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元シスコジャパン代表 鈴木みゆき氏「業績立て直しのために最も優秀な社員を30人集めて組織横断タスクフォースを結成した」

Eight Roadsが多様なゲストを招いて定期開催しているスピーカーセッション。11月開催のセッションには、日本テレコムの黒字回復やシスコジャパン成長戦略の立役者である鈴木みゆき氏をお迎えしました。鈴木氏はジェットスター ジャパンの立ち上げ時のトップでもあります。厳しい環境で業績を伸ばすプロフェッショナルである鈴木氏は「自分が最も優れているわけでも、最も賢いわけでもないということをリーダーは肝に銘じておくべき」と話します。

事業成長のために必要なリーダーシップとチームワークのあり方について、じっくりお話を伺いました。

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〔プロフィール〕

元シスコシステムズ合同会社 代表執行役員
鈴木みゆき氏

幼少期をオーストラリア、イギリス、イタリアで過ごす。英オックスフォード大学卒業後、1982年にロイター(現トムソン・ロイター)に入社。97年、同社の東南アジア代表取締役に就任する。以後、日本テレコム(現ソフトバンク)専務執行役員兼コンシューマー事業本部長、レクシスネクシス・ジャパンのアジアパシフィック代表取締役兼CEO、KVH(現Coltテクノロジーサービス)代表取締役社長兼CEO、および代表取締役副会長など、数々の要職を歴任。2011年12月、ジェットスター・ジャパン代表取締役社長兼CEOに就任、15年5月、シスコシステムズ代表執行役員社長に就任。同社のアジアパシフィック ジャパン アンド チャイナ プレジデントも兼任する。2021年に同職を退任。メットライフ生命保険社・Jera株式会社・(米)ウェスタンデジタル外取締役を務める。


世界で育ちオックスフォード、ロイターそして起業へ

大手商社勤務の父に帯同し、幼少期をオーストラリア、イギリス、イタリアで過ごした鈴木氏。「家庭に入るまで好きなことをすればいい」という両親の方針のもと、自身が行きたかったオックスフォード大学へ進学する。卒業後ロイター通信に就職し、16年で8カ国の勤務を経験した。

IT革命が訪れた20世紀末。社会を変えるうねりに身を投じたいとロイターを退職し、外資系ECスタートアップでアジアパシフィック地域1人目の社員として働きはじめ、その後電子決済サービスを手掛ける会社を起業。アメリカ同時多発テロ事件を機に売却と、短期間でスタートアップの悲喜こもごもを味わうこととなった。

会社を売却後に何をしようか思いあぐねていた頃、マイライン戦争に苦戦していた日本テレコム(ボーダフォン)から「消費者ビジネス事業のトップにならないか」と声がかかった。40代にして、日本へ帰国することになったのだ。

「それまで人生のほとんどを海外で暮らしてきたので、日本語もうまく話せませんでした。正直、かなり厳しい挑戦だったと思います。V字回復と黒字化を実現できたときはホッとしましたね」

そうさらりと話すが、鈴木氏は個々のメンバーの才能を見極め、育成することに注力。メンバーの力をフル活用して、事業戦略を確立し苦戦していた日本テレコムの業績を短期間で回復させる手掛かりに貢献した。最終的に日本テレコムはソフトバンクへ売却することになった。

マルチナショナルな企業に転じた後は、スタートアップやIT企業でトップを歴任しジェットスター ジャパンの立ち上げ時にトップを務めた。同社はJALとカンタス航空の合弁会社だったため、面接でも両者の担当者と話をしたという。

「航空業界についてはど素人だったので、ダメ元で面接に臨みました。でもカンタス航空の社長が、先入観のないリーダーを招きたい、新鮮な目でLCCというビジネスモデルを立ち上げ、大胆で新しいことにチャレンジしてほしい、と言われて引き受けることにしました」

4年半ジェットスター ジャパンで勤め、当時業績がやや伸び悩んでいるシスコジャパンから成長加速を求められた。そして2021年2月までシスコで日本のトップやアジアパシフィックのトップを務めた。退任した現在はメットライフ生命やJera、半導体企業などでアドバイザー、社外取締役などを任されている。

メンバーの才能をすばやく見極め、育成し発揮してもらうには

長年、多種多様な企業でトップを務めてきた鈴木氏は、リーダーシップを取る上で大切にしていることがあるという。

「それは自分が決して最も優れた人間でも、最も賢い人間でもないということを肝に銘じることです。リーダーに求められているのは、自分が全てを決め、全てを実行する能力ではありません。チームをまとめる能力です。チームには多様なメンバーがいます。個々の才能をすばやく見極めて育成し、発揮できる環境をつくるのがリーダーの役割です」

中でも、日本テレコムやシスコジャパンの業績回復・向上を成し遂げられた要因は、チームの力、チームの創造力をフル活用できたからだという。

「上から言われてやらされているというマインドの社員は、絶対に良い成果を上げられません。自分たちで考え、自分たちで実行するんだという考えが大切。オーナーシップを持ってやり遂げるんだ、という強い意志のある社員が良い成果を上げていきます」

日本テレコムのコンシューマー事業本部長になったときも、シスコジャパンの社長になったときもまず行ったのは「全社から最も優秀で、成長見込みがあって会社にもの言う人を30人ほど集めてください」と人事に掛け合うことだった。組織横断タスクフォースをいくつか組成したのだ。

シスコジャパンでは、タスクフォースを結成しようとしたところ各メンバーの上司から猛烈な反発を受けることもあった。ところが1~2カ月経つとマネージャーたちの間に「自分のメンバーがこれからの全社戦略に関われる」という誇りが醸成され、次々とメンバーを推薦してくれるようになった。

「3年間、毎年著しい成長を続けられましたが、それは私が何かしたわけではありません。タスクフォースを組成するときはまず「何一つ愚かな考えはない」ということからスタートすること。「Crazy Ideaをいっぱい出してほしい」とお願いしたら、200以上のアイデアが出てそこから10ほどのアイデアに絞りました。これらのアイデアにすべて予算をつけて、そしてタスクフォースを解散して各チームに返しそれぞれのプランを実行していきました」

鈴木氏自身も尖った人間で、時には批判にさらされることもあったという。しかし良い意味で図太く、失敗しても「ドンマイ」という気持ちで気にせずマイウェイを進んでいくことも大切だと考えている。

不連続な時代こそチャンスで満ちている

鈴木氏は、大切にしている2つのモットーについて述べた。

1.Discontinuity is opportunity(不連続は可能性に満ちている)
2.L ≧ C (Learning is greater than or equal to change , competition )(学ぶスピードは変革よりも、競争相手の学ぶスピードよりも上回るべきだ)

1.Discontinuity is opportunity
既存の価値観をDisruption(破壊)することも重要だが、社会にあるたくさんの「Discontinuity(不連続)」に目を向けることで新しいビジネスが生まれる可能性がある。かつて自動車を所有することは、人々にとって大きな夢の一つであった。しかしいまのZ世代は、車の所有に全く興味がない。だからこそ、カーシェアリングやUberなどのサービスに価値が生まれたのだ。これまでの常識が通用しなくなったとき、そこにどんな新しい可能性があるのか。それを感じられる感性を磨くべきだと鈴木氏はいう。

2.L ≧ C (Learning is greater than or equal to change , competition )
ビジネス環境は日々過酷さを増している。厳しいマーケットで勝負する上で重要なのは、学習能力や吸収能力の高さだ。競合よりも学習能力が優れており、イノベーションが起こるよりも早く物事を吸収できれば、マーケットで勝つことができるはずだ。


〔Q&Aセッション〕

Q1. 非常に優秀な人材でも、経営ボードにいるメンバーでも時に自信を失って落ち込んでしまうことはあります。とくに女性にはよくあるのではないかと思っています。自責の念や自罰感情の強いメンバーをどうケアすればよいでしょう。

ここはとくに男女の違いが大きく現れる部分だと思います。Glass half fullととらえるか、glass half emptyととらえるか。女性の場合は、どうしてもglass half emptyととらえてしまいがちです。とくに日本人女性は謙遜しすぎる。「自分は微力で」「まだまだ力及ばずで」と自分を下げることばかり言います。それではグローバルでは活躍できません。
そういう人には、自身がどれだけ高いスタンダードを掲げているのか気づかせてあげてください。卓越した成果を上げたいという思いは重要ですが、一方で自分に厳しくなりすぎている。完璧な人間などいない、そう伝え続けることが大切です。

私も若い頃は、失敗すると自分を責め、周りを叱責し八つ当たりしたこともありました。けれど誰かに感情をぶつけてしまったとき、後悔するのは自分です。怒ると自分が一番傷つくし、恥をかきます。悔いのないようにするには、過ちを犯した自分をまず許すこと。たぶん私はこの10年間怒ったことがないと思います。

Q2.リージョンとヘッドクォーターの関係について、難しい局面をどう乗り越えてきましたか。プロダクトのローカライズや、ヘッドクォーターがリージョンに求めていることについて教えてください。

「ヘッドクォーターとの橋渡し役だ」ということを強く意識することです。限られたリソースをいかに日本市場に投資してもらうかが重要です。そのために「社内営業」を行うのは非常に大変でした。同じ1ドルを投じても、アメリカやイギリスでは1000ドルになるのに日本では500ドルにしかならないのかということをよく言われました。それでも資金を投じてもらうには、ゴール設定をするときに短期的な目標と、長期的な戦略、両方説明することが非常に重要です。そして、どうすれば成果が上がるかできるだけ具体的に伝え、約束したら絶対に守らなければなりません。

Q3.組織が拡大したとき、ミドルマネジメントのみならず現場メンバーまでオーナーシップを持つカルチャーをどう作れば良いと思いますか?

日本テレコムやシスコジャパンに入社したとき、まず人事にお願いしたのが「現場メンバーでも、ミドルマネジメントでも良いので、社内で最も優秀で、成長を見込めて、そしてものを言う社員を30人リストアップしてください」ということでした。

そしてそのメンバーを部署横断の3つのチームに分け、タスクフォースチームを立ち上げました。日本テレコムでは1年で黒字回復することを求められていて、シスコジャパンの場合は飛躍的な成長。そのために取り組むべきテーマを各社で私が3つ設定して、それぞれのチームに割り振ったんです。そのタスクフォースのリーダーは、一時的に私に直接レポーティングする体制に。組織や階層を超えた横断チームをつくったことで、一つのロール、一つの部署がオーナーシップを抱え込むことがなくなりました。最終的に成果が出たのは、私が何かしたからではなく、現場メンバーが本気でオーナーシップを持ってくれたからです。

一つの部署やロールに頼らない、横断的なチームで取り組むことが非常に大切。いろんな部署のメンバーを集めて、彼らの心に火をつけて現場に戻す。普段一緒に仕事をしないメンバー同士が集まると、驚くほど革新的で常識から外れたアイデアが出てくるんです。


■ Eight Roads Ventures Japan

Eight Roads Venturesは大手資産運用会社のフィデリティの資金を基に投資を行うベンチャーキャピタルファンドです。ヘルスケア領域を含む革新的技術や高い成長が見込まれる企業へ、米国、欧州、アジア、イスラエルとグローバルに投資活動を行っています。業界に対する知見とグローバルなネットワークを最大限に活用し、投資先に対してハンズオンで経営を支援し続けています。
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