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「無理ゲー」とどう向き合うか

この記事は2023/03/31に配信を行なったメルマガの転載です。


みなさん、こんにちは。
エスノグラファーの神谷俊です。

今日は3月31日です。明日から新年度を迎える企業も多いのではないでしょうか。

弊社のメルマガ読者には、人事の方も多くいらっしゃいます。おそらく入社式や研修の準備などで、お忙しい日々を送っていることと思います。

弊社もこの時期は、様々な手続きや対応が立て込むために慌ただしくなります。少し気持ちがソワソワしてしまうので、今朝は敢えて遠回りして林道沿いを歩きながらオフィスに出勤しました。

桜の花びらが散る池の隅で、つがいの鴨が朝食をとっているのを見ることができ、心に少し穏やかな色を加えることができました。


前に進む失敗・後退する失敗

今日のテーマは、仕事における失敗です。

私も(恥ずかしながら)日常的に多くの失敗を重ねています。

判断を誤ったり、書類に不備があったり、スケジュールを間違える、情報を誤って理解している、などなど例を挙げればきりがありません。

これらの失敗が表面化したとき、私たちは多くの場合「こうすれば良かった」という具体的な改善イメージを伴ってその事象を振り返ることができます。だからこそ、「次はこうしよう」と学びを獲得することができる。このような失敗は、私たちがより良く前に進む上で「糧」となる経験になるでしょう。

しかし最近、企業の現場で発生した失敗に関して、関係者の声を聞いていると次のようなコメントがチラホラ聞こえてくることがあります。

「どうすれば良かったのか分からない」

以下は、複数の業務を抱えている管理職の方のケースです。

業務Aと業務Bで成果を上げることを求められた。しかし、業務Aで自分も部下も精いっぱい。業務Bを手掛けること自体が難しい状況だったので、それを上長に伝えたが、上長は現状を適切に理解しておらず「効率化しろ」としか言わない。これ以上の効率化は業務上のリスクを抱えるのでできない。結果、業務Bはほとんど進捗できずに「失敗」した。

こちらは、入社して間もない転職者のケースです。

異業種・異職種から転職してきて、現業務のイロハを学び始めたばかりのときに、会社が頭を悩ませているトラブル事案に従事するように上司に言われた。自分は何も分からないまま、顧客側の言う通りに従った。

上司からは「まずは思うようにやってみろ、挑戦だ」と言われ、何らサポートを得られない(そもそも上司がもっと重大なトラブル事案を抱えており、自分のことで精一杯)。その結果、自分の心身は消耗し、モチベーションは低下。顧客側に成果を残すこともできずに、担当を外されることになった。

これらの失敗を一言で表現するならば「無理ゲー(クリアすることが不可能な設定・構造のゲーム)」といったところでしょうか。明らかな資源不足であるにも関わらず、難題を課されてしまう。本人が「できそう」「頑張れそう」といった期待を一切抱くことはありません。案の定、散々な結果になってしまう。失敗した本人が前に進むような学びや成長を実感できないでしょう。

もっとも深刻なダメージは、自分の可能性や会社の支援に期待をしなくなってしまうことです。自分に対する無力感(私は能力がないんだ)や会社に対する不信感(こんな理不尽がまかり通るのか)を学んでしまうのです。自分や会社を信じられなくなってしまうと、頑張りどころでアクセルを踏み込めなくなってしまいます。


資源不足の職場におけるサバイバル戦略

先日、リクルートワークス研究所から「労働供給制約社会がやってくる」と題したペーパーが発行されました。労働人口の減少に起因する問題は、今後ますます表面化してくることでしょう。先に述べたような「無理ゲー」をやらざるを得ない状況も増えてくるかもしれません。

そのようなときに、働く個人として、あるいは部下を持つ管理者として、どのようなことに配慮すべきでしょうか。ポイントを下記にまとめてみます。

・「ステージ」を分解する
もっとも大切なことは、そのままプレイしないということです。Person-Job-Fit(仕事と人材のバランス)の観点からみて、明らかにJobのレベルが高く、Personとミスマッチが発生しているのであれば、Jobを解体することが求められます。

会社からは「全5ステージをノーミスでクリア」を求められていたとしても、自分はひとまず「ステージ1のクリアを目指して頑張ろう」といった具合で目標をブレイクダウンして、自分にとって有意義なものに再設計することが重要です。

成果目標と学習目標を切り分けてデザインするということです。これによって、成果はでなくても、学びや成長実感を獲得し、次につなげることができるかもしれません。


・「武器」「パーティ」とつなげる
目標をブレイクダウンしても、まだリソースが不足しているという場合は新たなリソースを提供するしかありません。本人のリソースを補填するような人材や知識を紹介し、本人の「武装」「レベルアップ」を促すことが求められます。

もし、社内にそのようなサポートが可能な人材が不足しているならば、社外にそれを求めることになります。管理者は日常的に社外とのパートナーシップを深耕しておくことが重要です。

・「いのちだいじに」の戦略で
私が子供の頃にやり込んでいた『ドラゴンクエスト』というRPGには、「いのちだいじに」という戦略があります。攻撃よりも「回復呪文」や「防御」を重視するというスタンスです。リソースが枯渇しているときほど、まだ残されている基本リソース(例えば、体力や心の健康)を保全することに努めることが大切です。

元気でいられる。この当たり前の状況を優先して守ることが優先されます。そのためには、目標や責任を重視しすぎない(「所詮、仕事だ」)ことや、ケア(休む・食べる・笑う)に意識的になることも必要なのでしょう。


自分を守る

資源が失われているときほど、それに気づきにくいのが人間です。
時間がない。気持ちの余裕がない。

そういうときこそ、「もっと速く動かなくては」と歩みを進めてしまうことがありませんか。

現時点で「無理ゲー」の構造が見えているならば、焦って動くほどに自分を傷つけることになってしまうかもしれません。もしかすると、今は歩みを止めて自分を大切する時なのかも。自分がより良く学び、思い描くように成長を進め、豊かに生きるためにはどうすべきか?それを考える時間なのかもしれません。

「そうは言っても、仕事は大事で…」「そんな大袈裟な」という声も聞こえてきます。

でも、本当にそうでしょうか。その仕事は、自分の人生において、自分を大切にすること以上に大切な「ゲーム」なのでしょうか。自分を大切に考えようとすることは、果たして「大袈裟」でしょうか。私は、私の好きな人たちに元気でいて欲しいなと思います。このメルマガを読んでいる間だけでも、皆さんが自分について想いを向ける時間になったのなら嬉しく思います。

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