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旅とアート:ヴァンスのロザリオ礼拝堂3    影がない。光しかない。

ロザリオ礼拝堂に入った瞬間に思ったのは「影がない!」ということでした。
↑の写真(Photo by Yuji ONO)の印象とは、ちょっと違いますよね。

およそ教会であれ寺社仏閣であれ、宗教建築がもっとも大切にしているのは「光」だといえるでしょう。光をより際立たせるため、「影」もまた重要視されます。私たちは、影によって、光の存在を強く感じます。

しかしながら、ヴァンスのロザリオ礼拝堂には、光だけがありました。取材に伺ったのは、3月初めの午前中。マティスのいうベストタイミング、「冬の朝11時」にほぼ相当していました。大きく取られたステンドグラスの窓から差し込む朝の低い光が真っ白な壁床天井に反射して、それがまた反射して、反射して、反射して、礼拝堂に入った瞬間は、まぶしすぎて目を細めるほど明るいのです。日焼けしそうなくらい明るいのです。

しかしながら、その明るさは写真にはなりません。室内の本来の明るさを写真で表現しようとすると、ステンドグラスの色、とくに黄色が飛んでしまうためです。明るさのバランスを取って色を出すためには、写真上どうしても室内が沈んでしまう。人間の目はよくできたもので、明るさと、あざやかなステンドグラスの色の両方を認識することができます。

iPhoneで撮影した礼拝堂内部。

上の写真は私のiPhoneで撮影したものですが、そこにいる私は、これよりももっと明るい光を感じています。でもこの画像でもステンドグラスの黄色はすでに白く飛んでしまっています。雑誌などに掲載する写真はこれではだめで、どうしても明るさとのバランスを取らなければなりません。そういうわけで、何かの出版物やウェブサイトでプロが撮影したヴァンスの礼拝堂の写真を見たあとで実際に訪れると、時間帯や天候によって異なるとは思いますが、そのギャップに驚かれるでしょう。

「マティス 自由なフォルム」 @国立新美術館 2/14〜5/27
行く前、行った後にぜひ1冊どうぞ。
『マティスを旅する』(世界文化社) 写真/小野祐次 文/安藤菜穂子

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