火の玉

 母親の受胎の際に火の玉を飲み込んで産まれた女がいた。父親はおらず、母親は女を産んですぐ胎を焼いて死んでしまったという。森の奥深くで老婆に育てられ、やがて少女となった女は身体の中にぐつぐつと煮えたぎる火の玉を胸の中に押し込み、夜な夜な叫んでは獣のように森の中にその声を轟かせた。背の高い樹々、暗い森、闇の中で孤独に生きるには腹の中の火の玉は少女の手に余る代物だった。誰かにこの火を分けることができたなら。毎夜眠れぬこの胸の焼け焦げるような痛みをなくすことができたなら。夢見る少女は今夜も炎に焼かれる夢を見る。
 少女は老婆の元を抜け出し、助けを求め街へと足を運んだ。たまたま呼び込まれた酒場で、少女はひとり孤独に暮らしていたとは思えないほど人々との交流を楽しんだ。その時間は不思議なことに、火の玉は輝き少女を魅力的な人間へと変身させた。人々は少女に興味と関心を覚え、少女はその酒場の主人に気に入られ雇われた。
 少女は教えてもらったわけでもないのに踊ることができた。炎が舞うような熱い空気を纏い、酒場はより一層の熱気に包まれた。そうすることで、火の玉は少女の身体を内から焼かずに夜おだやかに眠ることができるのだった。
 ある日、少女の評判を聞いた騎士の一人が酒場にやってきた。給仕にやってきた少女が持ってくる酒は魔法のように炎が宿る。見た目に炎が宿っているだけで、そう酒の味が変わるわけではないのだが、酒には生命が宿るように飲んだものの身体を熱くする効果があった。旅から帰ってきた騎士の身体に少女の運んでくる酒は心地よく、騎士は少女のことが気に入った。踊り、酒を酌み交わし、店が終われば二人は共に帰った。恋というものが火の玉よりも熱いものだと少女は知った。だがしかし、初めて二人が交歓を交わした夜、女となった少女の身体には再び苦しいほどの炎が身体に宿った。やがて騎士は女の元を去り、火の玉を胎に宿した女は出産と共にその命を落とした。
 そしてまた、老婆に引き取られた赤ん坊と共に、火の玉の系譜は続いていく。

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