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コロナと友達と世界とピンチ

世界がコロナウイルスですったもんだしているこのとき、発熱してしまった。37.8℃。

まず、家族を含めて最近室内で長時間一緒に過ごした人たちに連絡をした。コロナ感染かどうかはわからないが、身近には高齢者もいるし、基礎疾患を患っている人もいる。感染を疑って行動するに越したことはないと、判断したのである。
幸い職業柄家にこもっていることが多い上に、ここのところ原稿の進みが悪く、ライブにも飲み屋にも出かけていなかったため、連絡すべき相手は数えるほどで済んだ。それにそもそも、友達も少ない。

次に、前々からチェックしていた武蔵野市のコロナ対策サイトを見て、やるべきことを整理した。
ふむ、37.5℃以上の熱が4日続いたら、相談窓口に電話をするのだな。それまでは、毎日体温を計って安静だ。食料も水も十分あるし、大丈夫。

ところが、熱はたった一日で引いてしまった。辛かった倦怠感も嘘のようになくなり、食欲ももりもり出て、つまりは完全に快復してしまった。
してしまった、という言い方もないだろうが、実際、拍子抜けした。おそらくコロナではないだろう。
しかし可能性は0ではないので、自主隔離を続けることして、今日で3日目である。

この発熱のことを、SNSに書いた。
わたしはそれまで、世の中が騒いでいる割には、身近で感染や発症の話を、たとえば「友達の友達の親戚が感染した」というような話も聞かないことを、実はこの世に新型コロナウイルスなんて存在しないのかも、という考えで整合させることを楽しんでいた。陰謀論ではなく、妄想で遊んでいたのである。
そこへ自分自身が発熱したので、やや興奮したことは認める。その浮かれた気分とそれをへし折るほどの酷い倦怠感の間で、ネットを通じて不特定の誰かとシェアしたいと思ったのは、わたしが根の孤独な人間だからだと思う。孤独な人間が孤独であることにへいちゃらな理由は、世界を友達だと思っているところがあるからなのだ。
それからもうひとつ、公表することで情報も欲しかった。情報はピンからキリまであることはわかっているが、ないよりはあったほうが良い。

ところが、やってきたのは情報ではなく、友人たちからの励ましの連絡だった。孤独な人間が考えている ”世界という友達” のことではなく、実際に身近にいる人間の友達のことである。
発熱より前にも、「近所のドラッグストアからトイレットペーパーが消えてしまい、仕方なく売れ残っていたポケットティッシュを買って帰った」とSNSに投稿したら、即座に「うちにあるよ、分けられるよ」とメールをくれたり、ドドーンと12ロール入りを2パックにボックスティッシュまでつけて郵送してくれたり、そんな友達がいて、わたしはこうして呑気に「孤独」などとほざきながら生きている。
孤独を標榜しているくせに友達はいるのか、と言われそうだが、孤独とは生き方であり、友達とは関係のことである、という屁理屈でかわそう。
そう、わたしには友達がいる。とっても少ないけれども、いる。むしろ、友達なんて少なくていいと思っている。良い友達がたった一人でもいれば、人生は全方向に広がっていく。たとえ友達が0人でも、悪い友達と無理してつるむより100万倍良い。

LINEやSNSで、励ましや、自分が抱えている不安や、他愛のない近況を交換し合った。ただそれだけのことが、わたしの中に喜びをもたらす。不思議だなと思う。中には皮肉まじりの議論から始まって、最終的に「じゃあ2週間後に濃厚接触しよう♡」で終わるような励ましもあったが、それでさえわたしをムカつかせながら大いに笑わせ、結果、元気にさせた。
気にかけてくれている人がいる、ということが、わたしという人間が今ここにいるということと、今ここにいていいのだということを、認識させてくれる。それが幸福感として人の心を満たすのだと思うと、人間とはなんと繊細なのだろうと切なくなる。そして愛おしい。

わたしは、東日本大震災のあとでやたら押しつけられた「絆」が大嫌いだったし、今またそれを持ち出されたら、耳も目も塞ぐ。
友達がしんどいことになったら、励ます、手を差し伸べる、気にする。そんな、誰もが子供の頃から当たり前にしていることを、スローガンに掲げたり美談に仕立てて披露したりするから、アレルギー反応が起きるのだ。

気にかけるというのは、縛り合うことでももたれ合うことでもない。
「自分がピンチのときに絶対連絡してこないのが友達で、すぐ助けを求めてくるのは知り合い」と言ったのは中島らもだった。これを読んだとき、どれだけ「ほんっと、そう!」とスカッとしたことか。
このB面には「ピンチのときにそばにいてくれるのが友達で、威勢のいいときだけ寄ってくるのは知り合い」があると思う。ピンチのときこそ、あらわになることがあるのだ。
というわけで、たまにピンチに見舞われるのも悪くない、ということで話を終わらせよう。

今、世界がピンチだ。だから気にかけて、寄り添っていようと思う、”世界が友達” の孤独屋としては。

わたしは日本のGIベビーの肉親探しを助ける活動をしています[https://e-okb.com/gifather.html]。サポートは、その活動資金となります。活動記録は随時noteに掲載していきますので、ときどき覗いてみてください。(岡部えつ)