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ジョージタウン大学の専門家に学ぶ社会を変えるNPOの秘訣「ETIC.ソーシャルイノベーションセンターNEWS」2022年1月12日号

こんにちは、川島菜穂です。新年あけましておめでとうございます!2022年が始まって2週間ですが、皆さん新年はどのようにお迎えになったでしょうか?

私は年末に実施したオンラインセッション「『世界を変える偉大なNPOの条件』の著者とともに学ぶソーシャルインパクトとシステムチェンジ」の熱が冷めないままに新年を迎えました。

全5回にわたるセッションでは、総勢70名を超える日本のソーシャルリーダーの方々が集まり、それぞれが目指すインパクトについて対話したり、インパクトの実現に向けてどのように社会を動員し、システムレベルでのネットワークを加速していくか思考しました。

社会課題に取り組むソーシャルリーダーの方々との対話はとても刺激的かつ心揺さぶられる時間で、私自身2022年は何を目指していきたいか、いまだ考えを巡らせています。新年最初のメルマガでは、ぜひ本セッションからの学びを共有させてください。

ネットワークを通じて生み出すソーシャルインパクト

今回のセッションでは、「世界を変える偉大なNPOの条件」の共著者であるヘザー・マクラウド・グラント氏とレスリー・クラッチフィールド氏をオンラインで招へいし、ソーシャルインパクト、ソーシャルムーブメント、システムチェンジといった三つのテーマで学びを深めていきました。

お二人は著作にて、社会的インパクトの創出に成功しているNPOは、適応力あるリーダーシップを兼ね備え、政府・個人・NPO・ビジネスなど多様なステークホルダーをつなげるネットワーク型の組織だといいます。つまりは、自組織という境界を超えて、単独では生み出せなかったインパクトを他者を通じて生み出し、社会システムそのものを変革していく存在と考えます。

例えば、フィーディング・アメリカというNPOでは、500社を超える全国のフードバンクと協力することで、炊き出しや教会、ソーシャルサービスの提供団体など、50,000件を超える現場活動に対して食糧を提供することに成功しました。その数は約130万トンを越えます。また、エクスプロラトリウムというサンフランシスコの博物館は、自らが始めた国内初の体験型ミュージアムの展示ノウハウについて、わざと同業他社に公開することで新感覚の学習体験を全国に広めようとしました。

あるべき社会のビジョンをともにする組織同士がほんとうの意味で手を取り合うことは、イノベーションを劇的に拡げたり、政策変更に影響を及ぼすことも可能にするなど、壮大なポテンシャルを秘めていると言えるでしょう。

社会を動かすソーシャルムーブメントの秘訣とは

では、ネットワークを通じたインパクトとは一体どんなものなのでしょうか?クラッチフィールド氏は、書籍「How Change Happens - Why Some Social Movements Succeed While Others Don’t」で、成功するソーシャルムーブメントは草の根団体のメンバーによる熱量を動員しながら、これら組織のリーダーたちが互いにネットワークを作り協調していると言います。

例えば、米国におけるタバコの規制運動では、草の根団体のトップたちがネットワークを通じて繋がりあっていたことが成功の秘訣と言います。子どもの禁煙キャンペーン(Campaign for Tabacco-Free Kids)という非営利団体が、アメリカがん協会やアメリカ心臓協会、アメリカ肺協会など他の非営利組織のトップたちと協働できるよう、中央で調整役を果たしたことで共通のストラテジーが浸透していきました。言うならば、オーケストラの指揮者を通じて、ネットワーク内の各プレイヤーが互いに調和して活動を展開していたと例えられるでしょう。

また、社会を変えるソーシャルムーブメントを起こすには、時として敵対する相手とあえて手を組み、協働することも重要です。自らのミッションに反対する人たちのメンタルモデルを理解し彼らのハートを働きかけてこそ、ソーシャルムーブメントは成功すると言います。

例えば、婚姻の自由を求めた運動では、ムーブメントリーダーたちはストレートの人たちがLGBTの人たちに対して持っていたイメージを意図的に変えるよう働きかけました。それまでアメリカでは、LGBTの人たちについて結婚を望まない独身貴族のようなイメージ・先入観が先行していたのを、多くの同性カップルも異性カップルと同じように愛情に溢れた家族を築き、家庭的な環境で子どもを育てているという様子を、社会に伝え届けていったのです。

当時副大統領だったジョー・バイデンも、同性カップルの自宅を訪れ、子どもたちが愛情を受けながら暮らす家庭的な様子を目の当たりにすることで、カトリック教徒にもかからず同性婚の支持に自らの考えを変えたと言います。LGBTによるムーブメントが成功した秘訣は、反対層の人たちの心に働きかけられるよう、婚姻の「権利」ではなく「愛」という共通のメッセージに焦点を当てて語ったことにあると言えるでしょう。

社会システムに働きかけるネットワークとリーダーシップ

では、実際にネットワークを育み、システムチェンジを実現するリーダーシップはどのようにして生み出せるのでしょうか?グラント氏からは、カリフォルニア中部、セントラル・バリー・エリアで展開したニュー・リーダーシップ・ネットワーク(NLN)を紹介いただきました。

このプログラムは、カリフォルニア州内でも、移民や貧困など複雑な問題が山積するフレズノとスタニスラウスという地域で実施されました。NPO、企業、行政などクロスセクターのリーダーたちを集め、互いの信頼関係を構築し、地域課題の解決に向けた協働が生まれやすくなるような持続的なネットワークづくりを目的としたものです。

7年間で同地域からは100人以上のリーダーたちが参画し、80以上の協働プロジェクトが生み出されました。特にスタニスラウス郡では、NLNを通じて知り合った仲間の中に、大学や行政、地域交通機関の関係者がいたため、彼らが協力して地域内の移民一世の学生たちに対し、無償の交通費補助を新たに開始することに成功しました。

このプロジェクトそのものは元々、たった5,000ドル(約58万円)の助成金を原資に始まったのですが、ネットワークに投資することで150,000ドル(約1,700万円)の資金調達を実現しました。グラント氏は、たった少しの資金が、システム全体の中に眠っているより大きな資本を呼び覚ますことができると言います。

本セッションを通じて、レスリーさんとヘザーさんからは、
「重要なのは、自分自身のインパクトとエンドゲームにフォーカスし続けるということ。そのためには時として、自分の協力者とパートナーシップを組むこともあれば、対立することもある。」
「素晴らしいNPOのリーダーの素質は、他のメンバーがシステム全体に目を向けるよう促し、エンパワメントしていくことにある。彼らを戦略的な議論に巻き込めるよう、他者の成長に働きかけチームを作っていくことが重要。」
といった力強いメッセージをもらいました。自らの組織のインパクトを超えて、社会システム全体に働きかけようとするリーダーたちが作るネットワークは、確実に社会を変えるうねりになっていくと信じています。

レスリーさんとヘザーさんの講義サマリーは、DRIVEメディアにてご覧いただけます。ぜひご一読ください!

 ◆成功する社会運動に共通する6つのアクションとは?
  ―「世界を変える偉大なNPOの条件」の著者と学ぶ社会の変え方(1)
 ◆日本で社会運動を成功させるには?
  ―「世界を変える偉大なNPOの条件」の著者と学ぶ社会の変え方(2)

- INFORMATION -

◎2月4日(金)オンライン無料開催
デジタルを活用した社会変革の可能性
〜PayPal Community Impact Grants Program オープンセミナー~

社会課題の解決に、デジタルをどこまで活用できていますか?

デジタルをソリューションに取り入れたくても、苦手意識があったり、どこから始めたらいいかわからないという人も多いのではないでしょうか。
もしくは「デジタルの活用」と聞くと、システム導入による業務効率化等の
イメージが先行するかもしれません。

今回ETICでは、デジタルの可能性を最大限引き出し決済のイノベーションを牽引してきたペイパルと協働し、社会課題解決におけるデジタル活用の可能性を再発掘するためのオープンセミナーを開催します。

デジタルを単なるITによる効率化と捉えるのではなく、「デジタルを活用することでいかに新たな価値を創出できるのか?それにはどのようなパターンやアプローチが存在するのか?」といった、ソリューションそのものを進化させるためのヒントを得られる時間にできればと思います。

例えば、AIを活用すればアダプティブラーニングのように学習最適化に向けて人間より受益者に更に寄り添うことが可能になります。
生体認証とブロックチェーンを掛け合わせれば、難民のような金融システムの対象になりえなかった人たちも包摂できるようになります。

ゲストには、社会課題解決におけるデジタル活用の専門家をお招きし、デジタルの捉え方や国内外の事例についてご紹介いただきます。デジタル化の潮流をキャッチし、自団体の活動をアップデートさせる機会に是非ご参加ください。

<参加対象条件>
民間非営利組織もしくはそれに準じる社会的企業または
行政機関(学校法人含む)で活動される方に限らせていただきます。
※参加対象条件に合わない方は、ご参加をお断りする場合がございます。
あらかじめご了承ください。

<こんな方におすすめ>
・困難な社会課題を解決したいけど、未だデジタルの可能性は探りきれていない
・推進中のアイディアにデジタルを掛け合わせてより昇華させたい
・デジタルを基にビジネスモデルを根本から見直してより持続可能にしていきたい、など

◆イベントお申込み・詳細は、Peatixサイトをご覧ください。
※本セミナーは、PayPal Community Impact Grantsの助成のもと実施されます。

<モデレーター>

金 辰泰 氏
株式会社Shared Digital Center 代表取締役
一般社団法人 Robo Co-op 代表理事
株式会社JDSC Executive Sustainability Director
立命館大学 客員助教

Shared Digital Centerにて、ソーシャルセクターのDX推進に向けた業務の集約化×機械化や研修を通じたDX民主化を推進。同時にRobo Co-opにて、シングルマザーや難民といった多様な人「財」のデジタルスキルを活用した経済的自立も支援。    
JDSCではAIと多様な人財を掛け合わせた事業開発を推進し、更なるキャリアアップ機会を共創。元はDeloitte Tohmatsu ConsultingのSocial Impact Officeにて、SDGsを起点としたCSV戦略や財団を活用したオープンイノベーション構想、企業-NPO/NGOアライアンス強化を担当。Deloitte DigitalにおいてSXを目的に据えたDX事業開発のインキュベーターとしても活動。​​​​​

<パネリスト>
加藤 エルテス 聡志 氏
株式会社JDSC 代表取締役CEO

東京大学卒業後、P&G, McKinsey, Baxterを経て2014年一般社団法人 日本データサイエンス研究所設立(現 株式会社日本データサイエンス研究所) 代表に就任。JDSCで経済価値と社会価値の両立に向けて、マルチセクターと業界横断な社会課題をデータサイエンスで解決するコンソーシアムを牽引。元はMcKinseyにて製薬・消費財・通信・ハイテクなど広い業種を担当し、人事・オペレーション・マーケティングなど、多くのプロセスにおいてデータの活用を推進。Baxterではhead of digital strategyとしてデジタル部門の立ち上げから組織化までを推進。

<パネリスト> 
Peter Kenevan(ピーター・ケネバン)氏
ペイパル 日本事業統括責任者

マッキンゼー・アンド・カンパニーにて25年以上の経験をもち、東京オフィスのシニアパートナーを務める。アジア太平洋地域におけるマッキンゼーのコーポレートファイナンス&ストラテジーおよびM&Aプラクティス リーダーなど、広範な業務経験を有する。日本以外にも数カ国のアジア支社に勤務した経験を持ち、アジアの文化に精通。マッキンゼー・アンド・カンパニー入社以前は、日本や米国の法律事務所に勤務経験もあり、ハーバード大学法科大学院(ハーバード・ロー・スクール)で法学博士号、カリフォルニア大学バークレー校でアジア研究学・政治科学の修士号、スタンフォード大学で経済学・日本語の学士号を取得。2021年4月より現職。

◎2月4日(金)から開始
これからどう生きるのか? 変化を受け入れ、前へ進む
「トランジション」プログラムへのお誘い

前号のメルマガでもお伝えしました、ジェレミーハンターさんによる
特別プログラム「トランジション」

ジェレミーさんから、参加をご検討されている方に向けて、
メッセージをお預かりました。日本語訳とあわせてご紹介します。

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これからどう生きるのか? 変化を受け入れ、前へ進む

あなたは今、自分の人生にどれほどの確信を持っていますか?
あなたが本当に望んでいることが、人生に反映されていますか?

今のままでもいいと思いつつ、他に何があるかもしれないと考えていませんか?
しかし、それをどうやって見つけるのか、
あるいはそれが何なのかさえもわからないのではありませんか?

過去の何かが、今、自分の前にあるチャンスを存分に活かすことを
妨げているのでしょうか?

私たちは、不安や不確実性を感じながらも、
その理由を十分に理解できないことがあります。
このような内なる感覚が、今経験していることの真価を見つめることや、
今とは異なる未来に向かって、自信を持って一歩を踏み出すことを妨げているのです。

この半年間のセッションでは、変化に対するあなたの見方や対応を探っていきます。
そして、より意識的かつ意図的に、人生の変化の舵取りをするための手法を学びます。

それが、自分が世界で果たしたい役割や、
それを実現するために必要なステップの理解につながり、
より大きな自信をもたらします。

この講座では、過去の経験を整理し、未来への確かな足がかりを作るために、
十分な時間をかけて、共に学び、体験を創っていきます。
このコースは、セルフマネジメント・コースの集大成です。
あなたの人生の究極の地図をもたらすでしょう。


What’s Next? Embracing Change, Moving Forward

How confident are you about the life you are living now?
Does it reflect what you truly wish to be doing?

Do you think to yourself that you could keep going with what you’re doing,
but also wonder what else is out there?
However, you’re not sure how to find that or even what that might be?

Is there something in your past holding you back from fully embracing the
opportunities available to you right now?

We can also feel unease or uncertain and not fully understand why.
This inner feeling keeps us from either fully appreciating
what we’re experiencing now or confidently taking the next step toward a different future.

In this 6-month class we will explore your relationship to change.
By doing so, you will learn tools for navigating change in a more conscious
and intentional way.

The result is often greater confidence about understanding what role you want to play
in the world and understanding the steps you need to take to realize this.

We will do this in a collaborative, co-creative way, giving you ample time to explore,
bring to closure your past experiences, and create a solid platform for your future.

This course is the culmination of all the self-management courses
and gives you the ultimate map for your life.

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2月4日(金)、2月18日(金)、4月8日(金)、4月22日(金)、6月17日(金)、8月19日(金)【各10:00~13:30】全6回のコースです。
セルフマネジメント集大成のプログラムをぜひご一緒しましょう。

プログラムの詳細はこちら。お申込みは専用フォームからお願いします。

Editor's Note - 編集後記 -


みなさま、あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願い致します。ETICでは、年明けの初営業日にオフィスで新年会をやるのが恒例になっているのですがじつはこの2年のあいだにスタッフの地方移住がかなり進みまして、今年はオフィスとZoomをつないでの開催となりました。新年会では、今年のひとことを紙にかく「書き初め」も恒例行事なのですが、漢字一文字であらわす人もいれば、イラストを描く人もいて、相変わらず自由な組織だなぁ(笑)とおもいました。

皆さんの今年のテーマは何ですか?年のはじまりでもある1月から3月は、次年度の事業戦略を検討される団体も多いのではないかとおもいます。ぜひ聞かせていただきたいですし、なにかご一緒できそうな機会やアイデアがあれば、気軽にお声掛けいただけたらうれしいです。(野田香織)

発行元:
NPO法人ETIC.ソーシャルイノベーション事業部
incu@etic.or.jp

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