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heliar 50mm f1.5は美しかった




 軽い50mmが欲しいと思っていくつかのレンズを候補に挙げた。調べると、Mマウントにつけられる現行の50mmは以下の通りかと思う。

純正ライカMレンズ
ノクチルックス f0.95
ノクチルックス f1.2
ズミルックス f1.4
アポズミクロン f2
ズミクロン f2
ズマリット f2.4

カールツァイス
C ゾナー f1.5
プラナー f2

フォクトレンダー
ノクトン f1
ノクトン f1.2
ノクトン f1.5
ヘリアー f1.5
アポランター f2
ヘリアー f3.5

 これだけ?となったけれど、考えてみれば普通、純正同士の比較でもこんなに同じ焦点距離のレンズを揃えているところなんてない。ましてや、膨大なオールドレンズもあるのだから、同じ焦点距離のレンズをいくつも集めたくなるのも分かる。さらにはここ最近中華製レンズもあったりするからさあ大変だ。

7artisanのf1.1
TT artisanや中一光学のf0.95
同じくTT~からf1.4のもあるらしい。

 その中で、とにかくボケるレンズを、と最初に選んだのは中一光学のf0.95だった。これはもちろん、ノクチルックスなんかとても手が出ないという理由から。

 しかしこいつがとてつもなく重い。そしてピントが合ったところの解像感が物足りない。絞っても解像してないなという印象が強く、そこから軽くてよく写るレンズはないかと考えてしまうようになった。

 ただ、50mmは譲ってもらったズミタールもある。軽さから言えばこれで良いのだけれど、誤って沈胴させてしまいそうになるし、これも写りとしては開放ではぼんやり感があり、そこからやっぱり50mm 開放で使えて、軽いレンズを手に入れるミッションが始まった、というわけだ。

 解放から使える、といえばアポランターしかないだろう。絞りは最早、ボケの調整のためだけにあるとすら評されるその描写は、見事なものだと作例を見て思う。おまけに開放だと、周辺光量の減光があって、それも好きな感じだ。周辺の暗がり以外は、見たままをそのまま映し出せるレンズと言ってもいい。だが、解放F値が2というのは、物足りないように思えた。なにせとにかく明るい安村…じゃない、レンズが欲しい欲しいと単焦点を生やしてきた人間である。おまけにここまでレンズのクセに頼れないのはちょっと怖い気もする。あと280グラムという重さ。中一光学のレンズが600グラムを超える重さだから、かなり軽いほうなのだけれど、それでも、次に候補として考えたノクトン ヴィンテージラインのレンズの190グラム台の軽さを知ってからは、そちらの方に食指が動き始める。

 このレンズは、とにかく軽い! なんて軽さなのか、と驚きつつ、描写もそこまでクセはなく、ネットの記事によっては純正の〇〇ルックスにもひけをとらないぞ、なんてことまで書いてある。いや、ちょっと待て、と。アポランターもアポ〇〇クロンに勝るとも劣らないなんて比較されていたな……。ライカのボディだけで手いっぱいな自分としてはそのジェネリックな魅力はかなりのものだった。

 そういうわけで、ノクトンを買おう、ノクトン35mmがシングルコートなので、それに合わせて、こちらもシングルコートだ、と思い、いい中古品がないかと調べてみると、新宿の防湿庫に、在庫がないときた。シルバーだったり、新品はあるのだけれど、ブラックの中古がなかなか見当たらない(で、ほかのレンズを手に入れたあとになって、ぞろぞろ在庫が増えるのってなんでなんだろう)。

 そうやって程度の良い中古を待って、それでも買うべきか買わざるべきか(主に妻が怖いので)、とぐるぐるしているときに、ふと別のレンズに目がいったのだ。それがヘリアー50mmf1.5である。

 アポランターの対局にあるレンズということで、描写はきっと滲みのあるものなんだろうと勝手に思っていた。あるいはボケの独特なのも、ちょっと、普段使いのレンズとしては無しだな、と決めつけて詳しく調べようとはしなかった。ところが、たまたま見たサイトで、このレンズが50センチまで近づけるとあるじゃないか。レンジファインダーの最短撮影距離を大幅に上回る。ライブビューだったりEVFをつけて撮ることになるのだけれど、気軽にテーブルフォトができるのは魅力的だ。

 純正についてはもう考えないことにした。おねだんがおねだんなので、そんなに余裕はない。だが待てよ、f0.95とノクトン35mmと今回のレンズを合算したら、ズミクロンくらいは買えたかもしれない。

 …と、今みたら、2nd良品でなんとか、といった感じ。現行品新品は手がでませんね。


 そうやって、アポにするかノクトンにするか、ヘリアーにするかがぐるぐる回った。今日はアポだ、と思っていたのが翌日にはノクトンに、また翌日はヘリアーにと決断は覆され、マップカメラの安売りでノクトンが出たときも、躊躇して結局買えないままソルドアウトになっていた。

 そうして結局、寄れる、という価値に注目して、ぽちりとしたのは、連休が明けた、あるとても疲れ切った夜中のことだった。最後は思考の鈍化状態を待つことになってしまった。

 ちなみにこの記事のトップ画像は、家にある50mmたちだ。
 上にあるのが中一光学 SPEEDMASTAR50mmf0.95
 その左にLEICA M TYP240についたフォクトレンダー heliar50mmf1.5
 その下には、X100用のテレコン(これとワイコンでX100シリーズ2台持ちが長らくのスナップ&旅カメラだった)
 右下にあるのはEF50mmf1.2L(中古で購入した。暫定いちばん好きなレンズかもしれない)
 その上X-pro2についているのが中一光学のSPEEDMASTAR35mmf0.95(どんだけ明るいレンズが好きなんだ)
 そして真ん中にズミタール5cmf2(太い描写だなといつも感じる。モノクロがいい)
 マウント違いで6本もあるよ……。
 このなかで、ヘリアーにどれくらい馴染めるだろうか。ヘリアーが来た夜、家族が寝静まってから50mmを集めてそっとスマホで撮影する、なんて根暗な楽しみなんだ……。


 やっとこさきたこのヘリアーというレンズの成り立ちはもっと丁寧かつ分かりやすいサイトさんをごらんになったほうがいいとして、とにかく近づけることに驚いた。マクロとはいかないまでも、まさかライカでこんなところまで寄れるなんて。

ね!ててね!

 それでいて、画質はうまくピントが合って、光の方向が良ければ、ぴしっと写る。さすがに滲みらしきものは感じられることが多いが、それがこのレンズの特徴だし、むしろ割と現代的な写りをする。

 シングルコーティングのある種の効果? は、まだ感じられない。逆光に出会わないというのもあるのだけれど、フレアやゴーストがもっと盛大に出てもいいんじゃないか、と思うくらい、けっこう普通だ。

 バブルボケも出すシチュエーションに出会えていない。すると、このレンズ、けっこうふつうなのだ。よい意味でもあればよくない意味でも。期待されたレンズの味がそこまで感じられていない。

 けれど、ネットにある作例ではとても面白い写りをしている。つい見てしまうと、自分もこのレンズを買えばすごい写真が撮れると勘違いさせられるフォトヨドバシでも作例担当をされている方の、ヘリアーの写真はとてつもなく美しいボケ。光源をここまで印象的にするなんて、と驚かされる。
 あるいはセイケトミオさんが撮られた作例なんかも美しい。どうしてこんなに湿度をまとった写真が撮れるのか、魅力的な作例が、ヘリアーにはたくさんあった。

 上善如水、それはきっとアポランターのことを指すのだろう。そうとはいったものの、僕はちょっとそういうものには食指が動かないのかもしれない。多少クセのある、そういうものに惹かれるのかな。それは言うなれば泥中の蓮子だ。そういう写真が撮れるなら、ヘリアーの存在は自分にとって大きい。

 まだそれほどこのレンズで撮ったわけではないけれど、ここにいくつか写真をあげておきたい。好みのレンズを見つけたときの喜びは、やっぱり一入である。そういうレンズに、みなさんが出会うことを、心から願いたいと思う。

ほっとかれたゲームセンター
そこそこに人懐っこい。
立体感は少なめに感じるけど手触り感がある
長いこと閉じ込められたまま
もはや誰なのか
町の空白となりつつある
どこでも繁茂する
川岸のタイヤ痕
何もの?


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