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GIVE&GIVEな母

一昨年、還暦を迎えた私の母は
もう少し自分のこと大切にしてよ、と
言いたくなってしまう程「与える人」である。

誰かと会う時は手ぶらで行くことはなく
何か作って欲しいと言われればとことん作る。
その上、お願いされたことに対してNOと突き放しているところを見たことがない。

10年程前、父親は難病を患い介護が必要な
生活となった。
当時母は図書館に勤めていたのだが
突然介護施設に転職をしたのだ。

図書館で働く母はとても楽しそうだった。
それなのにどうして辞めたんだろう。
当時の私にはわからず母に聞いてみると
なんか飽きちゃってさ〜と答えた。

なんだ、そんな簡単に仕事辞めちゃうんだ
仕事ってそんなに簡単に辞めていいんだ
私はそんな風に思っていたし
なんだか母に少しがっかりしてしまった。

でも数年経った時に気づいたことがある。
母は介護関連の資格をたくさん取っていたのだ。
その時から、なんとなく気づいていた。

お気づきかもしれないが母は頑固者だ。
そして変な方向に尖っている。

だから母から直接的な話を聞いたことはない。
ただ、とある日
母はポロッと言葉を溢した。

お父さんのために
自分は介護の資格を取りたいと思った、と。

ご存知の方もいるかもしれないが
介護の現場は噂通り過酷だ。
まさに母もランチを食べる時間もないほど
肉体労働の毎日で
湿度の高い人間関係に毎日身を削られていた。
目に見えて痩せていく母、
家に帰ってきたらすぐに眠ってしまう程に
疲れ切った母を見ていられず
何度も辞めたらと話をしてみても
母は介護の仕事を続けたのだ。

仕事でも介護
家に帰ってきても介護
そのうえ頑固な母だからいつも強がっている。

頑固が故、仕事では納得のいかないことも
たくさんあったみたいで
母の沸点が初冬くらい低い時もあった。

それでも母は仕事を全うしていたし
誇りを持っていた。
きっとそこには、父の力になりたいと
明確な目的があったからだと
今ではわかる。

私は誰かのために
自分の人生の舵をぐっと切れるほど
航路を変えられるのだろうか。

その答えはまだわからないのが正直な気持ちだ。

それでも母の「与える」精神は
私の心に強く根をはっている。

例えば特別や日でもないけれど
何かをプレゼントしたいと思った時
もしかしたら迷惑かもと足踏みしながらも
ぐっと一歩踏み出してみる。
するとそれは自分自身が
焼きたてのトーストにじわぁと溶けてくバターのように温かい気持ちなるのだとわかったから
今は母にもっと自分のことを大切にしてよ、
とは思わない。

もしかしたら与えている様で
与えられているのかもしれない。
そう気がつくことができたから。

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