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たどり着けないあの影に

 中学生のリョウジの悩みは家族が不仲なことだった。両親は共に働いていて父はイライラすることが多い性格なのだが、朝は特に機嫌が悪い。

「おい!なんだこの朝メシは!」

 箸が揃ってないとか、ご飯を出すのが遅いとか、何かにつけて文句をつけている。リョウジはなんでこんなに仲が悪いのに一緒に暮らすのか疑問だった。ただそれを口に出して聞くことはせず、今日もいただきます、ごちそうさまを言って学校へと向かう。 

 学校での生活は順調であった、ただそれは家庭での悲劇と比べて、という話なのかもしれない。クラスメイトともうまくやっている。勉強も頑張った、テストではいつも10番くらい。体を動かすのがちょっと苦手なので、体育の内申点は他の教科と比べて見劣りしてしまうが。問題は家庭にあった。

 家へ帰ると2階へ上がり、勉強机に向かう。今回のテストで彼はもっといい順位を狙っているようだ、母の期待に応えたい思いがあった。共働きの両親はいつ帰ってくるのかわからない、そこでリョウジは家事を自分でできるようにと、母に言われていた。

 この日も夕食を用意し、お風呂を沸かして眠りにつく。両親のいない食卓はとても寂しいものだった。

 朝食の時間だ。今日も父は文句をつけ始めた。

「パンならジャムも用意しろ!」

「ねえ、せめていただきますとごちそうまくらいは言ってよ」

「ガキが!うるせえんだよ!」

横たわった母を踏みつけながらこちらに寄ってくる父の鬼のような形相は何もかも、生きることも、逃げることも諦めさせるような、そんな迫力があった。

最初に死体を見つけたのは、登校してこないリョウジを心配した担任だった。

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