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Grabとガラケのタクシー運転手

マレーシア発のGrab。日本ではカー・シェアリングやライド・シェアリングとも言われています。マレーシアでは国内各都市で配車サービスだけでなく、フードデリバリーや買い物デリバリーサービスなどさまざまなビジネスを展開しています。

 このGrabが入ってきたことで、タクシー業界も随分前からプレッシャーを感じていろんな施策を展開していますが、今回はそういう話ではなく、運転手の意識の問題を取り上げます。


 先日、地方からクアラルンプールに戻って最寄りのバスターミナルに夜中に着いたときのこと。白タクの呼びかけはいつもあって無視をするのですが、一人の背の小さなおじさんが、

 「Grabです。」

 とGrabのロゴの入った小さな紙をもって近寄ってくるんです。

 は? と意味がわかりませんでした。

 Grabはそもそもこちらからオーダーをいれたときに車が来るわけで、呼びもしないのに向こうからGrabの人は来ません。この人はたぶんタクシー運転手で、Grabといえば、「運賃は安い」のコンセプトで人寄せができると思ったのでしょうか。「Grabです」と声をかけられればGrabを知っている人なら誰でも怪しいと思います。僕も無視しましたが、どうしてこういったことが起こったのか。

■ガラケの運転手たち

 マレーシアのタクシー運転手は実はガラケを使っている人が多いのです。特に中年以上で、古いプロトンのタクシーを運転している人に多い。そういえば、最近は若いタクシー運転手は全く見なくなりました。

 Grabが到来したおかげで、この運転手たちはなかなか客が捕まらず、ひたすら駅やホテルなどで客待ちをしています。しかし、このご時世、Grabなどのカー・シャリングのほうが安いし、いつ到着して何時に目的地に着くかもわかるうえ、いくらかかると事前に提示され、きれいな車(製造から5年以上の車はGrabでは登録できません)が多いことから客はみなこちらにいきます。

 ところが、このガラケの運転手たちは、そもそもスマホを持っていないのでGrabの仕組みがわからない。そして、どこからか「Grabの運賃は安い」というのを聞いたのか、あのおじさんはGrabのロゴの紙をもって客引きをしたのかと思います。いやはや。。。

■時代の波に乗れないのか

 ここで思うのは、どうしてこういった人たちは時代の波に乗れないのかということ。僕の知っているタクシー運転手はGrabが導入されてから即座にスマホを買ってGrabに登録してビジネスを続けています(タクシーをやりながらGrabもサービスとしてやっている人は多い)。

 ところが、ガラケから脱せない人たちは、スマホ自体を買おうともしない。今はスマホはそれほど高いものではありませんが、それでも「金がかかる」と思ってなのか買おうとしない。ということは、これまでの従来どおりの方法で客引きを続けるしかなく、収入は激減しているでしょう。

 また、スマホを買ったとしても、使える気力がなく、またアプリをダウンロードして、というかアプリという言葉の意味がもはやわからないのかもしれません。いずれにしても、新しいものを取り入れないのです。

 タクシーの客側からすると、あんな30年以上前の車に乗せられ、メーターでいくらになるのかもわからず、何時に目的地に到着するかもわからないのに魅力を感じません。エアコンが壊れていて、窓の開けっ放しなタクシーもよく見ます。車内が汚かったりする古いタクシーも多く、さらに現金払いだったりする。それだったらどうしたってGrabに向かうでしょう。こんなタクシーに乗る気になれないのは明白なのですが、ガラケの当のタクシー運転手らはどうもそれに気づいていない。

 つまり、新しいものを取り入れないというのは、客に対して大変失礼な行為なのです。自身も成長をしないし、客の利便性も考えてくれない。客だって同じ運賃だったら、どうしたって便利できれいな車に乗りたいでしょう。そう思うのは僕だけではないはずです。

■新しいことは客のためでもある

 こういうガラケの運転手はもう淘汰が始まっていますが、中年以上になるとやはり新しいことを取り入れるのが億劫になるのでしょうか。僕も今は中年になりましたが、いまだに新しいものをいろいろと勉強しつづけています。その好奇心があるかないかで、自身の成長にもつながるし、ビジネスであればお客のお役にも立っていくはずなのです。そう、新しいものを取り入れるのはお客のためでもあるのです。 

 もう一つ、僕が今住んでいる地方ではときおり観光客用三輪車(シクロー)を運転する人を見かけます。すでに60代ぐらいの人たちが多く、この暑いのに三輪車に乗って観光客を探しているようですが、もちろん観光客を乗せているのを見たことがありません。

 このご時世で三輪車に乗るメリットはまったくなく、こちらも客の立場からすると、「ご老人にムチを打たせて運転させるのはどうだろうか」と健康を気遣ってしまったりします。また、暑いし遅いというのもあってどうしたって嫌煙してしまうものです。

 この人たちもやはりガラケを使っていて、それはKLでのタクシー運転手と同じ。体力的にも三輪車のほうは御老体にはなかなか大変かと思いますが、ほかに仕事もないからこれをやらざるを得ないのでしょう。しかし、一旦新しいことをやろうと思えば、それはできるはずなのですが、そういう気力もないのでしょう。となると、現状の収入も無くなる可能性があるのです。

 時代の流れは最近はとても早いです。なかなかついていくのも大変なのですが、ほどよく自分にも取り入れていかないと自分にとっても、家族にとっても、そしてビジネスをやっている人にとってはお客にとってもよくないことなのです。

 あの「Grabです」といってくれたおじさんからふと上記のことを考えたのですが、さて、あの人たちはいつになったら気づくのでしょうか。

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