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ジョホールでの警察署襲撃について

 ジョホール州ジョホールバル市近郊で市から東北方面にあるウル・ティラム警察署で5月17日午前2時半ごろ、警察官2人が殺される事件がありました。容疑者(21)は別の警察官によってその場で射殺されました。この容疑者の自宅を捜査するとインドネシアのテロ組織ジュマー・イスラミヤー(JI)の関係者である家族がおり、これまでに7 人が逮捕されました。
 
 この事件はマレーシア国内を震撼させていますが、動機についてよくわかっていません。この事件の経緯と背景などについて今回はまとめます。


■経緯と背景

 新聞などの報道によると、同警察署に午前2時半ごろ、大学生2人が被害届を出しに来ました。2年前に発生した痴漢についてで、この届けを出しているときに容疑者が二輪車で警察署にやってきて裏手に向かったとのこと。

 不審に思った警察官の一人が裏手に行くといきなりナイフで刺され、容疑者はこの警官の銃を奪いました。異変に気づいたもう一人の警察官が向かったところ、奪った銃で容疑者がこの警察官に発砲。その直後に別の警察官が容疑者を射殺したということです。警察官2人はその場で息を引き取りました。22歳と24歳の警察官でした。容疑者を射殺した警察官も重傷を負いましたが、容態は安定しているとのことです。

 警察は被害届を出した大学生2人をまず逮捕。そして、容疑者宅を捜査して、その家族5人を逮捕しました。

 そこでわかったのがこの家族がテロ組織と関わっていたことなのです。このため、JIによる仕業なのではと疑われていますが、真相はまだ何もわかっていません。

 JIについて説明します。この組織の犯罪行為にこれまで僕は何度も巻き込まれそうになったので、根絶してほしい組織だと思っています。

 JIは1990年代にインドネシアで創設されました。目的は東南アジアにイスラーム国家を作ることです。爆弾の専門家2人により創設され、この2人はインドネシアでも過激な行動をしていたようで、その後ジョホール州に逃れました。

 1998年にスハルト独裁政権が倒れるとインドネシアに戻ってテロ活動をします。特に2000年から活動を活発化させ、2000年にジャカルタ証券取引所が爆破され、15人が死亡。2002年にはバリ爆破事件でJIは有名になりました。この事件は日本人を含む202人が死亡しています。そして、2003年にはジャカルタのJWマリオットホテルの正面玄関やオーストラリア大使館を爆破しています。2004年のクリスマスイブにはインドネシア各地の教会で爆破事件を起こし多数を殺しているのです。

 実は僕はこの一連の事件が起こった近くにいつもいました。特にバリの事件では事件一週間前に爆破場所におり、あやうく難を逃れた経験があります。証取所やオーストラリア大使館は事務所の近くで、マリオットホテルは自宅の裏にありました。こんなに多くの爆弾事件に遭遇したため、最終的にインドネシアを離れる決意をしたのです。人をなんとも思わない連中なのです。

■なぜジョホールだったのか

 JIの創設者の2人は実はマレーシアに逃れているときにジョホール州で学校を設立しています。この学校が今回事件のあった警察署の近くにあったのです。

 この宗教学校は正式な認可は降りていない学校で2002年にマレーシア国家警察が摘発して教師12人を逮捕しました。そのとき155人が学んでいたといいます。

 今回射殺された男はJIメンバーではなかったようですが、その家族はメンバーでそれも人里離れた隔離されていたところにひっそりと住んでいたといいます。人を寄せ付けず子どもがいたにもかかわらず、学校には通わせずに自宅で父親が教えていたとも報じられています。

 ジョホール州にこういった人たちが来てしまったのには、インドネシアから距離的に近いことがあげられます。船で1時間もすればいずれの国にもいけます。海岸沿いで監視が弱いというのもあってすんなりとマレーシアに密入国できるのです。今でもインドネシアからの不法外国人はたいがいジョホールを通じて入ってきます。

 そういった背景もあってジョホール州がテロ組織のたまり場になっている可能性も否定できません。警察はこの事件のあとにJIのメンバーは100人ほど存在していると明らかにしましたが、さて、その100人はどこに行ってしまったのか。マレー半島東海岸あたりに逃げてしまった気がします。

■今後の展開

 ジョホール州のファトワ委員会(イスラーム知識人による法的見解を示す最高組織)は5月20日に死亡した警察官2人を「国家の秩序に捧げて亡くなった」として殉教者であると認定し、葬式についてはモスクで丁重な扱いで行うよう指示を出しました。ムスリムの葬式については別途書く予定でいますが、洗浄、覆い、祈り、埋葬といった順番でモスクで行うことがもっとも丁重な方法とみられています。同委員会がこういった指示を出すのは異例です。

 一方、射殺された容疑者について同委員会は「遺体は病院か家族に自宅で洗浄して埋めろ」との見解を出し、モスクで葬式をしてはならないと声明を出しています。モスクで葬式ができないことはムスリムにとっては屈辱的なものです。さらに同委員会は「指定の場所に埋葬せよ。ほかの墓からは遠いところに葬れ」とまで指示を出しており、ムスリムとして最低最悪の輩と断罪しています。この容疑者の遺体は、警察の厳重な警備のもとですでに埋められました。モスクでの葬儀は認められず参列者も数人程度だったということです。

 さて、この事件以降、各地の警察や政府庁舎では警備が厳重になされています。偶然なのか、17日午後には王宮に2人の男が刃物をもって侵入しようとした事件も発生しています。

 今後大規模テロにつながらないことを祈るばかりですが、国境沿いでも警備が強化されており、この事件の影響はまだ尾を引きそうです。

 いずれにしても、犯人の動機は徹底的に追及してほしい。こういった事件は二度と発生させてはならないためにも。

(写真)事件のあった警察署。Berita Harianより

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