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北極がアツい

 ヨーロッパは対ロシア制裁でパイプライン経由のガス輸入を止めているが、LNGは別ルートで輸入しているらしい。その別ルートというのが北極圏航路だ。かつては北極は氷が航路を妨害しており、航行や輸送に不向きで事実上通れない場所だった。だが気候変動によって氷が解けてきたり、原子力砕氷船が発明されたりすることによってその前提条件が変化してきた。

 しかし氷以外にも、冬場には24時間夜になったり、極寒のなかでの作業を強いられるという厳しい条件が以前としてあることには変わりがなく、中国のコスコやドイツのベルーガ、デンマークのマースクなどが北極ルートの試験航海を行ったが参入には至らず、結局北極圏の輸送に関するノウハウはロシアが独占している状態にある。

 北極圏の資源プロジェクトのうち最大のものがヤマルLNGで、年2,000万トンのLNGを生産し、ヨーロッパと中国、そして日本にも供給されている。というか日本もヤマルプロジェクトに参加しており、同地のLNGプラントは日揮と千代田化工建設が作っており、商船三井の船が運んでいる。

 商船三井の上記のプレスリリースにも書かれているとおり、「ロシア北極圏からの北極海航路を通じた輸送は、スエズ運河経由に比べて航海距離を約65%短縮でき」る。2021年3月の座礁事故で代替ルートを探す機運が高まっているが、内陸では南北輸送回廊(INTSC)、海運では北極圏輸送路と、ロシアをはじめとするユーラシア諸国がアメリカによる制裁を回避しながら経済発展していくための土台が着々と整備されつつある。

 この領域の誰もが引用するといわれる2009年の米国地質調査所の研究によれば、北極圏全体の石油とガスの80%がロシア領にあり、また世界の未発見のガスの30%と未発見の石油の13%が北極にあると見積もられている。現在もロシアのGDPの20%は北極圏で生み出される資源に依存しており、この割合はますます高くなっていく。つまり北極がロシアにとっての生命線の一つとなるわけで、北極の軍備にも積極的に投資している。北極自体は、理論上はどの国も自由に航行できるため、今後数年間のうちに北極での軍事衝突がマスコミを賑わせるようになっていくことだろう。

 歴史を振り返れば、18世紀〜19世紀のロシアは不凍港(冬でも凍らない港)を求めて南下政策を展開し、それが露土戦争やクリミア戦争の一因となってきたわけだが、その時代とはまさに180度変わってしまった。北極のほうが凍るのをやめてしまったのだから何が起こるか分からないものだ。こんなところでもいろいろなものがひっくり返っているといくのを感じる。


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