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沖縄、ミラーニューロン、無職(20231205)

 こんにちは! 冬の猛威が来て、インフルエンザの猛威も来て、あえなく私は寝込んでいました……不調! 多いんだぜ!
 あまり寝てばかりいると執筆に差し障りが出るので、読んだ本の感想を上げていこうと思います(ピックアップももう少ししたら再開したいです)。文章を書くことって筋トレと似ていて、一日1500字くらい書いていると、たまに調子が悪い日でも「まあ1000字ぐらい書くか……」という気になるんですが、長く休んでいると、500字書くのもしんどくなるのですね。なので、とりあえず書ける時期には書いておこうと思います。
 脇道になるんですが、私のピックアップ傾向では小説が多いです。ノンフィクションとかエッセイも読んではいるんですが、自分の中の感想でまとめるとなると「120頁のポイントは資料として参考になったし、なんか感動したが、50頁目の出だしが好みじゃなかったな」という考えが混ざり合ってしまい、あちらを立てればこちらが立たず……という風に、うまく言語化できないのです。高めたい! 言語力!
 小説の場合は、そうした天邪鬼な感想が発生せずに「おもしろかった点はあそこなのであれを強調して書こう」と考えやすいです。しかも小説って、だいたい300頁とか400頁に内容がまとまっているので、映画やドラマよりコンパクトで俯瞰しやすいと思います。なので文庫本やハードカバーなどの小説は読みやすい(難しい小説もたくさんあるんですが)。
 動画コンテンツだと明らかにゲームしながら観たりしがちなので、注意も散漫になり、感想を書くことも難しくなりがちです。全12話を見終わっても、「あれ5話ってなんだったっけ……」と考え込みがちでもあります。
 更に脇道なんですが、昔は夜にノンフィクションや難しい論文を読んでいたんですが、あまり情報を入れすぎると眠れなくなる体質になってしまいました。なので小説を代わりに読んでいます。
 本日は三冊ほど紹介します。


カミカゼの邦

神野オキナ『カミカゼの邦』徳間文庫、2018。

沖縄を舞台に日中が武力衝突! そこから始まる地元出身の義勇兵・渋谷賢雄の活躍を描く、国際謀略アクション小説

 日本と中国との紛争が勃発した次元の日本、紛争帰りの男が紛争終結後に、日本と中国の間に渦巻く謀略に巻き込まれる話。
 がっつりとしたエンタメで戦記物です。戦中編/戦後編に分かれていますが、戦中は濃度が濃いもののやや短く、どちらかというと戦後編のほうが本編です。ジャンルはまさにパルプ小説で、銃撃戦から日本刀、白兵戦、狙撃、ハイテク兵器にエログロまで、エンタメがフルセットで網羅されており、読み応えが抜群。
 主人公は沖縄出身の男で、まさに沖縄人と呼ぶべき存在。かつて日本が降伏した後、アメリカ軍に占領された沖縄、日本とアメリカという二つの国に挟まれた沖縄、自分のアイデンティティが真っ二つに割れて、実存的に悩みながらも戦う存在、でもあります。
 展開もスピードが早く、死ぬべき人間がどんどん死んでいくし、フェードアウトするのも早い。しかしキャラは記号的な人物として終わっていません。沖縄や戦争、それぞれの事情をベースとして立脚しているので骨太です。また、キャラクターだけでなくプロットも綿密。行き当たりばったりではなく、丁寧に練られた結果としてクライマックス、エンディングが導かれるのが興味深い。
 余談ですが、こういう国際小説だと「北朝鮮の最高指導者のような見た目」という比喩をよく見ます。今作もけっこう北朝鮮の比喩が登場していて笑ってしまいました。今後、どうなるか……!?


アンブロークン アロー

神林長平『アンブロークン アロー 戦闘妖精・雪風』ハヤカワ文庫、2011。

地球のジャーナリスト、リン・ジャクスンに届いた手紙は、
ジャムと結託してFAFを支配したというロンバート大佐からの、人類に対する宣戦布告だった。
ついに開始されたジャムの総攻撃のなか、FAFと特殊戦、
そして深井零と雪風を待ち受けていたのは、
人間の認識、主観そのものが通用しない苛酷な現実だった。
『戦闘妖精・雪風〈改〉』『グッドラック』に続く、著者のライフワークたる傑作シリーズ、待望の第3作。

 ナンバリング三作目。前作のラストで雪風が離陸した直後から始まります。
 異星生物ジャム、深井零が属する特殊戦、人類を裏切ったロンバート大佐という、三つの勢力が入り乱れて戦います。
 ジャムによる人間の五感に対する新しい攻撃によって、これまでとは異なる対策を迫られる特殊戦たち。
 脳科学の本ではおなじみになった『ミラーニューロン』という概念が登場します。ロンバート大佐はうまれつきこの能力が低く、そのため人類への共感能力が低いです。しかし、そのためにロンバート大佐は、ただの人間である深井零やブッカー少佐よりもクリアに世界を見ることが可能であり、零たちを撹乱し、時に出し抜く好敵手として活躍します。
 どちらかというと大佐は、人類とジャムの中間地点、橋渡し役として零たちと戦ったり、自己の意識やジャムについて議論をしていきます。ミラーニューロンや共感能力について、こういう視点から捉えた小説は初めてなので、好印象でした。
 また、三冊目でようやく明白になるのですが、「ジャムは人間と戦っていたのではなく、人間が使うコンピュータと戦っていた」という身も蓋もない事実が登場します。つまり人間はハナから相手にされていません。
 ジャムとしては、「俺たちは地球(コンピュータ)と戦っている筈なのに、変な付属品があるな」という認識だろうと思います。そのため、ジャムがコンピュータを理詰めで完封した場合、ついでのように人類は消滅するか弱い存在であることが判明します。この世界に、人間に論破されるチャットGPTは存在できないぜ……!
 もちろん特殊戦は本気で抵抗しますし、ロンバート大佐やジャムを打倒しようとする姿が雄々しい。
 いくつも好きなパートがあるのですが、特に好きなところは426ページの「間違っているのは自分でなく、世界のほうなのだと思える力が、もはや子供ではない現在の自分にはある。世界を構成するピースのすべてがみな正しいポジションを失っているのであって、各個人の存在自体にはなんら間違いなどない」というところ。このフレーズを活かすためにいままでの物語があったのかと思えると、感慨深いです(この後も話は続きますが)。勇気づけられる文章。
 終盤、ロンバート大佐と零との最終決戦は、機械的・システマチックと形容されがちな『雪風』作品において、零の人間性が浮き彫りになる印象的な場面でもあります。面白かったです。続編も出てます。


知らない映画のサントラを聴く

竹宮ゆゆこ『知らない映画のサントラを聴く』新潮文庫NEX、2014。

錦戸枇杷。23歳。無職。夜な夜な便所サンダルをひっかけて“泥棒”を捜す日々。奪われたのは、親友からの贈り物。あまりにも綺麗で、完璧で、姫君のような親友、清瀬朝野。泥棒を追ううち、枇杷は朝野の元カレに出会い、気づけばコスプレ趣味のそいつと同棲していた……! 朝野を中心に揺れる、私とお前。これは恋か、あるいは贖罪か。無職女×コスプレ男子の圧倒的恋愛小説。

 主人公は無職の女。友達に先立たれた主人公が、友達からもらった大切な物を失くしてしまい、大切な物を取り戻そうとしているうちに友達の元カレと出会う話。
 名前が読めないぜ……! と思ったのですが、錦戸枇杷(にしきど・びわ)でした。ちょっとフジキド・ケンジを思い出します。
 一般文芸における文章の描写の厚みと、ライトノベルのシュッとした文体をうまいこと融合させています。笑える文章なのに語っていることは真面目なので、たぶんこれが逆噴射聡一郎のお話にあった「文章が笑っている」の真逆になります。二つの色合いが混ざりすぎず、矛盾せず存在している。
 文章が重たいのに絶妙に軽さを感じさせるもので、社会を生きるえぐみとかやるせなさをサッと表現しています。一番笑ったのは嫌な相手をエアCtrl+Alt+Deleteさせるくだりでした。
 主人公は無職だし特別な能力とかないので、そんなにエンタメみたいなパワーとか出せないんですけれども、人間的に魅力のある人物だし、それなりに悩んだり悲しんだりしているので、クライマックスではかなりキャラクターとして立ち上がりがあります。そのため、「ああ、こういう人間どこかにいるよな。いまも頑張ってるんだな」と思わせてくれます。面白かったです。

「文章が笑っている」の概念について、こちらの記事で勉強しました。リンク先に有料部分があります。

今回は以上です。

次回もモリモリ書いていきたいですね……!
《終わり》

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