あえてしないことも労力

ぼくは今テキストを書いている。どうしてなのか。
理由を詳細に書きだそうとすれば長くなってしまうけれど、簡潔に書きだすなら、それは書きたいからだ。

これって実に奇妙なことだと思う。だって、ぼくはこのテキストを有料にするつもりはないし、スキがひとつも貰えなくてもべつに構わないと思っている。金銭的な報酬も、精神的な報酬も欲していないわけだ。正確に言うなら、書きたいという欲求に従って書いているのだから、精神的な報酬はある。でも、承認欲求が満たされるわけじゃない。ぼくは承認欲求を持っていないわけじゃない。わざわざスキが欲しくて、コメントが欲しくて、あざとい文章を書いてる奴はどうかしてるなんて、ひねくれた考えも持っていないつもりだし、自分のテキストにスキやコメントを貰えたら当然よろこぶ。なくてもいいから、とにかく書きたい、そんな気持ちで書いている。

当然、テキストを書くのには労力が必要だ。重い荷物を運んだり、マラソンみたいに走ったりするのと比べれば、なんてことない労力だけれど、体力も精神力も、ほんの少し消費する。
なのに、なぜ書くのか。そのエネルギーを別のより生産的なことに使わずに、なぜわざわざこのテキストを? あるいは何もしないという選択もあるのに。なぜだろう?

答えは労力にあると思う。
いや、コストパフォーマンスと言うべきかもしれない。

基本的な考えとして、「仕事」「労力」「報酬」が存在する。
何か物事にとり組む「仕事」をする時、消耗するエネルギー「労力」が存在し、「仕事」をしたことで得られた物質的、あるいは精神的な充足「報酬」が得られる。

ぼくにとってこの駄文とも言うべきテキストを書く「仕事」は、他のより生産的な仕事をするよりも、おそらく「労力」が少なくて済むし、多くの、あるいは質の好い「報酬」が得られるわけだ。だから、ぼくはこのテキストを書いている。

不思議なことに、これは「何もしないこと」にも当てはめることができる。
なにもしないという「仕事」にも消耗するエネルギー「労力」があり、それによって満たされる「報酬」がある。
休むという仕事には、それに伴う労力がある。休むのにも体力が要る。けれど、大抵の場合、報酬(回復する体力や精神力)はそれを上回る。

どうしてテキストを書くのかに話を戻すと、何もしないことによって得られる報酬より、テキストを書くことによって得られる報酬が上回っているから、ぼくはこの駄文をながなが書いているわけだ。

ところで、こんな胡乱なテキストが世に放出されているように、現代は誰もが気軽に言葉を発せられるようになった。現実のぼくは「えっと、あの……」とかもごもご言っているだけだが、note上ではこの通り饒舌だ。Twitter(他の名前があった気がする)やInstagramといったSNSの普及によって、真面目くさった大人は公に「うんこ!」と喚き散らすことができるようになったし、食べ物はカラフルなものが激増した。

誰もが意見を表明し、自己を表現できる社会というのは、自由で多様性に満ちているようにも思える。けれど、皆さんもおそらく知っている通り、SNSには罵詈雑言が飛び交っていたりもする。ぼくはこのテキストを通して「SNSはこうあるべき!」なんてことを唱えるつもりは毛頭ない。そもそも前に書いたように、これはリアクションを期待したものではないのだ。

ぼくはSNSに溢れる悪口について、どうしてこんなものをいちいち発言するのか不思議だと思ってきた。誰かに悪口を言ったらケンカになることもあるし、不謹慎な発言をすれば寄ってたかって誹謗中傷されることもあるのだから。

でも近頃は、前に書いた「仕事」「労力」「報酬」の関係が、軽率な行動の原因の一部じゃないかと思ったりする。結果を予想するという「仕事」は、大変な「労力」を伴うし、軽率な行動は案外ひとの注目を浴び、承認欲求を満たす「報酬」となる。

あるいはSNSのデザインも、この三つの関係に寄与しているかもしれない。SNSでは同じような活動をしている人や、近い趣味・価値観を共有する人たちが集まり、いわゆるクラスタが形成される。あるユーザーAが嫌いな芸能人に対する悪口を発信した際、そのフォロワーのユーザーB、あるいはC、D、E、F……から、好意的なリアクションがあるとすれば、それがユーザーAにとっての「報酬」となる。悪口が拡散され、吊るしあげられる予想をあえてしなければ、その「労力」は軽いものなのだから、「報酬」のために悪口を言うくらいあって不思議はないのかもしれない。

そういえば、「対象の物事について十分な理解をしていないために、的外れな意見を述べる人」というのも沢山いる。単純に考えるのが苦手なのかもしれないが、対象の物事の歴史や背景を調べるという「労力」は、程度の差こそあれ相当なものだ。軽率に意見したくなる気持ちも理解できなくはない。

ああ、なんだか愚痴っぽくなってきてしまった。
そろそろお暇しよう。
書きたいものを書けたかどうかはともかく、報酬はたんまり貰えた気がする。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?