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Kaizen CEO須藤憲司氏の「無用の用」「いま振り返ると、アメリカで起業した自分を全力で止めにいきたいですね」

Fireside Chat―― 経営陣を招いてオープンかつ気軽に自身の体験を語り合う場。ハードシングスを乗り越えてきた経営者をお招きし、カジュアルな座談会形式で行うEightRoadsのウェビナー、「Fireside Chatシリーズ」がスタートしました。
その名も「無用の用」。誰しも、「一見意味がないように思えたことが、人生で大きな意味を持つ」そんな経験があるはず。ざっくばらんに語っていただき、スタートアップのエコシステムにいる方々をエンパワーします。

Fireside Chat―無用の用」、第一回目のゲストはKaizen Platformの須藤憲司氏です。リクルート最年少執行役員を経て、アメリカで起業。それから7年後の2020年12月、東証マザーズへの上場を果たしました。起業家として順風満帆の道のりを歩んできたかに見える須藤氏にとっての「無用の用」とは何か紐解きます。聞き手は、2012年の立ち上げ当初からEight Roads Japanの代表およびマネージング・パートナーを務め、Kaizen PlatformのIPOにも貢献したデービッド・ミルスタインです。


〔プロフィール〕

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株式会社Kaizen Platform 代表取締役
須藤憲司氏

2003年株式会社リクルートホールディングス入社後、マーケティング部門、新規事業開発部門を経て、リクルートマーケティングパートナーズ最年少執行役員(当時)として活躍。2013年に Kaizen Platform を創業。著書に『ハック思考』『90日で成果をだすDX入門』ほか。2020年12月、東京証券取引所マザーズ市場に上場。2021年4月にNewsPicksと企業のDX戦略策定・推進を支援するDX人材育成プログラム「DX Academia」を共同開発するなど次々と新しいソリューションを繰り出している。

Eight Roads Japan Managing Partner,
David Milstein

2012年4月よりEight Roads Ventures Japanの代表を務める。 1995年、M&Aコンサルティング会社を起業し、テクノロジー、金融系企業の買収のアドバイザリを行う。 2000年、フィデリティ・ベンチャーズ日本オフィス代表として主に日本のIT企業のベンチャーキャピタル投資と 海外の投資先企業の日本市場へのエントリ支援を行う。 2003年より、コンサルタントとして、ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社の日本・アジアパシフィックにおける事業開発のアドバイスを行う。 2005年ウォルト・ディズニー・ジャパン入社。ディズニー・モバイルの携帯電話サービスを開始の責任者として事業計画からオペレーションまでを統括。 2010年、ディズニー・インタラクティブ・メディア・グループ ゼネラルマネージャーに就任。 米国ペンシルバニア大学卒業。ハーバードビジネススクールにてMBA取得。


転職したい会社がない! アメリカで起業したはいいけれど

David もともと、どういう経緯でKaizen Platformを起業したんですか?

須藤 僕は10年間リクルートにいたんですけど、会社を辞めることにしたとき転職したいと思える会社がなくて。それでアメリカで起業することを決めました。何かプランがあって起業したわけじゃなかったんですよ(笑)。

Kaizenの原型となるアイデアも「須藤、退職して何するんだ?」と聞かれて「そうか、何か考えてなきゃ……じゃあ、自分の困っていることをサービスにしよう」と思いついたものでした。

僕は、ビジネスはできてもソフトウェアの開発はできないから、リクルート時代にエンジニアだった(現CCOの)石橋(利真氏)に声をかけました。先輩に「誰かものづくりできる人いませんかね」と聞きにいったら「石橋はどう?」と言われて。「あ、そうだ。石橋さんがいた!」と。それでサイゼリヤに呼び出して石橋を口説きました(笑)。それがKaizen Platformの始まりです。

石橋は僕とキャラクターが全然違って、すばらしい人格者なんです。今はチーフカルチャーオフィサー(CCO)として、組織カルチャーづくりを推進してくれています。コファウンダーでありながらも、お互いの強みがまったく違うから補い合えるし、長年の友人関係も変わらない。本当にありがたいことだと思っています。


David 今振り返って、「あの頃の自分にこれだけは言いたい」ということは、ありますか?

須藤 おかげさまで昨年無事に上場できましたが、もう一度やり直せるなら、あの頃の自分に「なんでお前、アメリカで起業してんだ!」っていうことは言いたい。それで、全力で止めにいきたいですよね(笑)。

そもそも英語にも海外の商習慣にも不慣れだったし、アメリカと日本で会計基準がこれほど違うとは思ってなかった。自分で起業してSaaSが日本でなぜこれほどニーズがあり評価されるのか、本当によくわかりました。日本の会計基準ってけっこう定義があいまいで、いろいろできることが多いんです(苦笑)。

歯を食いしばって凌いだ成長の止まった2~3年

David 僕はKaizenさんのかなり初期の頃から須藤さんや石橋さんの苦労を知っているし、ある時なんて猛吹雪の北海道で事業の方向性について議論をしたこともありましたよね。いろいろありましたけど、中でも一番ピンチだったのはいつですか?

須藤 これまで大変なことはたくさんありましたが、中でも次の3つはハードだったと思います。

1. アメリカに集中投資していたとき

アメリカの事業に力を入れていたときはすごい大変でしたね。当時日本のビジネスは順調だったんですけど、そこで得た資金をすべてアメリカの投資に回していました。そのかわり、日本への投資は手薄になっていた。

日本とアメリカで事業を行うのって、ビジネスモデルは同じなのに全く違う2つのジネスを同時に展開するようなものなんですよ。アメリカは、マネジメント方法や採用環境、コスト感が日本とはまったく違う。1人採用するにしても、日本の3倍はかかる。日本で稼いだ資金を、どんどんアメリカに投資しなければならなかったのはきつかったですね。

2. 成長が止まった2~3年

それから、売り上げが伸びず停滞した時期が2~3年あったのも大変でした。このときもしんどかったですね。当時は事業がスケールしないこと以上に、組織が疲弊することの方が大変でした。

退職する人が増え、アメリカではレイオフも行いました。一度ダウンサイズを経験すると、社員は「次は自分かもしれない」「須藤はいざとなったらレイオフするんだ」と勘ぐって、組織はどんどん疲弊する。

けれど組織を改善したからといって、事業が上向くわけではありません。時間を稼ぐことしかできない。ビジネスが上向くまで時間がかかるので、どうやって「時間を買う」のか、そういう感覚で日々をやり過ごしていました。

3.上場前の資金使途

仮にIPOを目指すなら、資金の調達だけでなく、黒字化、資金使途などが重要になってきます。資金が足りなくて調達したいからIPOするのに、上場前に黒字化させることが必要です。でも黒字化できたなら資金を調達する必要はなくなってしまいます(笑)。

スタートアップが「お金が足りない」ってあえいでいたフェーズから、潤沢な営業キャッシュフローが生まれる段階へ移行すると、逆に使い途に悩むことになります。M&Aするのか、人を採用するのか、新しくオフィスを開設するのか。とはいえ日本の上場基準では、M&Aは資金使途に書けません。いろんなことに悩みながら資金を使っていきました。

SaaSビジネスのCACを下げる最も効果的な方法

David 最近、オープンイノベーションという言葉がよく聞かれるようになり、大企業側がスタートアップと組みたがっているじゃないですか。一方スタートアップも、積極的に大企業と組むようになった。でも僕たちも40社以上に投資してきて、大企業と組んでうまくいくスタートアップって、なかなかないと思っているんですよ。どうしてKaizen Platformは大企業と組んでうまくいったんですか?

須藤 いやぁ……こういう話をデービッドさんとするのは本当に久しぶりですね(笑)。

僕は比較的早い段階からエンタープライズ企業と組んでビジネスをしてきましたが、これってCAC(顧客獲得費用)を抑えることで、ビジネスモデルを劇的に変えられるからなんですよ。

すべてのSaaSビジネス、サブスクビジネスにとって最も重要なのが、CAC(顧客獲得費用)とLTVのバランスです。大企業との提携やOEMを進めていくと、LTVはすごい伸びるのにCACはゼロに近づいていくという現象が起こる。なぜなら、日本の大企業はものすごい規模の販路を持っていて、彼らの販路を生かせばCACをめちゃくちゃ下げることができるからなんです。

もともと僕らのビジネスの強みは、コスト競争力です。エンタープライズ企業と組めば、その優位性をさらに生かせると思いました。

David でも大企業と提携するのって、かなりのパワーがかかりますよね。本当にコストを抑えられるって、断言できますか?

須藤 もちろん、エンタープライズ企業とパートナーシップを構築するには、各部署と細かくて複雑な調整が必要になり、大きなパワーがかかります。これは10年スパンで見れば劇的に安いんですが、2~3年で見るとめちゃくちゃコストが高くなる。

それでも僕の場合、3年間は自分が張り付く覚悟でコミットすると決めました。腹をくくって、提携先の組織にちゃんと入り込もう、と。先方も、須藤がくるから「ちゃんとやらなきゃ」と気が引き締まる。エンタープライズ企業の担当者たちとそうやって、コツコツやり取りを続けていったことで、先方の社内で多くの方たちとのリレーションが広がっていきました。

スタートアップが大企業との新規事業を本気でやるなら、CEOがBizDevをやるのは正しい選択だと思います。その結果、僕の場合は新規事業のために自分の時間を空けなきゃいけなくなり、既存事業をどんどんメンバーに渡して権限移譲することになりました。


Kaizenがコロナ禍で予想通りの株価でIPOできたわけ

David 上場したのは2020年の12月ですよね。コロナ禍になった後、IPOできると確信したのはいつでしたか?

須藤 IPOできるという確信を持ったのは、実は緊急事態宣言が発令された頃のことでした。もともとトラベルの売り上げが大きかったので、コロナで15%くらい売り上げを失ったのですが、その分、BtoB企業や金融、インフラ企業など非対面非接触でビジネスを継続させたい・させなきゃいけない企業の需要が著しく増えた。その領域にセグメントを絞ったら、売り上げも急激に伸びました。それが、IPOへの自信になったんです。

リーマンショックや東日本大震災などいろんな景気の波を経験して思うのは、冬が来たらすぐ「店じまい」すること。急に景気が悪くなったとき、一気に店じまいをすることで利益は最大化できます。

逆に意味のないところに営業活動させることほど、コストのかかることはない。売り上げシェアの大きかった旅行、飲食などの領域に営業をやめると決めたとき、社員には真剣に反対されました。でも「見立てがあっていれば、1カ月後きっと感謝する」と、言い切った。自分でも大きなこと言っちゃったなと思いましたけど(笑)、社員からは翌月「スドケンさん、本当でした」と言われました。

David IPOのときに、証券会社から様々な指摘が入ると思いますが、これって上々準備中の会社にとってヘビーな内容が多いですよね。そのハードルをどうやって乗り越えましたか?

須藤 IPOをする際、証券会社から様々な意見をいただきましたが、僕はどれも事業を見直すいい機会だと思って一つひとつ改善し、乗り越えていきました。自社の弱いところを指摘してくれているわけですから、新たに成長する良いチャンスだと。

一方でVCのみなさんとは何を叶えたくて、そのためにどうすればいいのか丁寧にコミュニケーションした。細かいこともなんでも相談し、情報共有をするよう気をつけました。そのせいか上場日がずれることもなく、株価も事前に予想していた通りだったのでホッとしています。

まあ結局、大変だったのは、IPOプロジェクトをメインで担当していたバックオフィスチームや、それに伴い様々な要望に答えなきゃいけなかったセールスチーム、経理チームだと思います。

本当に黒字化したとき、経理メンバーが「本当に黒字化したの⁉」って詰められていたくらいですから(笑)。でも厳密なコストコントロールや売り上げの積み重ねで、こうやって黒字化していくんだなと思いました。


David ずばり須藤さんにとって「無用の用」だったできごとって、何でしたか?

須藤 たくさん失敗しましたけど、どの経験も「無用の用」だったような気がします。失敗しないとわからないことも多いですから、今となっては後悔はありません。どの経験も僕にとっては必要なもの。経営ボードや社員のみんなと知恵を絞って様々な状況をなんとか乗り越えられてよかったと思っています。

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