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ザ・ヒューマン「コーヒーハンター川島良彰」(NHK)の感想


最近NHKで始まった新しいドキュメンタリーシリーズ「ザ・ヒューマン」の第1回目を見た。

とくに変わった演出があるわけではない。オールVTRの番組で、ひとりの主人公を密着取材の手法で描いていく。ナレーターはいたって癖のない、普通の声。決まりの演出もとくにあるわけではなさそうだ。自由な演出で人物ドキュメンタリーをつくるための枠として作られたのだろうと想像される。

稀少な豆を探して世界を旅するコーヒーハンターの旅が今回の題材。コーヒーは好きなので、興味は持つ。つくづく一日のなかで、朝の支度や子どもの送迎など慌ただしい時間を経て、飲む一杯のコーヒーは幸せを感じてしまう。誰しもが身近に感じられる魅力的なテーマだ。

番組自体は飽きることなく45分間見ることができた。まず今回の舞台であるキューバがかつて世界でも有数のコーヒー大国だったが、1980年以降、伝染病やハリケーンの影響で生産量が傾いているという現状も知らなかった。

今回の主人公・ホセ川島さんという人は初めて知ったが、コーヒーの世界ではとても有名な方らしい。wikipdiaを見ると、雑誌、ラジオ、テレビ、あらゆる媒体に出ている。ダウンタウンDXにも出ているのには驚いた。

人当たりがよくてスマートな方なのだろう。今回の番組でも、印象はよかった。ハットと綺麗なシャツ。やたらとセンスのいい着こなしをしている。ジャングルを分け入っていく姿は、さながらインディージョーンズの世界を思わせる。スペイン語を使いこなして現地の人とダイレクトにコミュニケーションをとる。60歳を越えても、フィールドに立ち続けて、コーヒーが世界を変えるという信念のもと、情熱的に仕事をしていくという人物。いかにもやり手という印象を持った。

さて、番組を見て。

ひとつこの番組が見れる理由は、物語をひっぱる推進力として、川島さんが19世紀の幻の豆「ティピカ」が見つかるのか、見つからないのか、というゴールが設定されていたことが強い。冒険モノとして見れるということ。それを見つけていくための段階は周到に用意されていると思った。関心したのは途中、現地の人々がすでにティピカを栽培しているつもりだったが、それは偽物だよと川島さんが指摘するシーンがあったこと。これは事前に想定してロケに組み込むことはおそらく難しく、おそらく現地でなりゆきでこういう現場にいくことができて偶然撮れたものだろうと思う。どれほど「ティピカ」が欲されているか、ということと、これから本物を見つけることがいかほどまでに期待されてるかという弾みをつけるいいシーンだった。

さらに良かった点は、番組のなかで周到に、その豆を見つけることがただ川島さん個人のビジネスとしての利己的な動機だけではなく、現地の人々の現実や思いがあり、貧困を抜け出せるための方法だということが、しっかりと動機付けされていたこと。それをしっかりと現地の人たちの声(苗木のおじさん)、さらに豆をおろしに来た家族の生活を見ることで描かれていたことはよかった。だから、そこにある豆が見つかってほしいという程度の思いはのせて見ることはできた。

見終えて、ひとつ疑問に思ったことがある。18世紀にハイチからフランス人が持ち込んだティピカをもう一度復活させたいという話だが、わざわざ絶滅されたとされている状況のなかで、森のなかから一本の原木の生き残りを探すよりも、また原木を同じように持ち込んで育てればいいのではないかと思ってしまった。なぜそれがダメで、あるかないかもわからない原木を探さないといけないのかは番組のなかで描かれていなかったように思えた。

素直な感想として、一人の日本人が10日間の滞在予定でやってきて(2年半通っているとは言っていたが)、場所を特定したり、普段人が踏み込まないジャングルを分け入ったり、それなりの苦労はしているのは伝わっているのだが、ティピカの苗木を見つけたときに、「それってなぜ今まで見つからなかったのだろう」という疑問は湧く。

1980年代以降に広がった伝染病が原因という話はしていた。さらにハリケーン被害。そういうことは理由として語られてはいたけれど、だけれどやはり、あっさりという印象は残った。

これは今回の番組にかかわらずこの「ヒューマン」という番組について。この番組を見て、多くの人が抱くであろう感想、それは「NHKのプロフェッショナルでもいけるんじゃない?」という点。ナレーターが橋本さとしになって、ティピカを見つけた瞬間にスガシカオの音楽が鳴り出したら、そっくりそのままプロフェッショナルとしておそらく成立するだろう。番組の中盤で、川島さんの経歴のシーケンスが挿入された唐突感も、どこか「プロフェッショナル」を彷彿とさせる。

番組HPにはこんなことが書いてある。

先の見えない混沌の時代だからこそ、人間の確かな息づかいを深く見つめなおすー。様々なジャンルで新たな世界を切り開こうとする[ヒューマン]たちの心揺さぶられる生き様を描く、本格派ヒューマン・ドキュメンタリーです。

とくに当たり障りのない説明だ。おそらく「プロフェッショナル」の演出が形骸化してきていることは視聴者のみならず、多くの内部の制作陣も感じているのかもしれない。もっと自由な演出で、好きなようにヒューマン・ドキュメンタリーがつくりたいーというニーズに応えるための枠としてこれができたという流れなのかもしれない。

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