主客反転愛者の恋

1
君のようなカレンな少年が好きな僕は
少年愛者というやつなのかもしれません。

君が少年である間
ずっと僕といっしょにいてください。

夏休みの始まり。
僕はラブレターのつもりで書いた紙を桧口に読んでもらった。

びりっ

桧口は、見とけ、って言ってそのラブレターを破り捨てた。

「お前らしくない!」

桧口は声を荒げた。

「お前は少年愛者であること以上に!主客反転愛者だ!」

自分のこと、嫌いだと思ったことはない。
自分が自分だから、何かが輝いて観えるんだ。

「おまえってもったいない。こんなにいいやつなのに、俺に独占されて」

絶望ってのは、自分を変えるしかなくなった時、まだどこかに逃げ道を探そうとする心だ。

どん底に落ちたら、掘れ。
イタリアの格言。

世界を変えようとすることは、自分の中の、欠乏を、自分で満たすことはできないと認めること。

自分の中に、欠乏という他人がいる。

その他人を変えることはできない。
自分の中のことなのに。
それが僕の中のもがきだった。

構造的に抗えないことと戦うこと。
それが世界を変えようとすること。

欠乏と充足が表裏一体であること。
自分の中の欠乏という他人は、充足という他人でもある。

だから、世界を変えようとするんじゃなく、構造は構造として受け入れて、その上で自分の中にある充足が外部に現れてくるのを数えていって、楽しみにしてればいい。

僕はこの夏休みを最高のものにしてみせる。

2
5月のゴールデンウィーク。
桧口とのゲームセンターに行く約束をした。

自分の持ってる服の中で最高の組み合わせでばっちり決めた僕は、桧口の今日の私服がどんなものかと、わくわくしていた。

「おーい、影山ー」

桧口が待ち合わせの場所にやってきた、手を振っている。

手を上げて、よう、と僕も声をかけた。

ゲームセンターでお互いにクレーンゲームで景品を獲得していった。

それいいな、と桧口が言ったキーホルダーを、僕は桧口にプレゼントした。

「いいの!?ありがとう!」

桧口の屈託の無い笑顔が自分だけに向けられてることを思い、僕も、嬉しくなった。

3
4月末の夜。

「やべえ…。おしっこ漏らしたかも」

夢の中で、桧口はそう言った。

目を覚ました。

僕は初めての夢精をしていた。

漏らしたのは、僕?

僕にとっての性は、他者と主客を交換することなのかもしれない。

4
今日から中学1年生、仲のよかった友達は付属にいってしまった。

前の席の子が、振り返りニコッとした。

「俺、桧口まさる!君は?」

「影山とおる」

「俺、将来は作詞家になりたいんだ。中学生の間も虎視眈々と詩の技術を磨きたい!そう考えている!」

コソッと桧口は秘密のことのようにそれを打ち明けてくれた。

「じゃあ文芸部に入るのかな?」

「そのつもり!とりあえず今日早速文芸部に見学に行く!」

「そうなんだ。よかったら僕も一緒に見学行っていいかな、君のことがなんか気になるんだ」

「ハハッ変なやつ!いいの!俺一人
で見学する!」

翌日。

「おはよう。文芸部の見学はどうだった?」

「卒業生のどの詩もなんか幼かった!可愛いとすら言えた!」

「お気に召さなかったか」

「影山はどんな詩を書くの?」

「え?どんなって言われても」

「俺がお題出すから今書いてみて!」

「いきなりだな。でもいいよ書いてみせよう」

「赤い星!って言葉を必ず使って詩を書いてみて」

「赤い星か…」

ぽちぽち

「できた」

いちばん重要な色
血の色

赤い星はいつか死ぬ
星の死は光を生む

真っ赤な星
海ばかりの星

雨たちの記憶は
生まれる光の色に
含まれるだろうか

「いいね!」

「そうかい?何だか照れるね」

「この詩にタイトルをつけるなら?」

「僕、ネーミングセンス無いんだよ」

「じゃあ俺がタイトル考えてあげる!」

「つけてつけて!」

「…思いついた。国の無い星!」

「国の無い星、か…ところで桧口はどんな詩を書くの?」

「こんなの」

「どれ…最後のフレーズ、いいな。どんなに粋がっても一人じゃ価値が無い個人プレーヤー
、君がいてこその個人プレーヤー…」

「もしも2人っきりのためのSNSなんてのがあったらお前と詩の流しそうめんしたいな」

「詩の流しそうめん?」

「お互いがお互いのためだけに詩を書くの!それをタイムラインに流し合う!」

「へえ…鍵アカでそれできないかな」

そうして僕たち二人は、二人っきりの世界をこしらえていった。