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ACL再建術後リハビリテーション① 安全かつ効果的なメディカルリハビリテーションのために必要な知識とは?

ESOオンラインマガジンをご購読の皆さま
本マガジンをご購読いただき、誠にありがとうございます。


今回の記事を執筆させていただいております、理学療法士takaと申します。

保持資格は名前の通り理学療法士で、これまで脳卒中の理学療法や徒手療法を進んで学んできました。

昨年度(2020年度)まではスポーツ整形外科の患者様(中でもACL再建術後)の方を中心に、臨床に従事しておりました。
現在は小児整形や若年層のスポーツ障害、並びに中高年の一般整形外科の患者様を中心に担当をさせていただいております。

また外部でトレーナーとしても活動しており、現在3つのチームで小学生〜大学生までの選手のコンディショニングや障害予防のための活動を行なっております。

私の方では

・ACL再建術後のメディカル〜アスレティックリハビリテーション
・スポーツ選手の体幹機能について
・オーバーヘッドスポーツの障害発生と胸郭機能

などについて発信していきますので、今後ともよろしくお願いいたします。

以下から、記事内容になります。


ACL再建術後のリハビリテーションに欠かせない3つの知識

前十字靱帯(Anterior cruciate Ligament : ACL)再建術は整形外科の領域でもポピュラーな手術であり、スポーツ整形外科の中ではもっとも多く行われている手術の一つです。

手術後はメディカルリハ、競技復帰に向けたアスレティックリハを実施し、スポーツ復帰を目指していくことになります。

施設によっては競技復帰までの間を理学療法士やアスレティックトレーナーが通院フォローしますが、住む地域や環境によってはそういったフォローが行えない場合もあります。

もちろんフォローが行えない場合、医療機関から復帰までのプロトコールを申し送りとして連絡することが多いですが、チームトレーナーや次の医療機関のスタッフがプロトコルの「意図」を理解していないと、ACL再建術後にアグレッシブな運動を行なってしまうなどで選手にとって残念な結果になりかねないケースも考えられます。

本コラムではACL再建術後リハビリテーションを行う際に理解しておいた方が良いと筆者が思うものをエビデンスベースにしつつ解剖学・運動学的な視点も交えて解説していきたいと思います。

初回は「安全かつ効果的なメディカルリハビリテーションのために必要な知識とは?」になります。キーワードは「リモデリング過程」「ACL張力」「前方剪断力」です。

この3つを理解しておかないと、医師が手術を行なったのにも関わらず再建靱帯に過剰なストレスをかけてしまうことになりかねません。

初めにリスク管理の所を学んで、ACL再建術後リハビリテーションを安全かつ効果的に進めるための土台を作りましょう。

再建靱帯のリモデリング過程

移植した腱はACL再建術後に内在繊維芽細胞が壊死し、次に血管及び細胞の浸潤が起こり、最終的に靱帯様の組織に成熟するとされ、移植した腱のコラーゲン組成は移植後4週にて著しく変化し、およそ7ヶ月で正常ACLに類似したコラーゲン組成になると報告されています1)。

また大腿骨と脛骨の骨孔における腱と骨の癒合を調べた報告では、大腿骨側は9週以降で徐々に癒合していき、脛骨側は術後早期から癒合は見られ12週で後側と外側が癒合し24周で全ての部位で治癒が確認されたと報告されています2)。

以上からリモデリング過程が生じるとされる期間は、再建靱帯そのものが壊死して脆弱であり、骨孔と再建靱帯の癒合も不十分であることから、ストレスを避けたリハビリテーションプログラムを提供する必要があります。


特に再建靱帯の最大破断荷重は移植後 3 か月間まで減少すると報告されており3)、術後3ヶ月間は再建靱帯に過剰なストレスが生じるようなプログラムを避けるべきであると考えられます。

ただ3ヶ月経てば何をしてもOKというわけではありません。膝蓋腱(BTB)を用いた ACL 再建術後 8ヶ月の報告では、再建靱帯の破断荷重は 886Nと報告されており4)、正常ACLの破断荷重(破断荷重約 2160 N)5)に比べると低いことが明らかになっています。

そのため早期復帰のためには膝関節の筋機能はもちろんのこと股関節や体幹・足部機能も十分に獲得する必要があると考えられます。

それらがクリアできていない状態での復帰は再損傷するリスクが非常に高くなるため、手術した医療機関のスタッフと相談のもとで復帰するタイミングを判断する必要があります。

ACLの張力変化


ACLは大腿骨と脛骨を結ぶ強固な靱帯であり、機能としては「脛骨が前方に転位することを防ぐ」ことになります。

下に示した図は、他動での膝関節運動時のACL張力の変化を表したものになります。

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図を見ると、膝関節可動域が10°〜130°の間ではACLの張力変化がそれほどありませんが、10°以上の伸展あるいは130°よりも深い屈曲になると飛躍的に張力が増していきます6)。

つまりこの可動域以上を術後すぐに動かしてしまうようなことは
再建靱帯の緩みを招いてしまう可能性があります。

そのため多くの医療機関では術後1〜2週間程度は固定期間が設けられています。ですが、リモデリングの過程を考慮すると、固定期間が終わったからといってアグレッシブな可動域獲得運動が必要かどうかは賛否があります。

現場側の独断で「よく分からないけどこれくらいは膝を動かしても大丈夫だろ!」というような軽い気持ちで、膝を過伸展や深屈曲に持っていくことは避けるべきであり、必ずプロトコルにそって進めていく必要があります。

そのため現場のトレーナーは手術を担当した医師やリハ担当の理学療法士らと協力して進めていく必要があります。また医療機関のスタッフも現場のスタッフに適切な申し送りを行うことがとても大切になっていきます。


脛骨前方剪断力


脛骨の前方転位は膝関節が伸展、すなわち脛骨の滑り運動で生じます。つまり大腿四頭筋の収縮は脛骨前方剪断力が発生し、再建ACLに対してストレスを与えるリスクになり得ます。

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上の図は非常に有名ですが、膝屈曲60〜70°での大腿四頭筋収縮に関してQuadriceps neutral angleと言われ、脛骨の剪断力は発生しないとされ、90°屈曲位では後方剪断力が生じ、膝関節伸展域では前方剪断力が発生します7)。



下図は大腿四頭筋時の膝関節伸展角度毎のACLの張力を示しており、膝関節伸展角度の増大によってACL Strainが増大し、膝関節伸展域ではそれが顕著に増大することが報告されています8)。

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そのため、術後早期からOpen Kinetic Chain(OKC)で負荷をかけたエクササイズ(下肢末端に負荷をかけたLeg Extension)を行うことはリスクがあると考えられます。

再建靱帯へのストレスを軽減しながら効果的な筋力トレーニングを行うためには、大腿四頭筋とハムストリングスを共同収縮させ、脛骨の前方剪断力を防ぐような運動が推奨されます。これらの代表例はスクワットのようなClosed Kinetic Chain(CKC) exです。

ですがSTグラフトでACL再建を行なった症例の研究ではOKCの運動を行うことでCKCのみよりも大腿四頭筋筋力の向上が得られたという報告9)や、OKCでの運動とCKCでの運動では大腿四頭筋の中でも効果が分かれるという報告10)もあり、OKCでの運動に関してもやはり手術を行なった医療機関のプロトコルに準じた中で、執刀医と相談と言うことになると考えられます。


参考文献
1)D Amiel, J B Kleiner, et al.: The phenomenon of "ligamentization": anterior cruciate ligament reconstruction with autogenous patellar tendon. J Orthop Res. 1986:4(2),162-172.
2)Nakase J, Kitaoka K, et al: Grafted tendon healing in femoral and tibial tunnels after anterior cruciate ligament reconstruction. J of Orthopaedic Surgery(Hong Kong) 2014:22(1),65-69
3)Yoshikawa T, Tohyama H, et al.:Effects of local administration of vascular endothelial growth factor on mechanical characteristics of the semitendinosus tendon graft after anterior cruciate ligament reconstruction in sheep. Am J Sports Med 34:1918-1925, 2006.
4)Beynnon BD, MA Risberg et al.:Evaluation of knee laxity and the structural properties of the anterior cruciate ligament graft in the human; a case report. Am J Sports Med 25:203-206, 1997.
5)Woo S, Hollis M, et al.:Tensile properties of human femur-anterior cruciate 26 ligament-tibia complex. The effects of specimen age and orientation. Am J Sports Med 19:217-225, 1991.
6)Wascher DC, Markolf KL, et al.:Direct in vitro measurement of force in the cruciate ligament PartⅠ: The effect of multiplane loading in the intact knee. J Bone Joint Surg 75-A(3):377-386, 1993.
7)Daniel DM, Stone ML et al.:Use of the quadriceps active test to diagnose posterior cruciate-ligament disruption and measure posterior laxity of the knee. J Bone Joint Surg Am 70:386-91, 1988.
8)Markolf KL, Gorek JF et al : Direct measurement of resultant forces in the anterior cruciate ligament. An in vivo study performed with a new experimental technique. J Bone Joint Surg Am 72:557-67, 1990
9)Tagesson S, Oberg B, et al: A comprehensive rehabilitation program with quadriceps strengthening in closed versus open kinetic chain exercise in patients with anterior cruciate ligament deficiency: a randomized clinical trial evaluating dynamic tibial translation and muscle function. Am J Sports Med 36:298-307, 2008
10)Cheon S, Lee J H, et al: Acute Effects of Open Kinetic Chain Exercise Versus Those of Closed Kinetic Chain Exercise on Quadriceps Muscle Thickness in Healthy Adults. Int. J. Environ. Res. Public Health 17: 4669, 2020

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