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マレーシアで称号は重要なんです

 マレーシアには、マラッカ王朝時代の階級社会の伝統が、称号や尊称という形で残っています。日本にも戦前まで公爵や伯爵などの称号がありましたが、それと同じようなものです。ただ、現在の日本社会ではほとんど気にする方はいませんが、マレーシアは旧英国植民地でもあったため、称号は社会のなかで大きな意味をもちます。このため、ビジネスシーンなどで称号をもった方と会った場合は称号で呼ぶ必要があるので気をつけましょう。ここではいくつか例を挙げてみます。

階級の上に称号

 まずは、王族が世襲する称号です。Tengku(トゥンク)がよく見受けられます。

例)Tengku Muhammad Faris Petra ibni Sultan Ismail Petra

 こちらは前国王の名前です。Tengkuが一番前に付けられているのがおわかりかと思います。今はこの名前になっていますが、国王のときはてんgくの前に国王の称号であるYang di-Pertuan Agongがつきました。

 ちなみに、Yang di-Pertuan Agongは一般の人には単に「アゴン」と呼ばれています。

 また、政治家や企業のトップ、一般人などが社会的功績を認められ、連邦政府や各州政府から付与される称号もあります。こちらはたくさんあるのですが、数種類を覚えておけば十分でしょう。夫が称号を授かると夫人の呼称も変わるので注意が必要です。

Tun(トゥン):民間人に付与される称号では最上位。国王が授与します。夫人はToh Puanと呼ばれます。

例:Tun Dr Mahatir bin Mohammad

 こちらはマハティール元首相の正式な名前になります。新聞でもこの通りに出てきますが、マハティール氏の場合は単にDr Mだけ見出しに書かれることが多いです。

 このTunの称号は、首相経験者や社会貢献が高かった方にのみ限定され、それほど多くは付与されません。

Datuk Seri/Dato Sri(ダトゥック・スリ/ダトー・スリ):どちらも同格。Datuk Seriは連邦政府(国王)かペナン、マラッカ、サバ、サラワクの各州の州知事が授与。Dato Sriは9つの州の各スルタンが授与します。夫人はDatin Sri。

例: Dato Sri Mohd. Najib bin Tun Haji Abdul Razak
  
 こちらは今、収監中のナジブ元首相の名前です。彼は各州で称号をいくつも授与されていますが、ヌグリ・スンビラン州など複数の州では称号が剥奪されています。犯罪を犯して不適当との理由です。

 ちなみに、binはイスラーム教徒で慣習の「~の父親の子の」という意味で、binの後ろは父親の名前がつきます。女性の場合はbintiの後に父親の名前がつきます。母親の名前がつくことはありません。

 上記の場合、Tun Haji Abdul Razakが父親である第2代首相の名前になります。父親はTunの称号を得ましたが、子どもは国家を私物化して犯罪を犯したためかいまだにTun称号を受けていません。刑務所に入ってしまったため。もはやTunを受けることは難しいでしょう。

 このDatuk SeriやDato Sriは閣僚や政治家に多く与えられ、ビジネスマンのなかでも授与される方もいます。

Tan Sri(タン・スリ):国王が授与。夫人はPuan Sri

例:Tan Sri Haji Noh bin Omar
 こちらは以前の都市福祉・住宅・地方政府相の名前になります。

Datuk/Dato(ダトゥック/ダトー): Datuk Seri/Dato Sriと同様に国王か各州のスルタンによる授与の違いですが、格は同じです。夫人はDatin。


 このほかにも称号はいくつかありますが、称号の呼称は格が同じでも州で違うこともあります。最近では女性が直接称号を授かることも増えましたが、その場合の夫の呼称は変わりません。

 日本人でも功績が認められて称号を授かった人もいます。マレーシア日本人商工会議所会頭だった鈴木一正氏はTan Sri、「すし金」などを経営するテスケムグループの会長小西史彦氏もTan Sri、マレーシアのトヨタ自動車社長日比隆氏はDatukを授与されました。ロームワコーの吉岡洋介氏はDatu Padukaという称号をクランタン州政府から授かっています。

 これら称号をもらうともはや一般人ではありません。社会の中で階級が上になり、呼ばれるときも必ずその称号で呼ばれます。例えば、マハティール氏のことを間違ってもMr Mahathirとは呼べず、必ずTunと呼ばなくてはなりません。これはマナーですので、覚えておいてください

尊称も社会に存在する

Haji/Hajah
 イスラーム教徒はメッカ巡礼が義務付けられていますが、巡礼に行った人は必ず男性はHaji、女性はHajahがつけられます。ただ、巡礼にはハジ巡礼とウムラー巡礼の2種類がありますが、前者の場合のみこの尊称がつけられます。

 上記の称号が授与された場合は称号の次につけます。

例:Dato Sri Haji Fadillah bin Haji Yusof
 
  こちらは現在の副首相の名前です。父親も巡礼に行ったことからHajiが付けられていることがわかります。
 

称号をもっている人は社会的地位が上
 
 上記以外の称号や尊称以外にも博士号を取得した場合はDrの尊称がつきます。日本ではほとんど気にされませんが、マレーシアでのDrは「一般人」とはみなされないので、必ずこの尊称で呼ぶ習わしです。もちろん医者になった方もDrをつけますので、博士号を取得したのか医師なのかは記載された名前だけではわかりません。細かいことですが、Drの後にはピリオドは付けません。これは英国式です。

 日本は戦前までは階級制度でしたが、戦後は階級がなくなり、アメリカのようにあまり称号が気にされません。しかし、イギリスの植民地だった国々ではこの称号制度が現在も色濃く反映されています。英米ではこういったこともかなり異なるため、アメリカ式に慣れている日本人にとっては少し違和感があるかもしれません。

 しかし、少なくともマレーシアやシンガポールでは称号や尊称をもつ人には必ずそれで呼びかけるのが礼儀です。一例をいうとマレーシア航空の航空券を英語で予約する場合、名前の記入欄の前に称号欄があります。ほとんど多くの人はMrかMissを選ぶと思いますが、ここでは大量の称号が出てきます。称号をもっていると優先的に対応してくれることも多いです。マレーシア国内の銀行でも同様で、それほどまでに敬意を示していることになります。

 ビジネスシーンだけではなく、称号を持った方を接する場合は十分気をつけましょう。


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