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タルトタタン物語&本場の作り方

あるワインスクールで、ロワールの白ワインをテイスティングすることになった。ロワールのそれと聞いて、私は即座に「このワインだったら、タルトタタンに合いますよね。」というようなことを口走ったら、その場に居合わせた受講生が、キョトンとしている。みなさん、どうもタルトタタンをご存知ではなかったらしい。ここで気がついたのだが、同じ食に関する研究をしていても、お菓子とワインというのは、両極端にあるらしく、お菓子好きがワイン好きとも全然限らないし、ワイン好きがお菓子を知っているかというとそうでもない。要するに、日本では、フランスの食文化が広まってはいるが、そのパーツパーツで伝わっていて、総合的な知識、味わい方において知るには、ちょっと時間がかかっている。

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(写真は、実際にホテルタタンで供されたタルトタタン。ヴーヴレイの白ワインと!)

 フランスでは、料理にはワインを合わせるのは当然であるが、お菓子にもごく自然にワインを合わせる。地方を訪れて、お菓子屋さんを訪ねお菓子をご馳走になると、飲み物として出してくれるのが、コーヒーや紅茶ではなく、その周辺の土地のワインである。
 タルトタタンに関しては、まさにその発祥の地、ホテルタタンを訪ねた際、シェフが作ってくれたタタンにサーヴィスの人が合わせてくれたのは、ほんのり甘いロワールのヴーヴレイという甘口のワインであった。あるいは、タタンはりんごのお菓子だから、シードルなども合うだろう。こんなふうにワインとともにお菓子をいただけば、その味わい方も数倍面白くなる。
 タルトタタンは、失敗がもとで世に広まったお菓子ということで有名である。このお菓子は、ロワール地方からほど近いソローニュ地方の小さな町、ラモット・ブーヴロンのホテルタタンの厨房で、19世紀に作られた。
 当時、このホテルは流行りに流行っていた。毎日押し寄せてくる客を相手に美味しい料理と笑顔で迎えていたのは、ステファニー・マリーとジュヌヴィエーヌ・カロリーヌという姉妹だった。ある日のこと、二人は、あまりの忙しさにデザートを準備することを忘れてしまった。これに気が付いた姉妹の一人が、パニック状態のままタルト型にりんごをいきなり詰めて焼いてしまった。と、そこにやってきたもう一人の姉妹が、オーブンをあけてびっくり。生地がない!こちらはすぐに機転をきかせ、生地をかぶせて焼き、焼きあがってからタルトをひっくり返そう、という手段に出た。するとどうだろう。実際にひっくりかえしてみると・・・。りんごはあめ色に輝き、とろけるような食感となっている。その後、このお菓子の評判は町に広まり、ホテルの看板菓子となっていく。そして、そのレシピは姉妹亡き後も守られ、人々に愛されてきた。そんなある日、たまたまそこを訪れていたフランスの食通ジャーナリスト、キュルノンスキーの口に入り、その美味しさに記事を書かずにいられなくなる。するとそれはたちまちパリでも評判になっていったのである。

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(姉妹の家系図と出生証明書)


 日本でタルトタタンを作るのはむずかしい。なぜならば、日本の果物はおうおうにして食用にできているため、とてもジューシーだからだ。そんな果物を焼いても汁が大量にでてしまい、身も崩れがち。フランスの果物は、身がしっかりしていて熱を入れても形がくずれず、水もあまり出ないのでお菓子向きだといえよう。昔からフランスでは、大量に採れた果物を、コンポートやジャムにして保存する伝統がある。だから、売る側も、食用とジャム用と目的別に売るのである。ジャム用はちょっと形が悪かったり、熟していたり。しかしそれこそジャム向けである。日本でも、形ばかり優先にしないで、こんなふうに目的別の果物の売り方を考えるのはどうだろうか。
 ちなみに、日本ではお菓子作りに向いているりんごというと、なぜか紅玉と頭にこびりついている人が多いが、それは好き好きであって、あの酸味の強さが気になる人は、フジやスターキング、デリシャスなどでも美味しくできる。

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実際にホテルタタンの厨房で、タルトタタンを作ってもらった。りんごは、かなり適当にカット。

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鍋にぎゅぎゆう詰める。

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生地をかぶせる。

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焼いてオーブンから出す。

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鍋を揺すりながら、レンジの火にかけてりんごをキャラメリゼさせる。

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ひっくり返して出来上がり!

私が、家で焼いた簡単タタンの作り方は、YouTube に前編、後編で投稿しましたので、こちらも宜しかったらご覧ください。https://www.youtube.com/channel/UC1n32HonAcXB-oIP4uBveLQ?view_as=subscriber


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