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異次元世界のマレーシア ~肩身の狭くなるお酒~

マレーシアでは最近、お酒の販売が制限されつつあります。どうしてでしょう。

 マレーシアの国教はイスラーム教で、信者らは原則お酒を飲んではなりません。しかし、非イスラーム教徒である華人もインド人も少数民族がいることからお酒の販売や飲酒はこれまでも認められてきています。

 2020年3月に発令された新型コロナ感染防止向け活動制限令 (MCO)以降、徐々にお酒の販売が怪しくなってきました。

 まず、現在もですが、パブやバーなどの営業禁止。すでに2年近くも開けられない状態が続きます。バーなどでは人が多く集まるため、たしかに感染防止のために禁じるというのは理にかなっているとは思います。ただ、これら業種だけで食べている人もおり、このように長期に閉鎖されるのは問題でしょう。

 マレーシアでお酒を飲むのは、華人やインド人、外国人が主です。バーなどで飲みたい人も多く、こういった人たちにも配慮が必要かとは思います。

 ただ、現在は与党の一政党としてイスラーム国家を党是とする全マレーシア・イスラーム党(PAS)の存在があります。この政党はイスラーム法の全面導入も求めており、バーやパブなどの閉鎖はこの政党への配慮もあるようです。感染防止という名で酒類販売を制限させたい意向が透けてみます。

    しかし、華人らもこの状況をそのまま受け入れているわけではなく、食事も酒類も提供する「カフェ」と業種を当局に変更申請して営業はしており、実質的には開いている状態でもあります。いわば抜け道といったところでしょうか。

 最近では11月1日からクアラルンプールのコンビニなどでビール以外の酒類の販売が制限される措置が出されました。販売時間も午前7時から午後9時までの間とされ、さらにレストランやラウンジでの酒類提供は午前0時まで。酒類を販売する店舗は宗教施設、学校、病院、住宅地、警察署から100メートル以上離れている必要があるとも定められました。

 これらの制限に対しては業界の反対も強く、今後また何かしら変更する可能性も十分にあります。ただ、国全体の流れとして国内では酒類を排除していきたい方針のようで、お酒にまつわる事情は今後も厳しくなるかもしれません。

   一方、華人の多いペナン州では販売制限はしないとすでに表明してます。また、キリスト教徒も多い少数民族は蒸留酒やワインなども製造し、日常的にお酒も飲むサバ州やサラワク州ではこういった措置を出すのはなかなか難しいかと思います。首都圏やイスラーム色が強い州ではさらに厳しい措置を取る可能性はあると思いますが、完全に排除するのは難しいでしょう。

  もう一つ気になる議論がありました。それはマレーシア産ウィスキー「ティマ」(国内産唯一のウィスキーでアルコール度40度)の名称について。日本ではあまり知られていないウィスキーですが、2020年の世界スピリッツ大会で「伝統国以外で生産されたウイスキー部門」で銅賞を獲得したウィスキー。今年の国際ウィスキー大会でも入賞を果たすなど実力のあるウィスキーなのです。

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  (写真)ウィスキー「ティマ」

 しかし、この飲み物の名称が「マレー人を馬鹿にしている」とのことで今年11月に国会でひと悶着に。

 「ティマ」はマレー語で錫の意味。ボトルのラベルには、錫鉱山が多くあったペラ州の初代駐在理事官で探検家でもあったトリストラム・スピーディー氏の肖像が描かれています。同氏はマレー半島に初めてウィスキーを紹介した人物とされます。

 錫はかつてマレー半島で採れた鉱物で、現在の華人の先祖が鉱山労働者として入ってきたきっかけとなりました。その「ティマ」の名称をウィスキーに使っていることに与野党で批判が上がり、「名称を変更しろ」との圧力がかかり、製造業者も困惑。担当大臣が面談してこの名称となった経緯の説明を受けた後、名称変更はしなくてもいいとわざわざ閣議決定されました。

 何だか単なるイチャモンのような気もしないでもないのです。そもそももう何年にもわたってこのウィスキーはつくられてきたようで、なぜ今頃になって文句が出てきたのか。

 皮肉にも2020年に初めて酒類で賞を取ってしまったことがよくなかったのかもしれません。イスラーム教を国教とするマレーシアがウィスキーで賞を取ったという相矛盾するイメージが世界に流れたのを危惧したためなのでしょう。

 いずれにしても、お酒にまつわる制限措置は今後もいろいろとマレーシアでは出てくる可能性は大きいでしょう。アルコール類は中毒性があるため、たしかに規制した政府の意向も理解できますが、その前にもっと徹底してするべきものがあるのではないでしょうか。

 20世紀前半には麻薬の阿片がタバコと同じようにどこでも手に入り、その後は国際的な流れもあって麻薬は全面禁止になりました。しかし、それでもまだ麻薬はどこでもまだ手に入ります。それを考えるとお酒を完全に無くすことは到底困難で、その前に麻薬やタバコを根絶するのが先のような気もします。また、肥満大国マレーシアで中毒性のある砂糖の消費も抑える必要性はあるかと思います。お酒だけを目の敵にするのはどうなのかなと思うのですが。


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