短編小説『イーゼルを開いて』第12話(完
わたしは幼い時から絵を描いていました。
他人に認められたくてはじめたことですが、その過程が、成果が、反応が嬉しくてここまで続けてこられたのだと思います。
まだまだ勉強中の身ですが、キャンバスに絵を描くまでの過程――そうですね、わたしの場合だとイーゼル……そう、その折り畳まれている三脚です。それを開いてキャンバスをセットしている時も楽しいんです。これからどんな作品を描こうかなって。
これはとある方の受け売りなんですけど、今の季節ってまだまだ「慣らし」の段階なんですよね。四月から新しい生活がスタートして、ようやく慣れない仕事や学業にも落ち着きが出てきた頃だと思います。
ですが、そう感じるのはまだまだ早いんです。まだ構想を経て、キャンバスをセットする前の段階です。
逸る思いはわたしにもあります。ですが、ゆっくりと辺りを見渡し、イーゼルを開いてあなただけのキャンバスを置いて人生を緩やかに描いていってください。
***
雨。
雨が降っていた。
それをとある者は恵みの雨だと言って歓喜し、別の者は身体の熱を奪って死をもたらすものだと言った。
それでも、降り止まない雨はない。と人は言う。
「木島先輩。ほら、晴れますよ!」
人々は行き去る雨雲に雨傘を畳む。
「おふくろ、元気にしているかな」
雲の切れ間から覗く青空に想いを馳せ
「こんにちは、いのりさん」
今日も学び、働き、生きていく。
「瑞季、久しぶり」
それは時に耐えがたい苦痛を伴うものだろう。
だから、わたしはそれを尊いものだと思う。
さあ、まだ見ぬ世界へ歩き出そう。
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