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灰原薬『応天の門』

 菅原道真。平安時代の稀代の政治家にして学問の神様。本作はそんな彼の若き日々を描くクライムサスペンス漫画である。

 主人公・菅原道真は天才ではあるが、自分の知識を活かす場面がなく、周りの人との交流にも興味を持たない青年。そんな彼が出会うのは検非違使(当時の警察機関)の在原業平。彼が持ち込む事件の捜査を行う中で、道真は人間的な成長を見せていく。

 書物の中の知識が全てだった道真が、様々な立場の人と出会う。当然知識だけではどうにもならない場面もあり、後味の悪い結果となることも。その中で道真は自身の性質・環境を自覚し、将来に目を向けるようになっていく。作中の事件・会話の中には史実の彼が行った政策に通じるものもあり、歴史好きならニヤリとすることもあるだろう。

 道真に事件を持ち込む在原業平も重要な役どころ。一見女たらしのイケメンだが、仕事はきっちりするし、朝廷の役人事情にも詳しい。世間知らずの道真の良き相棒として活躍する。

 事件の内容は平安時代だからこそ成立するものでバリエーション豊か。夜は闇深く、妖怪・祟り・呪いの影響が強い。立場の高い貴族ならば、事件をうやむやにすることも容易い。そんな状況で道真は事件の謎を丹念に暴いていく。状況次第では犯人を罠にはめたり、事実を加工することも辞さない。毎回どういう幕引きをするのかという楽しみがある。

 若き天才の成長と平安時代ならではの異色ミステリーが楽しめる『応天の門』。単行本の時代考証コラムも読みごたえあり。

 

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