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ポリファーマシーの解消には、病院での運用体制設計に加えて患者のきめ細かな把握・信頼関係作りが重要

株式会社ユカリア データインテリジェンス事業部の城前です。
病院薬剤師Tさんのコラムの第3話、今回の話題はポリファーマシーです。


認知・対策は進むも実行面に課題を残すポリファーマシー


日本老年医学会による『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』で、服用薬剤数と薬物有害事象の発生頻度について、「6種類以上の群」と「1~3種の群」との間に有意差があると述べられた内容は、広く知られています。

しかしながら、全国の保険薬局における処方調査によると、65 ~ 74 歳の3割及び75歳以上の4割でそれぞれ5種類以上の薬剤が処方されており、高齢者を中心に引き続き多剤処方の傾向は根強く存在していると言えます。

厚生労働省 高齢者の医薬品適正使用の指針(2019年版)による

医療従事者の間でポリファーマシーに関する課題意識は高まっていると言われるものの、以下の調査によれば『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』や『高齢者の医薬品適正使用の指針』を実際に活用していると回答した医師・薬剤師の割合は少なく、実践に課題を残しています。

厚生労働省 第17回高齢者医薬品適正使用検討会 令和4年度「高齢者医薬品適正使用推進事業に係る地域調査一式」最終報告による

ポリファーマシーの解消に向けて設けられた薬剤総合評価調整加算・薬剤総合評価調整管理料の採用も進んでいるものの、算定割合は「100床あたりの薬剤師数」の多寡により大きな格差があるのが現状です。

100床~200床未満の施設を例に挙げると、1割未満から5割以上までの幅があり、薬剤師数と算定率は正比例の関係にあります。

薬剤師数の少ない施設では、業務負荷の高さからポリファーマシー対策に十分な工数を掛けられていない状況が推察されます。

厚生労働省 令和4年度「病院薬剤師の勤務実態調査」による

ポリファーマシーに関する、病院の医師と地域の医師との連携体制の構築が難しいという課題も見えており、厚生労働省の高齢者医薬品適正使用検討会ではモデル地域における病院・診療所・医師会を巻き込んだ地域連携の取り組みなども行っています。

こういった現状をふまえ、現場の病院薬剤師はどのように感じているのでしょうか。

ポリファーマシーの定義は患者によって異なる

今回は、ポリファーマシーについて書いていきたいと思います。

ポリファーマシー(Polypharmacy)はポリ(poly)+ファーマシー (pharmacy)から構成される造語でクスリをたくさん飲んでいることを表す言葉です。

日本では精神科の薬剤が多いことが問題とされ、医療費削減の対策として、ジェネリック医薬品の利用とともにこのテーマが取り上げられることとなりました。

2016年度の診療報酬改定では、処方薬剤を減薬することで算定可能な加算(薬剤総合評価調整加算・薬剤総合評価調整管理料)が新設されたことで注目を浴びました。

もちろんポリファーマシーは医療経済への悪影響だけではなく、合併症や死亡リスクの上昇など様々な問題の原因ともなっています。

ではどのくらい飲んでいたらポリファーマシーなの?という疑問もあると思います。

当初は「5剤以上」という説もありましたが、
多くのクスリを飲んでいてもその患者さんにとって必要な薬であればポリファーマシーではないですし、2剤服用でも時にその患者さんにとってはポリファーマシーになり、その定義は個々の患者さんによるというのが最近の結論です。

ここだけ聞いていると、
「多ければとりあえず薬を減らしなさいってことでしょ?製薬メーカーにとってはいい話じゃないよね?」
と思われるかもしれません。

ただ製薬メーカーの皆さんも必要ない患者さんにクスリを飲んで欲しいという気持ちはないと思います。「アンダーユーズ」と呼ばれる、必要な薬が処方されていない状態の患者さんには、薬剤が追加されるという可能性もあるんです。

ポリファーマシーの対策は、必要のない薬を見極め、必要な薬のみにすることが本来の目的ですので、この視点で製薬企業の方が現場へ情報提供をしてくださると嬉しいです。

ポリファーマシーの評価にあたっては、患者との信頼関係の構築が重要

薬剤師として患者さんに接する私が思うに、ポリファーマシーを適切に評価するためには、患者さんとの間で信頼関係を構築することが一番大事です。

患者さんとの間で信頼関係が無い状態で減薬をすると、時に患者さんに大きなショックを与えてしまうことがあります。
それまでの治療の努力が無為なものに感じられてしまったり、不信感を与えてしまったりするのです。

患者さんには「服用してはいけない薬」「服用しても意味の無い薬」などのネガティブな言い方を避けて「このお薬は変えても良い時期ですね」「このお薬は卒業できそうですね」等のポジティブな表現でお伝えすると良いと考えます。

次回は、処方カスケードに関してお伝えしたいと思います。
今回もありがとうございました。


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