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「大切なのは学びの場が続いていくこと」​​Re:Earthと蒔く、未来の種 プロジェクトマネージャー安田遥 | Eukarya観察日記

「大切なのは学びの場が続いていくこと」​​Re:Earthと蒔く、未来の種

次世代データベースの研究開発を行うスタートアップ『Eukarya』の連続インタビューシリーズ。3本目では、デザインチームに所属するNovaさんに、UI(ユーザーインターフェイス)やUX(ユーザーエクスペリエンス)デザインや、ご自身の背景について語ってもらいました。
 
4本目となる本稿では、プロジェクトマネージャーとして自治体や組織の『Re:Earth』(リアース)活用を支援しつつ、Eukarya社内のナレッジマネジメント(知識・情報・ノウハウを共有し、価値の創出や生産性の向上を行う手法)も手がける、安田遥さんにお話を聞きました。

「多様な人々や社会課題と向き合いながら、十分な利益も出していく」という持続可能なビジネスの形を模索する安田さんに、プロジェクトマネージャーとしての業務内容やEukaryaで働き始めたきっかけ・同社の特徴などについて語ってもらいました。 

社内外向けのナレッジマネジメントを担当

 ——安田さんは、Eukaryaでどういったお仕事をされているのでしょうか? 

私は大きく分けて二つの業務を担当しており、一つはプロジェクトマネージャー業務、もう一つは社内のナレッジマネジメントを推進する業務です。
 
プロジェクトマネージャーとしては、自治体や組織の担当者とやりとりしながら、『Re:Earth』を活用したデータビジュアライズ等を行い、それぞれが抱える課題の解決をサポートしています。
 
具体的には、必要なデータの作成支援、『Re:Earth』の活用方法の提案、『Re:Earth』のレクチャーワークショップの開催などが私の担当です。
ワークショップは自治体担当者のほか、学生や研究者の方などに向けて開催することもあります。
 
一方で、社内のナレッジマネジメントについては、社内知見の整理や共有を目的とした業務を担当しています。
Eukaryaもだんだんメンバー数を増やしていますし、今後も拡大予定なので、社内の学習支援や研修体制整備は急務のひとつです。
 
その中で私は、『Re:Earth』の機能や利活用における注意点、社内の個別業務などについてまとめたマニュアルの作成や、プロジェクトマネージャー向けの社内勉強会の開催などを主に担当しています。

あと最近では、Eukaryaの人事・採用業務も一部お手伝いしていますね。
 
——つまり、社外と社内の両方に向けたナレッジマネジメントを担当されているわけですね。外部とのやりとりが主体のプロジェクトマネージャーのお仕事について、より詳しく教えていただけますか?
 
はい、現在私の担当プロジェクトは4つあり、各プロジェクトチームの規模は10名ほどです。チームの大半が自治体やパートナー企業の方で、Eukaryaの担当者は私を含めて1〜2名、という体制のものが多いでしょうか。
 
プロジェクトマネージャー業務は進捗・タスク管理のほか、クライアントとの連絡・相談がメインです。
ただ、Eukaryaのプロジェクトマネージャー職では、情報の仲介役をしていればいいというだけではなくて……。
時には、クライアントの課題に基づいた『Re:Earth』活用方法の提案、提案のためのリサーチ、といったスキルも必要なため、苦労しつつも日々挑戦しています。(笑)

——個別のプロジェクトの概要についても教えてください。自治体、その他のクライアントは、どういった問題意識を持っているのでしょうか?
 
私が現在取り組んでいる案件の多くは、『Re:Earth』を用いて課題解決に取り組むクライアントのサポートです。
 
例えば、山口県下関市とのプロジェクトでは、人口減少対策、雇用創出、空き家活用、テレワーク促進などを目的とした地域マップの作成支援を行いました。

このプロジェクトは、空き家の場所や求人の場所などを可視化したマップを公開し、移住を考えている方を後押ししたり、地元経済を活性化させるのが狙いです。この案件については、テレビや新聞でも大きく取り上げていただきました。
 
また、大学共同利用機関法人 人間文化研究機構とのプロジェクトでは、研究者の方々による歴史や文化に関する研究内容を、『Re:Earth』を使って可視化しています。 

このプロジェクトの一環として実施したワークショップでは、1800年代に作られた京都の観光名所を紹介する英文ガイドブックを基にした、デジタルアースマッピングが作成されました。その中で、昔と今の京都の観光名所の場所をRe:Earthで可視化して比較することにより、「観光客が集まる場所が、時代とともに京都南部から北部に移動しているのではないか?」という仮説が出てきました。

個人的な考察ですが、こういった新しい形の可視化による発見や仮説立案を通じて、現在のオーバーツーリズムの問題を解決するための議論もより展開可能なのではないかと考えています。
例えば、昔の観光名所に再びスポットライトを当てて、観光客を分散させるというような施策も今後検討できるかもしれません。
 
——自治体とのお仕事は、どういうプロセスでRe:Earthに関する検討が始まるのでしょうか?
 
ほとんどの自治体の方々は、自分たちの地域課題を認識しており、「何かしないといけない」という危機意識を抱いています。
ただそこに対して「『Re:Earth』やPLATEAUデータを使うことで何ができるのか?」というのは、我々の広報不足もあり、まだご存知ない場合がほとんどです。
なので、まずはEukarya側から自治体側に、『Re:Earth』やGISデータを使った過去のユースケースなどをご説明します。
 
この際、難しいテクニカルな用語はできるだけ噛み砕き、わかりやすい言葉を使うように心がけています。
『Re:Earth』やGISデータで何ができるかがクリアになればなるほど、地域の課題を解消するアイディアがお互いから出やすくなるからです。
 
また自治体によって、抱えている課題や保有しているデータの種類、デジタル化の程度はさまざまなので、それに合わせた提案やサポートの必要があります。
自治体の担当者からお話を伺いつつ、私の方でも追加でリサーチを行い、それぞれに合った『Re:Earth』の活用方法を検討・提案するわけです。
 
——なるほど、お話を伺うと、Eukaryaのプロジェクトマネージャーには、高いプレゼンテーション能力やリサーチ力、情報ギャップを察知し表現を調整する能力などが求められそうですね
 
その通りです。(笑)私もまだまだ修行中の身ですが、クライアントやパートナー企業のみなさんのご協力もあり、プロジェクトを進められています。

『Re:Earth』による新しい学びの場 

——大学や教育機関でも『Re:Earth』が利用されているというお話がありましたが、そちらについても伺えますか?
 
はい。例えば、Eukaryaはデジタルアーカイブや情報デザインを専門とされている渡邊英徳先生の研究室からスピンオフした企業なのですが、この渡邊先生も授業にRe:Earthを取り入れてくださっています。
東京大学の学部一年生向けの授業で、毎年異なるお題に沿ってRe:Earthで作品を制作するというものなのですが、いつも面白い作品がたくさん出てきて、私たちもすごく刺激をもらっています。

オープン講評会では、その中でも特に優秀な作品が紹介されるのですが、技術・アイディア面いずれもすごく見応えがあります。
 
こういった授業や課題をきっかけに、今後も『Re:Earth』やGIS・オープンデータの利活用に興味を持つ学生が増えていくのでは、と期待しています。
 
——それは楽しみですね。安田さんはどういった経緯でEukaryaに入社されたのですか?
 
入社前に参加したとあるワークショップで、EukaryaのCEOである田村(賢哉)さんに偶然出会ったのがきっかけでした。
 
その時に、Eukaryaのビジネスや、『Re:Earth』などのプロダクト、さらに難民状態にある方やシングルマザーの方々も巻き込んだチーム作りについて聞きまして。
その中で田村さんから、「『Re:Earth』を中心に新しい学びの場作りができるかも」という話を伺い、Eukaryaでの仕事に興味がわいたんです。
 
その後、大学を卒業し、2023年の11月にEukaryaに正式に入社しました。
 
——安田さんは昔から、学びの場やそれを作ることにご関心をお持ちだったんですか?

はい。元々、国際協力に興味があり、学びの場作りを通じて世界の子どもたちの置かれている状況を改善したい、という思いがありました。

それは、幼い頃から親に「日本は恵まれているが、世界にはもっと悲惨な状況に置かれている子供達がいる。」と言われて育ったことや、青年海外協力隊だった中学時代の先生から、児童労働や貧困格差について聞かされたことなどが影響していたような気がします。

これらのことに興味を持ち、調べたり自分でも見聞きしていく中で、学校に行けない、仕事につけない、病気になる、お金がない、といった状況が連鎖している実態につきあたりました。
その現状を解決するために「根本的な課題は何なのか?」「その課題に対して自分には何ができるのか?」と考えたんです。

貧困や様々な課題を解決するには、当事者達だけではなく、周囲の人たちの力も合わせながら、負のサイクルを止める必要があります。
そこで私は、「大切なのは学びの場が続いていくことだ」と考えました。

それで、当時日本で一般的に「教育」として教えられているものを学ぶだけでは世界の問題にアプローチできないと考え、国際問題について多角的に学ぶことのできる青山学院大学の地球社会共生学部へ入学しました。

——そこではどのようなことを経験されたんでしょうか?

大学のゼミである青山学院大学古橋研究室では、GIS(地理情報システム)や地図などの空間情報に触れる機会がありました。これは今の仕事にも関連している内容ですね。
また研究の中で、グラフィックレコーディング(情報量が多い会議や議論等の内容を、絵や図形で端的にまとめる手法)に出会い、その有用性についても学ぶことができました。

 加えて、大学在学中に2年ほど休学し、ビジネスから教育・学習支援、はたまた社会貢献など、様々な団体でインターンやアルバイトを経験しました。

色々な場に出向き、たくさんのイベント運営や企画に携わりましたが、運営していたイベントの失敗が続き、ふと糸が切れることがあったんです。
世界のことのためにも、自分のためにも全く頑張れなくなる時期があって。
休みながら「何ができるだろう」と考えていたのですが、その頃から「世界から身の回りの人へ、関心を寄せる範囲を少し狭めて、好きなことを生かして関わってみよう」と思うようになりました。
 
——気持ちの変化があったんですね。具体的には、どのような関わりをしてみようと考えられたんですか? 

グラフィックレコーディングの面白さに魅了され、授業やイベントで実践し始めました。情報をまとめる手法としてのグラフィックレコーディングを活用する中で、興味深い発見がありました。
書き手と読み手の間で認識の齟齬が生じることがあり、そのメカニズムに注目するようになりました。さらに、その齟齬から生まれるバイアスの危険性についても考えるようになりました。
こうした実践を重ねるうちに、情報の視覚化と認知の関係性といった研究テーマとしても発展していきました。

この「認識の齟齬」というポイントについては今でも関心があります。『Re:Earth』で情報を可視化する際にも、気をつけたいポイントですね。

二項対立のその先へ

——さまざまな組織でのご経験を踏まえて、Eukaryaという組織の特徴はなんだと思いますか?
 
まずEukaryaには、特に優秀な人が集まっている印象です。プロセスよりも結果が重視される傾向があり、少しドライというか、プロセスを重視する従来の日本企業の文化とはちょっと違うと感じますね。
 
あわせて、これは私が入社を決めた理由の一つでもあるのですが、Eukaryaは人や社会・環境に対して、可能な限り搾取をせず経済活動を成立させられるように意識して動いていると思います。
これは、『Re:Earth』をOSS(オープンソースソフトウェア)として公開していたり、難民状態に追いやられてしまっているエンジニアの方々と積極的に協働していることなどに表れていると思います。 

あとは、自社の株を放出していないのも特徴でしょうか。
外部株主が増えると、企業の財政には好都合でも、組織として目指す取り組みを阻まれるリスクも出てきます。
会社としてやりたいことをできる体制を堅持しているのは、Eukaryaの大きな強みの一つですね。
 
これは、私自身がこれまで経験した組織も振り返ってみての感想なのですが、現代では資本主義が進みすぎた印象から、「脱経済成長」を掲げる人も増えていると感じます。しかし、社会活動や環境保護にのみ力を入れていると、ビジネスとして立ち行かない現実もあります。
 
「多様な人々や環境に配慮しながらも、組織として利益も出し続ける。」今後成功するビジネスには、この二つのバランスが重要なのではないかと思うんです。
そういったバランスを体現しているのがEukaryaであり、それがこの会社の独自の魅力だと、そう思います。
 
——最後に、今後のお仕事における抱負をお願いします。
 
抱負、ですか……!(笑)
そうですね、Eukaryaという組織のメンバーの一員としては、『Re:Earth』をさらに普及させていく方法を模索していきたいです。
すでに東京大学といった教育機関では、学生さんたちが『Re:Earth』活用の面白いアイディアを出してくれていますが、さらに自主的に「『Re:Earth』を使って何かやりたい!」と思ってくれる次世代の方々を増やしたいと考えています。

そういった人たちが増えていけば、『Re:Earth』の活用の幅もさらに広がり、それを基に次の世代の学びの場作りにも活かせます。そうなれば『Re:Earth』利用のエコシステムも自然と、私たちの思いもよらないようなところまで広がっていくと思います。

プロジェクトマネージャーらしからぬ話なんですけど(笑)、個人としては、実は私は「予定不調和」もすごく大切だと考えていて。
プライベートではどうやって「予定不調和」を起こすかいつも考えてるんです。

誰も予期していなかったようなことが起きると、すごく面白いじゃないですか。だから、そういうことが起きるように自分でも種を蒔いて行きたいし、種を蒔く人や場を、この社会に増やし続けて行きたいんです。

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