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思い出の『鋼の錬金術師 翔べない天使』について語る

 先日ツイッターにて『鋼の錬金術師』関連のツイートを見かけて、思い出が蘇ってきた。荒川弘『鋼の錬金術師』、アニメ・ゲーム・小説・映画と様々なメディア展開を果たしたダークファンタジー漫画の金字塔である。そんな作品に私が初めて触れたのがプレイステーション2ソフト『鋼の錬金術師 翔べない天使』だった。今回はこのゲームについて語っていく。

 始まりはゲーム雑誌の特集記事だった。当時原作のことは何も知らなかったが、物質を別のものに作りかえる錬金術・業を背負いつつも明るいボケツッコミを繰り出す主人公の兄弟と心の琴線に触れるものがあった。アクションRPGが好きなジャンルということもあり、早速購入した。

 『翔べない天使』は原作のリゼンプール編とセントラル編の間の物語として描かれている。セントラルに向かう途中のエルリック兄弟が2度目のトレインジャックに巻き込まれ、代わりの交通手段を模索する中でヒースガルドという町に暮らしていた師匠の友人と娘に関わる陰謀に巻き込まれるというのがストーリーのあらすじだ。

 プレイヤーはエドを操作し(アルはサポートNPC)、主要な町とその周辺の山道・師匠の友人の巨大な錬金術師の工房・そして現地の軍施設を巡っていく。道中の敵を倒すことで経験値を稼ぎ、アイテムを拾い、ダンジョンのギミックを解除して先に進む。アクションRPGとしては王道の構成だろう。

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 このゲームの特筆すべきところは、原作の錬金術を取り込んだアクション。ガラクタ・銅像等のオブジェを錬成し、武器として使用することができる。これにより、使える武器を探す楽しみが味わえるのだ。その場ごとに錬成するオブジェを探して乗り切るか、あるいは事前に錬成して作った武器を持ち込むか。手軽に戦法を練ることができる。武器は半分以上が使用回数が決まったものだが、大砲など弾が調達できれば強力な遠距離攻撃が可能なものや、プレイヤー側にもダメージがある爆発物、さらに高確率で壊れるが即死攻撃ができる日本刀などバリエーション豊か。おかげで戦闘が飽きにくい。

 また、アイテム取得は宝箱と敵のドロップのみ。アイテムは兄弟それぞれ2つずつ付けられる装備品(防具・アクセサリー)と回復・ステータス上昇等の消耗品。ショップ・お金という概念がないのもシンプルでいい。


 ストーリーも原作を知らずとも把握できるよう、回想として幼いエルリック兄弟の人体錬成のアニメムービーなどきっちり説明はしてくれる。さらに話の核となってくるのが、兄弟の師匠ヴィルヘルム教授の娘である明るいお転婆少女のアルモニ。

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 修行時代の兄弟がヴィルヘルムの工房を訪れた際、出会ったのはアルモニとは正反対の静かで理知的な少女のセレネだった。ヴィルヘルムの話によれば、セレネは病死・妹のアルモニは別の場所に預けられていたとのことだが、当時はそんな話は一切していなかった。さらにヴィルヘルムはアルモニが錬金術に触れることを過剰なまでに禁じている。不可解な謎が徐々に明かされていくのが楽しかったし、原作で掲げられている「等価交換の原則」が残酷なまでに噛み合っている。


 最後に思い切りが良過ぎて印象的だったのが、マスタング大佐とアームストロング少佐の扱い。本編では裏で兄弟たちを支援する役回りだが、ゲームラストでは何とこの2人と戦う機会がある。当時彼らの戦闘シーンは対バルド・傷の男(スカー)戦ぐらい。そんな資料が少ない中で製作された2人の戦闘は超高難易度と呼ぶにふさわしい。初見では確実に負け、準備を整えて挑んだとしても数時間はかかる強さ。生半可な強さではダメだという製作側の強い意志を感じる。……結局私は勝てなかったが悔いはない。


 2003年発売のPS2専用ソフトであり、現在プレイするのは難しいかもしれない。同じ書名でのノベライズ版(著:井上真)も刊行されているので、そちらを探してみてもいいだろう。こちらは戦闘・探索(お使い)シーンを削り、コンパクトにまとめた作品となっている。十分に話を楽しめるだろう。


 この作品をきっかけに私は『鋼の錬金術師』にハマった。アニメこそリアルタイムで追えなかったが、原作漫画と続編のPS2ソフト2作、さらにGBAソフト2作・NDS1作・小説3作と10代の頃に一番お金と時間を使ったシリーズとなった。確実に今の自分の漫画・アニメ・ゲームの好みの傾向を形作った作品。それが『鋼の錬金術師 翔べない天使』なのだ。

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