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「その話が長いのまた!」
「じぶんかて長いやろ」
「うるさい」キジュはソファに寝そべったまま、椅子の背に掛けた新品のビジネスリュックをめいっぱい伸ばしたつま先で床に落とすと、フックに指をかけ、器用に手許まで引き摺る。
「あんなあ」
「ほら、見てこれ」キジュは数冊の本と一枚のチラシを取り出すと、もう一度大きく旋回させた足で今度は冷たい洗濯山からカーディガンをはぎ取り、背表紙の上にはらりとかけた。
「見せて」伸ばしかけた和栗の手を彼女の足が叩く。キジュは代りにチラシの方を彼の目に入れた。

…「校友会?」
「ふん」多恵子はカップの縁に口をつけたまま、目をしばたいて頷くに代えた。
「知らなかったわ」
「D大学の卒業生はな、毎年五千円払うと校友カードいうんがもらえて、それ見せとったら大学図書館の本が学生と同じに借りれるらしいねんて」
「へえ」
「私もついこないだまで知らへんかったのやけど、駒ちゃんのお姉さんがな、もう大学も出て十年になるらしいねんけど、もう毎年毎年カード更新して、日曜日ごとにぎょうさん借りてきはって」
「そんない使う人ならお得だろうね。たえちゃんは?」つい懐かしい呼び名が出て、やや上目遣いに顔を見やると、多恵子はキジュのそれを聞き逃したのか、しばらくその大きな目を見開くと、鳥のようにその首を傾げ、ふと弾かれたように店の入口を向いた。つられて投げたその視線が、一対の女学生を捉えた。
「せいの高いんと小さいんと、なんや私らみたいやね」涼しい鈴の音を鳴らして入って来た彼女らの、小脇に挟んだ教科書に見覚えがあった。
「ふん」キジュは鼻を鳴らし、ざらつく底をすくったティースプーンを口に含んだ。すぐ隣に掛けた彼女らの、せわしない話にそれとなく耳を傾けながら…

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