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手洗い・うがいに加えて歯磨きで感染症・心臓病予防

近年,歯磨きをして口腔内ケアを行うことは,単に歯と口の健康というだけでなく,心臓病や感染症予防にも有効であるとする研究成果が発表されるようになってきました。

感染症に関して言えば,自分がかからないようにすることはもちろん,家族や友人,職場など,周囲の人々に移さないようにするためにも,しっかり予防を心がけることが大切だと思います。

特に冬は寒さと乾燥もあって感染症が流行しやすい時期です。しっかりと口腔ケアを行うことで様々な病気のリスクを減少させましょう。

虫歯,歯周病が心臓病の原因になる

近年,虫歯や歯周病が口腔内だけでなく,様々な病気の要因になっているという研究結果が多数発表され,テレビなどでも取り上げられる機会が増えてきました。心臓疾患とも大きく関係しており,虫歯菌が歯周病菌が血液に入り,全身に拡散することで心臓や脳の血管をふさぎ,重大な病気を引き起こすそうです。

このことは,有名な心臓血管外科医である天野篤氏の著書「100年を生きる 心臓との付き合い方」(p.102-104)でも取り上げられています。詳しくはこの本を読んでいただければと思うのですが,簡単にまとめると虫歯菌や歯周病菌は以下のような流れで病気を引き起こす要因となるようです。

【虫歯菌】
① 虫歯菌が患部から体内や血管内に侵入
② 弁膜症が悪化
③ 虫歯菌の塊が体内にまき散らされる
④ 脳の血管でつまれば脳梗塞,冠動脈で詰まれば心筋梗塞を引き起こす

【歯周病菌】
① 口腔内に歯周病菌による炎症が発生
② 炎症によって生じるサイトカインが全身に拡散
③ 全身で炎症が発生
④ 動脈硬化が促進,突然死を招くリスクも

また,本の中では以下のようにも書かれています。

虫歯や歯周病といった口腔内のトラブルは,心臓疾患の大きなリスク要因といっていいでしょう。実際,手術を受けるくらいまで心臓が悪くなってしまった患者さんは,口腔内の健康状態が悪いケースが少なくありません。
(天野篤『100年を生きる 心臓との付き合い方』セブン&アイ出版 p.104)


既に心疾患を抱えている人はさらにリスクが上昇するでしょうから,要注意です。正しい口腔内ケアを行うことで,他の様々な病気の予防や回復力の向上につながるようなので,今後のためにも正しい歯磨き習慣を身につけておくべきでしょう。

歯磨きをして感染症のリスクを減らす

鼻や口の中の粘膜や粘液はウィルスなどの侵入を防ぐ役割を果たしていることはご存知でしょうか。口は食べ物や病気を引き起こす病原体などの異物が入って来る入り口だといえます。そのため,鼻や口の粘膜には粘膜免疫と呼ばれる病原体に対する防御機能が備わっているのです。口内には口腔フローラと呼ばれる約500~700種類の口腔内細菌類が生息しているともいわれています。

では,なぜ毎日歯磨きをすることが感染症予防にとって大切なのでしょうか。歯磨きや口腔内のケアをおろそかにしていると,虫歯や歯周病の原因となる菌が増殖して歯垢(プラーク)となることはよく知られています。

歯垢とは,簡単にいえば歯の表面に付着している細菌の塊のことです。歯垢1gには約1000億個以上の細菌が存在しているといわれています。なんとこれは大腸内,すなわち腸内フローラにおける糞便1gあたりの細菌数とほぼ同じだそうです。

そして,これらの細菌が虫歯・歯周病・口臭などのトラブルの原因になるのです。また,この歯垢には気管支炎や肺炎などの発症や重症化にかかわる肺炎球菌やインフルエンザ菌のほか,重篤な感染症の原因となる黄色ブドウ球菌,緑膿菌,セラチア菌などの細菌も含まれているといわれています。

これらの細菌はプロテアーゼと呼ばれる酵素を放出し,プロテアーゼはインフルエンザウイルスが気道の粘膜から細胞内に侵入するのを容易にするという特性をもっているそうです。つまり口腔内のケアをおろそかにしているとプロテアーゼの量が増え,インフルエンザの発症や重症化を招きやすくなるというわけです。さらに別種の細菌は,ウイルスの増殖を促す働きをすることもわかってきています。

歯磨きの第一の目的は,虫歯や歯周病の原因である歯垢を除去することです。歯垢はバリアを作るため,歯ブラシなどを使ってしっかり取り除かなければなりません。歯垢が除去されずに固まると歯石になってしまい,歯磨きだけでは取れなくなるので注意が必要です。

歯石がついてしまった場合や,歯周病(=歯槽膿漏)の場合は,歯医者さんに行って専門的な口腔ケアや治療を受けることが必要になります。歯科では,自力では取り除くことができない汚れを専用の器機を用いることによって徹底的に除去し,口腔内細菌を減らすことを目指すのです。

また,心臓病のところでもふれたように,口腔内細菌と体の免疫力はバランスを保ちながら働いています。菌の数が同じだとしても,体の免疫力が低下することで細菌が体に悪影響を及ぼすようになるのです。病気や治療で免疫力が低下している方にも口腔内のケアが重要だといわれるのはそうした理由があるのですね。

正しい歯磨きの仕方

それでは心臓病や感染症予防のためにどんな歯磨きをしたらいいのか,回数や方法についてまとめておきたいと思います。

・回数
歯磨きの回数については昔から1日3回ということがいわれてきましたが,忙しい現代人にとっては難しいこともあると思います。最近の研究では「正しい方法で歯磨きをしていれば1日1回でも十分」としているものもあるようですし,諸説紛々です。ただ,厚労省が推奨するように1日2回(朝と夜)くらいは歯磨きをするようにした方がいいように思います。

ちなみに私は,しっかり歯磨きするのは基本的に毎食後(1日3回)で,それに加えて起床直後にも軽く歯磨きをするようにしています。つまり,1日4回歯磨きをするということです。

なぜ起床直後に軽く歯磨きをするようにしているかというと,唾液の分泌が最も少なくなるのは就寝中であり,口腔内に細菌が最も多くなるのは起床時ということになるからです。専門家の中には「起床直後の唾液1mlに含まれる細菌数は大便1gの約10倍」にもなるという人もいるほどです。

起床直後に水を飲んだり,朝食を先にとると溜まりに溜まった細菌を丸ごと飲みこむことになります。実際は,飲みこんでも体内でほとんどの細菌は殺菌されるので大きな影響はないようですが,リスクを抑えるという意味で,起床後はまず歯磨きをするというのは有効な手段でしょう。

ただ,いくら歯磨きが重要といっても,間違った磨き方で磨いていてはせっかく1日3回歯磨きしていてもあまり意味がありません。間違った磨き方で1日3回以上磨くより,正しい磨き方でしっかり磨けば1日2回でも問題ないともいわれています。

さらにいえば,正しい磨き方でも回数を多くすればそれだけ虫歯や歯周病の予防に効果的かというと,そうでもないようです。逆に,磨きすぎによって歯や歯茎を傷つける,あるいは知覚過敏を引き起こすこともあるため,磨く回数は多ければ多いほど良いというわけではありません。

・磨き方
磨き方について注意すべき点は以下の通りです。

① 1カ所あたり20回以上,歯並びにあわせて磨く

② 歯ブラシの毛先を歯と歯肉の境目、歯と歯の間にきちんとあてる
歯ブラシは斜め45度にあてる事により、歯と歯肉の境目、歯と歯の間に毛先が入り、歯周病や虫歯のリスクの部分の歯垢を落としやすくなります。

③ 歯ブラシの毛先が広がらない程度の軽い力で動かす
力を入れて磨くと、毛先が必要以上に曲がってしまい、歯垢が落ちるどころか歯の表面や歯肉も傷つけてしまいます

④ 歯1本分くらいの幅で小刻みに磨く

⑤ デンタルフロスや歯間ブラシを使う
歯ブラシだけではどんなに頑張って磨いても,歯と歯の間に隠れている歯垢までは除去できません。ちなみに,歯ブラシの後に歯間ブラシを使っている人を見かけることがありますが,歯医者さんで確認したところ,歯間ブラシは歯ブラシの前に使った方がいいとのことでした。

まとめ

今回は歯磨きの効果についてまとめてみましたが,いかがだったでしょうか。手洗い・うがいはしっかりしている人も,歯磨きは盲点だったかもしれませんね。正しい口腔内ケアを行って感染症や心臓病のリスクを減らしましょう。

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