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機動戦士ガンダム 水星の魔女 全話を視聴しての感想

好きなだけ書いたら1週間近くかかってしまった。

リアルロボットファン向けではない

好みの問題だとは思うが、私自身にとっては一番大事な部分なので最初に持ってきた。

序盤の戦闘シーンは、安全が確保された学園内での決闘のみであった。命が懸かった緊迫感がないのは当然として、戦いのシチュエーションが狭まってしまっていたのも欠点だと思う。拠点を破壊する、友軍を救援する、などの作戦目標がなく、MS同士で戦う理由が単純されすぎたように感じた。

1期ラストからは決闘ではない戦闘が行われるようにはなったが、規模の小さいものばかりで、広い戦場の中の1個人、という対比はなかった。交戦に至る経緯が粗く見えることが多かったのも痛い。

15話では量産機同士の戦闘が行われ、作画も展開も素晴らしかったが、総じて「戦いのドラマ」を求めている層には勧められないだろう。

点の強さが光る

明らかに自分向きではないと分かっていた本作を最後まで視聴したのは、作品としての良さがあったからだ。

毎話のように盛り込まれるキャッチーな場面に関しては言うまでもないが、それだけでなく質の高さを感じた点はいくつもある。

例えば、一見前向きに見える「逃げたら一つ、進めば二つ」というフレーズに、スレッタとプロスペラの関係性を使って違和感を持たせるのは上手いと思った。決め台詞で自身を洗脳する危うさを描き、短絡的な見返りを求める現代社会へ警鐘を鳴らしているようにも見える。

また人物描写も奇抜一辺倒ではなく、地球寮の生徒や大人達など脇役の台詞にも一人一人の性格が表れており、唸らせられることが多かった。いいところをついてくるヌーノの発言などは、妙に印象に残っている。

本作がこれだけの注目を浴びたのは、旧来のガンダムらしさを薄めたからだけでなく、魅力的な要素の多さによるものだろう。

線の薄さと面の隙間が目立つ

一方、手放しで褒められない部分もあったと思う。

物語の展開が急すぎて感情移入できないことは少なくなかったし、フォローが漏れてしまい「軽視された」ように思える事項も多い。

思うに、ガンダムというアニメにおいて話の流れが受け入れられないのは「MSに乗って戦う、あるいは戦ってはいけない理由が伝わらない」ということである。20話におけるノレアの行為は意図的かつ無意味に見え、多くの犠牲が出たことを直接咎める描写が欲しかった。

ヒロインの父であるデリングが何故ヴァナディース機関を襲撃したのかは、ストーリーの根幹に関わる重要な出来事にも関わらず、不自然すぎる表向きの理由しか最後まで明かされなかった。また、肉体はなくとも生き永らえたエリクト、伴侶と仲間を得たスレッタに対し、その他のリプリチャイルド達がどうなったかも気になる。一人も欠けずハロにでも憑依したと信じたい。

話題となった本作を酷評する声が散見されるのは、こういった物語としての粗によるものではないか。私はそういう意見も否定はしない。

優しい物語

PROLOGUEから張り巡らされた数々の伏線、独特な舞台設定から、放映当初はネット上で様々な展開予想が立てられたが、私としては無難なところに落ち着いたのではと思う。

大方の予想通りエリクトは肉体を失ってエアリアルの中に閉じ込められていたが、いわば延命のための措置であり、「実験台にされて死亡した」「無理な搭乗を繰り返して意識が吸い込まれてしまった」というようなことはなかった。

最序盤において親に縛られる子が描かれたことから「毒親からの解放」がテーマではないかと言われていたが、蓋を開けてみれば子の成長と親子の和解という要素が強く、報いを受けて死んだヴィムにも敬意が払われた。

12話Cパートなどはドギツく見えるが、たった一人に対する正当防衛をあえて重大視しているともいえる。本作は、単に平和なだけの物語以上に「優しさ」を強調しようとしたのではないか。

また、モチーフとされる戯曲「テンペスト」については少し調べるだけで書かれた当時の時代背景が出てくる。ガンダム・キャリバーンの活躍に関しては番狂わせというよりは既定路線というのが私の意見だ(あそこまでの超常的な力を発揮するとは思っていなかったが)。

カタルシスが無いともいえるが、この時代においてヘイトじみた内容になるぐらいならこの方がいいと思う。

ガンダムの歴史にまた1作

長くなったのでそろそろまとめる。

まず一番つまらない論説であることは承知の上で、どう評価されようが本作がガンダムシリーズの中に加えられることは避けられないという事実は書いておきたい。劇場版の制作が発表されたSEEDも、放映当時は凄まじいバッシングに晒されていた。ガンダムとはそういうものだ。

メインストリームでのコンテンツが我々の世代向けに作られることがない以上、ただ話題になっている作品を追いかけるだけで満足するのは難しい。正直、私自身も感想を書くという行為のために視聴していた側面が強いが、流行のエンタメに手を出せばこうなるのは必然だろう。

それでも、考察しているうちに感銘を受けるようなことはあるし、私なんかよりも鋭い観察眼を持っている人たちがたくさん記事を書いている。感じたままで楽しめないなら、頭を使えばいいという事だろう。

本作を全話視聴した成果として最も大きいのは、もう若くない自分が今後どうするかのヒントを得られたことかと思う。そういう意味で、この作品は私に対して今の時代を見せてくれたともいえる。

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