えてくれた。
それが本人には小恥ずかしく、ずっと意識していた自分が哀れに思え、彼女らを直視できないでいた。
「みんなで心配していたんだ。何かの病気じゃないかって」
八木に図星を突かれ由衣は一瞬だけ身体を強張らせた。
「小桜さん、ごめんね。私が変なことお願いしたばかりに」
いつきが深々と頭を下げる。
「……気にしてないから。それよりも」
由衣は平謝りするいつきを余所に、学生鞄から一冊の本を取り出す。
「じっ、時間があれば教えてあげるからこの入門書読んでおいて」
「教えてくれるの?」
いつきは花が咲き誇りそうな笑顔で言う。
「時間があればだってば!」
「お、小桜はアレか? ツンデレってヤツか?」
八木が由衣の頭を腕で抱きかかえ、ヘッドロックを極めてじゃれつく。
その光景はいつか小桜 由衣が心の底から望んだものだった。
こんなにも近く、慎ましい小さな願い。
大勢に認められたい思いもある。だが、少数でも理解ある友人が今の彼女に必要なものだったのかもしれない。
『人間は島のように孤立するような存在ではない』
ナンセンスだ。わたしは島でも構わない。
それぞれが孤立していて、独自の考え方などの個性を持っている。
だけど何処かに所属し、他の「島」と交流するもしないも本人次第。
『人は島である。だが、決して孤独ではない』
わたしは新しい居場所を大切にしたい。
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