見出し画像

【Peatix一人目人事の挑戦】コロナ禍の2年で50人採用を叶えた心理的安全性の高い組織作り

さまざまなゲストを迎えてオープンコミュニケーションでカジュアルな座談会を行うEightRoadsの「Fireside Chatシリーズ」。10回目となる今回のゲストは、イベントおよびコミュニティ管理サービスを提供するPeatixのCEO 原田卓氏と、人事部門責任者の清水優氏です。
 
ベンチャー企業にとって、急成長する組織作りは大きなチャレンジの一つ。中でも「心理的安全性」は組織作りの重要な要素として挙げられます。
 
そこで今回は「心理的安全性AWARD2023」でシルバーリングを受賞したPeatix社のお二人にに、急成長した同社を支えた心理的安全かつ効果的なチーム・組織作りについて伺いました。

【プロフィール】

CEO,Peatix Inc.
原田卓
米国イェール大学卒業後、株式会社ソニーミュージックエンタメインメントに入社し、海外契約業務に携わる。アマゾンジャパン合同会社、Apple Japan合同会社を経て、Yoox Japan株式会社代表取締役に就任。その後、Peatix Inc.の立ち上げに携わり、2011年より現職
 
Sr.Director of Humen Resources
清水優
アメリカ合衆国ミズーリ大学入学、大学院卒業後プログラムコーディネーターとして現地で勤務。帰国後Twitter Japan株式会社で人事(Recruting Coordinator、HR Ops、HR Business Partner、LOD)を経て、2020年 Peatixに入社。ワシントン大学セントルイス・ブラウン社会福祉大学院(MSW)・DiSC Certified Trainer

コロナ禍で倍増の組織を支えた“ゼロスタート”のHR

──まずはPeatixの組織の現状について教えてください。
 原田:Peatixにはニューヨーク、シンガポール、マレーシア、日本の4法人があり、世界8カ国に100人以上のメンバー、通称「Peaps(ピープス)」が在籍しています。創業から12年経ち、2021年には50人程度だったチームが、今では100人以上の組織に倍増しました。
 
比率としては、メンバーの55%が女性です。ミッションに基づき、いろんなコミュニティを支えるべく多様性を重視し、国籍、性別、価値観など幅広い考え方を持つ方が参画しています。
コロナ禍の2020年には一時期売上が8、9割近くまで落ち込みましたが、危機的状況な今こそカルチャーを全面に押し出しチームワークを強化しなければと、あえて大変な時期にHRの清水を採用しました。
 
実は、それまで当社には人事担当者がいなかったんです。清水が入社してくれたことによってカルチャーの土台が作られ、人事制度や働く楽しさを感じてもらう環境も整い、コロナ禍の危機を脱出できました。2021~22年には採用を強化し、2年強で50人近くを新規採用。組織が急拡大するほど、最初の組織作りのビジョンや考え方が重要になるのだとあらためて思いましたね。

清水:私からは急成長するスタートアップにおける人事の役割と、コロナ禍で採用のアクセルを踏んだときに生じた心理的安全性の課題をどう乗り越えたかについてお伝えしていきたいと思います。私がHRに着任した時は、ひとり目人事としてまさにゼロイチでの人事組織の確立、経営陣と社員との橋渡し役が求められていました。
 
Peatixはもともととてもアットホームな雰囲気ではあったものの、創業10年で人事がおらず人事・カルチャーの土台が確立されていませんでしたし、組織としても「50人の壁」を迎えるフェーズ。
 
経営陣と社員の意思疎通における見えない壁、互いを思いやっての行動や意見がうまく伝わらず、ミスコミュニケーションも起き始めていた時期でした。
 
ですから当初は、共通認識をルール化・可視化して周知することや、人事データを一本化する必要性など、50人の「グループ」から「組織・チーム」への脱却が急務だったのです。

ビジネスもチームも急成長を遂げている中でのグロースペインに加えて、コロナ禍で8割の社員がリモートワークに突入。社員のロケーションが広がったり、半数近くの社員がリモート入社だったりと、お互いの人柄を知る機会も限られていました。
 
そこでまずは、社員の思いと会社の思いを繋ぐこと、社内コミュニケーションの円滑化など、Peapsが安心してコミュニケーションが取れる心理的安全性の高い組織の構築が必要だと考えたのです。

「社員の思いが形になる」環境作りを重視

─具体的にはどのように心理的安全性の高い組織作りをされたのでしょうか。
 清水:一般的に、心理的安全性をもたらすには、話しやすさ/助け合い/挑戦/新奇歓迎の4つの因子が必要だと言われています(参考:石井遼介・著『心理的安全性のつくり方』日本能率協会マネジメントセンター)。
 
Peatixにはもともとこうしたカルチャーのベースはありましたが、社会や組織フェーズが変化しても心理的安全性の高いチームであるために「個々をジャッジしない環境作り」「社員の思いが形になる環境作り」を目指しました。

人事の役割として、まずは社員の声を聞く、その場を提供することからスタート。できる/できないのジャッジメントなしに、その時々で社員が何を思っているのかを、徹底的に吸い上げたのです。
 
そして社員の声を忖度なしに経営陣に伝えて、会社としての判断をしたり一緒に考えたりすることを繰り返し、会社全体で様々な方法を行っていくことが、私たちの心理的安全性のカルチャー作りでした。
 
原田:清水は今でも、メンバーに直接声をかけて話を聞きにいっているんですよ。だからこそ社員としても「声を聞いてくれる」という心理的安全性が確保されていると感じます。
 
清水:誰もが声を挙げられる風通しの良い会社を目指して、社内アンケートや匿名で投稿できるオンライン意見箱の設置など、社内のコミュニケーションを後押しする取り組みも行いました。
 
<コミュニケーションを促す取り組み一例>
●Peapsのインタビュー記事を社内外に発信
●コロナ禍でのバーチャルオフィス導入
●Slackにカジュアルな交流ができるソーシャルチャンネルを開設 など
 
私が大切にしているのは、メンバーの声を素早く行動に移すこと。社員が声を挙げてくれた結果、何も起こらないのではモチベーションが下がってしまうので、何か目に見える形で会社としてアクションを起こすことがポジティブなメッセージに繋がると考えています。
 
例えば、Peapsとの会話の中で「こんなものがあったらいいな」という声から社内プログラムを実現した例も多くあるんですよ。

また全社会議「All Hands」も、以前は経営陣によるビジネスアップデートの場でしたが、今はコミュニケーションの場としても活用しています。
 
例えば社員が交代でMCを行ったり、英語のMCに挑戦をしてみたり。他にも社員アンケートをもとにしたコンテンツを加えるなどのアップデートを続けています。
 
<コミュニケーションの場を作る「All Hands」のコンテンツ一例>
●各チームの取り組み発表「What's Happening in Your Community」
●勤続年数のお祝いや新入社員の紹介などのソーシャルコンテンツ
●グループディスカッション、アイデア発表
●リモートワークの運動不足を解消する5分エクササイズなど
 
その他、趣味について英語・日本語で語り合うHRカフェ、創立記念のお祝いや年末のお疲れ様会など、楽しい時間を共有することによる関係構築、コミュニケーション活性化にも努めています。
 
情報、感情、想いの共有が社員同士の関係の質を向上させ、しいては心理的安全性を高めることに役立っていると考えていますね。

心理的“柔軟性”を持って対話を続けていきたい

清水:ここでMIT組織学習センター共同創始者 ダニエル・キム氏の「成功循環モデル」をご紹介します。
 
組織が継続的に成長し結果を出し続けるためには、①承認・対話、尊重を通して質の良い関係性ができると、②良い気付きやアイデアが生まれ、③積極的な行動に繋がり、④結果が出せる。これが「グッドサイクル」です。

逆にバッドサイクルでは①結果の質から入って、②なぜ成果が上がらないんだと対立や押し付けの関係に陥ってしまうと、③失敗したくないと受け身や失敗回避の思考になり、④消極的な行動になってしまいます。

人事としては、対話を通じて「関係の質」の向上を促し、対話や共感できる環境や場所を提供しながら、気付きを促す環境作り、主体的行動をサポートする体制作りをして、成功循環モデルで結果を出す組織にしていきたいと考えています。
 
ただ、注意したいのは一度できた心理的安全性は、なくなることもあるということです。新しいメンバーが参加したり、プロジェクトが始まったり、あるいは組織のフェーズや社会情勢の変化でも揺らぎます。そして全てのメンバーが感じていなければ成立したとは言えません。1人でも心理的「非」安全性を感じていたら成立し得ないものです。ですから、取り組みには終わりがありません。
 
トップダウンで生み出せるものでもないですので、全社に向けてメッセージを常に送り続けること、全社一丸となって推し進めていくことがとても大切だと思っています。
 
そして心理的安全性は、大前提として心理的柔軟性が求められるものです。とくに経営陣はさまざまな意見を受け止め、人事としてはギアをニュートラルにいれて社員と対話することがチャンスに繋がると考えています。

〔Q&Aセッション〕

Q1.心理的安全性を担保するには対話が重要とのことですが、話を“聞きすぎる”ことによるネガティブな効果や、対話をする際に気を付けていることを教えてください。
 
原田:「文句を言うだけでなく、課題に対する解決案を携えてきて」と言っています。本人が考えたアイデアをもとに行動した方が絶対にパワフルですから、できるだけメンバー自身が判断したと思えるような、コミュニケーションを心掛けています。
 
清水:とにかくこちら側がジャッジしないことですね。何度か聞いた話であっても、必ずネクストアクションを決めて軽く背中を押してあげるような形で会話を終わらせるようにしています。その方がメンバー自身も次のステップに進みやすいと思いますから。
 
Q2.スタートアップが急激に組織を拡大させたとき、心理的安全性の高い組織作りをするためには、どのようなHR人材を採用できるといいですか。
 
清水:
 
人事に興味があって新しい挑戦が好きであれば、後はその方が「攻めの人事」か「守り」タイプなのかを見極めた上で育て、必要なところを補填していくといいのではないでしょうか。必ずしもどこかの領域のスペシャリストでなくてもいいと思います。例えば私は「攻めの人事」を担当していたので、「守り」として就業規則やポリシー作り、オペレーションを担ってくれるメンバーを採用しました。
 
小さな組織でスペシャリストを雇ってしまうと、逆に全体が見えなくなることもありますから、攻めと守りに一人ずつ、あとはジュニアでもいいのでどちらにも転換できる人を社内で育てていく。
 
心理的安全性の高い組織作りをするという目的であれば、採用業務の経験はなくてもいいのではないでしょうか。実は私もリクルーターとしての経験はなくて、入社するとき「採用に関わったことはないですよ」と原田にはっきり伝えました。結果的には皆がバックアップしてくれたおかげで何とか50人以上の採用に関わることができました。いまもリクルーティングは全員で取り組んでいますね。

Q3.大きな売上を上げていたり、重要なロールを担っているメンバーが、心理的安全性を脅かすバリュー違反やインシデントを起こした場合、どのように対応していますか?
 
原田:Peatixでは滅多に起きませんが、どれだけ能力があって活躍していたとしてもチームワークを乱す存在や、攻撃的な人を許してはならないと考えています。
 
攻撃的だったり、バリュー違反だったりする人が組織全体にマイナスの影響を及ぼし始めると、修正不可能になってしまいます。かなり前のことですが、Peatixでもそういうことはありました。そのときは経営陣もかなりの時間を取られてしまい、事業運営にも支障をきたしました。
 
経営する中でいろんな事態に直面しましたが、結果として痛感したのはどれほど素晴らしいスキルがあっても、事業に貢献してくれていても、ハラスメントやバリュー違反、他のメンバーを攻撃するような人をそのままにしてはいけないということです。

■ Eight Roads Ventures Japan

Eight Roads Venturesは大手資産運用会社のフィデリティの資金を基に投資を行うベンチャーキャピタルファンドです。ヘルスケア領域を含む革新的技術や高い成長が見込まれる企業へ、米国、欧州、アジア、イスラエルとグローバルに投資活動を行っています。業界に対する知見とグローバルなネットワークを最大限に活用し、投資先に対してハンズオンで経営を支援し続けています。
URL: https://eightroads.com/en/
Facebook Page: https://www.facebook.com/eightroadsventuresjapan

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?