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【PLAID 倉橋健太】 起業の仕方もわからなかった僕がユニコーン企業をつくれた理由

ハードシングスを乗り越えた経営者をお招きし、オープンコミュニケーションでカジュアルな座談会を行うEight Roadsの「Fireside Chatシリーズ」。今回のゲストは2020年12月にその年最大規模のベンチャーIPOを果たしたPLAIDの代表取締役 倉橋健太氏。同社は今年6月には時価総額1200億を超え、日本有数のユニコーン企業となりました。

聞き手は、Eight Roads Japanの代表およびマネージング・パートナーを務めるデービッド・ミルスタインです。

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〔プロフィール〕

株式会社PLAID 代表取締役
倉橋健太氏

同志社大学を卒業後、新卒で楽天株式会社に入社。楽天市場におけるWebディレクション、マーケティング、モバイル戦略、広告戦略など多岐にわたる領域を担当。2011年10月にプレイドを創業。


Eight Roads Japan Managing Partner, Head of Japan
David Milstein(デービッド・ミルスタイン)

2012年4月よりEight Roads Ventures Japanの代表を務める。 1995年、M&Aコンサルティング会社を起業し、テクノロジー、金融系企業の買収のアドバイザリを行う。 2000年、フィデリティ・ベンチャーズ日本オフィス代表として主に日本のIT企業のベンチャーキャピタル投資と 海外の投資先企業の日本市場へのエントリ支援を行う。 2003年より、コンサルタントとして、ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社の日本・アジアパシフィックにおける事業開発のアドバイスを行う。 2005年ウォルト・ディズニー・ジャパン入社。ディズニー・モバイルの携帯電話サービスを開始の責任者として事業計画からオペレーションまでを統括。 2010年、ディズニー・インタラクティブ・メディア・グループ ゼネラルマネージャーに就任。 米国ペンシルバニア大学卒業。ハーバードビジネススクールにてMBA取得。

楽天をやめたけど、起業の仕方は知らなかった

David 日本でゼロからユニコーン企業を育てられる起業家は、ほとんどいないと思います。まず、なぜ楽天を辞めてPLAIDを創業されたんですか?

倉橋 僕がPLAIDをつくったのは2011年10月なんですけど、当時はまだユニコーンという言葉がなくて。会社をどこまで大きくできるのか具体的な自信はありませんでした。極論を言えば「きっと死なないからやれるはず」くらいの気持ちだったんですよ。
スタートアップとか、起業とか全然わからないまま「起業したい!」という気持ちだけで創業したので、最終出社の翌日スタートアップのイベントに参加するところから始めました

David 辞めてから知る、という感じだったんですね。

倉橋 そうです(笑)。新卒で楽天に入った一つの目的が「将来起業すること」だったんです。だけど仕事は面白いし毎日忙しいしで、「起業したい」という思いをいつしか忘れていました。

それを6年目の夏休みに「あ、起業するためにこの会社に入ったんだ」と思い出して。このまま楽天にいるのと、起業するのとどちらが学習量が多いのか考えて、「1年以内に起業しよう」って決めたんです。

David 創業当初はどういうビジネスをしていたんですか?

倉橋 レストランなどのレコメンデーションアプリをつくっていたんです。CtoCでマッチングをかけるiOSのアプリだったんですけど。生き延びるためにと思って楽天時代の経験を生かして、ECコンサルティングもしていました。1年目の途中くらいまではKARTEとはまったく違う事業でしたね。

ただ、インターネットで情報やコンテンツが大量に生成されているのに、情報のマッチングはなされていないという課題感を覚えていました。その課題感をもっと抽象的にテクノロジーの力で解き明かそうとしている今とは、実は繋がっていると思っています。

David 共同創業者の取締役CPO 柴山(直樹)さんとはどういう出会いだったんですか。

倉橋 半分は運ですよね。僕はビジネス系の人間なので、コードを書いて開発することはできません。プロダクトをつくるなら信頼できるエンジニアとスタートしたいという思いがずっとあったんです。

だから知人の紹介でいろんなエンジニアと会うことにしました。その中で僕より先に楽天を辞めて独立した友だちが、柴山のことを紹介してくれたんです。僕のことも、スタートアップを立ち上げる大変さもよくわかっている人だったのが良かったんだと思います。

未来を見る力がすごく高いというのが柴山に対する第一印象で、テクノロジーや世の中の変化にも興味が強かった。同い年だし、ずっとサッカーやってきたのも同じで波長がすごく合いました。

IPOはゴールか? プロセスか? 一年半延期した理由

David 最初は恵比寿のすごいボロボロのオフィスでしたよね(笑)。真夏のものすごい暑い日に、ぎゅうぎゅうにひしめき合っていたのを覚えています。いつ頃から、軌道に乗りはじめたんですか。

倉橋 2015年頃ですね。まさにEightRoadsが出資してくれた数カ月後くらいです。当時1カ月の売り上げは二桁万円くらいでしたが、Davidには「パイプラインは1,000万円くらいあります……!」と言っていました。

そこからうまくいくという確信に変わったのは、2017、8年頃でした。2010年代半ばに、日本でもSaaSという言葉がでてきて資金調達環境がよくなってきた。いろんな会社が勢いに乗ってきた。データマーケティング業界における僕らの見え方もとてもクリアになっていました。

David IPOを意識したのはいつ頃ですか?

倉橋 言葉を選ばずにいうと、会社が軌道に乗った時点でIPO自体への興味は失ってしまったんですよね。IPOって、後になればなるほど「ゴール」感がでてしまうんですよ。IPOはもちろん会社にとって大切な節目です。だけどそれは、僕たちにとってそれほど価値のないことだという社内認識をつくりたかった。だから、強引に上場する必要はないという感じでした。

David とはいえIPO準備チームって本当に大変じゃないですか。彼らとどうコンセンサスをとったんですか?

倉橋 IPO前の半年~1年は、IPO準備チームは本当に忙しくなるんですよね。それは理解しています。でも、社内のどんな役割の人にもそういうタイミングはあるので、むしろそこは特別扱いする必要はないのかなと。

大切なのは、会社の目的にとってIPOが何なのかを徹底的に考えることで。個人や経営陣のIPOしたい、憧れなどの気持ちを原動力にしてしまうと、IPOが目的になってしまうんですよね。

会社のためのベストは何なのか。そのポイントでコミュニケーションできれば、必ず意思決定がポジティブに働くと思いました。結果的にIPOして良かったと思います。

David でも一発でIPOできたわけではないですよね。一度延期がありました

倉橋 そうですね、最初にIPOしようとしたのは2019年です。延期すると決めたのは、その春です。ぶっちゃけあれはめっちゃ大変でした。審査や準備がある程度進んでいたので、経営陣も僕も尋常じゃないサンクコストを感じていました。

苦しかったですけど、みんなに正直に、かつ、もう一度理想に立ち返って話しました。なぜ今IPOするのが理想的ではないのか、なぜ延期するのかという話をしました。

David 大半の経営者は「上場できるときに上場しよう」って言いますよ。

倉橋 ぜったいその方がいいです(笑)。ただ、IPOは成長モードのときに行った方がいいと思うんですよ。成長が継続する自信を持てているときは、例え延期しても成長モードのままIPOの準備ができます。しかし、踊り場のタイミングで上場しようとしたら、おそらく延期という選択はできません。

実は、そのタイミングで米Googleからのファイナンスも同時に調整していました。つまりプランBを描きながら、IPOと冷静に向き合えた。仮に延期しても、よりポジティブな結果を得られる状態でした。

David 当時、けっこうチャーンが多かったですよね。

倉橋 カスタマーサクセスにプライオリティを上げられていなかったんですよ。会社の規模に対して顧客数が急に増えてしまって。これまでにないパターンのチャーンが起きてしまいました。

そこで上場延期後に明確にしたことがあります。ビジネスサイドの採用を一気に加速させること。カスタマーサクセスに人を割り当て、チャーンという課題を組織的に紐解いていこうと考えました。そこで採用にアクセルを踏み、権限の移譲を大胆に進めました。

David その後、国内のベンチャーでも珍しいグローバル・オファリングをしましたよね。

倉橋 基本的に僕は、難しいけれど魅力的な選択肢があるときは、魅力的な方を選んだ方がいいという哲学を持っています。シンプルにグローバル・オファリングの方が魅力的だったということです。

グローバル・オファリングの場合、IPOのときに直接コミュニケーションを取れる投資家の数が全く違うんですよね。テクノロジーやSaaSに強い投資家は、北米が圧倒的に多い。障壁なくできる限りたくさんの投資家と会うためにグローバル・オファリングという選択肢を取りました。

IPOしたあとは逆に投資家に会いにくくなるので、国内外の優れた投資家に入っていただきたいと思いました。

スタートアップ向けの新プロダクト「KARTE Blocks」
David いざIPOをした後、仕事面でもプライベート面でも変わったことはありますか。

倉橋 ほとんど変わっていない、ということは声を大にして言いたいですね。ただ不特定多数の株主構成の中で会社を運営していかなければならないので、きっと本質的ではないなと思うような声も出てきてしまいます。そういう声にどうやって向き合っていくのかについては、かなりラーニングが必要だなと思いました。

また、Emotion Techさんに出資させていただいて、PLAIDグループにジョインしていただきました。こうしたM&Aなどの動きはこれから加速するかもしれません。

David 最近、スタートアップ向け、かつ、フリーミアム商品である「KARTE Blocks」というプロダクトをについて簡単に説明していただけますか。

倉橋 「KARTE」って、エンタープライズ企業向けなんですよ。そして平均単価は顧客辺り80~90万円で、顧客数は500~600社というビジネスモデル。そのストーリーの中に、フリーミアムモデルは組みづらかった。そこで「KARTE Blocks」というスタートアップ向けのプロダクトをリリースしました。

倉橋 これはタグを一行挿入することで、同じドメイン内の全てのパーツ、テキスト、リンクのパーソナライズを可能にするサービスです。サイトリリース後に後付けでDXを可能にするようなツールです。

実際、我々もKARTEをローンチして事業を推進する中で、プロダクト自体を磨き込むことがスタートアップにとって最もプライオリティが高いんですよね。データマネジメントやLPのPDCAはなかなか手をかけられないところなんです。それを極めて簡単に、コードを全く書けない人でも直感的にABテストができ、サイトパフォーマンスを上げられるプロダクトです。

PLAIDのIRサイトの情報更新やパーソナライズも、今はIRメンバーが「KARTE Blocks」を使って行っています。

David なぜいきなりスタートアップ向けのフリーミアムなプロダクトをローンチしたんですか。

倉橋 これから先、ローリテラシーの方も、ハイリテラシーの方も両方ターゲットにしたい。もともとSMBの企業様にもプロダクトを提供していきたいという思いはありました。僕らがテーマとする「カスタマーデータの活用」は、大企業でも、中小企業でも共通の課題なので。ただ、その使いこなし方が違う。

だからシングルアプリケーションだと、マーケット全体は狙えない。そのためにはシンプルなプロダクトと、複雑な問いが解けるプロダクト、その両方を、SaaSというモデルで展開していく必要があります。そこをターゲットごとに最適化しながら、足りないマス目を埋めていこうと考えています。

〔Q&Aセッション〕

Q1.どうすればIPOをきっかけにビジネスを大きくすることができますか?

倉橋 IPOという点でお話すると、会社によって、経営者、創業者によってIPOの意味は異なってくるはずです。そこをそろえる必要はありませんが、自分たちにとって良いIPOとは何なのかについては、明確にした方がいいと思います。

IPOを機にネガティブなことが始まってしまうケースがありますが、それは理想とするIPOの形をメンバーに共有できていないから。別にIPOそのものが目的でもいいんです。でも、メンバーにははっきりそう伝えなきゃいけない。そうしないと「IPOがゴールだ」と思っていたメンバーは、上場後に「これからがスタートです」と言われて力尽きてしまいます。

Q2.PLAIDを永遠に続けるつもりですか? それとももう一度起業したいという思いはありますか?

倉橋 PLAIDの目標として掲げていることを全く達成できていないので、PLAIDが掲げている未来を実現できるようただただ邁進することが一番優先度の高い選択肢になっています。これから先、僕がいなくても事業が生まれ、会社が成長する再現性をもった構造をどうつくるのか。今はサステナブルな事業環境をつくることに最も興味がありますね。


■ Eight Roads Ventures Japan

Eight Roads Venturesは大手資産運用会社のフィデリティの資金を基に投資を行うベンチャーキャピタルファンドです。ヘルスケア領域を含む革新的技術や高い成長が見込まれる企業へ、米国、欧州、アジア、イスラエルとグローバルに投資活動を行っています。業界に対する知見とグローバルなネットワークを最大限に活用し、投資先に対してハンズオンで経営を支援し続けています。
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