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アマリリスとおはなやさん「罪悪感」

はじめに

澪蓮さんの「アマリリスとおはなやさん」という企画のために書いた作品です。
オムニバス形式で進む朗読劇。そのうちの1本を担当させていただきました。
こちらにプロローグが載っておりますので良ければ先に目を通していただけるとわかりやすいかと思います。

簡単に概要だけ。
感情を花に込めることが出来る花屋「花愛堂」
ここで感情を込められた花は手にした人はその感情に動かされ、行動するようになります。
花愛堂でお手伝いをするアマリリスと店主のおじいさんがこの物語全体の主人公で各作品に登場します。
また、各作品にはそれぞれ感情をテーマに執筆されています。
このお話はタイトルにもあるように「罪悪感」をテーマに書いています。
では、以下本文となります。


アマリリスとおはなやさん「罪悪感」

今日もマリは学校に行きたがらない。
学校に行きたくない理由を聞いても教えてくれない。お腹痛いとか、着たい服がないとか、毎日そんなことばっかり。
そのくせ、いざ休めるとなる嬉しそうにする。いったい誰に似たのやら。
特にいじめられてる、という事では無いと思う。学校に行くとそのまま友達と遊んで帰って来た事を教えてくれるし、凄く楽しそうに話してくれる。だからそこまで心配している訳では無いがそれでも学校に行きたくない、というのは親としては気がかりである。
勉強についていけなくなったり、サボり癖がついたり、友達との関係がこじれて、それこそ本当にいじめられたりしないかと思えてくる。
だから無理やりにでも、と思うけど何故かそこまで踏み切れなかった。そんな時は好きな晩御飯やお菓子で釣るのだが、今日はどうしても無理みたい。
「それじゃ、学校には連絡しといたから」と私はマリに言う。すると「ごめん」と申し訳なさそうに返事が来る。誰に似たのやら。
そう思いながら、私は家の事を済ます。そして、お昼ご飯を済ませて、私は出かける。
晩御飯の買い出しなど済ませて、家に帰ろうとした。そんな時にふと、近所の公園で遊ぶ子供たちの声が聞こえてくる。あぁ、昔はマリもあんな風に公園で遊んでたっけ、と思うとなにか凄く昔のことを思い出したような気になった。女の子と遊んでいた、そんな風な懐かしさのある記憶。
すると、女の子から「すいません!」と声をかけられた。私はその声のした方を見ると10歳前後の女の子が花を抱えて立っていた。「お姉さん、あのね…」と女の子は話し始める。
私はなんだかその子のことを知ってるような気がして、自然と耳を傾けていた。
「お姉さんのところの女の子にこの花をあげて欲しいの!」と女の子は抱えていた花束を差し出してきた。私はなんだか切ないような、懐かしいような、不思議な感情が胸を占めた。
「ありがとう…」と私は何故か、涙を流しながら受け取っていた。この涙がなんなのか、この時の私には分からなかった。
すると、女の子が「泣かないで」と私を抱きしめた。なにか凄く、凄く、大事なものを忘れていて、それに触れたような、そんな感じだったと思う。
「あたし、そろそろ行かないと…」と彼女が優しく言う。
「また、近いうちに会えると思うの。だからその時またお話しましょ」と彼女はそっと離れて、居なくなっていた。私の腕の中にはスミレとスズランの花束が残っていた。

家に帰るとマリは自分の部屋で過ごしていた。漫画を読んでゴロゴロしている。全く、誰に似たのやら。
「マリ、今日はプレゼントがあるの」と私はスミレとスズランの花束を渡した。
「わぁ、可愛い!ママ、ありがとう!」と嬉しそうに言う。そして私はマリにもう一度聞いてみた。
「マリ、どうしていつも学校休みたがるの?」
「それは…」とうつむき、そしてしばらく黙る。
いつもならこのまま問いただしてしまうか、諦めてほかのことをする。しかし、今回はマリが話してくれるまでじっくり待ってみた。
「実はね…」と口を開く。「ママやパパが私の事を見てくれてないみたいで、寂しかったの。」と意外な理由が出てきて私はびっくりした。「前は一緒に宿題してくれたり、公園で遊んでくれたのに、最近は全然遊んでくれないんだもん。」とマリは目に涙を浮かべていた。「テストでいい点取っても褒めてくれなくなったし、ハグしてくれないし…」とポロポロ涙が溢れ出る。
「友達と遊んだ事もお話しても聞いてくれないんだもん。」
あぁ、私はこの子に寂しい思いをさせていたのか、と思うと泣けてきた。花束を抱えたマリを私はその花束ごと優しく抱きしめた。「ごめんね、ごめんね。」と声を掛けてあげる事しか出来なかった。
我慢をさせていたのか、もっとこの子の話を聞いてあげてなかったのか、そう思うと次から次から涙が溢れてきた。
私は自分の子供の事を見てあげれてなかった。母親失格だ。
それからしばらくして、落ち着いた頃に「マリ、一緒に晩御飯作ろっか」と声を掛け、マリが嬉しそうにしてくれたのがたまらなく愛おしかった。
色とりどりのスミレの花言葉は「素直」、そして白いスズランには「再び幸せが訪れる」

あれ?なんで私は花言葉がわかったんだろう。そう思うと昼間に出会った女の子の事を思い出し、そしてまた切ないような懐かしいような不思議な感情が胸を占めた。

それから少しした後に、また私はあの公園に居た。なんとなくなんだけど、彼女と会えそうな気がして何度も足を向けたが会えなかった。それでも何度となく向かったのは彼女の事を思い出そうとすると現れるこの胸の感情の正体を知りたかったからだろう。
「お姉さん、こんにちわ。」と私は声のする方を向いた。
そこには花束を抱えた彼女がいた。
「あ、この間は花束ありがとう。」と私は胸の高鳴りを感じた。「ふふっ、何とか子供さんと仲良くなれたんだね。」と彼女は嬉しそうに話した。
「なんであなたは私たちにあの花束をくれたの?」と私は単刀直入に聞いてみた。
「だって、あれが必要だと思ったの。」と彼女は優しく笑う。
「必要って…」と私は不思議でならなかった。何故それが必要だとわかったのだろう。
「お姉さんはもう忘れてるかもだけど、お姉さんも同じように花束を貰ったことあるんだよ。」
私の胸はひとつ、大きく鼓動した。
「その時もスミレとスズランの花束だったんだよ。」
あぁ、確かに私は貰っていた。
「その時も公園だったね。」と懐かしそうに言う。
「あの時は楽しかったなぁ。毎日遊んでたんだよ、私たち」
うん、そうだ。学校に行きたくなくて、公園で時間を潰してたんだ。そこで私は彼女に、アマリリスに出会ったんだ。
「一緒に花愛堂にも行ったよね。おじさんと私とお姉さんでお花を育てたり、花言葉を習ったりね。」とニコニコして言う。
私はまた、涙が溢れ出ていた。そうだ、私は学校に行きたくなくて、公園で時間を潰してたんだ。そこで彼女と知り合って毎日一緒に遊んでいた。そして花束を貰った。彼女が私のことを思って気持ちを込めて作ってくれた花束を。
「ごめんね、ごめんね、アマリリスちゃん。」と私はポロポロ溢れる涙が止まらなくなっていた。
その花束をもって両親と話た。マリと同じように甘えたかったことを伝えれた。そして少しづつ、少しづつ学校に行けるようになったんだ。なのに私は、私は…
「やっと思い出してくれた。」と彼女がまた、優しく抱きしめてくれた。ごめんね、ごめんね。あなたはあの時も私に優しくしてくれた。なのに私はあなたよりも学校の友達と一緒に居て、いつの間にか忘れてしまっていた。
そんな私のために、あなたは来てくれた。私を助ける為に、あの時のように花束を携えて、あの時と変わらないまま。
ごめんね、ごめんね。こんなに私の事を思ってくれてるのに、なのに私はあなたの事を忘れていた。ごめんなさい、ごめんなさい。
「嬉しいなぁ、私のこと思い出してくれて。」と優しく頭を撫でてくれる。
「あなたが困ってるみたいだったからお手伝い出来て良かった。」
ありがとう。
「じゃ、私はそろそろ行くね。」
行かないで。
「最後にあなたに渡したいものがあるの。」
最後なんて言わないで。
「あなたの事を思って作った花束。受け取ってね。」
ありがとう。
「また、お話しようね。」
嫌だ、まだ全然話せてない。
「さようなら。」
彼女の手が私の頭を離れる。そして笑顔で彼女が私に花束を手渡した。
行かないで、行かないで!と思ってるうちに彼女は消えていた。
私は呆然としていた。ただ、私の手になかには確かに彼女が居た。彼女が残した白とピンクの勿忘草の花束。

花言葉は「私を忘れないで」、そして「真実の友情。」


最後に

こちらは朗読用に書いたフリー台本です。
ご利用の際には以下のページを一読お願いします。

また、上にも書きましたが澪蓮さんの企画で書いたので原案は澪蓮さんである事、作家はタニーさんであること明記して頂くようにお願いします。

最後に澪蓮さんのページも貼っておきます。

以上、読んで頂いてありがとうございます。

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