米国の外で【トップガン マーヴェリック】を観る

【トップガン マーヴェリック】監督ジョセフ・コシンスキー

 そこで来なきゃダメだろう、というシーンでちゃんと来る、ある意味で安心して観れる脚本だった。

 アメリカ海軍(パイロットは空軍だと思っていた)のエリートパイロット養成学校トップガン、そこ出身のマーヴェリック(トム・クルーズ)がトップガンに還って来た。
 とある軍事施設の破壊、そのミッションをクリアするために訓練が行われる。
 訓練のハードさも描かれながら、かつて亡くなった相棒や忘れ形見のその息子、恋人、ライバル、と生活の部分もまた描かれていることが特徴的だ。

 MX4Ð、の映画を体感したことはない。
 でもマーヴェリックと一緒に息を詰めている。例えパイロットに掛かる重力を体感しなくとも、マーヴェリックに掛かる重力を観ながらそうであることを想像することができる。(俳優陣は実際に戦闘機を操縦している!)
 映画と言うのはもしかして、観客が役者になってしまうものなのかもしれない。(演劇はあまりに一人一人の身体が生々しく、映画の画面のようにドアップになったりしないので、生身の観客という受け手としてそこにいる)

 新作の内容について語るというのは、大変よろしくないところではあるので、なるべく注意しながらもうちょっと書き加えていく。


 マーヴェリックは、肉体的にはマッチョだけれど、精神的マッチョではない。それが興味深かった。
 前作の【トップガン】があったのを、これを書いている時に調べて知った。時間を潰す必要があって、映画館に行っていたら上映していたから観に行った。だからその頃のマーヴェリックがどう描かれているかを知らない。後日観てみる。(若い頃のマーヴェリックの写真が映っていて、上手いCGだとばかり思っていた)マーヴェリックは主人公の素質を多いに備えている。破天荒でルール破りで突出実績がある。出世をせずに、一パイロットであり続けている。
 2022年のマーヴェリックは、近しい人の死に涙を浮かべ、どうしたらいいと恋人に言える人だった。還って来る、ことを何度も訴えた。破壊、までが任務だと言う上司に、帰還を話した。叫んだり騒いだりすることもなく。
 だけれどルースターとバディ関係しか築けなかったのは、惜しいと感じてしまう。せっかく教える側に回ったのに、マーヴェリックは自分が主役にしかなれない、50代になっても。もしマーヴェリックが本当に教官に徹する作品が出来たなら、どれだけ否が多くとも、讃がそれを上回るんじゃないのだろうか。せっかく年を重ねたのだから。

 マーヴェリックが指導するのは、ある国がウランの濃縮施設を秘密裏に作っている、その施設が稼働するまでに爆破をするミッションだ。

 確かにこれは物語なのだけれど、実際の米軍の仕事とは何なんだろうか。
 そういうようなことがあれば、当然米軍がその施設を把握し攻撃しようとしていることを知られてはいけないから、少なくとも作戦が終わるまではそれが明らかになることはない。ミッションが成功した場合には、英雄譚あるいは「正義の執行」として喧伝されることもあるかもしれない。
 だけれど、ミッションが失敗した場合はどうだろう。

 マーヴェリックは訓練に失敗した時何故クリアできなかったかを繰り返し聞いた、そう遺族に説明するのかと返しながら。
 ミッションに失敗したら、なぜ亡くなったか、なぜ怪我をしたのかは伝えられるのかもしれない。
 だけれど、何のために、までは伏せられるのだろう。
 そして完成してしまった軍事施設が存在していることを、果たして伝えるのだろうか。
 民主主義に乗っ取れば、伝えられなければならない。だけれど主側である民は、その暴力の存在を知って、軍は何をしているんだと画面に向かって怒る以外に、何ができるだろうか。

 2022年においてなお、命懸けの軍事物はどうしても感動を生んでしまう。
 当事国はボタン一つで核爆弾を発射できるというのに、他国の濃縮ウランの施設を破壊する。
 国そのものではなく、軍事施設をターゲットにすることで、軍や平和そのものをテーマから遠ざけた。そうしないと物語がぼやけるのも分かる。分かるけれど、アメリカが世界一の暴力機関であることに固執することが正義かと、他国の鑑賞者として疑問を持ち続けたい。

 物語序盤で、パイロットはもう廃業になると言われている。無人機がその仕事を奪うと。
 もしもこの先、軍事の多くがAIに取って代わったら、軍事物の創作物から感動は消えるだろうか。いや、AIについて人間が物語ることはあるんだろうか。AIが創作をすることばかり心配しているけれど、AIが多くの仕事を奪った時代に、人間が創作する事柄があるんだろうか。AI批判以外に。

 最後に、ハングマンはおいしすぎるやろ。それでいいんだけれど。

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