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『フランス料理の歴史』フランス料理の現在

7/10(土)の朝7時から、料理家で作家の樋口直哉さんと『フランス料理の歴史』(角川ソフィア文庫)についてお話をする企画の最終回(第11回目)があります。

フランス料理の歴史をもう一度学んでおきたいという興味に、樋口さんにお付き合いをしていただいています。いよいよ読書会も残り2回。時代としても現代に近づいてきて、時代観が問われる部分になりそうです。

当日のあんちょことしても使えるように、予習したことをnoteにまとめておこうと思います。

2月20日から始まった「樋口直哉さんと『フランス料理の歴史』」は、今回で11回目、いよいよ最終回になります。

本書『フランス料理の歴史』(角川ソフィア文庫)、原書の初版は1988年に刊行され、2004年に大幅改訂が行われ、とくにヌーヴェル・キュイジーヌ以降、フェラン・アドリアの登場までが加筆されました。

訳書は、1994年に同朋舎出版から刊行され、2005年には、上述の大幅改訂版が学習研究社から刊行されています。角川版は、2005年の学習研究社版の翻訳を改訂し、さらに巻末に2005年以降のフランス料理の動向が追加されていおり、今回読み合わせるのは、その「フランス料理の現在(2005-2016)跋文に代えて」です。

同時代のことを今回のような歴史書のなかに置くことは、歴史観が定まっていないこともあってなかなか難しいものがありますが、基本的には事実に基づいて書き進められて、現代フランス料理の流れを見ていくことができる章になっているように思いました。

そのなかで気になったことをいくつかメモしていきます。

オートキュイジーヌはポップカルチャー化したのか

本書全体を通じて「オート・キュイジーヌ」という宮廷料理の系譜をもつ、富裕層のみが食べる料理について書き続けられていましたが、この章では初めてビストロという庶民の飲食店について語られています。

日本でもフランス料理がブームになる背景にはビストロブームがあって、「ブーム」という大量消費によって、少しづつその本質が庶民の間で理解されるようになってきました。

フランスでもネオビストロ、ビストロノミーといった現象は起こっていて多くのスターシェフたちもミシュランの星を狙う高級店とは別にカジュアルラインのビストロを持つようなビジネスモデルも見受けられます。

階級社会に根差した文化の庶民化、ポップカルチャー化、大量生産化の現象をアートの世界で見てみると、アンディ・ウォーホルに代表されるポップアートに重なるのかなと思います。

もう1点見ておきたいのは、ポップアートの発表場所は、美術館や個人の邸宅ではなくなり、レコードジャケットや製品のパッケージ、映像など複製物を通じて限りなく増殖して行って、さまざまな垣根を超えたものであったと思います。

そういう点ではのシェフのポップ・キュイジーヌ的な、メディアやOEM商品を通じてある程度見えてはきていますが、食の領域を抜け切れていない点は、真の意味でも、フランス料理は、ポップカルチャーになってないんではないかと思いました。

フランス料理が世界の覇権を握っているのか

跋文の視点のひとつに「料理の覇権争いはどこが握ってきたのか」というのがあります。スペインのカタルーニャ・バスクから北欧、南米に向かっていき、さらにはヌーヴェルキュイジーヌの技術の移転先としてヨーロッパ、アメリカがあるということが書かれています。

料理の技術の移転先は大きいし、技術はインターネットによって広がりをさらに加速して、そのうちコモディティ化していくのではないかと思う。もちろんそのルーツをたどったりしていくことでフランス料理の技術という答えにたどり着くことはできるかもしれないけど、ほとんどの人にとってそれは関係ないことになるんじゃないかとも思います。

一方で、この本を通じてて、ジャン=ピエール・プーランが書いてきた「料理とは言語の問題である」というフランス料理の根本である。料理に対して語るべきものがあるのであればそれはフランス料理の根本思想であると思うし、プーランも「料理人の個性化こそが、今まで以上に求められている」(258ページ)と話しています。

この言葉を料理で操る限りフランス料理の根本はゆるがないのかなと思っています。そして何をどう語るかは、郷土料理を近現代フランス料理が求めたように土地と食材であることは変わらないだろし、それを活かすのがエスコフィエによって体系化されたフランス料理の厨房技術なのだと思う。そう考えると、料理の流行を地域や国という単位に拠り所を求めている点で、すでに「フランス料理が覇権を握っている」ということができるのではないでしょうか。

これが仮に、インターネットという仮想空間で料理が行われることになったときに「フランス料理の覇権」が崩れたということになるかもしれません。

2016年以降の料理の歴史について

跋文から5年、大きく変わったことと言えば、食と持続可能性という地球規模の課題に、料理がどうかかわっていくかということです。食糧問題は現実激に起こっているし、食が引き起こす社会課題(温室効果ガスの排出など)についても、その責任を食がどう背負っていくかについて、そのこと自体が食のトレンドになってきています。

インターネットという仮想空間がフランス料理の覇権にほころびをあたえるとすれば、この持続可能性な食という考え方がフランス料理の覇権に影響を与えるのではいかと僕自身は思っています。

食材に大いに由来するフランス料理は、たとえばフォワグラや天然魚、畜産など標的にされやすいのではないかと思うのです。

国や地域に根ざさない、思想としての料理、たとえばヴィーガンのようなものがフランス料理(オート・キュイジーヌ)にどう影響を与えていくのか興味深いです。一方で、「言語」を採択した料理という点では、フランス料理はその動きに何かしらの答えを出すことはできるのではないかとも期待しております。

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