エンタメ好きの全人類に見てほしい『あの夜を覚えてる』
深夜ラジオが好きだ。
ラジオ(中でも特に深夜ラジオ)には、他のエンタメとは少し変わった「音声だけ」という特徴がある。
このおかげでラジオは、めちゃくちゃ面白い友人同士の会話を盗み聞きしているようなドキドキ感や、自分に寄り添って語り掛けてくれているような安心感を与えてくれる。
普通の日を「今日はなんかいい日だったな」と彩ってくれることもあれば、どん底に沈み込んだ気持ちを優しく塗り替えてくれることもある。
そんな、自分の生活の支えになってくれるラジオは、時に特別な夜を生み出してくれる。
その忘れられない特別な夜は、思いもよらない話題から始まったバカ話かもしれないし、一通のメールから起こった一夜のバカ騒ぎかもしれないし、パーソナリティが零した心の内かもしれない。
きっとリスナー誰もが、自分の支えになっている「あの夜」を持っていて、次の「あの夜」となる特別な夜を楽しみにしている。
今回のオールナイトニッポン55周年記念「あの夜を覚えてる」は、そんなリスナーにとっての特別な「あの夜」をコンセプトとした生配信の舞台演劇作品だ。
ラジオには本当にいろいろの人が関わっている。
パーソナリティ・ディレクター・作家・AD・リスナーといった立場も役割も異なる人間が、みんなで一緒に「面白いラジオ」を作る。
これを映画や演劇として「見た人誰もが楽しめるエンタメ」に落とし込むのは至難の業だろう。
しかしこの公演「あの夜を覚えてる」はそれをやってのけている。
それも、キャストによってリアルタイムで物語が進行する生配信の舞台作品として。
なんとこの作品では、ニッポン放送の社屋、実際にラジオ放送に用いているブースや会議室をそのまま舞台とし、演者とスタッフがリアルタイムに各階や部屋を動き回っている。
そしてこの「ラジオ」をテーマとした舞台に視聴者が「リスナー」としてリアルタイムにメールで参加することができる。
生配信だからこそできる視聴者と作品とが交わるリアルタイムな演出、逆に生配信とは思えないほど巧妙に仕組まれたカメラワーク、そして時に起こる予定外のハプニング。
なによりも「ああ、この人は本当にラジオが大好きなんだな」と視聴者(リスナー)に思わせるほどラジオ愛に溢れたキャストによる演技。
公演が進むにつれてどの登場人物も愛らしく、そして逞しく見えるほどに魅力にあふれていた。
幕間でのラジオトークといい、ひたすらに「ラジオが好き」な人々がその気持ちを丁寧に形にした最高の作品。
同じくラジオが好きな人にはもちろん、純粋にエンターテインメントが好きな人々へ心の底からオススメできる作品だった。
公演は20日の初回配信と先日27日の千穐楽の2回公演であるため終わってしまったが、アーカイブ視聴用のチケットが4月3日まで発売されていて、同時視聴回もやるそうなので是非。
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