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辻村深月さん「朝が来る」と河瀬直美さん「朝が来る」

辻村深月さん「朝が来る」と河瀬直美さん「朝が来る」

 結論から言うと、ともに良い作品だった。先日、辻村深月さんの「朝が来る」を読み終え、河瀬直美監督で映画化されていると知った。TSUTAYAに赴くと新作で登場していたので、迷わず借りで鑑賞した。小説で描ける世界、映画で表現できることを、それぞれ高い水準で果たしていたと思う。

 ※以下、内容や結末に触れています

 小説は、不妊と未婚の母を題材にした「社会派」だが、辻村さんの得意分野でもある叙述トリ

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「Eleanor Oliphant is completely fine」と翻訳家の偉大さ

「Eleanor Oliphant is completely fine」と翻訳家の偉大さ

 先月末から読み始めた「Eleanor Oliphant is completely fine」を漸く読み終えた。仕事はきっちりこなすが人付き合いは悪く、空気を読まないキツい発言もし、これといった趣味もなく、週末はピザとウオッカに浸かって過ごすアラサー女性を主人公にした小説だ。味気ない人生を送る主人公Eleanorは、職場のパソコントラブルをきっかけに同僚のRaymondと出会い、生活が変わってい

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読書旅行はたのし

読書旅行はたのし

 猛暑は続くが、朝晩に吹く風に夏の終わりも見えてきた。夏休みはとうに終わったけれど、今年はコロナ禍で旅行にはいかずじまい。そんな夏だからこそ、旅を、旅先で本を開くことを懐かしくさえ思う。
 
 本好きにとって、旅先に本は欠かせない。出張も含めて(出張は意外とじっくり本を読めるのがうれしい)、旅じたくではいつも、どの本を持って行こうか迷い、旅行中に読み切るのを恐れ、荷物に詰める冊数はしぜん、増えてい

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好きな本を語り始める

好きな本を語り始める

鳴蛙、本を読む on stand.fm https://stand.fm/channels/5f1510d536e4dd5a2d65357b

 気がついたら、以前に読んだ本、好きな作家さんのことを考えている時がたまにある。仕事や家事の合間、入浴中、寝る前に、物語の一幕であったり、心動かされた一節であったりが、ふっと頭の中に浮かび、そこから連想や反芻が止めどなく続いていく。「ローズとイリーナが言葉

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経年変化の読書スタイル

経年変化の読書スタイル

 幾度か書いてきたが、私の読書スタイルは「とにかくテキトー」だ。「体系的読書」なるものは、大学や仕事以外では、ほぼやったことがない。というか「趣味の分野でどうやったら体系的になるの?」というくらい、縁遠い。基本的には、(「背伸び」本も含め)その時々に読みたいと思った本を手にしている。
 
 年を経るにつれて、若い頃とは異なってきた面もある。最も変わったのは併読。以前は、読み終えないまま別の本を開く

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「こういう時」の本

「こういう時」の本

 週末のサッカーがいなくなり、ずいぶんな時間になる。もともと、頻繁に街中に出る方でもない。必然的に読書が進む。積ん読も、大分と解消されてきた。
 朝食。音楽をかけて本を開く。近所の散歩、スーパーで買い物、家事。昼食。音楽をかけて本を読む。料理か筋トレ。本を読む。夕食。本を読む。入浴。本を読む。就寝。結構、こういう休日だろうか。サッカーがないことを除けば(それが大きく違うのだが)意外に普段と変わらな

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読書タイムの音楽は

読書タイムの音楽は

 音楽は好きだけれど、音楽のみを聴く時間は少ない。自宅で音楽をかけるときはたいてい、読書タイムだ。晴れ渡った日なら軽快なポップス、しとしと雨がふったならしっとりクラシック、静かな夜にはボリュームを下げたジャズ、というように。BGMは読書の気分を盛り上げ、時に集中を促し、時に気分を転換してくれる。

 私は、時間帯や天候もさることながら、本の内容によってBGMのジャンルを変える。まず、邦楽はかけな

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「こんなもん」の水滸伝が好き

「こんなもん」の水滸伝が好き

 洪大尉に遭って封印が解け、百八の魔星が地上に転生して物語が幕を開ける。水滸伝である。

 中学生時に吉川英治版三国志を手にして、次に吉川水滸伝、となるのは自然な流れだった。吉川版三国志演義は日本向けにだろうが、忠義の側面がより強調されている。水滸伝も同様な傾向がうかがえるが、それでもはみ出し者たちの破天荒な物語はそうした「枠」に収まりきれず、黒旋風・李逵をはじめとした、時に残虐きわまる行動に

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年末年始の読書

年末年始の読書

 カレンダー通り、とはいかないが、年末年始はなんだかんだで休みは多い。ほぼカレンダー通り、という年もある。読書時間をしっかり確保できる、またとない好機だ。基本的にこの時期は、サッカー天皇杯や高校サッカーのほかには、ほぼテレビを見ない。それだけ本を読む時間がある。
 一方で読書三昧でいられると思いきや、存外時間がないのもまた、この時期だ。なんだかんだと買い物や掃除が押し寄せ、慌ただしい気持ちになる。

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京都丸善・丸善カフェという幸せ

京都丸善・丸善カフェという幸せ

 休日に街中へ出るなら、私にとって大型書店とカフェは欠かせない。というより、ほとんどはそこで過ごすために街中に出る、といっていい。京都住まいの私の場合、京都丸善と併設のカフェだ。

 大学進学で京都に来て、初めて足を踏み入れた丸善は、今と同じビルの4-7階くらいにあったように記憶してる。1-3階あたりは学生には縁遠い、高そうな大人の洋服のフロアだった。丸善も5階あたりは洋書がずらりとそろい、それ

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麒麟・ダークワールド〜十二国記新刊

麒麟・ダークワールド〜十二国記新刊

 18年ぶりの新作、として話題となった「十二国記 白銀の墟(おか) 玄の月」。先月、今月の発売日に書店に駆けつけて1・2巻、3・4巻を入手。もうないものと思っていた新作。じっくり読もうかと思いきや、少しだけ開いてしまうともう止まらず、各々2日以内に読み切ってしまった。

 十二国記読んだのは結構若い頃。どちらかというと中高生向けだな、と思いつつも、好みである中華風な世界観と、魅力的な登場人物に惹

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ハードボイルド読みたい!

ハードボイルド読みたい!

 先日、書店をぶらぶらしてたら「そういや原寮さんの沢崎シリーズの新作出てたな」とふと思いだした(すいません、文庫待ちです)。触発されたわけじゃないけども、同じような時期にアマゾンプライムで見逃していた、映画「探偵はBARにいる3」を観た(モンローさんはああいう形で出てくるのね)。しぜん、「そういや最近ご無沙汰だけど、ハードボイルド物また読みたいな」と思い始めた。

 いわゆる「ハードボイルド」

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包み込む古本まつり

包み込む古本まつり

 80万冊とも称される古書が、真夏の下鴨神社境内に積み上げられる「下鴨納涼古本まつり」。大学生の時に初めて訪れ、社会人になって暫く中断していたが、ここ10年ほどは毎年通っている。厳しい日射を遮る木々の下、古本の間を周遊しないと夏を過ごした気にならなくなった。

 「古本まつり」の魅力は、まず冊数と独特の開放感にあるが、ここ数年はほかの来場者に「まじる」のも楽しみになった。まじるといっても、無理

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中国にありそうな寓話

悍馬志征河水流

幅数十里を滔滔と水が流れる河水のそばに、一頭の馬がいた。よく駆けよく嘶き意気軒昂であった。馬が暮らす河水のこちら側は山や谷ばかりで平地は狭く、自慢の脚を生かすには物足りなかった。山の上からみると、河水の向こう側には、果てが見えぬ大平原が広がっている。馬は「こちらは俺には狭すぎる。あちらで思い切り駆け回りたい」と、河水を泳いで渡ろうと志した。
 ほかの馬たちは、この地も良いところ

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