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電子カルテデータを用いた 心不全HFpEF患者における日米の実態比較

製薬企業様向けマーケティング支援を行う株式会社ユカリア データインテリジェンス事業部の城前です。


日米間で心不全患者の傾向に違いはあるのか?

8月25~28日開催の欧州心臓病学会とThe New England Journal of Medicineで発表された米・University of Missouri-Kansas City School of MedicineのMikhail N. Kosiborod氏らの論文をご存じでしょうか。

肥満を伴うHFpEFの心不全患者において、セマグルチドによる治療がプラセボよりも症状と身体的制限の大幅な軽減、運動機能の大幅な改善、体重減少に繋がった、というものです。

この中で、米国においては

  • HFpEFの有病率が上昇している

  • HFpEFは全心不全患者の半数以上を占めている

  • HFpEF患者の大半は過体重または肥満である

という記載がありましたが、日本では果たしてどうなのでしょうか・・・?

そのような問題意識から、弊社内に保有する国内患者を対象とした電子カルテデータベースを用いた分析を行いました。今回はその結果をご紹介します。

HFpEFとHFrEFの識別方法

左室駆出率(LVEF)に基づいて分類されるHFpEF(収縮機能が保たれた心不全)とHFrEF(収縮機能の低下した心不全)は、病名としては同じ「心不全」として扱われます。電子カルテ上でも病名として区別はされていません。

そのため、レセプトデータやDPCデータ上でも同一のものとして表示されています。
そこで、弊社では電子カルテ上にテキストデータとして記載された左室駆出率の検査値からHFpEFとHFrEFを峻別し、分析を行いました。

左室駆出率の構成比率

まず、心不全患者全体における左室駆出率の構成比を確認しました。

n=1,943のうち、HFpEFは86.3%と大半を占めていました。
この点については、米国と同様の傾向といえます。

左室駆出率(LVEF)別の心不全患者割合

患者年代別の左室駆出率構成比率

続いて、患者の年代別に構成比を確認した結果がこちらです。

全年代を通じて、大きな傾向は変わりません。
40代以下ではHFpEFの割合が95.2%と特に高くなっていますが、50代以降でも全年代で8割以上の水準となっています。

患者年代×左室駆出率 別の心不全患者割合

患者年代・左室駆出率別の患者数

同様の分析を実数ベースで行うと以下のようになります。

HFpEF患者数は特に70代以上で多く、全年代合計の約7割(1,345人)を占めています。
なお、本データベースは主に中小病院から成っており、高齢者の構成比が高いという前提はあります。

患者年代×左室駆出率 別の心不全患者数

左室駆出率・男女別の構成比

左室駆出率別に男女での構成比を見てみます。

HFpEFは女性の割合が約6割と高く、HFrEFやHFmrEFの女性割合約4割と比べると異なる傾向が見られます。

左室駆出率×男女 別の心不全患者割合

左室駆出率・年代別のBMI構成比

最後に、左室駆出率・年代・BMI値別の構成比を確認しました。

日本肥満学会による肥満度判定の基準(BMI値25以上が肥満)に基づくと、HFpEF患者に占める肥満患者割合は、50代:50%、60代:40%、70代:28%、80代:27%、90代:13%となっています。
※40代以下は100%となっているが、n数が少ない点を考慮する必要あり

これは、「大半が過体重または肥満」とされた米国の状況と比較すると大分低い状態と考えられます。

また、HFrEFやHFmrEF患者との比較においても、年代による濃淡はあるものの、BMI値は必ずしも高いとはいえない水準です。

左室駆出率×年代×BMI値 別の構成比

米国の結果と今回調査結果の比較

米国での調査結果のうち、1点目の「HFpEFは全心不全患者の半数以上を占めている」については、今回の国内患者を対象にした調査においても、全年代で共通の傾向が見られました。

一方、2点目の「HFpEF患者の大半が過体重または肥満」については、一部のn数の少ない年代を除き、全年代で肥満患者の割合は半数以下となっており、国内では傾向が異なる結果となりました。

なお、分析に使用した電子カルテデータベースを構成する病院群は中小規模であるため、循環器内科専門医が少なく、大学中心のレジストリとは傾向が異なる可能性があります。

今回は速報としてお伝えしましたが、幾つかの点については今後精査を加えていく予定です。

今後も弊社では、海外での興味深い研究事例にも着目しながら疾患分析を行って参りますのでご期待ください。


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